01-新しい弟には色がある。
連載に挑戦したいと思います。どうかお付き合いくださいませ。
「おかえりミーク、こっちに来てごらん。このあいだ話したこと覚えてる?その子が来てくれたよ。」
辺りが暗くなり始めた午後4時、お父さんは学校から帰ったばかりの私を居間へと誘った。このあいだ話したこと?その子?悪いがなんにも覚えちゃいない。なんだろう、と私は考える。目的地に到着すれば、中にはお母さんともう一人、ううん誰だろう?全く知らない子が立っていた。
「紹介しよう。今日から新しい家族になる、イヴくんだ。」
そこにいたのは金髪碧眼の幼い少年で、ほっぺに差した赤みがあどけない印象を与える。背丈も私より小さい。お父さんは柔らかく微笑んで彼の背中を押すのだが、イヴと呼ばれた子は狼狽するばかりで居心地悪そうにしていた。一方私は、お父さんの「新しい家族」という衝撃発言に疑問と驚きで胸をいっぱいにしていたがそれより決定的だったのは、なんと彼、私には発光して見えたのだ!
「うううううわぁぁ光ってる~!」
トチ狂ったように声をあげた私。両親とその少年の頭上に「?」が浮かんでいるのが見えたが構っていられない。私はびゅんっとその子に駆け寄ると図々しくも頭や肩をペタペタ触った。手を触れても光は消えないらしい。そして彼はびっくりするほど肌触りが良かった。
「キラキラのスベスベだ~~~~!」
「こらこらミーク、イヴくんが驚いているだろ?」
「そうよ、まずは挨拶をなさい。」
お父さんお母さんに引っぺがされた私、名残惜しかったがあっけにとられている彼の顔を見てしまっては止めざるをえなかった。残念!あとでもう1回触らせてもーらお。
「どうも!ミークです!」
「…。」
「はじめまして!」
「…。」
「どうしたの?」
「…。」
「あのぅ。」
「…。」
目は合ってるのに喋ってくれない悲しみ!私は眉間にしわを寄せる。ちょっとちょっと、この子シャイなんですかコミュ障なんですかそれとも私すでに嫌われちゃったんですか!
「ミーク、怖い顔しないであげて。イヴくん緊張してるのよ。初めてうちに来たわけだし、色々不安に思うでしょう?あなたとイヴくんはこれから姉弟になるのよ。あなたがお姉ちゃんとしてイヴくんのこと守ってあげなくちゃね。」
ほえええぇ~!このイヴって子は私の家族になって、そんでもって私の弟になるのか!ずっと兄弟がほしかったから嬉しいなぁ。それに仲良くなれば触り放題だし、これは早急に親密な関係を築くに限る!ふふふ
青みがかった淡い光を発する彼に私は満面の笑みを向けた。触りたいって下心があることは否定できないけど、どうせなら純粋に仲のいい姉弟になりたい。
「イヴくん、これからよろしくね!」
私がニッコリ笑っても残念ながら新しい弟は言葉を返してくれなかったけれど、僅かに頷いたように見えた。きっとそうだ。そう思いたい。でもなんだか物足りなくて、その小さな手を自分の手で包み込んだ。
「イヴくんのことは私が守ってあげるからね!大丈夫だよ。」
彼の手は少し冷たかった。この国は寒いし、今の季節は冷える。私はその手を一生懸命さすってあげる。どうかこの子の手があったまりますように。昔から親戚の年下の子の面倒を見るのは得意だったし慣れていたから、新しく弟ができたって全然平気。私は魔法なんて使えなかったけど、私の愛情込もったおまじないは抜群に効くのだ。だが、おまじないをかけたときにこの子のような反応をされたことはなかった。
「…うぐっ。」
少し前までは人形みたいに反応が薄かったのに、一転、泣いて…る!泣いている!お母さんがあらまぁと声をあげた。
「どうしたのイヴくん、お姉ちゃんに言ってごらん?」
「…っ。」
「おなか痛い?頭いたい?」
「…っ。」
声にならない悲鳴を上げながら彼は顔を横に振るだけだった。なんだかその姿が痛ましくて、喉の奥がキュッと締め付けられる感覚がした。私も子供ながらにこの子が置かれている境遇がワケアリなのだということを察していたし、この子がどんな思いでこのうちに来たのかを考えると一緒に泣きたくなった。この国では身寄りのない子供が里子に出されることなんてしょっちゅうだ。お父さんお母さんから詳しい話は聞いていないけど、きっとこの子もそういった孤児なのかも知れない。
「もう大丈夫だよ。泣いてもいいんだよ。」
胸に空いた穴の分だけ、私やお父さんお母さんが愛してあげるよ。私は心の中で強くそう唱え、震える小さな体をギュッと抱きしめた。
かくして私の新しい弟、不思議な光を宿す少年イヴを加えた物語がゆっくりと動き出すのでした。
読んで下さってありがとうございます。