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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第58話 カフェでの撮影会

 千尋と僕はお店近くのカフェに入る。


 店内は温かな照明に包まれ、クリスマスソングが静かに流れている。甘いコーヒーの香りと焼きたてのケーキの匂いが鼻をくすぐった。


「クリスマスイブのカフェデート……なんだか夢みたいです」


 千尋が嬉しそうにつぶやく。


「僕もです。千尋さんと過ごすクリスマスイブ、ずっと憧れてました」


 僕たちは奥の半個室風のソファ席に案内された。ふかふかの革張りソファで、テーブルを挟んで向かい合うより、横に並んで座れる席だった。窓の外には雪がちらつき始めている。


「わあ、素敵な席ですね」


「はい……千尋さんの隣に座れて嬉しいです」


 僕の言葉に千尋の頬がほんのり染まる。


 それぞれコーヒーとケーキを注文する。千尋はイチゴのショートケーキ、僕はチョコレートケーキを選んだ。


「千尋さん……その、よかったら、千尋さんを撮らせてもらえませんか?このカメラで最初に撮るのは千尋さんにしたいな、ってずっと思ってたんです」


 千尋は顔を赤らめて、上目遣いで僕を見た。


「私なんかでいいんですか?」


「千尋さんなんかじゃありません。千尋さんが一番綺麗だから……撮りたいんです」


 僕の率直な言葉に、千尋の頬がさらに赤くなる。


「健太さん……そんな風に言われると、恥ずかしいです」


「でも本当のことです」


「……はい、お願いします。でも、変な顔に撮れても怒らないでくださいね」


 千尋が恥ずかしそうに微笑む。その表情がもう可愛くて、僕は胸がドキドキした。


 僕達はいそいそと買ったばかりのカメラの開封を行う。新品の匂いがして、なんだかとても特別な気分だった。


「新しいカメラ、かっこいいですね」


 千尋が興味深そうに見つめてくれる。


「千尋さんと一緒に選んだカメラですから」


「私も選ぶお手伝いができて嬉しかったです」


 千尋の笑顔が眩しい。


 そして──


 僕は初めて千尋の写真を撮った。


 僕が真剣にカメラを構えると、千尋は少し恥ずかしそうに微笑んでくれる。


 カシャッ。


 液晶画面に映った千尋を見て、僕は息を呑んだ。


「わあ…すごく綺麗です。千尋さん、本当に綺麗……」


「見せてください」


 千尋が僕の隣に寄ってきて、一緒に液晶画面を覗き込む。千尋の肩が僕の腕に触れ、千尋の温もりと優しい存在感が僕を包んで、僕の心臓が激しく鳴った。


「まあ……なんか恋人に撮ってもらうって不思議な感覚ですね。恥ずかしいんですけど──その、悪くないです」


「千尋さんは綺麗ですから。それにこのカメラのおかげでいつもよりさらに何倍も綺麗に撮れました」


 僕は夢中でシャッターを切った。千尋の様々な表情を撮ることができて、僕は本当に幸せだった。


「千尋さん、本当にモデルみたいです」


「健太さんが上手だからです……でも、そんなに見つめられると恥ずかしいです」


 千尋は恥ずかしそうに微笑んだ。その仕草すらも愛おしい。


「少しポーズ変えてみませんか?手をこう……」


 僕が千尋の手を優しく導いて、頬に添えるポーズをお願いする。千尋の手に触れた瞬間、お互いにドキッとした。


「こ、こうですか?」


「はい、完璧です」


 カシャカシャ。


 僕は夢中になってシャッターを切り続けた。笑顔の千尋、ちょっと恥ずかしそうに頬を染める千尋、ケーキを一口食べる千尋、コーヒーカップを両手で包む千尋の手元……


「健太さん、そんなに撮らなくても……もう十分すぎるくらい撮れてますよ」


「だって、どの千尋さんも可愛くて。全部残しておきたいんです」


 千尋の頬がさらに赤くなる。


「健太さんって、そんなこと言う人でしたっけ……」


「千尋さんの前だと、つい本音が出ちゃうんです」


「今度は千尋さんが僕を撮ってください」


「私が?こんな本格的なカメラは初めてで……上手く撮れるか心配です」


「大丈夫です。千尋さんなら上手に撮れますよ。それに……千尋さんに撮ってもらいたいんです」


 僕はカメラを千尋に渡した。千尋の小さな手にカメラが少し大きく見える。


「思ったより軽いですね……でも落としちゃわないか不安で、緊張します」


「僕が支えますから」


 僕は千尋の後ろに回って、千尋の手を包むようにカメラを支えた。千尋の背中が僕の胸に触れて、千尋のさらさらした髪が僕の頬に触れる。千尋の体温が僕に伝わって、心臓がドキドキと高鳴った。


「あ……」


 千尋が小さく声を上げる。


「こうやって構えて……はい、シャッターはここです」


 僕が千尋の指を導いてシャッターボタンの位置を教える。


「え、えーっと……こうですか?」


 千尋が真剣な表情でファインダーを覗く姿がとても可愛くて、僕は自然に笑顔になった。


 カシャッ。


「撮れました!やりました!」


 千尋が嬉しそうに振り返る。その時、僕たちの顔がとても近くなって……


「あ……」


「……」


 一瞬、見つめ合ってしまう。千尋の瞳が近くて、唇が……


「え、えっと……写真、見てみませんか?」


 千尋が慌てたように液晶画面を見せてくれる。僕の自然な笑顔が写っていた。


「千尋さんが撮ってくれた僕……嬉しいです」


「健太さんの笑顔、素敵に撮れました」


「あの…」


 振り返ると困った顔のカフェの店員さんが立っている。


「写真撮影自体は構わないのですが、他のお客様もいらっしゃいますのでもう少しお静かにお願いします」


 店員さんの声で、僕たちは我に返った。


「あ…すみません!」


 僕たちは気まずくなって、慌てて片付けた。


「うぅ……恥ずかしいです…でも楽しかったです。健太さんと一緒だと、カメラも怖くないですね」


 千尋が小声で言った。


「僕もです…千尋さんを撮れて、良かったです」


 僕も小声で答えると、千尋が恥ずかしそうに俯いた。




「あ、そういえば……さっきカメラを買ったお店に忘れ物しちゃいました」


 僕は急に立ち上がった。実は忘れ物なんてない。


「あら、何を忘れたんですか?」


「えっと……保証書です。大事なものなので…ちょっと取りに行ってきます」


「私も一緒に行きますよ」


 千尋が立ち上がろうとする。


「いえいえ、せっかくの温かいコーヒーが冷めちゃいますし、ここで待っててください」


「そうですね……でも、一人で大丈夫ですか?」


 千尋の心配そうな表情が可愛い。


「大丈夫です。すぐに戻ってきます。千尋さん、待っててくださいね」


「はい、ちゃんと待ってます」


 千尋の笑顔に見送られて、僕は急いでカフェを出た。


 10分後、息を切らして戻って来る僕。内ポケットに入ってるものをかばっているが、気づかれてないだろうか。


「お帰りなさい。お疲れ様でした」


 千尋が心配そうに僕を迎えてくれる。


「ありがとうございます……見つかりました」


 僕は少しドキドキしながら答えた。バレないかヒヤヒヤする。


「見つかって、よかったです」


 僕の正直な言葉に、千尋が嬉しそうに微笑む。


「そうだ。もう少し時間もありますし、よかったら僕の家に行きませんか?」


「健太さんのお家に……いいんですか?」


 千尋が少し頬を赤らめる。


「はい。せっかくですしもっともっと千尋さんの写真を撮りたくて。ここだと他のお客様に迷惑をかけちゃいますし」


「確かに……でも、お邪魔になりませんか?」


「千尋さんが来てくれるなら大歓迎です。母も千尋さんに会いたがってましたし」


「お母様に……嬉しいです」


 千尋が嬉しそうに微笑む。


「それに、家ならゆっくり撮影できますから」


 僕の言葉に、千尋の頬がさらに赤くなる。


「……はい、お邪魔させていただきます」


 僕たちは途中でケーキを買って、僕の家に向かった。商店街を歩きながら、千尋が僕の腕にそっと手を回してくる。雪が舞い散る中、街灯の明かりが千尋の頬をほんのり照らしている。


「寒いですね……でも健太さんの腕、温かいです」


 千尋の手袋越しでも伝わる温もりが僕の腕に伝わって、心も温かくなる。吐く息が白く見えるほど寒いのに、千尋と一緒だと全然寒くない。


「千尋さんの手、冷たいですね。手袋してても寒いんですか?」


「はい……でも健太さんと一緒だと、心は温かいです」


 千尋の言葉に僕の胸がドキドキする。


 家に着くと、テーブルの上に母からのメモがあった。


『急遽仕事で呼び出されました。遅くなります。母より』


「お母さん、お仕事なんですね」


「急なお仕事だったんですね……」


「3つケーキ買ってきたんですが、仕方ないので二人で食べましょうか」


「はい!二人だけのクリスマスパーティーですね」


 千尋がそう言った瞬間、僕たちは同時に気づいた。本当に二人だけなんだ、ということに。


 暖房の音だけが聞こえる静まり返った家の中で、僕と千尋だけ。時計の秒針の音さえ大きく聞こえるような静寂の中に。


「あ……」


「……」


 お互いに少し頬を赤らめて、視線を逸らしてしまう。なんだか急に恥ずかしくなってきた。


「え、えっと……ケーキ、リビングで食べましょうか」


「は、はい……」


 千尋も僕と同じように、少しドキドキしているみたいだった。

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