10人に振られないと死ぬ童貞俺、なぜか町中の美女達に告白成功してしまいすぐ振る~それなのに美女たちはまだ俺のことが好きらしい~
俺は、あと7日で死ぬ。
原因は病気でも事故でもない。
『7日以内に、10人の女性へ告白し、10回振られてください』
『失敗したら死にます』
朝起きたら、そんな文字が目の前に浮かんでいた。
その下には、ご丁寧にカウンターまである。
『失恋回数 0/10』
何度目をこすっても消えない。
水で顔を洗っても、目薬をさしても消えない。
試しにスマホを向けたら画面には映らなかった。
そして、さらに小さな文字で条件が書いてある。
『「自分を振ってほしい」と伝える、罰ゲームだと偽る、その他、相手の自由意思による交際拒否を妨げる行為は無効です』
つまり、俺は7日以内に10人の女から、普通に振られなければ死ぬ。
「…………」
俺はベッドの上で震えた。
「童貞のまま死ぬのだけは嫌だ……!」
18年間守り続けてきた純潔である。
好きで守ったわけではない。
結果として守られてしまっただけだ。
死ぬのも嫌だ。
だが、死ぬとき墓碑に『享年18歳。童貞』と刻まれるのはもっと嫌だ。
ならば、やることは1つ。
振られる。
死ぬほど振られる。
俺は部屋を飛び出した。
***
誰に告白すれば確実に振られるか。
そんなもの、考えるまでもなかった。
我が校には、男子生徒の間で勝手に作られた『付き合いたい女子ランキング』なるものがある。
誰が集計しているのか知らない。
誰が頼んだのかも知らない。
だが毎年更新される。
俺が狙ったのは、その頂点。
3年A組、白石玲奈。
容姿端麗。
成績優秀。
性格良好。
去年の文化祭でミスコンが開催された際には、2位にトリプルスコアをつけて優勝した化け物である。
最近は芸能事務所にスカウトされたなんて噂まである。
そして俺は佐藤拓也。
帰宅部。
モブ顔。
成績中の中。
趣味はエロゲと薄い本。
休日に女子と会話した回数、今年度0回。
勝った。
いや、負けるのだが。
どう考えても振られる。
放課後、俺は白石を校舎裏へ呼び出した。
「話って何?」
「白石さん」
「はい」
緊張で手汗がすごい。
だが、これは恋ではない。
命が懸かっているからだ。
「俺と付き合ってください!」
頭を下げる。
来い。
『ごめんなさい』。
俺の命を救う魔法の言葉よ。
「……私でよければ、喜んで」
「よっしゃあ!……て、えっ?」
顔を上げた。
白石が頬を赤くしていた。
「…………」
「…………」
視界の隅を見る。
『失恋回数 0/10』
「なんで!?」
「えっ!?」
白石まで驚いた。
「いや、なんでオーケーした!?」
「告白したの佐藤君だよね……?」
「そうだけど!」
白石は困ったように髪を耳へかけた。
「1年のとき、覚えてない? 電車で変な人に絡まれてたとき――」
「ちょっと待って」
これ以上聞く必要はない。
大事なのは現状だ。
俺には彼女ができてしまった。
人生初彼女。
だが、このままでは次の女子に告白できない。
二股はチャラ男のする最低の行為だ。
俺は誠実な男なのだ。
つまりこのままでは死ぬ。
「白石さん」
「うん」
「ごめんなさい。別れてください」
「…………え?」
交際時間、推定32秒。
「玉砕したーっ!」
「えー……???」
俺は泣きながら校舎裏から走り去った。
***
事故だ。
白石の件は事故だった。
何か霊的なものが絡む事故だったに違いない。
ならば仕方がない。
俺は気を取り直し、『付き合いたい女子ランキング』2位へ向かった。
2位は陸上部の黒瀬凛。
美人。
スタイル抜群。
県大会優勝経験あり。
スター。
体育会系。
快活。
俺とは人生のジャンルが違う。
たぶん霊感もない。
勝ち確、いや負け確だ。
「付き合ってください!」
「いいけど」
「なんで!?」
「実は運動祭のときさ──」
「ごめんなさいもうあなたとは付き合えません!」
交際時間、12秒。
俺は黒瀬を振った。
翌日。
ランキング3位。
生徒会副会長、九条詩織。
父親はなんかの会社の社長らしい。
お嬢様。
住む世界が違う。
九条の人生に俺のようなモブ顔オタクが入り込むルートなどない。
勝てる。
今度こそ負けられる。
「付き合ってください!」
「まあ……嬉しい。わかりましたわ」
「なん、だと……?」
「あれは八月の暑い日でしたわ……」
「ごめん別れてくれ!」
交際時間、48秒。
俺は九条も振った。
『失恋回数 0/10』
「おかしい……」
昼休み。
俺は机に突っ伏していた。
3人告白して、3人成功。
どういうことだ。
何かを間違えている。
「まさか、これが噂の嘘告返し……!?」
「何を言ってんの」
前の席から声がした。
顔を上げる。
長い付き合いの女が、呆れた顔で俺を見ていた。
高橋夏帆。
家が近所。
小学校からの腐れ縁。
俺の部屋にある薄い本の隠し場所まで知っている、最も女として意識しにくい女である。
「あんたさ」
「なんだ」
「最近、見境なく女子に告白してるんだって?」
ギクッ。
「情報が早いな」
「しかも白石さんと黒瀬さんと九条さん。で、付き合って即振ったバカがいるって学校中の噂」
「誰だそのバカ」
「あんたよ」
夏帆の目が据わった。
「まあ、付き合ったってのは、嘘なのはわかるけど」
いや、嘘じゃないから困ってるんだが。
「何がしたいわけ? 何か理由があるんでしょ?」
「いろいろあるんだ」
「いろいろって」
言えない。
言えばこの場で死ぬ可能性がある。
まだ童貞なのに。
俺が黙っていると、夏帆は唇を少し尖らせた。
「……誰でもいいの?」
「誰でもいいに決まってる!」
俺を振ってくれるなら。
「最低のこと言ってる自覚ある?」
夏帆が額を押さえた。
それから、しばらく黙る。
「……あのさ」
「ん?」
「あたしなら、いいけど」
小さな声だった。
聞き逃しかけた。
「本当か!?」
思わず立ち上がる。
夏帆の肩が跳ねた。
「声でかい!」
「いや、マジで!?」
「……マジ、だから」
夏帆が顔を逸らす。
耳まで赤い。
俺の胸に希望が灯った。
こいつ、察してくれた!
さすが幼馴染。
十年以上の付き合いは伊達じゃない。
つまり『私なら遠慮なく振ってあげられるけど』という意味だ。
俺は夏帆の両肩をつかんだ。
「高橋夏帆さん!」
「ちょ、ここ教室――」
「俺と付き合ってください!」
教室が静まり返った。
夏帆は真っ赤になっていた。
数秒。
やがて、小さくうなずく。
「…………うん」
『失恋回数 0/10』
「は?」
俺は夏帆を見た。
夏帆も俺を見る。
「え?」
「なんでOKしてんの!?」
「ええ!?」
「約束が違う!」
「約束!?」
「振れよ! 盛大に振れよ! 『あんたみたいなクソキモオタク絶対に無理』とか言えよ!」
夏帆の顔から赤みが消えた。
「え……?」
なぜか夏帆の目から、大粒の涙が落ちた。
「……っ、バカ!」
頬を思い切り叩かれた。
夏帆は教室を飛び出していく。
俺は頬を押さえたまま立ち尽くした。
「…………」
クラス全員から、とんでもないものを見る目を向けられている。
俺は静かに座った。
「なんで俺叩かれたの?」
「頭おかしいから」
後ろの男子に即答された。
***
反省した。
そして完全に理解した。
嘘告返しではなかった。
夏帆はそんなことをするやつじゃない。
相手を振るという行為は、大変心が痛むものなのだ。
たとえ、クソキモオタク相手でも。
だからみんな俺の告白を受け入れたのだ。
俺がやっていたのは振りハラスメント。
略してフリハラだ。
死にたくはないが、他人を傷つけたくはない。
俺は誠実なのだ。
ならば、だ。
そもそも俺と付き合うことが倫理的に不可能な相手を選べばいい。
振るのに正当性があれば、傷つくこともあるまい。
というか傷つく傷つかない以前に、人として振るだろ。
4人目。
2年のギャル、宮本愛莉。
彼氏持ち。
これなら100%だ。
「宮本さん」
「ん?」
「俺と付き合ってください!」
「いいよ」
「よくねえよ!!」
「なんで!?」
「お前、彼氏いるだろ!」
「いるけど」
「最低じゃねえか!!」
「告ってきたのお前じゃん!」
「それとこれとは別だろ!」
俺は拳を握った。
「NTRはなあ! 創作だけで楽しむもんなんだよ!」
「急に何の話!?」
「現実でやっていいわけないだろ! 彼氏を大事にしろ!」
「え、ちょ、待って。あたし別に――」
「ごめんなさい! 別れてください!」
「だから何なのこいつ!?」
交際時間、1分22秒。
だめだ。
彼氏持ちすら信用できない。
ならば、さらに上。
既婚者だ。
近所の喫茶店で働いている24歳の美人店員。
左手薬指には結婚指輪。
完璧である。
「俺と付き合ってください!」
「えっ……いいわよ?」
「何してんだ人妻ぁぁぁぁ!!」
「きゃっ!?」
「旦那さんいるでしょ!?」
「いるけど」
「大切にしてくださいよ!」
「でも最近あの人、出張ばっかりで――」
「寂しいからって浮気に走るな!」
「告白したの君だよね……?」
俺はまた自分から振った。
この町の風紀は終わっている。
俺が守らなければならない。
***
そして6日目。
『失恋回数 0/10』
「死ぬ」
ついに明日である。
俺は駅前のベンチで頭を抱えていた。
この6日間で、俺は9人の女へ告白した。
結果。
9勝0敗。
いや、0勝9敗
試合に勝って勝負に負けたというやつだ。
いや逆かもしれない。
俺は童貞のまま死んでしまうのか。
ならば、いっそプロに──
俺が最終手段を取ろうとしたそのとき、スマホが鳴った。
メッセージ。
白石からだった。
『明日の放課後、少し話せない?』
「……白石?」
考えてみれば、あれからまともに話していない。
最低なこと(フリハラ)をした自覚はある。
完全に嫌われているはずだ。
なら、死ぬ前に謝っておくべきだろう。
俺は誠実なのだ。
***
翌日の放課後。
白石は校舎裏にいた。
最初に告白した場所だ。
「佐藤君」
「白石さん。この前は本当にすみませんでした」
「うん。本当にひどかったよ」
「返す言葉もありません」
白石が苦笑する。
そして、少し寂しそうに笑った。
「私ね、正式にアイドルとしてデビューすることになったの」
「マジで!?」
「うん。昨日、契約した」
「すげえじゃん!」
「ありがとう」
白石は一度うつむいた。
「だからね。もし……今、もう一度佐藤君から告白されたとしても」
俺の脳内に雷が落ちた。
待て。
今、なんと言った?
「白石さん」
「え?」
「俺と付き合ってください!」
「ええっ!?」
白石が固まった。
やがて、申し訳なさそうに眉を下げる。
「……ごめんなさい。付き合えない」
その瞬間。
『失恋回数 1/10』
「入ったあああああああ!!」
「えっ!?」
「ありがとう白石さん!!」
「佐藤君!?」
俺は走った。
残り9人。
いける。
俺にはまだ、昨日までに振りハラした女が8人いる。
全員、今なら俺のことを大嫌いなはずだ!
白石で証明された。
嫌いな男を振るのに躊躇はいらない!
フリハラにならない!
フリハラをしたことでフリハラがフリハラではなくなったのだ!
完璧じゃないか!
背後で白石が叫んでいた。
「待って! 恋愛禁止の期間が終わったら、私――!」
俺にはもう聞こえていなかった。
***
「黒瀬! 付き合ってください!」
「無理」
『失恋回数 2/10』
「よっしゃあ!」
「ちょっと待て! 今月から強化指定選手になったから大会終わるまで恋愛どころじゃないだけで――」
「ありがとう!」
「最後まで聞け!」
***
「九条さん! 付き合ってください!」
「申し訳ありません。お受けできませんわ」
『失恋回数 3/10』
「ありがとう!」
「お待ちになって! 父を説得するまで少々お時間をいただきたいという意味で――」
「幸せになってください!」
「あなたとですわよ!」
***
4/10。
5/10。
6/10。
増える。
夢にまで見た失恋が、面白いように増えていく。
「そうか……!」
俺は悟った。
「やっぱりみんな俺のこと嫌いになってたんだ!」
これほど嬉しい嫌われ方があるだろうか。
俺は自分が最低の男であることに、生まれて初めて感謝した。
***
残り時間4時間。
『失恋回数 7/10』
俺は宮本愛莉を見つけた。
「宮本さん!」
「あ、先輩」
「俺と付き合ってください!」
宮本は目を丸くした。
それから、少し考えて首を横に振る。
「ごめん無理」
『失恋回数 8/10』
「よっしゃあああ!」
「あ、ちょっと!」
俺は走り出した。
「明日彼氏とちゃんと別れるから! それからならって言おうと――!」
風の音で聞こえなかった。
***
残り時間2時間。
例の喫茶店。
「俺と付き合ってください!」
「ごめんなさい。無理だわ」
『失恋回数 9/10』
「ありがとうございまあああす!」
「えっ、ちょっと! 主人が出張から帰ってきちゃったから今は無理ってだけで、来月からなら――」
俺はもう店を飛び出していた。
9。
あと1人。
あと1回振られれば、生きられる。
夕暮れの道を走りながら、俺は笑った。
「勝った……!」
そして。
足が止まった。
最後の1人。
まだ再告白していない相手がいる。
***
夏帆は近所の公園にいた。
昔、よく一緒に遊んだ公園だ。
ブランコに座って、スマホを見ている。
「夏帆」
顔を上げる。
俺を見た瞬間、露骨に嫌そうな顔をした。
「……何」
いける。
これはいける。
歴代最高の手応えだ。
でもまずは謝罪だ。
俺は童貞である前に誠実なのだ。
「この前は、ごめん」
「本当にね」
「最低だった」
「うん」
「クソキモオタクだった」
「そこまでは言ってないけど」
夏帆が少しだけ笑った。
胸が痛くなる。
俺は何を感じているんだ。
死ぬかもしれないんだぞ。
振られろ。
それで全部終わる。
「夏帆」
「何」
「俺と付き合ってください」
夏帆の顔から笑みが消えた。
長い沈黙だった。
俺は祈った。
頼む。
嫌いでいてくれ。
俺を最低の男だと思っていてくれ。
夏帆が口を開く。
「……ごめん」
来た。
「付き合えない」
『失恋回数 10/10』
『条件達成』
『おめでとうございます』
『死亡ペナルティを解除しました』
「っしゃああああああああ!!」
拳を突き上げた。
生きた!
俺は生きた!
「夏帆ありがとう! 大好きだ!」
「はあ!?」
「お前のおかげで俺、生きられる!」
「何の話!?」
もう隠す必要はない。
俺は全部話した。
7日以内に10人から振られなければ死ぬこと。
それを説明して振らせたら無効だったこと。
だから学校中の女に告白していたこと。
話し終わるころには、夏帆は頭を抱えていた。
「……バカじゃないの?」
「え、信じるの?」
「あんたこういう嘘は絶対つかないから」
「俺は誠実なんだ」
「嘘告しといて誠実も何もないでしょ」
夏帆が上目遣いで見てきた。
「じゃあ、あのときも」
「ああ。お前なら俺を振ってくれると信じてた」
「何の信用なのよ」
「そして裏切られた」
「いや、どう考えてもあたし悪くなくない……?」
「それはそう」
夏帆は深く息を吐いた。
顔を両手で覆う。
「ほんっと……バカ……」
「すまん」
ちゃんと謝った。
しばらくして、夏帆が顔を上げる。
「ちなみに」
「ん?」
「あたしが今振った理由、分かってる?」
「え、クソキモオタクだから」
「……わかってないじゃん」
「え?」
「あたし、まだ怒ってるし」
「うん」
「ものすごくムカついてるし」
「うん」
「だから今すぐ付き合うのは嫌」
「うん……?」
夏帆は俺を見る。
頬が赤い。
「でも、ちゃんと反省して、白石さんたちにも謝って、それでもまだあたしが、す、好きだって言うなら」
そこで言葉を切った。
「……もう1回、告白して」
「…………」
俺は目を瞬いた。
「それって」
「言わせんな!」
身体をドン、と押された。
こいつ絶滅危惧種の暴力系ヒロインか。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
死なないと分かったからだろうか。
俺は夕焼けの空を見上げた。
7日間。
10回の失恋。
俺は、ついに生還した。
そして──
「……いや待て」
「何よ」
「俺、重大なことに気づいた」
「何」
俺は震える声で言った。
「我、未だ童貞也」
「…………」
「危なかった。危うく本来の目的を忘れるところだった」
「本来の目的は生き延びることでしょ!?」
「いや、俺が最初に恐れてたのは童貞のまま死ぬことで――」
「待って」
夏帆が眉をひそめた。
「だったらさ」
「うん」
「最初に白石さんと付き合えた時点で、そのまま付き合ってればよかったんじゃないの?」
「…………」
「少なくとも『童貞のまま死ぬ』問題については」
「…………」
考える。
白石玲奈。
俺に告白されて、喜んで付き合ってくれた。
俺は32秒で振った。
黒瀬凛。
俺の告白を受けてくれた。
12秒で振った。
九条詩織。
48秒。
宮本愛莉。
22秒。
俺は、この1週間。
死ぬほどモテていた。
そしてそのすべてを、自分から捨てた。
「夏帆」
「え?」
俺は夏帆の肩をつかむ。
「好きだ。付き合ってくれ」
「ぜっっっっっっったい無理」
なぜだ。
「もう白石たちには謝ってる!ほら証拠のライン!」
「そういう問題じゃないから」
「さっき良いって言っただろ!」
「クソキモオタク」
「ひどい!」
「それこっちのセリフだから」
夏帆がスタスタと歩いて行ってしまった。
あれはマズい。
駅前のプリンが3個いるタイプの怒り方だ。
そのとき、俺の目の前に文字が浮かんだ。
『7日以内に、1人の女性へ告白し、1回成功してください』
「な、夏帆ーッ!」
俺は駅前に走り出した




