第73話 温泉デート
春休み最初の週末、僕は千尋と二人で特急電車に乗っていた。
窓の外を流れる景色。まだ少し寒いけれど、ところどころに春の気配が感じられる。
「楽しみですね、健太さん」
隣に座る千尋が嬉しそうに言った。
「はい。誘ってくれて、ありがとうございます」
「健太さん、ずっと頑張ってましたから」
千尋が優しく微笑む。
「今日はゆっくり休みましょうね」
確かに、ここ最近は無理をしていた。
受験勉強も、水野屋のStripe決済システムも、千尋との時間も。
全部やろうとして、睡眠時間を削っていた。
でも今日は、千尋が温泉旅行を計画してくれた。
「疲れてる健太さんを休ませてあげたい」
そう言ってくれた千尋の優しさが、胸に染みる。
車窓を眺めながら、久しぶりにリラックスしている自分に気づいた。
今日は思いっきり楽しもう。
昼過ぎ、温泉旅館に到着した。
小さな旅館だけど、落ち着いた雰囲気で良さそうだ。
「いらっしゃいませ」
女将さんが笑顔で迎えてくれた。
チェックインを済ませ、部屋へ案内される。
和室の二人部屋。窓からは温泉街の景色が見える。
「わあ、素敵な部屋ですね」
千尋が嬉しそうに部屋を見回す。
少し緊張する。
二人きりの部屋、一泊二日。
でも、千尋の笑顔を見ていると、すぐにリラックスできた。
「荷物を置いたら、街を散策しませんか?」
「はい、行きましょう」
温泉街を歩く。
春の陽気に包まれた街並み。桜が咲き始めている。
お土産屋さんが並ぶ通りを、千尋と手を繋いで歩いた。
「これ、可愛いですね」
千尋がお土産屋さんで、小さな置物を手に取る。
「千尋さんに似合いそうですね」
「本当ですか?」
照れたように微笑む千尋。
その笑顔を見ているだけで、幸せな気持ちになる。
「写真、撮りましょうか」
千尋が言った。
「そうですね。カメラ持ってきてよかったです」
温泉街の風景を背景に、千尋の写真を撮る。
千尋が笑顔でポーズを取ってくれる。
「千尋さん、すごく似合ってます」
「本当ですか?」
千尋が照れたように微笑む。
「今度は一緒に撮りましょう」
セルフタイマーで二人の写真を撮った。
足湯を見つけて、二人で座る。
温かいお湯に足を浸けながら、のんびりと過ごす。
「気持ちいいですね」
「はい。疲れが取れる気がします」
千尋が僕の顔を見て、微笑んだ。
「健太さん、少し顔色良くなりましたね」
「そうですか?」
「はい。気分転換になってるみたいで、良かったです」
千尋の優しさが、心に沁みる。
こんなに僕のことを考えてくれて。
本当に、幸せだな。
夕方、旅館に戻った。
夕食は部屋食。二人きりで、ゆっくりと食事ができる。
地元の食材を使った料理が、次々と運ばれてくる。
「美味しいですね」
千尋が嬉しそうに箸を進める。
「はい、久しぶりにちゃんと食べられる気がします」
最近は、食事もろくに取れていなかった。
でも今日は、不思議と食欲が戻っている。
「良かったです」
千尋が本当に嬉しそうに微笑む。
千尋さんのおかげで、こんなに楽しい時間を過ごせてる。
本当に、幸せだな。
疲れも吹き飛ぶ気がする。
食後、少しテレビを見ながらのんびりと過ごした。
「そろそろ、家族風呂の時間ですね」
千尋が時計を見て言った。
旅館には貸切の家族風呂がある。事前に予約していた時間が来た。
「行きましょうか」
「はい」
家族風呂は露天風呂だった。
貸切なので、誰もいない。
春の夜空の下、静かにお湯が湯気を立てている。
もう何度も体を重ねているとはいえ、裸で並んで座るのは未だに緊張してしまう。
星が見える。
「綺麗ですね」
千尋が夜空を見上げて言った。
「本当ですね」
お湯に浸かる。心地よい温度。
疲れが溶けていく気がした。
千尋と並んで座る。
リラックスした雰囲気。
静かな夜。
「健太さん」
千尋が僕を見つめる。
「はい?」
「今日、楽しかったです」
「僕もです」
自然な流れで、抱き合った。
キスをする。
温かいお湯と、春の夜の空気。
リラックスした雰囲気の中で、僕たちは求め合った。
「ここで、ですか?」
千尋が少し不安そうに聞く。
「……誰もいませんから」
貸切の家族風呂。周りに人はいない。
「でも……」
一瞬、躊躇する。
でも、止まらなかった。
疲れていた。判断力が鈍っていたのかもしれない。
気づけば、千尋を抱きしめていた。
そして、体を重ねていた。ただただ、千尋との時間に溺れていた。
しばらくして、二人で静かにお湯に浸かった。
満足感と幸福感に包まれている。
しばらく湯に浸かった後、僕は千尋さんの手を取った。
「そろそろ、部屋に戻りましょうか」
「はい」
部屋に戻って、浴衣姿で布団に座った。
テレビをつけて、何気ない番組を見る。
「今日、楽しかったですね」
千尋が言った。
「はい。ありがとうございます、千尋さん」
「元気になりましたか?」
「はい、すごく」
千尋の優しさが、本当に嬉しい。
こんなに僕のことを考えてくれて。
布団を並べて、横になる。
「おやすみなさい、健太さん」
「おやすみなさい、千尋さん」
キスをして、眠りについた。
こんなに幸せな時間、久しぶりだ。
千尋さんのおかげで、疲れも吹き飛んだ。
明日から、また頑張れる気がする。
受験勉強も、水野屋も、全部。
千尋さんと一緒なら、何でもできる気がする。
翌朝、目が覚めた。
隣で千尋が静かに眠っている。
穏やかな寝顔。
幸せそうな表情。
そっと、髪を撫でた。
千尋が目を覚ます。
「おはようございます、健太さん」
「おはようございます」
キスをする。
朝食の時間になり、食堂へ向かった。
和食の朝食。美味しい。
「また来たいですね」
千尋が言った。
「はい。また来ましょう」
チェックアウトの時間まで、温泉街をもう一度散歩した。
昨日と同じ道。でも、今日はもっと心が軽い。
千尋さんと手を繋いで、ゆっくりと歩く。
「楽しかったですね」
千尋が微笑む。
「はい。またいつか来たいですね」
特急電車に乗り込み、窓の外を眺めながら帰路についた。
夕方、自宅に到着した。
「おかえり。楽しかった?」
母さんが笑顔で迎えてくれた。
「うん、すごく楽しかった」
「良かったわね。顔色もだいぶ良くなったわね」
部屋に戻って、荷物を片付ける。
温泉デート、最高だった。
千尋さんと過ごした時間、忘れられない。
これから春休み、少し休んで、また頑張ろう。
筑波大学に向けて。
千尋さんとの未来に向けて。
全部、うまくいく気がする。
窓の外を見ると、桜の花びらが舞っていた。
春が来た。
新しい季節が始まる。
僕と千尋さんの未来も、きっと明るい。




