第40話 千尋の部屋
告白から二週間が経った。
文化祭が終わって一段落した金曜日の夜、僕は千尋からのLINEにドキドキしていた。
『健太さん、よかったら明日、私の部屋に遊びに来ませんか?』
初めての女の子の部屋への訪問だ……しかも恋人の部屋。胸が高鳴っている。
『はい、ぜひお邪魔させてください』
返事を送ってから、僕は鏡の前で髪型を整えた。どんな服装で行けばいいんだろう。清潔感が一番大事だと母に言われたことを思い出して、お気に入りの白いシャツを選んだ。
水野屋に着くと、千尋が嬉しそうに出迎えてくれた。
「健太さん、今日は来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ、お招きいただいて」
恋人になってからも、まだ少し緊張してしまう。千尋の笑顔を見ているだけで、胸がドキドキする。
今日はいつもと違って水野屋の裏手に回り、千尋の実家である一軒家の玄関に入る。
和風の美しい作りで、玄関には整理された靴が並んでいる。家族の温かさを感じる住まいだ。
「それでは、お部屋を見せてもらえますか?」
「はい!ちょっと恥ずかしいんですが……」
二階に上がって千尋の部屋のドアを開ける。
千尋の部屋は、白を基調とした清潔感のある部屋に、天井まで届く本棚にはぎっしりと本が並んでいる。窓際の机には和菓子作りの参考書や学校のノート・教科書がきちんと整理されている。ワンポイントに小さな観葉植物がおいてあるのが千尋らしい。
「わあ、千尋さんらしい素敵なお部屋ですね」
「本当ですか?男の子にお部屋を見せるのなんて初めてで、なんだかちょっと恥ずかしいです」
千尋が恥ずかしそうに俯く姿が愛おしい。
「あ、これ」
千尋が本棚の一角を指差した。そこには僕が貸した科学の本や、一緒に読んだ本が大切そうに並べられている。
「健太さんに貸していただいた本や、教えてもらった本、全部ここに置いてあるんです」
「千尋さん……」
僕が感動して本棚に近づくと、千尋も一緒に立ち上がった。
「この本、覚えてますか?電車で一緒に読んだこの科学の本」
千尋が一冊の科学の本を手に取ろうとした時、僕も同じ本に手を伸ばした。
「あ……」
二人の手が重なってしまう。恋人になってからも、相変わらず偶然の接触に電気が走る。
「ご、ごめんなさい」
千尋が慌てて手を引こうとしたが、僕は優しく千尋の手を包んだ。
「恋人になってからも、まだ緊張しちゃいますね」
「私も、健太さんと手が触れるたびにドキドキしてました」
千尋が恥ずかしそうに微笑んで告白してくれた。
「僕もです。図書館で一緒に本を読んでいた時とか、ノートを渡してもらう時とか……」
「あ、やっぱりそうだったんですね。私もだったので嬉しいです」
二人で手を繋いだまま、昔のことを思い出して笑い合った。
千尋が幸せそうに微笑んで、僕の手をそっと離した。本を元の位置に戻しながら、二人で静かな時間を共有した。
しばらくしてから、千尋がベッドの端にちょこんと座った。そして、トントンと僕に隣に座るよう促す。
彼女のベッドに二人で並んで座るなんて、なんてリア充シチュ!僕はドギマギしながら座った。
「それにしても、文化祭、本当にお疲れ様でした。大盛況でしたね?どうでしたか?」
千尋は文化祭の話を切り出す。
「おかげさまで2年生の展示の一番の賞もらえました」
そうなのだ。僕が企画した謎解きゲームが学年トップを記録したのだ。残念ながら校内一位は三年生の出店だったのだが、これは仕方ないだろう。
「わあ、すごい!おめでとうございます。健太さんのリーダーパワーのおかげですね」
「いえいえ、クラスのみんなの頑張りのおかげですよ」
千尋の優しさに、改めて胸がいっぱいになった。
僕がお礼を言うと、千尋が嬉しそうに手を叩いた。
「健太さんのクラス、みんな仲良さそうで素敵でした。リーダーとして頑張ってる健太さんの姿、とても格好良かったです」
千尋の素直な褒め言葉に、僕の顔が熱くなった。
ひとしきり文化祭の思い出話で盛り上がった後、僕は本題を切り出した。
「それで、そろそろ水野屋のお手伝いに復帰しようと思うのですが、状況いかがでしょう?」
「実は、その件で相談したいことがあるんです」
「最近、注文がどんどん増えてきて……とても嬉しいことなんですが、管理が追いつかなくて」
千尋が困った表情で説明した。
「SNSの効果で新しいお客様がたくさん来てくださるようになったんですが、メール注文、電話注文、直接来店の予約……全部手書きで管理していたら、だんだん混乱してきて」
「ちょっと状況確認させていただいていいですか?」
「それではお店の方に移動しましょうか」
少し名残惜しいが、僕達は千尋の部屋をあとにした。
水野屋のお手伝いを再開することが決まって、二人とも嬉しそうだった。




