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お義兄さんの弱点(?)

友樹さんの実家初訪問の翌週。

私たちは友樹さんの希望で、再び行くことになりました。


ドアのチャイムを鳴らすと、

「トモくーん。お兄ちゅわんだよ…」

何だか同じことが先週にもあったような…。


「ふふーん」

だけど友樹さんは先週とは違って余裕の表情でした。


そして手に持っているポータブルケージを見せると、

「そ、それは…」

とお義兄さんの表情が一変してしまいました。


友樹さんはケージの入り口を開け、その中に手を入れると

「それっ!」

とラグビーのパスのように投げつけ、

お義兄さんはそれをのけぞって避けようとしました。


それは、まるであの有名映画のワンシーンのようでした。


ただ、その映画と決定的に違う点が2つあります。

1つ目は、友樹さんが投げ付けたのがウチのネコのミコト(メス・2歳・三毛猫)だったこと。


「フギャーーーーーー」

という悲鳴にも近い鳴き声を上げながら、

宇宙遊泳のように4本の脚を空中でバタバタさせていました。


2つ目は、のけぞったお義兄さんが、

「グエッ」

という声を出しながら、そのまま倒れて脳天を強打してしまったこと。


やはり、映画のようにはいかないようです。


「ノ、ノオォォォォォーッ!」

お義兄さんは頭をおさえながらのたうち回って、

なぜかアメリカ人風のリアクションをしていました。

大丈夫でしょうか?


その様子を見て、友樹さんはゲラゲラ笑っていました。

そうです。今日、実家に訪問した目的はお義兄さんに対する仕返しです。



何で、こんな話になったかと言うと、話は先週の実家初訪問まで遡ります。


お義兄さんが結婚できない話を夕食時にしていたのは、以前お話をしました。

ですが、あの話には続きがありました。


お義兄さんのオンステージが一通り終わった後に、

「春香さん。ヒロ君に誰か紹介してよ」

とお義母さんに依頼されてしまいました。


「は、はあ」

いきなり難題を振られ、私は曖昧な返事しかできませんでした。


「東大卒で、外資系企業に勤務、背だってそこそこ高い。

親バカかもしれないけど、こんなに良い物件はないと思うんだけど」

うーん、その物件はいわくつきだと思いますが。


「そうだぜー。東大だぜ。と・う・だ・い。東京ナントカ大学でもなければ、

野球や駅伝の強い東ナントカ大でもない。正真正銘の東京大学だぜ」

お義兄さん、それを自分で言いますか?


「よし、わかった」

ここで友樹さんが割り込んできました。

「ウチのネコがメスだから、そいつを紹介しよう」

その子は元々結婚前に私が飼っていたのですが…。


友樹さんの言葉を聞いたお義兄さんの反応は意外な物でした。

「ネ…コ…だ…と」

顔色が青白くなり、持っていたお箸を落としてしまいました。


「ネコはマジで勘弁してくれ…」

お義兄さんの弱々しい声に、友樹さんの眼が光りました。

「ほほう。これは良いことを聞いた。来週はミコトを連れて来よう」


これが、急に実家訪問することになった経緯です。




その日は結局。友樹さんの実家に泊まることになりました。

夜中、喉が渇いて目が覚めてしまいました。

その時に電気の付いている部屋があることに気付きました。


その部屋をのぞくと、

「よーし、よしよし」

「ニャーン」

何とお義兄さんがミコトのことを可愛がっているではありませんか。

あれ?先ほどは異様なまでに怖がっていましたが、あれは何だったのでしょうか?


何より驚いたのはミコトが異常になついていること。

この子、人見知りが激しくて、初対面の人には全くなつかないのに。

今でも友樹さんにもあまりなつかないくらいです。


そして、お義兄さんと目が合ったので、

「ネコ、大丈夫なんですか?」

と聞いてみました。


「実はオレ、超ネコ好きなんだ。

小学校の時も捨てネコを拾って飼おうとしたけど、

母さんに『ウチにはトモ君がいるでしょ!』と言われてあきらめたんだ」

いやいやいや、いくらなんでも猫より手のかかる人間はいないと思いますが。


と、ここで私は率直な疑問をお義兄さんにぶつけました。

「でも、何でネコが苦手な芝居をしたんですか?」


「ほら、オレがネコ大好きと言ったら、トモ君連れて来ないでしょう。

だから、あえてネコが嫌いなフリをしたんだ。

名付けて『まんじゅうこわい』作戦」


あまりにひどいその作戦に、私がキョトンとしていると、

「あれ?落語の『まんじゅうこわい』知らない?」

と解説を始めました。


「普段は生意気な主人公が『実はオレまんじゅうがこわいんだ』と告白したので、

皆が面白がってまんじゅう攻めにしたけど、

主人公は『美味すぎて怖い』と言って全部平らげちゃって、

皆は騙されたことに気付いたという話だよ」

なかなか話しとしては面白いです。

ただ、この話と同じように騙されてしまう友樹さんって…。




翌日、私とお義母さんとお義父さんで朝食を取りました。

休日の友樹さんはいつも昼前に起きますし、お義兄さんも同じようです。


お義母さんと朝食の後片付けをしていると、

「そう言えば、昨日ヒロ君がミコにゃん怖がっていたけど…」

と話しを切り出しました。

それにしてもミコにゃんって…。


「ヒロ君、ネコあんなに嫌いだったかしら。

小学校の時に捨てネコ拾おうとしたことあったんだけど」

昨日、その話はお義兄さんもしてましたっけ。


「動物飼うのって大変でしょう。

だから色々と説得したんだけど、どうしても納得してくれなくて…。

仕方なくて『ウチにはトモ君がいるでしょう』と言ったら、

しぶしぶ納得してくれんだけど…」

えええええーーーーーっ!

あの話は本当だったんですか。

てっきりお義兄さんの作り話かと思っていました。


なおもお義母さんは続けます。

「小さい時のトモ君はとにかく手がかかってねー。

手に負えないからヒロ君に面倒見させちゃった」

なんとなくですが、友樹さんとお義兄さんが仲が良いような悪いような、

微妙な関係なのも納得できます。

それにしても、扱いがネコ以下という友樹さんの小学生時代が気になります。




夕方、帰りの車中。

どうしても気になることがありました。

それは、お義兄さんがネコ嫌いということを友樹さんが本当に信じているのか。


そこで、

「お義兄さんって、ネコが本当にダメだったんですね」

と話題を振ってみました。


すると、

「いやー。あんなにうろたえる兄貴は初めて見た。

面白いから次も連れて来よう」

と表情には笑みを見せていました。


お義兄さんの弱点を掴んだつもりが、掌の上で踊らされている友樹さんを見て、

まだまだお義兄さんの方が一枚も二枚も上手だなあと思うのでした。

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