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幽霊王女と優しい殺し屋  作者: 佳景(かけい)
第6章
25/29

―24―

数日後。


ジェスは一人で市庁舎に向かっていた。

 

今日の十時から、市庁舎で重大な発表があるらしいという話を聞いたのだ。


セルジュ達は遂に戦う決心をしてくれたのだろうか。

 

ジェスは逸る気持ちのままに足を速め、遂には駆け出した。


同じように市庁舎を目指しているのか、ジェスと同じ方向に向かう人々は多く、ジェスは人波を縫うようにして進む。


地面の中から湧いてきた幽霊を避けた拍子に、柄の悪そうな男にぶつかって因縁を付けられ、止む無く叩きのめしたりしつつ、ジェスは市庁舎への道を急いだ。

 

しばらくして市庁舎に辿り着くと、その正面玄関の階段の下には既に多くの人々が集まっていて、階上にも数十人の男達が並んでいるのが目に入る。


その中にはシルヴィラやセルジュもいるようだ。


前が詰まって歩を進めることができなくなり、ジェスはその場で足を止めた。


近くにいる人々と押し合うようなこともなく、いくらか余裕を持って立っていられる。


ヴェリリエールが半分消えた夜とは随分違っていた。

 

発表とやらはまだだろうか。

 

ジェスが早くも焦れ始めた丁度その時、階上で前に進み出る男がいた。

 

セルジュだ。


「本日はお集まり頂き感謝します! 議会から皆さんにお知らせがあります!」

 

セルジュの声が響き渡ると、辺りは徐々に静まって行った。


ざわめきが小さくなるのを待って、セルジュは続ける。


「議員の大半が議会を去り、事実上議会は消滅しました! そこで私、セルジュ・レオンス・ジェルヴェーズはここにいるディクリーズ・クラブに所属する仲間と共に、新しい議会を作ることを宣言し、名称を『国民議会』と改めることとします! この『国民議会』には貴族ではない方も、女性も参加しています! 私達はこれからこの国そのものを変えるつもりです! 王でも貴族でもなく、あなた方自身のための国を作りましょう!」


セルジュの声の余韻が消え去る前に、弾けるような喝采が辺りを満たした。


歓喜に沸く人々の声をどこか遠くに聞きながら、ジェスはこの国が大きく動き始めていることを実感する。


シルヴィラが望む世の中にはまだ程遠いが、政治に平民や女性が参加することは大きな変化だ。


これからこの国は更に変わって行くのだろう。

 

だが、自分が聞きたいのはこんなことではなかった。

 

ジェスが祈るような気持ちでセルジュの次の言葉を待っていると、セルジュの唇が再び動く。


「もう一つお知らせがあります! 私達は王権の停止と軍の招集を決議しました!」

 

ジェスは両手を強く握った。


あの時の直談判に意味があったのかどうか、それはわからない。


だがそんなことはどうでも良かった。


これでジュヌヴィエを追い込むことができるだろう。


レリアのことが小さく胸を抉りもしたが、胸の痛みより昏い喜びの方が勝った。

 

ジェスがその唇を残忍な笑みで彩ると、セルジュが更に言葉を継ぎ足す。


「ジュヌヴィエ王女殿下はこのヴェリリエールを半分魔王に売り渡しただけでなく、私達を武力によって従わせようとしています! このような人物を女王とすることは、この国の国民にとって甚だ不幸なことです! よって、私達は戦いを選択しました! これからこのヴェリリエールを含めた各地で義勇兵を募ります! 明日には町の各所に兵舎を用意することができますので、希望者の方はそちらへお願いします! 年齢も性別も経歴も問いません! 皆さん、どうぞ戦って下さい! 共に革命を進めましょう!」

 

真っ直ぐに力強く響く声。


その声に応えて、あちこちで拳が上がった。


人々は口々に革命を讃え、ジュヌヴィエの死を叫ぶ。


願いは熱く、希望は果てがない。


もう誰も止めることはできないだろう。


止める必要などない。

 

ジェスは心のままに雄叫びを上げた。



    ※



ヴェリリエールが消失してから一月近く経ったある日。

 

セレスタの城の近くにあるアレーラ大聖堂で、ジュヌヴィエの戴冠式が行われようとしていた。


人の背丈の何倍もの高さの天井。


色とりどりの大きな飾り窓から差し込むのは光の帯だ。


透き通るように美しい声で神に捧げられる賛美歌だけが、厳かに聖堂内に響き渡る。


吹き抜けになっている二階の手摺には王室旗が掲げられ、その奥には国内外の貴族達が整然と並んでいた。


一部では貴族達の亡命も始まっているが、それでも尚聖堂にはその空間を埋めるに足る人数が集まっている。


一階でも長い深紅の絨毯を挟んで、多くの人々が静かに新たなる女王の登場を待っていた。


「女王陛下、ご入来!」


衛兵が大きく開け放った両開きの扉から、セレスタがゆっくりと入ってきた。


その手には王冠。


今にも開こうとする蕾を象ったかのようなそれは金で作られており、鏤められた宝石と共に目映い輝きを放っていた。


それを両手で高々と掲げ、セレスタは一同に向かって朗々と告げる。


「聞け、皆の者! 汝等の正統なる女王、ジュヌヴィエ・リディアーヌ・ルーヴェリアだ!」

 

その声に応えるかのように、高位聖法使いの後に続いてジュヌヴィエが姿を現した。


赤を基調とし、豪奢な金の刺繍が施されたドレスの裾は長く、遥か後方まで伸びている。


その裾を後に続く侍女達が恭しく持ち、後に続いていた。


その背後に、更に数人の侍女達が従う。


祭壇に設えられた玉座の背後に控えるのは、高位の聖法使い達。


ルーヴェリアで最高位の聖法使いもその中にいた。


その聖法使いはジュヌヴィエの前へ進み出ると、セレスタから手渡された王冠を掲げて宣言する。


「ここにジュヌヴィエ・リディアーヌ・ルーヴェリアの戴冠式を行う」

 

最高位の聖法使いはジュヌヴィエに恭しく王冠を差し出した。


一般的に戴冠は聖法使いの手で為されることが多いが、ルーヴェリアでは王が教皇と対立してきた経緯から必要以上に宗教に権威付けされることを嫌い、国王自ら戴冠することが多い。


ジュヌヴィエは両手で王冠を受け取ると、自らの頭にそっと載せた。

 

頭にずしりと重みがかかる。

 

代々王家が受け継いできた王冠はヴェリリエールに置いて来てしまったので、急ごしらえの王冠ではあったが、それでもジュヌヴィエは王に課せられた責任の重さを感じた。


「ルーヴェリアの新たなる女王。汝に神の祝福が在らんことを」


最高位の聖法使いはそう言祝ぐと、次いで王錫を手渡して言う。


「女王陛下、万歳」



滞りなく戴冠式を終えたジュヌヴィエは、侍女達と共に四頭立ての馬車に乗り込んだ。


これからセレスタの城に戻り、宴の前に着替えをしなければならない。


優美な線を描く金色の馬車は前後左右を騎兵に守られながら、ゆっくりと動き出した。


スプリングが利いているおかげで、揺れはほとんど気にならない。


ジュヌヴィエは沿道に集まった民衆を何気なく眺めていたが、その数は決して多くなかった。


しかも新たな女王の誕生を喜ぶというより、注意深く品定めをするような顔をしている者が多い。

 

面白くなかった。

 

だが、それは今に始まったことではない。


魔王のおかげで戴冠式に十分金をかけることはできたが、それでも不満はかなりあった。


ルーヴェリアの王が長らく戴冠式を行ってきた、ヴェリリエールのオルヴェルディ大聖堂では行えなかったし、王冠も王錫も伝統などまるでない代物だ。


権威を裏打ちしてはくれない。


とりあえず自分が新たな女王であることを国内外に示すことだけはできたので、それで良しとするしかなかった。


「ジュヌヴィエ様」

 

唐突に侍女に呼び掛けられて、ジュヌヴィエは不機嫌に応じた。


「何?」

「先程聖堂で皆様が噂しているのを小耳に挟んだのですが、議会が王権の停止を議決したようです」

「何ですって!?」

 

ジュヌヴィエは色を失い、次いで絹の手袋に包まれた拳を固く握り締めた。

 

女王たるこの自分が、城を追われた上に王権を停止されるなど、これ以上の屈辱があるだろうか。


自分が女王であることを、どうあっても民に、議会に認めさせなければならない。


民に捨てられた女王になどなるつもりはなかった。

 

ジュヌヴィエが怒りに打ち震えていると、侍女が再び口を開いた。


「議会は軍の招集も議決し、徹底抗戦の構えを見せているとのことです」

「ならば私は女王として、その軍を打ち破るまでのことよ」


軍と言っても、所詮は寄せ集めの集団に過ぎない。


訓練を受けた正規軍を有する自分の勝利が揺らぐ筈がなかった。


ヴェリリエール近郊の農民達の武装蜂起に端を発し、ルーヴェリア中に反乱が拡大していると言うが、地方は将軍達に任せて自分はヴェリリエールに向かうとしよう。


全ての始まりとなったヴェリリエールさえ平定してしまえば、各地の反乱軍の士気も下がるに違いない。


そして首謀者共の首を、この手で衆目に晒してやるのだ。

 

ジュヌヴィエはその時を胸に思い描き、低く笑った。


 

   ※



翌朝。

 

シルヴィラは議会に出席していた。


『国民議会』の議場は以前の議会と同じく、市庁舎の図書館だ。


人数が増えたため、新しく机と椅子が運び込まれている。


『国民議会』の発足に際して、女である自分を加えることに反対する者もいたが、セルジュの口添えのおかげで何とか参加を認めてもらうことができた。


『国民議会』は全ての人間にとって平等な世を作ることを目標としている筈なのに、その人間の中に女は入っていないらしい。


クラブに参加することを許しはしても、いざ政に参加するとなると話は別だと言う会員達には失望したが、参加しない手はなかった。


女が政に参加したという事実を作っておけば、いずれ選挙が行われた時に女性にも参政権が与えられるかも知れない。


それを思えば連日の激務にも耐えられたが、きついものはきつかった。


何しろ議会だけでなく、軍事行動にも参加しなければならないのだ。


国民軍には指揮官経験者が少ないため、戦闘時にはシルヴィラ達自身が指揮を執らねばならない。


今日も議会が終わったら、また訓練に参加することになっていた。

 

体が二つ欲しくなる程の忙しさだが、努力の甲斐あって戦闘態勢は着実に整いつつある。

 

近隣の町にはヴェリリエールの避難民の受け入れを要請し、今はもう八割方避難を終えていた。


この調子なら、国王軍がヴェリリエールに到達する前に避難を完了できるだろう。


各地の義勇軍は着々とヴェリリエールに到着し、義勇兵は日ごとにその数を増していた。


今やその数は十万人に迫る勢いだ。


対する国王軍は総勢十五万人。


否、それはルーヴェリアが半分消える前の話なので、今となっては多くてもその半分程度しかいないだろう。


この数の差はこちらの強みだ。


国王軍は貴族の子弟を中心に構成されているが、国民軍の大半は貴族の何十倍といる平民で構成されているのだから。


軍を維持する上で発生する莫大な費用は、王家や亡命貴族の財の接収や富裕市民からの寄付、紙幣の増発などで賄っている。


費用はどうにか工面できたが、食料不足は深刻だ。


ヴェリリエールに優先的に食料を回すように手配はしているものの、国王派の妨害に加えて兵が増加し続けていることも手伝って、食料不足はなかなか解消されない。


武器も不足していた。


仮に武器が行き渡ったとしても、訓練の時間は十分には取れそうにないが。


「革命を成功させる」と士気は高くとも、素人に過ぎない集団にこの不利を覆すことができるのだろうか。


覚悟の上の戦いとはいえ、それでもシルヴィラは不安を感じずにはいられなかった。

 

シルヴィラがテーブルの上で組み合わせた指を見下ろしながら難しい顔になっていると、議長であるセルジュが手元の紙を見ながら言う。


「正規軍の一部の下士官達が離反を始め、ヴェリリエールに向かっているそうです。共に戦いたいという打診がありました」

 

現状において出世が難しい者達が、現状を打破するために寝返るというのは大いに有り得る話だ。


革命が失敗に終われば只の反逆者となるため、一つの賭けではあるが、不満が大きければ大きい程賭けてみる気にもなるだろう。

 

だが、本当に信用できるのだろうか。

 

シルヴィラと同じ懸念を抱いたらしい議員の一人が挙手をし、指名されてから口を開いた。


「寝返った振りをして、こちらを油断させるつもりではないのか?」

「その可能性はありますね。ですが私達は戦いに関して全くの素人なのですから、彼等の力は必要でしょう。信用し過ぎるのは危険ですが、使ってはみるべきかと。仮に彼等が本気で戦わなかったとしても、私達がこのヴェリリエールで一掃すればいい話です」

 

シルヴィラは手を挙げて発言を求めた。セルジュに指名されると、短く問う。


「本当にこのヴェリリエールで国王軍を迎え撃つのですか?」

「勿論です。地の利はこちらにあるのですから、これを活かさない手はありません」

「しかし、上手く行ってもヴェリリエールにそれなりの損害を与えることになります。只でさえ半分消失している上に、ここを戦場としては再建は遅れるばかりでしょう」

「あなたの言うこともわかりますが、既に準備も進んでいますし、今更変更はできません。残念ですが」

「そうですね……」

 

シルヴィラはそれきり口を噤んだ。

 

セルジュが立てた作戦に勝る妙案が出せなかった時点で、他に方法がないのはわかり切っていたのに、つい感情に流されてつまらないことを口にしてしまった。


こんな大勢の前で惨めだ。


自分を女と侮っている連中に、女はこれだから駄目なのだと思われたであろうことが余計に惨めで、シルヴィラはそっと唇を噛み締めた。






ジェスは上官――ジェスの部隊には軍隊経験者がいなかったので、話し合いで最も年長の男に決まった――の引率で、同じ部隊の義勇兵達と共に更地で射撃の訓練をしていた。


ジェスが所属しているのは歩兵部隊だ。


魔法が使えるジェスは本当なら魔法兵として扱われるべきところだったが、敢えて魔法が使えることを伏せていた。


正規の魔法使いではないと知られると、きっと面倒なことになる。


それを嫌ったのだ。

 

部隊の人数は三十人余り。


全員男で、年齢はジェスより若い者から四十代くらいまでと様々だ。


最初は見ていられない程銃の扱いに不慣れな者もいたが、訓練を繰り返す内に程度の差はあれ、誰もが上達していた。


他の部隊も射撃の訓練に来ていて、辺りには絶えず銃声が響き、火薬の煙が立ち込めている。


消えた町の方に銃口を向けて、各人が思い思いに標的の立札目掛けて引き金を引いていた。


射撃訓練の他にも隊列を組んでの行進や応急手当の訓練などもあるが、ジェスはどれもあまり好きではない。特に行進訓練は面倒で嫌いだった。

 

今日の射撃訓練は得意な方なので、ジェスは細剣を取り付けられる銃を張り切って構え、更地の標的に銃口を向ける。


だが幽霊がジェスと標的との間にいるせいで、なかなか照準を合わせられない。


ジェスは幽霊が通り過ぎるのを待って引き金を引いた。

 

命中。

 

ジェスは小さく息を吐いて、集中を緩めた。

 

間近の銃声。


手にかかる銃の重さ。


反動。


立ち込める火薬の匂い。

 

ジェスにとっては、どれも少し懐かしかった。


最近は魔法の練習ばかりしていたことも手伝って、もう随分長い間銃を手にしていなかった気がする。


必要に迫られて使っていただけで、好きだった訳ではないが、銃を握っていると少し安心できた。


長年努力して身に付けてきたものが、オルガが与えてくれたものが、自分にはある。


それが自分を支えていてくれる。


だからこそ、戦場に立つことに不安はなかった。

 

だが迷いはある。

 

迷うこと自体は決して悪いことではないのだろう。


それだけレリアのことを思っているということなのだから。


その気持ちに嘘はないつもりだが、もしかしたら今自分が迷っている理由はそればかりではないのかも知れない。

 

ふとそんな考えがジェスの頭に浮かんだ。

 

自分は逃げていないだろうか。

 

レリアは復讐を望んでいない。


レリアを傷付けたくない。


そんな尤もらしい理由を付けて、危険から遠ざかろうとしていないだろうか。


何しろジュヌヴィエは女王となるべき女なのだ。


下手に殺そうとすれば返り討ちに遭うかも知れない。


そのことを全く恐れていないと言えるだろうか。

 

違うと言うと、嘘になるかも知れなかった。


できることなら死にたくはないし、死ぬのは怖い。


だからと言ってここで復讐をやめたら、自分可愛さにやめたも同然な気がした。

 

そんなことは絶対にあってはならないことだ。


レリアは死んでも尚、自分をとても大切に思ってくれている。


だからこそ、自分も全力でレリアを思って行動したかった。


たとえどんな結果になろうとも、そうしなければ自分は自分を許せない。


たとえ僅かでも、逃げているかも知れないなどという疑いを抱えたままではいられなかった。


この先どれ程傷付けてしまうことになるとしても、レリアは大切な友達なのだから。

 

だからジュヌヴィエを殺すのだ。

 

ジェスは火薬と銃弾を込め直すと、再び引き金を引いた。



 



更地の地下にはレリアと魔王がいた。


漆黒の闇に浮かぶレリアの隣では、同じく闇に浮かぶ魔王が読書をしている。


魔王は時折思い出したように、ジェスの動向をレリアに教えていた。


レリアとしてはそろそろ自力でジェスの様子を見られるようになりたいところだが、天井の向こうを見ることはどうしてもできない。


満足に物に触ることもできなかった。何もできないまま、事態はどんどん進んでいく。


ジェスは軍隊に入って、ジュヌヴィエも遂に進軍を始めたそうだ。


いよいよあの二人が相会えることになってしまうかも知れない。


「死んだ人間は戦争をしない」という諺があるのだと魔王に教えてもらったが、たとえ心が生きていたとしても、死人というのはそれだけで無力な存在なのかも知れなかった。

 

ジェスの邪魔をすることも、ジェスを守ることも、自分にはできないのだろうか。


「……ねえ、私が魔王とした契約って解除できるの?」


 レリアの問いかけに、魔王は本に目を落としたまま問い返す。


「解除したいのか?」

「今は別にしたくないよ。でももしかしたら解除したくなるかも知れないから。どうなのかな? できる?」

「できるぞ。契約は呪いではない。其方にとって疎ましいものになったならば、そう言え」

「うん、ありがとう」

 

レリアは安堵した。

 

もしジェスが死んでしまって、どうしようもなく寂しくて消えてしまいたくなったら、ちゃんと消えることができるのだ。


ジェスに別れを告げられただけであれ程辛かったのだから、ジェスが死んでしまったら本当にジェスの後を追ってしまうかも知れない。


消えたら今度こそ終わりだが、ジェスがいないなら消えずにいたところで大して意味がないような気がした。

 

以前魔王に言われた言葉の意味が、今ならわかる気がする。


生きるということは、きっとただ存在していることとは違うのだ。


存在する意味も目的もなかったら、死んでいるのと大差ないのだろう。


だからこそ、ジェスが死んだら全部終わりにしてしまいたいとも思った。


できることなら、ジェスとずっと一緒に生きて行きたいけれども。

 

レリアは暗い天井の向こうにいるジェスが見えないかと上を見つめてみたが、見えるのはやはり天井だけだった。






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