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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第42話 ネット注文システムの構築

 スプレッドシートでの注文管理が軌道に乗り、千尋から「手元のデジタル化が一通り完了したので、ネット注文の対応をできるようにしたいです」と相談を受けた僕は、いつもの通り水野屋を訪れていた。


「健太さん、おはようございます」


 千尋が笑顔で迎えてくれた。先々週の混乱していた状況と比べると、だいぶ表情が晴れやかになっているように見える。恋人になってから、彼女の笑顔がより輝いて見える。


「おはようございます。今日はネット注文システムについて、一緒に考えてみましょうか」


 僕の提案に、千尋の目が輝いた。


「はい!お客様からネット経由でのご注文が増えていて、メールでの対応が煩雑になってきているので、もう少し効率的にできる方法がないかと考えていました」


 奥の作業スペースで、僕たちは今後の展開について話し合った。おばあちゃんも顔を覗かせてくれた。


「健太くん、いつもありがとうね。千尋も嬉しそうで何よりだわ」


 温かい言葉に、僕の心も和んだ。


「まず現状を整理しましょう」


 僕がノートを開いて、課題を書き出し始めた。


「現在の注文受付方法は、電話、メール、SNSのダイレクトメッセージですね」


「はい。どれもフォーマットが違ってバラバラで困っています。特にメールやSNSは管理が大変で、できれば一つにまとめたいと思っていました」


 千尋が困った表情で説明した。


「それに、注文内容の確認や、お届け日の調整で何度もやり取りが必要で……」


「なるほど。お客様にとっても、水野屋さんにとっても、もっと効率的な仕組みがあったほうがいいですね」


 僕は考えた。前回のスプレッドシートの成功を踏まえ、次のレベルのシステムが必要だ。


「Googleフォームを使って、注文専用のフォームを作ってみませんか?」


 僕の提案に、千尋の表情がぱっと明るくなった。


「Googleフォーム?」


 千尋が興味深そうに聞いた。


「はい。お客様が必要事項を入力して送信すると、自動的にスプレッドシートに記録される仕組みです」


 パソコンを開いて、実際にGoogleフォームを作り始めた。千尋が僕の操作を真剣に見つめている。


「項目は……お客様の氏名、連絡先、商品名、個数、希望お届け日、支払方法といったところでしょうか」


「アンケートみたいな仕組みですね」


「そうです。お客様がアンケートフォームに入力していくと、その結果が自動でスプレッドシートに書き込まれるんです。なので、僕らは一日数回そのスプレッドの状況をみて、受注対応を行えばいい流れになります。」


 千尋が画面を覗き込んできた。恋人になってから、こうした距離の近さが自然で嬉しい。肩が軽く触れ合うと、僕の心臓は少し早鐘を打った。


「商品名は選択式にして、写真も表示させましょう」


 僕が操作すると、水野屋の美しい和菓子の写真が並んだ選択画面ができあがった。


「わあ、まるでお店のメニューみたいです」


 千尋の声に弾みがあって、僕も嬉しくなった。


「お客様に分かりやすいように、値段と特徴も表示させます」


 一つ一つの商品に丁寧な説明を加えていく。千尋も内容を確認しながら、追加したい情報を提案してくれた。二人で作業していると、時間があっという間に過ぎていく。


「希望お届け日は、カレンダー形式で選択できるようにしましょうか」


「それは親切ですね。でも、作業の都合上、対応できない日もあるんです」


「大丈夫です。選択肢を事前に設定しておけば、営業日だけ選べるようになります」


 僕が設定を調整すると、水野屋の定休日や繁忙日を除いた日程だけが選択できるようになった。


「すごい!これなら、無理な注文を受けてしまう心配もありませんね」


 千尋が感動している。彼女の純粋な喜びが、僕にとって何よりの報酬だった。


 午後は、フォームが送信された時の自動返信機能を設定した。


「お客様がフォームを送信すると、自動的に確認メールが届きます」


「確認メール?」


「はい。『ご注文を受け付けました。詳細は別途ご連絡いたします』といった内容です」


 実際にテスト送信してみると、すぐに確認メールが届いた。


「これなら、お客様も安心ですね」


 千尋が僕の方を向いて微笑んだ。その笑顔に、僕の胸が温かくなった。


「それから、注文が入ると同時に、水野屋さんにも通知メールが届くように設定しました」


 千尋が目を輝かせながらうなずいた。


 千尋のスマートフォンに、実際に通知が表示された。


「すごい!リアルタイムで分かるんですね」


 千尋が嬉しそうに手を叩いた。その仕草に、僕も思わず笑ってしまう。


「はい。外出中でも注文状況を確認できます」


 僕の説明に、千尋が感心したようにうなずいた。


 ◆


 夕方、基本的なシステムが完成した。


「これで、24時間いつでもお客様からご注文をいただけますね」


 千尋が嬉しそうに言った。


「次は、このフォームへのリンクを、ウェブサイトとSNSに設置しましょう」


 僕が水野屋のウェブサイトを開いて、トップページに「ネット注文はこちら」というボタンを追加した。


「InstagramとTwitterの投稿にも、注文フォームのリンクを追加します」


「SNSから直接注文できるようになるんですね」


「はい。お客様の利便性が大幅に向上すると思います」


 システムのテストをしながら、千尋が提案した。


「健太さん、この仕組みをお客様にご紹介する投稿を作ってみませんか?」


「いいアイデアですね。一緒に作りましょう」


 二人で協力して、新しいシステムの紹介投稿を作成した。時々、千尋の手が僕の手に触れることがあって、そのたびに心が踊った。実際の注文画面のスクリーンショットも使って、分かりやすく説明した。


「『24時間いつでも注文受付♪ 新システムで、より便利になりました』という感じでしょうか」


「素敵ですね。お客様に喜んでもらえそうです」


 投稿を公開すると、すぐに反応が始まった。


「『待ってました!』という コメントがついてますね」


 千尋が興奮して画面を見ている。彼女の眼がキラキラと輝いていて、僕も同じように嬉しくなった。


「明日から、実際にこのシステムで注文が入るかもしれませんね」


「はい。楽しみです」


 途中、千尋のお父さんがお茶を差し入れてくれた。


「健太くん、今日も一日お疲れさま。千尋がお世話になっています」


「いえいえ、僕の方こそ勉強になります」


 千尋の家族の温かさに、改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。


 ◆


 作業が一段落したところで、千尋のお父さんが改まった様子で僕に声をかけてくれた。


「健太くん、少しお話があります」


 僕は緊張しながら返事をした。


「はい、何でしょうか」


「これまでの健太くんの協力について、家族で話し合いました」


 千尋も、おばあちゃんも、お母さんも一緒に集まってくれた。


「健太くんのおかげで、水野屋は本当に変わりました。売上も上がって、お客様にも喜んでもらえています」


 お父さんが真剣な表情で続けた。


「ウェブサイト制作、SNS運用のサポート、スプレッドシートでの注文管理、そして今日のネット注文システム……」


 僕は恐縮しながら聞いていた。


「これだけの成果に対して、しっかりとお支払いをさせていただきたいと思います」


「え……?」


 僕は驚いた。お手伝いをしているつもりだったので、お金をいただくなんて考えてもいなかった。


 お父さんが封筒を取り出した。


「健太くん、中身を確認してもらえますか?」


「え……?」


 僕は恐る恐る封筒を開けた。


「12万円……そんな、こんなにたくさん……」


 僕は慌てた。高校生の僕にとって、12万円は想像もできない金額だった。


「遠慮しないで。これは健太くんが正当に受け取るべき対価です」


 おばあちゃんが優しく言ってくれた。


「他の人には労働の対価をお支払いしているのに、健太くんにだけお支払いしないのはおかしいでしょう?それでは私たちが高校生をただで使っているということになってしまいます。それは本意ではありません」


 お母さんも加わって説明してくれた。


「それに、今後も水野屋の成長に協力してもらえるなら、成果に応じて継続的にお支払いするつもりです」


 お父さんの言葉に、僕の胸が熱くなった。


「ありがとうございます……でも、僕は千尋さんと……」


 僕は戸惑った。お金のためにお手伝いをしているわけではない。


「健太さん」


 千尋が優しく言った。


「私たちの関係と、お仕事は別です。健太さんの技術と努力は、正当に評価されるべきだと思います」


「でも僕は……」


「健太くん、お金のためじゃないということは、私たちもよく分かっています」


 お父さんが温かく言ってくれた。


「だからこそ、正当な対価をお支払いしたいんです。健太くんの善意に甘えるだけでは、私たちの気持ちが済みません」


 千尋の言葉と家族の気持ちに、僕は深く感動した。


「ありがとうございます……大切に使わせていただきます」


 僕は深くお辞儀をした。


 具体的な使い道はまだ思いついていなかったけれど、この家族の温かい気持ちを無駄にしないよう、大切に考えて使おうと心に決めた。


 ◆


 家に帰る途中、千尋が言った。


「健太さんのおかげで、水野屋がどんどん現代的になっていきます」


「千尋さんが積極的に学んでくれるから、僕も楽しいです」


 夕陽が二人を優しく照らしている。千尋の横顔が美しくて、僕はドキドキしてしまう。


「次は、どんなシステムを導入しましょうか?」


 千尋の向上心に、僕も刺激を受ける。


「決済システムなど、もっと高度な機能も検討してみましょう」


「楽しみにしています」


 駅で別れる時、千尋が僕の手を軽く握った。


「今日も一日、ありがとうございました」


 その温もりが、帰路の僕の心を温かくした。


 家に帰ってから、僕は今日作ったシステムを再確認した。恋人としての距離を保ちながら、ビジネスパートナーとしても成長していく関係。


 技術で千尋の家族を支えることができて、本当に嬉しかった。来週、このシステムがどんな成果を生むのか、今から楽しみだ。


 そして、今日いただいた12万円のことを考えた。まだ具体的な使い道は決まっていないけれど、いつか千尋さんや水野屋のためになることに使えたらいいなと思った。

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