第34話 文化祭への誘い
母との会話から三日が経った。
その間、僕は母の言葉を何度も思い返していた。
「考えるのも大事だけど、行動することの方が大事よ」
確かにその通りだ。このまま考えているだけでは何も変わらない。千尋に気持ちを伝えるためには、まず行動を起こさなければならない。
でも、いきなり告白するのは勇気がいる。何かきっかけがあればいいのに……。
その日の5時間目、ホームルームで担任の先生が言った。
「来月の文化祭の件だが、各クラスの出し物を決めてもらう。何かアイデアはあるか?」
「カフェがいい!」
「お化け屋敷がいいな」
「演劇も面白そう」
クラスメイトたちが次々と提案している。僕はぼんやりとその会話を聞いていた。
文化祭……。
その時、ふとひらめいた。そうだ、これがきっかけになるかもしれない。
千尋を誘えば、僕の学校生活を見てもらえる。そして、もしかしたら告白する機会も作れるかもしれない。
翌朝の電車で、僕は決心した。今日、千尋を文化祭に誘ってみよう。
千尋がいつものように乗ってくると、僕は少し緊張した。
「おはようございます」
「おはようございます」
千尋がいつものように微笑んだ。その笑顔を見ると、僕の決意が少し揺らいだ。もし断られたら……。
でも、母の言葉を思い出す。行動しなければ何も始まらない。
電車が動き出してから、僕は話しかけるタイミングを計っていた。でも、なかなか切り出せない。
千尋は文庫本を読んでいたが、時々僕の方を見ているのに気づいた。
「あの、千尋さん」
僕がようやく口を開くと、千尋が顔を上げた。
「はい?」
「来月、僕の学校で文化祭があるんです」
千尋が少し驚いたような顔をした。
「文化祭……ですか?」
「はい。もしよろしければ……見に来ていただけませんか?」
僕の心臓がドキドキした。千尋の返事を待つ間が、とても長く感じられた。
「文化祭……」
千尋が少し考えるような表情をした。そして、顔を明るくして言った。
「はい!ぜひ行かせていただきます」
僕は安堵した。断られなくて良かった。
「本当ですか?ありがとうございます」
「健太さんの学校がどんなところなのか、とても気になってたんです」
千尋がそう言って微笑んだ。その笑顔を見ていると、僕の緊張が少しほぐれた。
桜ヶ丘駅が近づくと、千尋が言った。
「楽しみにしてますね」
「僕も……えっと、つまらなかったらすみません」
「そんなことありません。健太さんがいる学校なら、きっと素敵な文化祭ですよ」
千尋の言葉に、僕の心が温かくなった。
学校で授業を受けていても、文化祭のことが頭から離れなかった。千尋が来てくれることになったけれど、何を見せてあげればいいんだろう。
休み時間、山田が僕の机にやってきた。
「健太、文化祭どうする?昨日のホームルーム、お前全然参加してなかったな」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」
「また例の子のこと?」
山田がにやにやしながら言った。
「うん」
「あれ、えらく素直に認めるな」
「素直になろうと思って」
「あの奥手な佐藤がなぁ」
ウンウンと頷く山田。お前は俺の育ての親か。
「で、何考えてたんだ?」
「そうそう、彼女が文化祭を見に来ることになったんだ」
「おぉ、マジか。すげー進展したな!」
山田が嬉しそうに言った。以前に僕から少し話を聞いていたのを覚えていてくれたようだ。
「えーっと……」
僕は恥ずかしくなった。
「それなら尚更、いいクラス展示にしないとな。その子に恥ずかしい思いさせるわけにはいかないだろ」
山田は真面目な顔で言った。
「そうだな。今度の企画会議、ちゃんと参加するよ」
「ありがとう、山田」
その言葉に、僕は救われた気がした。
学校から帰る道で、僕は今日のことを思い返していた。
千尋を文化祭に誘えた。そして、彼女は快く承諾してくれた。
これは大きな一歩だ。母の言う「行動することの方が大事」を実践できた。
でも、これはまだ始まりでしかない。本当の目的は、千尋に気持ちを伝えることだ。




