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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第35話 文化祭の準備

 千尋を文化祭に誘ってから一週間が経った。


 その日のホームルーム、文化祭の企画会議が行われていた。


「カフェはどうかな?」

「でも準備が大変そう」

「お化け屋敷は?」

「教室の構造的に難しくない?」


 クラスメイトたちが次々と意見を出すが、なかなかまとまらない。


「うーん、どれも決め手に欠けるなあ」


 委員長の田中が困った顔をしている。


 僕は黙って聞いていたが、恐る恐る手を上げた。


 教室がザワッとした。普段あまり発言しない僕が手を上げたからだろう。


「謎解きゲームはどうかな?」


 実は、この提案は千尋を誘ったあとから、温めていたアイデアだった。せっかく千尋に来てもらえるのだから、楽しんでもらいたい、と思ったときに思いついたのだ。



「謎解きゲーム?」


 委員長が興味深そうに聞いた。


「うん。校内を使った謎解きゲーム。参加者が教室や廊下に隠された謎を解いて回るんだ」


「ああ、『リアル脱出ゲーム』ってやつか。へー、面白そうじゃん。どうやって作るんだ?」


 山田が聞いてきた。


 僕は立ち上がって、黒板に簡単な図を描き始めた。


「まず、スタート地点で、お題を出す。で、それをもとに校内に設定した5つのポイントを順番に回っていく。で、各ポイントに謎を貼って、参加者が解いて回る仕組み」


 クラスメイトたちが身を乗り出して聞いている。


「謎を解くと次のヒントが得られて、最終的に隠されたキーワードがわかる。スタートもゴールも僕たちの教室で、参加者は教室で僕たちに、キーワードを伝える。正解者には景品を渡すという流れだ」


「すげー、本格的だな」

「いいじゃん、やろうぜ」

「でも、学校中に貼るのって大丈夫?参加者は教室の外に行くんでしょ?許可とったりしないとだよね?」


「文化祭実行委員会に許可をもらえばいけると思う。テーマを『田町高校の秘密』にして、学校の歴史や施設を使えば教育的で面白くなるんじゃないかな」


「面白そう!」


「意見もまとまったし、この方向でいいかな?」


 委員長はまとめに入る。

 クラスの出し物は全会一致で、謎解きゲームにまとまった。


「じゃあ、監督は佐藤ってことで」


 委員長はいきなり僕にふる。


「え?委員長じゃないの?」


「アイディアは佐藤から出たんだから佐藤がやったほうがいいと思うよ。僕は文化祭委員との調整や先生とのやり取りに集中するよ」


「佐藤、せっかく出しお前やれよ!」


 クラスのメンバーもそれに乗っかる。


「……じゃあ僭越ながら」


 僕は前に立って、ごほんと咳払いする。


「美術が得意な人は謎解きの装飾とポスター作成。文章が得意な人は問題文の作成。体力のある人は設営」


 クラス全員が僕の説明に聞き入っている。普段の僕なら考えられない光景だった。


「健太、すげーじゃん。まるで別人みたい」


 山田が驚いている。


「まあいろいろ、ね」


 千尋のお手伝いの成果だ。意味深に僕が答えると、クラスが「おー」と盛り上がった。


「その謎解き、どのくらいの時間でクリアできるの?」


 委員長が実務的な質問をした。


「15分から30分かなーって。短すぎると物足りないし、長すぎると次の参加者をまたせちゃうし、他の展示に迷惑かけそう」


「おお、確かに。参加者の管理はどうする?」


「受付でスタート時間を記録して、制限時間内にゴールできなかった場合は救済ヒントを出すとかどうだろう」


 僕の説明に、みんながうなずいている。


「予算はどのくらい?」


「印刷代と装飾材料費で3000円もあれば十分だと思う。景品は文房具セットなど、実用的なものを考えてるよ」


 スラスラと答える僕にみんながおーっと歓声を上げる。


「佐藤、最近、急に積極的になったよな」

「なー」


 クラスメイトの一人が言った。僕は少し恥ずかしくなった。


「そうかも」


 僕は、俯く。


「でも、いい提案だと思う」


 委員長が言った。


「あのー本当に僕がリーダーで大丈夫ですか?」


 僕はおずおずと聞く。


「大丈夫だよ。今の説明聞いてたら、誰が見てもお前が一番詳しいもん」


 山田が背中を押してくれた。


「だな」

「がんばれー!いや、がんばろうぜ!」


 クラスメイトの声に励まされる。


「分かりました。頑張ります」


 その日から、僕たちは文化祭の謎解きゲーム制作に本格的に取り組み始めた。


 ◆


 放課後、謎解きの問題を考えながら、僕は千尋のことを思った。


 千尋に見せたい。成長した自分を、みんなに認められた自分を。


 本当は、千尋に楽しんでもらいたくて考えていた企画だった。千尋は謎解きが好きそうな気がしていたし、一緒に楽しめるものを作りたかった。


 そして、もしかしたら……この謎解きの最後に、特別な謎を用意するかもしれない。


 千尋への想いを込めた、特別な謎を。


 ◆


 次の日の昼休み、僕は山田と一緒に校内を回っていた。


「ここに謎解きの紙、貼るのはどう?」


「いいね。でも、もう少し目立たない場所の方がゲームらしくない?」


「なるほど。じゃあ、この柱の裏側は?」


 僕たちは謎解きのポイント設定を進めていた。


「健太、お前本当に変わったよ」


 山田が感心したように言った。


「何が?」


「前は人前で話すのも恥ずかしがってたのに、今じゃみんなから頼りにされてるじゃん」


 確かに、以前の僕なら考えられない。


「まあ、いろいろあって……」


「そうか。そういえば千尋さんも文化祭に来るんだよな?」


「うん。来てくれることになってる」


 山田がにやりと笑った。


「もしかして、何か特別な予定でもあるのか?」


 僕は少し迷ったが、山田になら話せそうな気がした。


「実は……文化祭で、千尋さんに告白しようと思ってるんだ」


「マジで!?」


 山田が驚いて声を上げた。


「ちょ、他の人にきかれたくないから声あげないでよ……」


 僕は慌てて周りを見回した。


「すまんすまん。でも、すげーじゃん!頑張れよ」


「ありがとう。だから、この謎解きゲームも成功させたいんだ」


「なるほど、それで気合い入ってたのか。やっと腑に落ちたよ。そういうことなら、俺も全力でサポートするから」


 山田が力強く背中を叩いてくれた。


「よろしく頼む」


 僕も微笑んだ。文化祭が楽しみで仕方なかった。

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