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ゴールデンウィーク

※8話まで日常です。10話から豹変します。

何も予定がない日曜日、私はムギを連れて公園に来ていた。ポカポカな陽気。

ただ散歩して帰るにはもったいない。

だけど特に何をするわけでもなく、ただそこにいた。


「ムギ、眠い?」

「眠い」

「私も」

「蓮はいつも寝てる」

「晴れてる日だけ」


それだけの会話をして、二人でぼんやりしていた。


視界をつばめが横切った。すいっと弧を描いて、電線に止まった。

なんとなく、話しかけてみた。


「ねえ」


つばめがこちらを向いた。


「……通じた?」


(まあね)


「ムギだけじゃないんだ」

「知らなかったの?」

とムギが言った。


蓮は少し考えた。知らなかった、というより、試したことがなかった。ムギがいれば十分だったから。


「今日はどこを飛んだの?」

(川の上、橋の下、駅前の木の枝かな)


気づいたら、電線にもう一羽増えていた。それからまた一羽。


「なんで集まってきてるの?」

蓮がムギに聞いた。

「(さあ。僕じゃなくて相手に聞いてみなよ)」


蓮が質問する前に何か聞こえてきた気がする。声を出さずに相手の言葉を受け取ろうと神経を集中してみる。


(あの辺よく飛ぶんだけど、ある日すごい火柱が上がってたから印象に残ってて)

(すごい火柱立ってたって噂のあの家の?)

(へー、その話の子?)

「へー、そんなに噂になってるんだ…」

「(蓮、ふるふる震えてるけど大丈夫?ほら、今日は穏やかな日!穏やかな日!)」

(というとあの子今家ないの?)

(無くなっても自分で作るでしょ)

(でもそれ、人間にできる?)

「………。」

「(穏やかな日!ね?)」


ふるふるしている蓮の横で、ムギはなんとかツバメの会話から意識をそらせようと蓮の手を舐めたり足に尻尾をぺちぺちしている。


そこへ、犬の散歩をしている女の子が横切った。十歳くらいだろうか。蓮より一回り幼い。

犬の方がリードを引っ張り、女の子が翻弄されていた。


「(あらら、あの女の子大変だね)」


「ん?」


ムギの方へ注意を向ける。視線の先には犬に引っ張られている女の子がいた。


「もう!行くよ!ねぇったら!」


犬は意に返さず自分の行きたい方向へ女の子を引っ張り続けている。犬より非力なのか、女の子の方がずるずると引っ張られていた。


「(蓮たちは知らないけど、僕たちは順位をつけるんだよ。群れで生活してたから。ボスの言うことは絶対。逆に下と思ってるところからの意見は基本的に採用されないんだ)」

「そうなんだ」


「ということは、あの犬が女の子よりも順位が高いから好き勝手動いてるってこと?」


「(そうだろうね)」


「人さまのことだから入っていく必要はないんだろうけど、なんとかしようと思ったら」

「(『あれ』をやるくらいのことはしないとかもね、でもさ、)」


ムギが続けようと蓮の方を向くが、蓮は女の子の方へ歩き出していた。


(火事の子が歩き出したよ)

(なんか空気変わったね)

(燃え尽きて凍てついたのかね)


ツバメだ。


蓮は無視して女の子の方へ歩いていく。


「(『凍てついた』は今の蓮にはピッタリかも)」

ムギは蓮の横へついて行った。


「こんにちは」


女の子は突然話しかけられて体を固めていたが、ムギの方を見て同じように散歩に来ている人だと納得したのか硬い表情のまま挨拶を返してきた。


「お名前は?」

蓮はできるだけ笑顔で続ける。

「ミキ」

「ミキちゃんっていうの、いい名前ね」


犬の方を向いた。


「あ、その子はパン」

「パンちゃんか。触っていい?」


一見して笑顔で丁寧に確認していく。その提案にミキちゃんはあからさまに驚いていた。


「え?よその人が手を伸ばしたら噛んじゃうからやめた方がいいですよ。なかなかいうこと聞いてくれなくて困ってるくらいなんで」

「そうなんだ」


ミキちゃんを背にしてパンとの間に入るように立ち、一歩ずつ距離を詰めていく。ポケットに入っていた軍手の片方を丸めて手の甲に置き、それごと包むように装着した。

パンまでの距離が近くなると相手も蓮を認識したのか吠えて威嚇してきた。


(なんだお前は!)


答えない。

無言で目を逸らさずに距離を詰めていく。

パンの威嚇にまったく怯まない。

パンに繋がれたリードを一気に引っ張りパンの顔が蓮の右手のすぐ前まで連れてこられた。

パンは牙をむき出しにして吠えるは噛みつくわの大暴れだった。

蓮は軍手をしている右手を差し出しわざと噛ませる。噛んできたらさらに右手を口の奥に押し込んだ。

奥歯の方に押し込まれすぎると逆に噛むことができない。蓮はジッとパンを見つめている。

パンは目が合うとさらに暴れ出した。


「(蓮の『あれ』はタカが獲物をジッと見てるような、奥深くまで射抜く鋭くて冷たい目をしてるんだ。恐怖して動けなくなるほど。あの目で見られて冷静にいられる動物は居ないんじゃないかな)」


パンは暴れる。蓮と目が合うと今度は怯えたように暴れだした。そして飼い主に助けを求めるようにクーンと鳴き声が変わった。

蓮は右手をさらに押し込む。

ミキちゃんはついさっきの笑顔とはまるで違うオーラを放つ蓮に戸惑っている。どうしていいかわからなくて動けない、そんな感じだ。

助けが来ないと悟ったパンは少しずつおとなしくなっていった。

蓮の軍手には血が滲んでいる。蓮はまったく気に留めていない。ただパンの奥底を鋭い眼光で射抜き続けていた。


「(蓮、大丈夫?蓮!?)」


何度か呼びかけやっと反応が出た。


「(今、そのパンよりも蓮が上になったって認めたよ。あとはこの女の子が蓮より上だって見せつけたら大丈夫)」


「ミキちゃん、終わったよ」


何が終わったのか、というか何か始めたのかすらわからない。気づいたら知らない人が愛犬に噛まれていたのだからただただ驚いて動けなかった。


蓮はミキちゃんよりも視線を低く、土下座のようにして頭を下げた。ミキちゃんの足元に額がつきそうなくらい。パンはそれを見ていた。

蓮がゆっくり立ち上がり、ミキちゃんの手にリードを持たせた。


「行ってみて」


ミキちゃんが恐る恐るリードを引いた。

パンはついてきた。

さっきまでの大暴れが嘘みたいに、おとなしくミキちゃんの隣を歩いた。


ミキちゃんが振り返った。目が丸かった。

蓮はにこっと笑って手を振った。血の滲んだ軍手のまま。

ミキちゃんはまだ何が起きたかわかっていないようだったが、深くお辞儀をしてから歩いていった。


「(蓮、手)」

「大丈夫」

蓮はそう言ってつばめがいた方を見た。

もう居なかった。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



「今度の休みにどっか行くか?」


朔が伸びをしながら言う。ポカポカと温かい、家の中にいるには勿体ない陽気だ。


「特に予定はないけど」

私は暇だけど、みんなはどうするんだろう。

「私も特にはないかな。買い物にでも行く?」

蓮が続く。右手にテープを貼っていた。

「あれ?蓮、右手」

私が指さすと

「これ?あぁ、この間公園でね、ちょっとイラッとしたから犬を締めてた」

と平然と言った。

「何してんの!?」

「人助けよ」

それを聞いて蓮は笑いながら言った。

「買い物か、俺はその日両手骨折する予定だから荷物は朔が持てな」

透が言う。

「こいつらどんだけ買い物するんだ?」

「予知したわけじゃないから知らね」


透がそう言った後で


「あ、私はゴールデンウィークで田舎のおじいちゃんのところへ会いに行こうと思ってる」


灯がさらっと言った。

「あ、そうなんだ。たしか遠いもんね」


みんな小さく微笑んで、小さく頷いた。


「気をつけて、行ってらっしゃい。お土産話待ってるよ」

私も笑顔で見送った。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



灯が帰ってきた。肌が少し焼けて小麦色よりちょっと赤めの肌になっていた。

「なんか赤くね?」

灯の顔を見るなり朔の第一声だった。

「日焼け止め忘れちゃって、こんなに焼けちゃったよー」

灯は腕や顔を触れながら言った。

「赤いね」

蓮が何の気なく灯の肌に触れる。蓮の手が腕に当たった時灯は飛び上がった。

「痛っ!」

「あっちゃー、完全に火傷だね。何やってたの?」

「おじいちゃんの畑の手伝いをね」

「ゴールデンウィークに!?」

私が同じような立場だったらお手伝いできるかな?

「私は遊べる時は遊びたいし休みたい時は休みたいからムリー」

蓮は関わる気がなさそう。

「ははは……」

「そういや、灯のおじいさんって結構な年よね?まだ畑できるんだ」

「他の家族からは止められてるけどね。どうしても昔からやってきたことだから畑に出てないと落ち着かないんだって。」

「すごい元気ね」

呆気に取られてしまった。私も同じような年まで熱中できる物を見つけられるだろうか?

「畑がおじいさんの仕事だろうから、無理にとってしまうと呆けるぞ。そうやってちゃんと続けさせるのも正解。転ぶ前に辞めさせるのも正解」

透がどっちも正解だと言う。話の中に入ってくること自体が珍しい。医者志望でそういう目線からの意見かな?

「ところで、じいさんは何作ってんだ?」

「この時期だったらトマトや茄子やきゅうりだよ」

「お?夏野菜!いいねぇ!俺、来月誕生日だから!」

「うん?」

「いや、誕生日だから!」

「うん」

「えっと、お裾分けしてくれてもいいんだぞ?」

「じゃあお裾分けしなくてもいいのよね?」

「………。」

「黙ったw」

「そういや、おじいさんにはちゃんと言えたのか?」

「うん、ちゃんとお別れしてきたよ。これからも元気でいてねって言ったら笑ってた」

「たしか90近かったもんね」

「うん、89だったかな?」

「一緒じゃん笑」

「90まで生きてたら何やってると思う?」

「庭で盆栽」

「じいさんかよ」

「いや、今『90歳の自分は』って話だったろ?」

「俺は生涯現役!世界中を飛び回って遊び回ってるぜ!」

「そういう双六でもやるのか?」

「飛行機に乗ってに決まってんだろうが!」

「蓮は?」

「私!?私は猫とかに餌あげて眺めてるかな」

「飼わないのなら猫に餌を与えないでください」

「じゃあ全員飼うから問題なしね。全員放し飼いよ」

「おおぅ!?」

「澪は?」

「私?私は家族や友達に囲まれて静かに過ごしてるかな。」

「朔みたいなのがいたら間違いなく静かじゃないぞ?」

「あ……」

「いや、『あ……』じゃねぇよ!」

「じゃあお前静かにできるか?」

「でき(かね)る!」

「なんか不純物入ってなかったか?」

「灯は?」

「私は、…私もかな。家族やみんなと楽しく過ごしてるかも」

「家族ぐるみで仲良くしたいよねー」

「ねー」


灯はそう言って少しだけ笑った。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



「ねえ澪、将来何になりたい?」


「なんだろうね。うーん、お医者さんや看護師さんみたいに『人を助ける』仕事かな。『支える』ってなったら看護師さんか介護士さんかな?この辺はまだぼんやりしてるけど再来年くらいまでには決めるよ」


「そっか」


灯はそれだけ言って、少し笑った。


「なんか、澪らしいね」

「灯は?」

「私はお仕事とかでは考えてないかも。ただ、『居てくれてありがとう。』そう言われるような人になりたいかな」

「なんか難しいね笑」

「どうやったらなれるか全然わかんない笑」

「でもなれるよ!『ただ居てくれてありがとう』って言われるような人」

「なれるかな?」

「うん!」

そうして2人で笑った。


読んでいただきありがとうございます。

次話「夏 朔の誕生日」もよければ。

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