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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第44話 母と二人で

「そういえば健太」


 リビングで宿題をしている僕に、台所から母が話しかけてきた。


「何?」


「千尋さんを家にお招きしたらどう?いつもお世話になっているし、一度きちんとお会いしたいの」


 母の提案に、僕はペンを止めた。確かに、千尋とはいつも電車や水野屋で会っているが、僕の家に来てもらったことはない。


「それもそうだね。千尋さんにうちに来てもらえるか聞いてみるよ」


「ありがとう。きちんとお話しして、お礼も言いたいし」




 その日の夜、僕は千尋にLINEでメッセージを送った。


『千尋さん、もしよろしければ、今度の日曜日、僕の家にいらっしゃいませんか?』


 少しして返信が来た。


『健太さんのお家に?』


『はい。母も、千尋さんにお会いしたいと言っていて……』


『お母様に……』


『ご迷惑でしたら……』


『いえ、とても嬉しいです。水野屋の和菓子を少しお持ちいたしますね』


『楽しみです♥』


 千尋からの返事を読んで、僕は嬉しくなった。そして同時に、ハッと気づいた。初めて千尋が僕の部屋に来る。


 慌てて部屋を見回すと、机の上には教科書が積み重なっていて、床にも参考書が散らばっている。ベッドも適当に布団をかけただけの状態だった。


「これは……恥ずかしい」


 その日から日曜日まで、僕は毎日少しずつ部屋を片付けることにした。千尋に見られても恥ずかしくない部屋にしなければ。


 ◆


 日曜日の午後、千尋が風呂敷に包んだお菓子を持って、我が家を訪れた。


「初めまして、佐藤美穂と申します。健太の母です」


 母が玄関で千尋を迎えた。


「初めてお目にかかります。水野千尋と申します。いつも健太さんがお世話になっております」


 千尋が丁寧にお辞儀をすると、母が感心したような表情を見せた。


「まあ、とても上品な方ですね。健太からいつも話を聞いていましたが、実際にお会いできて嬉しいです」


「こちらこそ、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」


 リビングに通すと、千尋が風呂敷を開いた。


「心ばかりの品ですが、水野屋の和菓子をお持ちしました」


 美しく包装された上生菓子が現れると、母が歓声を上げた。


「まあ、これが噂の水野屋さんの和菓子ね。写真で見るよりも美しいわ」


「ありがとうございます。季節の花をイメージして作らせていただきました」


「健太から聞いているのよ。千尋さんは和菓子作りがとてもお上手だって」


「まだまだ未熟者ですが、おばあちゃんから教わりながら、日々勉強しております」


「そういえば、野崎さんを紹介してくださって、ありがとうございました」


 千尋が僕の方を向いて言った。


「野崎さん?ああ、私が健太に言われて紹介した和菓子職人の」


「はい、その、和菓子職人の野崎さんです。お母様にご紹介いただきました野崎さんに本当に親身にご指導していただきまして、技術が向上しました」


「あら、それは良かったわ。若い子に技術継承できて、野崎さんも嬉しいんじゃないかしら」


 母が嬉しそうに僕を見た。千尋の謙虚な姿勢にも微笑んでいる。


「それでは、今日は千尋さんと一緒にお料理を作りましょうか?」


 母の提案に、千尋が目を輝かせた。


「一緒に……ですか?」


「ええ。せっかくですから、みんなで手作りの夕食を楽しみましょう」


 千尋が嬉しそうに頷く。


「ぜひ、お手伝いさせてください」


 僕たち三人は台所に向かった。


 母が野菜を洗いながら、千尋に話しかけた。


「千尋さん、お料理はよくなさるの?」


「はい。和菓子作りがメインですが、家庭料理も少し」


 千尋が人参を手に取りながら答える。


「和菓子と料理って、通じるところがありそうね」


「そうですね。どちらも、食べる人のことを思って作るという点では同じです」


 母が微笑む。


「素敵な考え方ね」


 僕もジャガイモの皮を剥きながら、二人の会話を聞いていた。


「健太は小さい頃から、お手伝いが好きだったのよ」


 母が懐かしそうに言う。


「実験の延長で、料理にも興味を持って……」


「母さん、それは……」


 僕が恥ずかしそうに言うと、千尋が笑った。


「健太さんらしいですね」


 三人で料理をしていると、自然に会話も弾んだ。


「今日はカレーを作りましょうか」


 母が提案した。


「いいですね」


 千尋も嬉しそうに答える。ところが、母が調味料の棚を確認すると、困った顔をした。


「あら、カレー粉を切らしてるわ。先週使い切ったのを忘れてた」


「健太、悪いけどカレー粉を買ってきてくれる?ついでに買ってきてほしいものもメモするからちょっと待って」


「あ、私も」


 すぐに千尋が申し出る。


「あ、千尋さんは大丈夫ですよ。ぱっと行ってくるので、家でくつろいでてください」


「あ、でも──」


「いってきます」


 僕は千尋と母を台所に残して、買い物に出かけた。


 ◆


 健太が出かけると、台所に千尋と母だけが残された。


「行ったわね」


 母は健太が出ていった玄関を見ながら、お茶を淹れながら言った。


「あの……どうかされたんですか?」


 千尋がおそるおそる聞く。


「少しお話しましょうか」


 二人はリビングに座った。


「健太のこと、いつも本当にありがとう」


 母が真剣な表情で言った。


「いえ、私の方こそ、健太さんにはいつもお世話になっています」


「千尋さんって、本当に優しい方ね。健太も、千尋さんのおかげで明るくなって」


 母が少し遠い目をした。


「実は、あなたに話したいことがあるの」


「話したいこと……?」


 千尋が不安そうな表情を見せた。


「健太のお父さんのことなの」


 母がゆっくりと口を開いた。

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