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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第79話 報告

 5月上旬の日曜日、午後2時。


 僕と母さんは、水野家の前に立っていた。


 深呼吸する。手が震えている。


「大丈夫?」


 母さんが心配そうに聞いてくる。


「……行こう」


 千尋の両親は、おばあちゃんから既に聞いている。


 あの日、僕が倒れて救急搬送された後、おばあちゃんが全て話したと聞いた。


 だから今日は、正式な謝罪と、これからのことを話す場だ。


 逃げない。ちゃんと向き合う。


 玄関のチャイムを押すと、おばあちゃんが出てきた。


「いらっしゃい」


 いつもの優しい笑顔ではなく、少し厳しい表情だった。


「お邪魔します」


 居間へ案内される。すでに千尋の両親が座っていた。


 千尋の父は厳しい表情で腕を組んでいる。千尋の母は心配そうな顔をしている。そして千尋は、正座して僕たちを待っていた。


 重い空気が部屋を満たしていた。


 僕と母さんも正座する。僕は千尋の隣に座った。向かい側には両親たち。


 誰も口を開かない。


「じゃあ、始めましょうか」


 おばあちゃんが静かに言った。


「健太くん、千尋、話して」


 僕と千尋は頷いた。そして、深く頭を下げた。


「改めて……千尋さんを妊娠させてしまったこと、本当に申し訳ございませんでした」


 既に知っている事実。でも、ちゃんと自分の口から言わなければ。


「僕の……責任です」


「二人の、責任です」


 千尋が涙声で言った。


 千尋の母が顔を覆った。


「千尋……」


 震える声。涙がこぼれる音が聞こえた。


「おばあちゃんから聞いた時……信じられなくて……」


 千尋の母が泣きながら言った。


「どうして……どうして一人で抱え込んで……」


「お母さん……ごめんなさい……」


 千尋も泣いている。


「言えなくて……怖くて……」


「怖かったわよね……健太さんが倒れるまで、誰にも言えなくて……」


 千尋の母の涙が止まらない。


 千尋の父は、黙って座っていた。拳を握りしめたまま、何か言おうとして、言葉が出ない様子だった。


 そして父は、立ち上がった。


「千尋……」


「軽率なことを……」


「あなた!」


 千尋の母が夫の腕を掴んだ。


「やめて」


 母は夫を睨んだ。父は言葉を飲み込んで、座り直した。拳を握りしめたまま、何も言えない。


 頭を抱える父。その表情は複雑だった。


 僕の母も泣いていた。


「申し訳ございません……息子が……千尋さんを……」


 母が深く頭を下げる。


 僕は頭を上げた。


「千尋さんと、結婚させてください」


 はっきりとした声で言った。父が顔を上げて、僕を見た。


「僕たちは、この子を育てようと思います。中絶は考えていません」


 千尋も頷いた。


「お父さん、お母さん」


 千尋が涙を流しながら言った。


「私、産みたいの。健太さんとの赤ちゃんを。健太さんと一緒に、育てたい」


 誰も何も言わなかった。時計の音だけが聞こえる。


 父は座り直して、頭を抱えた。


「健太……改めて聞くわ。本当に、覚悟はできてるの?」


 僕の母が聞いた。


「本気です。絶対に、責任を取ります」


「千尋……あなたも本気なのね」


 千尋の母が聞いた。


「うん……産みたい。健太さんとの赤ちゃん」


「まだ18歳なのよ……お母さん、何度考えても心配で……」


 千尋の母が涙を拭う。


「……筑波大学は?」


 父が低い声で聞いた。


「一年、延期します」


「今年は受けないのか」


「はい。今は、千尋さんと赤ちゃんが最優先です」


 父は何も言わず、大きくため息をついた。


 おばあちゃんが、ゆっくり口を開いた。


「二人とも、本気なのね」


「はい」


 僕と千尋が答える。おばあちゃんは深く息を吐いた。


「あなたの気持ちも分かるわよ」


 おばあちゃんが父に向かって言った。


「娘が妊娠した。誰を責めたらいいか分からない」


 父は黙って聞いている。


「でもね、もう起きてしまったことなの。健太くんは、この家を助けてくれた。二人は真剣に付き合ってる。そして今、赤ちゃんができた」


「怒っても、変わらないわ」


 おばあちゃんが僕を見た。


「健太くん」


「はい」


「千尋を幸せにできる?」


「はい。必ず」


「千尋、後悔しない?」


「しません。健太さんと一緒なら」


 おばあちゃんは二人を見て、小さく頷いた。


「じゃあ、決定ね」


 そして父を見た。


「二人が決めたことよ。私たちは、支えることしかできない」


 父は深くため息をついた。


「……お前たち、覚悟はできてるんだな」


「はい」


「簡単じゃないぞ」


 父は長い沈黙の後、千尋を見た。


「千尋」


「はい」


「お前、本当に覚悟はあるのか」


「あります」


 千尋がはっきりと答えた。


「健太さんと一緒なら私、頑張れます」


 父は目を閉じた。


「……正直、怒ってる。がっかりもした。お前にはもっと違う人生があったはずだ。本当はもっと家族で一緒に過ごしたかった。でも……」


 父が千尋を見た。


「お前がそこまで言うなら、父さんは応援するしかない」


 千尋の母が言った。


「千尋……本当に、大変なのよ」


「出産も、育児も、想像以上に」


「分かってる。でも……」


 千尋の母は深く息を吐いた。


「分かったわ」


「お母さん、手伝うから」


「一緒に、頑張りましょう」


 千尋が母に抱きついた。二人で泣いている。


「健太、お母さんも応援するわ」


 僕の母が言った。


「しっかりやりなさいよ」


「ありがとう、お母さん」


 涙が溢れた。


「で、いつ入籍するんだ?」


 父が聞いた。


「千尋さんが18歳になったら、すぐに」


「それまでは?」


「事実婚の形で」


「出産はいつ頃?」


 おばあちゃんが聞いた。


「12月頃の予定です」


 千尋が答える。


「じゃあ、準備しないと」


 千尋の母が言った。みんなで具体的な計画を立て始める。


「僕、アルバイトを始めます。水野屋のメンテナンスも続けます」


「無理するなよ」


 父が言った。


「大丈夫です。やります」


「私も、できることはする」


 千尋が言った。


「家のこと、手伝う」


「無理しちゃダメよ」


 母が心配そうに言った。


「うん」


 話し合いが終わり、僕と母さんは帰ることにした。


 玄関で千尋と少し話す。


「終わりましたね」


「ええ」


「でも、言えて良かったです」


「はい」


 母さんと並んで歩く。


「健太、よくお義父様とお義母様に言えたわね。立派よ」


「ありがとう、お母さん」


「これから大変よ」


「うん、分かってる」


 両家に報告した。


 怒られた。泣かれた。当然だ。


 でも、受け入れてもらえた。応援すると言ってもらえた。


 家族がいる。支えてくれる人たちがいる。


 一人じゃない。


 これから、大変だろう。苦しいだろう。


 でも、やる。


 千尋さんと、赤ちゃんと、三人で幸せになる。


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