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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第70話 初めての夜

 階段を上がり、僕の部屋のドアの前に立つ。


 少し緊張しながらドアを開けると、千尋は静かに部屋の中へ入った。


 千尋が部屋を見回す。


 本棚には技術書と小説。プログラミングの本、天文学の本、そして千尋が好きそうな文学作品。


 机の上にはノートパソコン。いつも勉強している机。


 ベッドは整えられている。シンプルな寝具。


 窓際には小さな観葉植物。


「健太さんの部屋、初めてです」


 千尋がそう言った。


「そういえば、前に家に来てもらった時は、部屋には来なかったですね」


「はい。あの時は台所とリビングだけでしたから」


「散らかってなくて良かった……実は昨日、片付けたんです」


「バレンタインデー、意識してたんですね」


 少し笑い合う。


 でも、すぐに緊張した空気に戻る。


 窓の外、雨音が聞こえる。


 千尋が本棚を見ている。技術書や小説のタイトルを眺めながら、ゆっくりと視線を移していく。


「健太さんって、色々な本を読むんですね」


「まあ、興味があるものは手当たり次第に」


 千尋の視線が、本棚の一角で止まった。


「これは……?」


 千尋が指差したのは、数冊のアルバムだった。


「昔のアルバムです」


「見てもいいですか?」


 千尋が少し恥ずかしそうに聞く。


「もちろんです。むしろ、見てもらいたいです」


 僕たちはベッドの端に腰を下ろした。


 僕は本棚からアルバムを取り出した。


 最初のページを開くと、そこには父さんと一緒に写った写真があった。


「これが……お父様」


 千尋が静かに言う。


 小学校低学年の僕と父さん。公園で遊んでいる写真。優しそうな父さんの笑顔。


「父さんは、いつも僕と遊んでくれました」


 僕は写真を見ながら話し始めた。


「科学の本を一緒に読んだり、星を見に行ったり……」


 千尋は静かに聞いてくれた。僕の大切な思い出を。失った父さんへの想いを。


「きっと、お父様も今の健太さんを見て、誇りに思ってると思います」


「ありがとうございます」


 次のページには、母さんと二人での写真が並んでいた。


 小学校の入学式。母さんと手を繋ぐ僕。少し緊張した表情。


 運動会。母さんが作ったお弁当を前に笑顔の僕。


 誕生日。ケーキを前に嬉しそうな顔。


「母さんは、父さんが亡くなってから、本当に頑張ってくれました」


「お母様、素敵な方ですよね」


「ありがとうございます。千尋さんにも会ってもらえて、母さん喜んでました」


 さらにページをめくると、高校に入ってからの写真。


 そして、千尋と出会ってからの写真。


 クリスマスの写真。初詣の写真。ほかにもあちこち二人で撮った写真。


「千尋さんと出会ってから、アルバムが華やかになりました」


 千尋は頬を染めて微笑んだ。


 アルバムを一緒に見ているうちに、自然と肩が触れ合う距離になっていた。


 徐々に言葉数が少なくなる。


 お互いを見つめる時間が長くなる。


 雨音だけが部屋に響く。


 僕はアルバムを閉じた。




 静寂の中、僕は千尋にキスをした。


 深い、長いキス。


 千尋も応えてくれる。


 息が上がる。


「千尋さん……」


「健太さん……」


 自然に抱き合った。


 お互いの温もりを感じる。


 千尋が僕の胸に顔を埋める。僕は千尋の髪の香りを感じる。


「ドキドキしてます」


 千尋が小さく言った。


「僕もです」


 お互いの鼓動を感じる。


 キスを重ねながら、ゆっくりと。


 僕は千尋のセーターに手をかけた。


「……いいですか?」


「……はい」


 千尋のセーターを脱がせる。


 千尋も僕のシャツのボタンを外す。


 不器用に、でも優しく。


 お互いの肌の温もりを感じる。


「綺麗です、千尋さん」


「健太さんも……」


 恥ずかしさと愛おしさ。


 お互い下着だけになり、ベッドに横たわる。


 二人とも赤く染まった顔で見つめ合う。


 僕は少し緊張しながら、引き出しを開けた。


 そこにあるのは、あの日、薬局で勇気を出して買ったもの。


 千尋のことを大切に思うから。責任を持ちたいから。


 手に取ろうとした瞬間、千尋も鞄から何かを取り出した。


 それは、僕と同じものだった。


 一瞬、驚いて。


 そして、二人で笑い合った。


「お互い、準備してたんですね」


「同じこと考えてました」


 千尋は笑いながらも、涙が浮かんでいた。


「嬉しいです……健太さんも、私のこと……」


「当たり前です。千尋さんのこと、大切に思ってます」


 僕は自分のものを見る。そういえば、買った時は恥ずかしさのあまり、よく見ないで買ってしまった。


「千尋さんのを使わせてください。僕のは……恥ずかしくて、よく見ないで買っちゃったんです」


 千尋が少し微笑む。


「わかりました」


 千尋のものを開ける。


 不慣れな手つきで。


 千尋が手伝おうとする。


 二人で協力しながら。




 しゅる、しゅる、と衣擦れの音がする。


 二人の息は、緊張のせいで少しずつ上がっていく。


 最後の下着を脱ぐ。


 千尋も。


 二人とも、生まれたときの姿になった。


 その肢体の美しさに、僕は目が離せなくなる。


「あまり……見ないでください」


 千尋が恥ずかしそうに体を隠そうとする。


「あ、ごめんなさい」


「いえ……」


 千尋が少し微笑む。


 お互いの姿を確かめ合う。恥ずかしさと、愛おしさと。


「怖いですか?」


 僕が聞くと、千尋は静かに答えた。


「少しだけ。でも、健太さんとなら大丈夫です」


 千尋の瞳を見つめる。その瞳には、信頼と愛情が満ちていた。


「僕も……緊張してます」


 正直に告白する。


「私もです。心臓が、すごくドキドキしてて」


 千尋が僕の手を取って、自分の胸に当てた。


 柔らかい感触と、激しい鼓動。


 僕の心臓が、さらに激しく鼓動する。


「本当だ……」


 声が震える。千尋の肌の温もりが、手のひらから伝わってくる。


「今度は……健太さんの」


 千尋が僕に身を寄せて、僕の胸に手を当てる。


 その時、千尋の体が僕の体に密着した。


 2つの柔らかな感触が、僕の胸に触れる。


 頭が真っ白になりそうになる。


「健太さんの心臓……すごく速いです」


 千尋の声が、すぐ近くで聞こえる。


「そ、それは……」


 言葉が出てこない。千尋の温もりを感じて、理性を保つのが精一杯だった。


「私も……です」


 千尋が顔を上げて、僕を見つめる。頬が赤く染まっている。


 その表情が、少しだけ僕の緊張を和らげてくれた。


 千尋も同じように緊張しているんだ、と思うと、少しだけ落ち着いた。


「健太さん……今度は、健太さんにも、私の鼓動を……」


 千尋が僕の頭を、自分の胸に引き寄せた。


 柔らかい感触に頭が包まれる。


 トクン、トクンという鼓動が、耳に響く。


「ち、千尋さん……!」


 頭が真っ白になる。千尋の体温、柔らかさ、鼓動。すべてが僕を包み込む。


「私の……鼓動、聞こえますか?」


 千尋の声が、すぐ上から聞こえる。


「き、聞こえます……」


 声が震えている。理性を保つのが本当に精一杯だった。


「健太さん……」


 千尋が優しく僕の髪を撫でる。


 しばらくそのまま、千尋の鼓動を聞いていた。


 やがて、千尋がそっと僕の頭を離す。


 二人とも、顔が真っ赤だった。




 そして──


 僕は、ゆっくりと手を伸ばした。


 千尋の下腹部に、優しく触れる。


「ひゃっ……!」


 千尋の体がビクッと震えた。一瞬、緊張が走る。


「ごめん……」


「いえ……大丈夫です」


 千尋が深呼吸をする。そして、ゆっくりと体の力を抜いていく。


「続けて……ください」


 千尋が小さく頷いた。


「千尋さん、痛かったらすぐに言ってください」


「はい……」


 ゆっくりと。


 千尋の表情が歪む。痛みを感じているのが分かった。


「……っ」


 千尋が小さく声を上げる。僕の手を強く握りしめた。


「……一旦、止めましょうか?」


「いえ……大丈夫です……」


 千尋が首を横に振る。


「でも……」


「続けてください、健太さん。私、大丈夫ですから」


 その声には、決意が込められていた。でも、震えている。


「千尋さん……」


「健太さん……私、健太さんとなら……怖くないです」


 涙が千尋の目に浮かんでいる。でも、その瞳は僕をまっすぐに見つめている。


 千尋の言葉に、僕の胸が熱くなる。


 千尋の表情を見ながら。千尋の呼吸を感じながら。


 ゆっくりと、ゆっくりと。


 千尋の中は、温かかった。


 痛みと温もり。不器用さと優しさ。


 お互いを感じ、確かめ合う。


 二人だけの、特別な時間。


 しばらくすると、千尋の表情が少しずつ和らいでいくのが分かった。


 僕はほっとして、千尋を抱きしめた。


「健太さん……」


「千尋さん……」


 お互いの名前を呼び合う。


 お互いの呼吸が合っていく。心臓の鼓動が重なり合う。


「健太さん……これが……」


「うん……」


「私たち……一つになってるんですね」


 千尋の言葉に、改めて実感が湧いてくる。


 愛おしさが溢れる。


 僕は千尋を優しく、でも強く抱きしめた。


「千尋さん……好きです……愛してます」


 初めて口にする言葉。心の底から溢れ出す想い。


 千尋の目から涙が溢れた。でもそれは、痛みの涙ではなかった。


「私も……愛してます、健太さん」


 千尋も初めて言葉にした。


「ずっと、ずっと言いたかったんです……愛してるって」


「僕もです……千尋さんのことが、本当に愛しくて」


 その言葉が、僕の胸に深く染み込んでいく。


「健太さんと出会えて……本当に良かった」


「僕もです。千尋さんと出会えて、人生が変わりました」


 千尋が僕を受け入れてくれる。僕も千尋を受け止める。


 二人は一つになった。


 心も、体も、すべてが一つに。




 しばらく、そのまま抱き合っていた。


 汗と涙と笑顔。


 疲れているけれど、心は満たされていた。


 千尋の温もりを感じながら、ゆっくりとベッドに横たわる。


 ふと、シーツに小さな赤いシミがあることに気づいた。


 千尋が、初めてを僕に捧げてくれたのだ。


 その重みを感じて、僕の胸は熱くなった。千尋への愛しさが、さらに深まっていく。


「千尋さん、痛かったですよね……ごめんなさい」


 僕の言葉に、千尋は優しく微笑んだ。


「大丈夫です。健太さんが優しくしてくれたから」


 そして、少し恥ずかしそうに付け加えた。


「それに……嬉しかったです。一つになれて」


「ありがとうございます」


 僕は千尋の髪を優しく撫でる。


 千尋が僕の胸に顔を埋める。その体温が愛おしい。


「今日のこと、一生忘れません」


 千尋が小さく囁いた。


 僕も心を込めて答えた。


「僕もです。ずっと、一緒にいたいです。千尋さんと」


「私も、ずっと一緒にいたいです。健太さんと」


 お互いの言葉が、約束のように響く。


 これからも、ずっと。


 お互いの温もりを感じながら。


 窓の外、雨音が優しく響く。


 いつの間にか、雨は小降りになっていた。


 まるで、僕たちを祝福するように。


 千尋が先に眠りについた。


 穏やかな寝顔。幸せそうな表情。


 僕は千尋の寝顔をじっと見つめた。


 こんなに愛おしい人がいるなんて。こんなに大切な人がいるなんて。


 守りたい。この人を、ずっと。


 幸せにしたい。この人を、ずっと。


 心の中で、深く誓う。


 千尋の髪を優しく撫でる。千尋が小さく微笑んだような気がした。


 やがて、僕も眠りにつく。


 抱き合ったまま、深い眠りに。


 バレンタインデーの特別な夜。


 二人は愛を確かめ合った。心も体も、すべてを。


 二人の関係は、新しい段階へと進んだ。


 これから先、どんな困難があっても、二人なら乗り越えていける。


 そう思えるほどに、強い絆で結ばれた夜だった。


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