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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第74話 春の日常

 4月初旬。新しい学期が始まった。ついに高校3年生。高校生活最後の年になってしまった。


 温泉デートから戻って、だいぶリフレッシュできた気がする。これから受験勉強も佳境に入ってくる。頑張らねば。


「よお、健太。また同じクラスだな」


 和樹が笑いながら近づいてきた。


「和樹、よろしく」


「今年は受験生だからな、気を引き締めていこうぜ」


「ああ」


 朝のいつもの電車。千尋と並んで立つ。窓から見える景色に、満開の桜が広がっていた。


「桜、きれいですね」


 千尋が窓の外を見ながら言った。


「うん。もう春ですね」


「高3になっちゃいましたね」


「あっという間でしたね」


 千尋が僕の方を向いて微笑む。


「温泉、楽しかったですね」


「うん、また行きたいですね」


「はい。また一緒に行きましょう」


 千尋の笑顔が、春の陽気と重なって、心が温かくなる。幸せな時間だった。


 放課後は、いつものように千尋の部屋で勉強する。二人で問題を解いていく。千尋の理解の早さに、いつも感心する。


「筑波、一緒に行けるといいですね」


 千尋がふと顔を上げて言った。


「絶対行きましょう」


「技術×経営、楽しみですね」


「はい、千尋さんと一緒なら楽しいです」


 千尋が嬉しそうに微笑んだ。将来の夢を語り合う時間。これからも、ずっと一緒にいたい。


 週末には水野屋を訪問した。Stripe決済システムは順調に稼働していて、オンライン注文が増えているという。


「健太くんのおかげよ。注文、どんどん来るわ。本当にありがとうね」


 おばあちゃんが嬉しそうに言った。


「良かったです」


 千尋が僕の横で微笑む。


「健太さんって本当にすごいですよね」


 照れくさくて、つい目を逸らしてしまう。システムがうまく動いてる。千尋も喜んでくれてる。それが何より嬉しかった。


 そんな平穏な日々が、2週間ほど続いた。


 ◆


 しかし、4月下旬に入ると、また忙しさが戻ってきた。


 受験勉強の量が増える。水野屋のシステムメンテナンス。千尋との時間。睡眠時間が少しずつ減っていく。


「健太、ちゃんと寝てる?」


 母さんが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫だよ」


 また「大丈夫」って言ってる。でも、本当に大丈夫……だよね。温泉で休んだから、まだ余裕がある。頑張ろう。


 そんなある朝の電車。千尋が少し元気がない気がした。顔色が少し悪い。


「大丈夫ですか? 疲れてますか?」


「ううん、ちょっと寝不足かも」


 千尋が微笑む。


「無理しないでくださいね」


「健太さんこそ」


 互いに心配し合う。でも、本人が平気って言うなら、気にしすぎかな。


 別の日の昼休み、千尋とお弁当を食べていた。千尋があまり食べていないことに気づく。


「食欲ないんですか?」


「うん、ちょっとね」


 最近、千尋が少し元気ない気がする。疲れてるのかな。受験勉強、大変だし。でも、千尋は勉強で体調崩すタイプじゃないのに……。


 ◆


 4月下旬のある日。いつものように千尋の部屋で勉強していた。静かな午後。


 千尋が急に顔色を変えた。口を押さえる。


「ごめんなさい、ちょっと……」


 千尋がトイレに駆け込む。


 トイレから聞こえる音に、僕は廊下で待った。心配で仕方ない。


「千尋さん、大丈夫ですか?」


 しばらくして、千尋が蒼白な顔で戻ってきた。ふらふらしている。


 僕は慌てて支えた。


「大丈夫ですか?」


「ごめんなさい……風邪引いたのかも」


 千尋の声が弱々しい。


「今日はもう帰って。うつすと悪いから」


「でも……」


「心配しないで。少し休めば」


 千尋が弱々しく微笑む。心配だったけど、千尋の言葉に従って帰ることにした。


「何かあったらすぐ連絡してください」


「うん、ありがとう」


 千尋の笑顔が、いつもよりずっと弱々しかった。


 自宅に帰って、すぐLINEを送った。


「大丈夫ですか?」


 すぐに既読がついた。


「平気。ちょっと休むね」


 短いやりとりだったけど、返事があったから安心した。


 でも、翌日。千尋は学校に来なかった。


 LINEを送っても、既読にならない。心配になった。


 2日目も学校に来ない。LINEも既読つかない。電話をかけてみたけど、つながらない。焦りが募った。


 3日目。まだ連絡がない。


「千尋さん、どうしたんだ?」


 和樹が心配そうに聞いてきた。


「分からない……」


 もう待てない。放課後、千尋の家に行こうと決めた。直接会って確かめる。


 帰宅後、母さんに相談した。


「千尋さん、連絡が取れなくて」


「心配ね。行ってみたら?」


 母さんが優しく背中を押してくれた。




 夕方、千尋の家に向かった。


 玄関のチャイムを押すと、おばあちゃんが出てきた。


「健太くん……」


 おばあちゃんの表情が、いつもと違う。少し疲れた表情。でも、優しく微笑んでくれた。


「千尋、部屋にいるわ。行ってあげて」


 階段を上る。ドキドキする心臓。千尋、大丈夫かな。


 廊下を歩いて、千尋の部屋の前に立った。深呼吸して、ノックする。


「千尋さん、僕です」


 沈黙。


 数秒の静寂。


「……入ってください」


 小さな、弱々しい声。聞いたことのない声のトーン。


 不安が増した。


 ドアノブに手をかけた瞬間、胸騒ぎがした。何かが違う。いつもと違う。


 一瞬躊躇した。でも、ここまで来て引き返せない。


 僕は思い切ってドアを開けた。


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