お義兄さんが結婚しない(できない)ワケ
「かんぱーい」
友樹さんの実家に初めて訪問したその日に、一緒に夕食を取りました。
夕食では二人の馴れ初めなどを話題にしました。
(まあ、もっともお義父さん・お義母さんと以前に食事をした時にはした話ですが)
そういった話をしつつ、夕食を進めていると、
「これで次は広樹の番だな」
お義父さんの発言に、お義兄さんがピクッと反応しました。
「本当、誰とでも良いから結婚してくれ」
お酒が進んでいるせいか、これはちょっと不用意な発言かもしれません。
「ほう。今『誰とでも良いから』と言ったな」
お義兄さんは心なしか黒いオーラを発しているような気がします。
「日本語しゃべれない人でも良い?」
「いや、ちょっとそれは」
さすがに抵抗があるようです。
「親父より年上の人でも良い?」
「…」
あ、お義父さん黙っちゃいました。
「元男でも良いか?」
「それはダメだろ」
ですよねー。
「じゃあ、『誰とでも良いから』とか言わないことだな」
その意見はごもっともかもしれませんが、何か違うような気がします。
「だいたーい、なーんで俺と同じくらい性格がアレな親父とトモ君は結婚できて、俺は結婚できないワケ?」
お義兄さん、自分で性格がアレと認めているわけですね。
「俺、兄貴ほど性格がアレじゃねーし」
「おい!父親に向かって性格がアレとか言うな」
即座に友樹さんとお義父さんが否定をすると、
「ほう、そんなこと言って良いんですか?色々と持ってますよー」
いきなり丁寧語で話し出したお義兄さんが何だか怖いです。
「小学生の時、学校から帰ってきたトモ君が手鏡を持って…」
「ちょっと待てっ。それ以上は言うなよ!」
友樹さんの慌てぶりに、何をしていたのかちょっと興味があります。
「あら、手鏡で肛門の中を見るのは、性格とは関係無いんじゃない?」
「ちょっと、母さん」
お義母さんが思いがけずポロリと漏らしてしまいました。
「他にも、よそのお母さんのおっぱいをいっぱいつかんだり問題行動は多かったけど、決して友樹は性格に問題ある子じゃあ無いと思うけど…」
お義母さんとしてはフォローしたつもりでしょうが、ただ恥ずかしい話を暴露されただけでした。
「もう、勘弁してくれ」
と友樹さんの顔が真っ赤だったのは、たぶんお酒のせいではないと思います。
「じゃあ親父の方は二日酔いで午後出勤の挙句、ほとんど仕事していなかったとか…」
「あれはだなー。やることやってれば仕事をしない時があったっていいんだ」
うーん、何となくお義兄さんが“性格がアレ”というのもわかる気がします。
「でもー。お父さんはやる時はきちんとやる人だから…」
ここで、お義母さんが再びフォローを入れました。
「私のミスを、お父さんは夜遅くまで一緒にカバーしてくれたし」
もしかして、これがお義父さんとお義母さんの馴れ初めなのでしょうか。
「その後、お父さんに『飲み行くか』って誘われたんだけど、潰しちゃったのよね…」
「母さん!」
お義父さんはここまで結構飲んでいてお酒に強いと思っていたのですが、それよりもはるかに強いとはお義母さん恐るべしです。
「プププ」
この話を聞いて、先ほど打ちのめされた友樹さんも笑わずにはいられなかったようです。
「そうだっ!」
ここでお義兄さんが何かを思い出したようです。
「オレが結婚できないのは、どう考えてもトモ君が悪い」
いきなり何を言い出すんですか。お義兄さん。
「ほー、とりあえず理由を聞かせてもらおうか」
「あれは小学生の時、トモ君が『大きくなったらお兄ちゃんと結婚するの』と言ったのだが、あの時の約束はウソだったのかーっ!」
物凄い迫真の演技ですけど、友樹さんは絶対にそんなことは言いません。
「お前のその記憶自体がウソだな」
ここは努めて冷静に友樹さんが返すと、お義兄さんはがっくりとうなだれてしまいました。
「なーんてね。結婚できないとさっきは言ったけど、実は結婚をしないようにしているんだ。あえてね」
いきなりの苦し紛れの言い訳に、
「ほー、じゃあ聞かせてもらおうか」
いちおう友樹さんも聞いてはくれるみたいです。
「俺が結婚すると、結婚できなかった女性たちが政治家を動かして、第三次世界大戦が起きるから。世界平和のために結婚をしないんだ。本当だよ」
お義兄さん、声が震えていますが…。
今日わかったことは、お義兄さんはたぶん結婚できないということでした。