表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/83

第36話 文化祭当日

 十一月の初め、いよいよ文化祭当日がやってきた。やってきてしまった。


 僕は朝から落ち着かなかった。

 必死に準備してきた文化祭がいよいよ開催される、というのもある。

 しかしもっと落ち着かなくさせているのはもちろん今日告白する、と決めているからだ。


 千尋が来てくれることになっているが、何を見せてあげればいいのか、どんな話をすればいいのか、頭の中でシミュレーションを繰り返していた。


 約束の時間の15分前から僕はソワソワしながら校門の脇に立っていた。女の子が通るたびに、千尋かな?と顔を見て違うことを確認していた。今思うと変質者っぽい挙動だったかもしれない。


 そうこうしているうちに、本物の千尋が現れた。見つけた時、僕は緊張で足がすくんだ。実際に男子校に女の子を連れて入るのは、生まれて初めての経験だった。


「千尋さん、来てくれたんですね」


「はい。楽しみにしてました」


 千尋が微笑むと、僕はますます緊張した。


 校舎に入ると、案の定、周りの視線が集まった。男子校の文化祭に来る女子は珍しいし、千尋は美人だ。まして目立つ存在だった。


「あ、あの……こちらです」


 僕が千尋を案内しようとすると、クラスメイトが近づいてきた。


「おいおいおい、佐藤が女連れってマジかよ」

「え、マジで?うお、マジだ!佐藤が女子連れてきてる」

「でも最近の佐藤なら、そういうこともあり得るかもな」

「確かに。文化祭の企画リーダーやってるし」

「佐藤、紹介くれよ」


 クラスメイトたちがざわつきながら集まってくる。僕は真っ赤になった。


「あの……えーっと……」


 僕がしどろもどろになっていると、千尋が助け船を出した。


「千尋です。いつも健太さんにお世話になってます」


「お世話って、どんな?」


「電車で一緒になることがあって……」


 千尋が自然に説明してくれた。僕はホッとした。


「へー、電車で知り合ったのか」


「健太、やるじゃん」


 友達たちが冷やかした。僕は恥ずかしくて、どこを見ていいか分からなかった。


「健太さんのお友達ですね。よろしくお願いします」


 千尋が丁寧に挨拶すると、友達たちも感心していた。


「すげー、ちゃんとした子じゃん」


「健太、良かったな」


 もっと冷やかされるかと思ったが、思ったよりみんな受け入れてくれたようだった。最近の僕の変化を、友達も認めてくれているのかもしれない。




 いくつかの展示を見た後、僕は緊張しながら言った。


「千尋さん、僕たちのクラスの展示も見てもらえませんか?」


「はい、ぜひお願いします」


 僕たちの教室に向かう途中、山田が駆け寄ってきた。


「健太!」


 山田が駆け寄ってきて、千尋に気づいて立ち止まった。


「あ、この方が千尋さんですね。初めまして、山田です。お噂はかねがね」


「初めまして、水野千尋です。いつも健太さんがお世話になってます。噂って、健太さん、どんな話されてるんですか?」


「いや、朝同じ電車に乗って~くらいの話しかしてないですよ」


「あら、そうなんです?」


 二人の会話をニコニコしながら見守ってた山田は、はっと気づいたような表情になった。


「そうそう健太、ちょうどいいタイミングだよ。うちのクラス、すごい人気でさ、大行列だよ」


 僕は千尋を見た。


「うちのクラス、謎解きゲームやってるんですよ」


「謎解きゲームですか?面白そうです」


「そうなんですよ!なんとびっくり、佐藤が企画してリーダーもやってるんですよ!」


 山田が腕を僕の首にかけて、ニヤリとする。


「健太さんがリーダーなんですか?すごいですね!」


「いやぁ、そんなぁ」


 僕はもじもじする。


「ともかく教室に来てみろよ、あ、千尋さんもぜひ」


「はい!楽しみです」


 千尋の目が輝いた。




 教室に戻ると、入り口に長い列ができていた。


「佐藤、おつ~!」


 クラスメイトが手を振ってくれる。


「佐藤、すげーよ。もう30組以上参加してるぞ」


 僕は受付係に状況を確認した。


「今、どのくらい待ち時間?」


「15分ぐらいかな」


 僕は千尋に振り返った。


「千尋さん、よろしければ謎解きゲームに参加してもらえませんか?」


「健太が企画したんだよ、これ」


 クラスメイトが横から口を挟んだ。僕は照れて頬を掻いた。


「健太さんが企画したんですか?」


 千尋が驚いた。


「はい。実は……千尋さんに楽しんでもらいたくて考えたんです」


 僕が正直に言うと、千尋の頰がほんのりピンク色になった。


「それなら、ぜひ挑戦させてください」


「でも、一般の参加者と同じように並んでもらうのは……」


 僕が迷っていると、山田が言った。


「健太、千尋さんには特別にテストプレイをしてもらえばいいじゃん。リーダー特権でさ」


「え、でも」


「お前、受付担当まで時間あるし、二人で行ってきなよ」


 山田に背中を押され、僕は、千尋を誘う。


「そうですね。千尋さん、よろしければ」


「はい!」


 僕は千尋に謎解きのルールを説明した。


「校内5カ所に謎が隠されています。この問題用紙を手がかりに、順番に解いていってください」


「はい!えっと……最初の手がかりは……」


 千尋がスタートすると、僕は山田と千尋の後を追う。答えを知っている僕らは後ろからついていくのみだ。


「健太、千尋さんって頭いいな」


 最初の謎解きポイントで、千尋は他の参加者よりもスムーズに答えを見つけていた。


「さすがですね」


 二番目、三番目と順調に進んでいく千尋を見ながら、僕は嬉しくなった。


「健太が作った謎解き、千尋さんすごく楽しそうじゃん」


 山田の言葉通り、千尋は本当に楽しそうだった。


 最後の謎解きポイントで、千尋は少し考え込んでいた。


「健太、助けに行かなくていいの?」


「大丈夫です。千尋さんなら問題ないよ」


 案の定、数分後に千尋は答えを見つけて、教室に戻ってきた。


「健太さん、正解は『タカラモノ』ですか?」


 千尋が答えを教えてくれた。


「正解です!」


 クラス全体から拍手が起こった。


「すごいじゃん、15分でクリアだ」


「今日の最短記録だよ」


 クラスメイトたちが盛り上がる中、千尋が僕に言った。


「健太さん、とても面白い謎解きでした。すごく考えられてて……最後の謎が特に素敵でした」


「楽しんでもらえて良かったです」


「健太さんがクラスのリーダーをやってるなんて、すごく意外でした」


「僕も驚いてます。前の僕なら考えられませんでした」


 その時、他のクラスの生徒が教室を覗いた。


「佐藤のクラス、すげー人気じゃん」

「謎解きゲーム、やってみたいな」


 いい感じに広告にもなったようだ。


「佐藤、そろそろ受付変わってくれよ」


 ちょうど受付の時間が来たようだ。


「すみません、千尋さん、あと1時間ほど受付担当なので、ちょっと一人で回ってもらえますか?ご一緒できず申し訳ないです。12時に中庭の自動販売機のところで待ち合わせできますか?」


「はい、さっき謎解きで通ったところですよね?大丈夫です」


 僕は、千尋を見送る。するとクラスメイトの一人が僕に話しかけてきた。


「佐藤、いい子を見つけたな」


「まだ付き合ってるわけじゃないんだ」


「え?嘘だろ?あれだけ親密な感じだしといて、まだ告白してないの?」


「うん……」


「うわ、もったいなー。あの子、完全に佐藤のこと好きだろ」


 僕は驚いた。


「そう見える?」


「見えるも何も、一日中佐藤のことばっかり見てたじゃん。それに、佐藤が他の女子と話してる時、ちょっと拗ねたような顔してたぞ」


「そんなことが……」


 僕は気づいていなかった。千尋がそんな表情をしていたなんて。


 ◆


 12時に中庭に向かうと、千尋が他校の男子生徒に声をかけられているところだった。


「君、さっきの謎解きゲームの人だよね?どこの高校?」


「あの……」


 千尋が困っている様子を見て、僕は慌てて近づいた。


「千尋さん、お疲れさまでした」


 僕の声に、男子生徒が振り返った。


「あ、君の彼女?」


「……はい……」


 とっさに嘘をついてしまった。彼女を守るための方便だ。


 僕が答えると、男子生徒は「なんだ、残念」と言って去っていった。


「遅くなっちゃってすみません。男子校だから、女子が珍しくてああいうのもいるんですよ。迷惑かけちゃいましたね」


 千尋が微笑みながら近づいてきた。


「いえいえ、気にしないでください。それより、謎解きゲーム、本当に楽しかったです」


「良かったです」


「ききましたよ!あれ、健太さんが前に立って色々決めていったって。健太さんのこと見違えた、なんて言っている女子生徒さんもいらっしゃって、私少し嫉妬しちゃいました」


「嫉妬?」


「あ、いえ、忘れてください」


 なんとなく気まずい雰囲気になる。


「そ、それでは、他の展示も見て回りませんか?」


 僕は話題を切り替える。


「はい!」


 千尋は元気に答えた。




 午後は二人で文化祭を回った。美術部の展示、書道部の作品、軽音楽部のライブ。千尋は全てに興味深そうに見入っていた。


「健太さんの学校、本当に活気がありますね」


「例年と違って今年は、千尋さんと回れて、本当に楽しいです」


 去年までずっとボッチ文化祭だったので全く違う。


 人の流れが落ち着いた頃、僕たちは中庭のベンチに座った。


 千尋が言った。


「健太さん、大丈夫ですか?なんか緊張してるみたいですが」


「あ……バレてましたか」


 僕が苦笑いした。


「男子校に女の子を連れて入るなんて、初めてで……みんなの視線が気になって」


「そうだったんですね。私も少し緊張しました」


「千尋さんも?」


「はい。健太さんの学校の人たちにどう思われるかと思って」


 千尋が正直に答えた。僕は少し安心した。


「でも、みなさん優しくて良かったです。健太さんがいい友達に恵まれてるのが分かりました」


 千尋が微笑んだ時、僕は改めて思った。


 彼女を、もっと大切にしたい。



 文化祭も終わりに近づいてきた。


「千尋さん、今日は本当にありがとうございました」


「私の方こそ、ありがとうございました。とても楽しかったです」


 千尋を駅まで送る時間になった。でも僕の心に、ひとつの決意が固まっていた。


 今日、千尋に気持ちを伝えよう。


 クラスメイトの言葉が頭に響いている。「あの子、完全に佐藤のこと好きだろ」


 もう迷いはなかった。


「ちょっとこっちに来てもらってもいいですか?」


 僕は校舎の裏手を指差した。人通りのない、静かな場所だった。


 千尋は黙って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ