1時間目・裕也ちゃんのお願い
「危ねぇ危ねぇ」
汗をぬぐって俺は一息ついた。
俺の名前はさっきも言った通り如月竜也だ。普通の中学三年生…のはずなのだが、何故か昔からやたらめったら不良にからまれる…いつの間にやら防護術は身についていた。
「いやぁ、竜也君じゃないか!!」
聞き覚えのある声だ。振り返ると一人の男が文字通り『飛び込んできた』
「へぶしっ!?」
俺は反射的に回し蹴りをそれの首に入れてしまった。
男は10M程、文字通り『吹っ飛んだ』
がんがらがんがらゴキッ!最後に怪音がしたが、まぁ、問題ないだろう。
俺は何事もなかったかのように歩き始めた…
「ま、ゲフッ、待ってよゴフッ、竜也ぁ!おぇぇぇぇぇ」
俺がさっき蹴り飛ばした男…ダチの工藤優が首を『ありえない』方向に曲げながら近づいてきた。
ちなみに、俺は今までこいつを廃ビルの五階から突き落としたり、突っ込んでくるバイクへの盾にしたりしたが一度も死ななかった(死んでいたら今ここにいない)。
「わりぃ、いきなりだったから、つい…」
「つい、で人を死の淵にさ迷わせないでよ!あと、蹴った後何事もなかったかのように振る舞ったでしょ!」
「まぁまぁ、いつものことじゃん。それよりガッコ遅れるよ?」
「いつものことだししょうがないか…って何納得してんだよ俺!?しかも、チャイム鳴るまであと二分じゃん!!」
工藤は走りだし、焦り過ぎて目の前の赤信号に気付かなかったらしい。直後、トラックに撥ねられた。
朝っぱらからピンチを乗り越えた俺は、ガッコがたるくてたるくてしかたなかった。
だから、今日は一時間目から六時間目まで屋上で昼寝だ。
誤解を招くようだから言っておくが、俺は不良じゃないぞ?うん。少し不真面目なだけの一般ぴーぽーだ。
「そういや、工藤来なかったな…」
ふと朝の情景を思い出す。
あの血の量からして死んでいないとおかしい。つか、中身でてたし。
俺は屋上で一人ニタニタしていた。
その時だった。
「竜也はいるか!?」
勢いよく屋上の扉が開け放たれた。と思ったら扉を開け放ったそいつは扉の段差につまずき派手に吹っ飛んだ。
がんがらがんがらゴキッ!本日二度目になる怪音を聞いた。
「………」
「た、竜也…やっと見つけた…」
俺はてっきり工藤だと思ったのだが、首が『ありえない』方向に曲がっていたのは俺が今朝イチモツを蹴り上げた『裕也ちゃん』だった。
「竜也、頼みが」
「断る」
俺は迷いなく即答した。どうせ、タイマンかなんかの申し込みだろう…
「違うん」
「断る」
発言の余地を与えない。ただでさえ『喧嘩に明け暮れている不良』と誤解をされて女子から嫌われているかわいそう俺は、これ以上面倒事を増やしたくないのだ…
「お願」
「嫌だ」
「どうしても」
「無理」
「聞くだけ」
「黙れ」
こんな押し問答を約一時間三十分繰り返した末、俺は仕方なく話しだけ聞いてやることにした…