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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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29/83

第29話 秋祭り当日前編

ほしみんです!

わけあって10月から二作同時連載することとなりました。

その名も「音光学園女子校文化祭大作戦〜男子校なのに女子校!?驚愕の文化祭詐欺事件〜(https://ncode.syosetu.com/n2982ld/)」。

今作とは正反対の完全にギャグに振り切った、恋愛要素(恐らく)ゼロのドタバタコメディです!

男子校の救世主になるために女装の道を究める男子高校生の奮闘記を、頭空っぽにして楽しんでもらえればと思います。

「え、この作者こんなの書くの!?」と思われるかもしれませんが、たまには違うジャンルにも挑戦してみたくなったんです(笑)

普段の甘々純愛とのギャップをお楽しみいただければ幸いです!

https://ncode.syosetu.com/n2982ld/


※もう一作を連載するからと言って、「7時22分の電車で始まる恋」もおろそかにするつもりはないのでご安心を!(すでに10月末まで準備済みです)

 朝5時半に目が覚めた。目覚まし時計が鳴る前に起きてしまうなんて、相当緊張しているのかもしれない。


 6時ちょうどに水野屋に着くと、千尋とおばあちゃんが既に準備を始めていた。


「おはようございます」


「健太さん、お疲れ様です!早いですね」


 千尋がエプロン姿で振り返った。朝の光が差し込む中で、千尋の表情がいつもより凛として見えた。今日は職人としての顔をしている。


「今日は大事な日ですから。準備、順調ですか?」


「はい。おばあちゃんが4時から仕込みを始めていたんです」


 おばあちゃんの車に荷物を積み込んで、会場の公園に向かった。おばあちゃんが運転席、僕と千尋が後部座席に並んで座った。二人きりで座っていると、なんだか特別な空間のような気がした。


「緊張してるんです」


 千尋が小声で言った。


「大丈夫ですよ。千尋さんの和菓子は絶対に喜ばれます」


「健太さんがいてくれるから、心強いです」


 千尋の横顔を見ていると、胸が温かくなった。


 ◆


 会場に着くと、既に他の出店者たちが準備を始めていた。たこ焼き、焼きそば、かき氷……祭りらしい活気があふれている。


「水野屋さん、おはようございます!」


 隣の出店者の方が声をかけてきた。


「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」


 千尋も、挨拶を返す。


「毎年楽しみにしてるんですよ。今年も美味しい和菓子、期待してます」


 温かい言葉に会釈で返す千尋。地域の人たちに愛されているのが分かる。


 テントの設営から始めた。慣れない作業で四苦八苦していると、千尋が手際よく指示を出してくれる。


「健太さん、そこのポールをもう少し左に」


「こうですか?」


「はい、バッチリです!」


 二人で協力してテントを張り上げた時、達成感と一緒に何か特別な絆を感じた。


 机を並べ、ガスコンロを設置し、蒸し器を準備する。千尋の動きは無駄がなく、本当にプロの職人のようだった。


 おばあちゃんは設営が終わると、「あとはよろしく頼むわ」と言って水野屋に戻っていった。店番があるからだ。


「すごいですね。千尋さんって、こんなに頼もしかったんですね」


「普段は健太さんに教えてもらってばかりですから」


 千尋が照れたように笑った。


 午前8時、和菓子作りの最終準備が始まった。千尋が餡を練り、僕が材料を運ぶ。


「健太さん、白餡をお願いします」


「はい」


 手が触れ合う度に、少しドキッとした。千尋も恥ずかしそうにしてたので同じ気持ちかもしれない。


 ◆


 午前9時50分。開店まであと10分。


 千尋が時計を見て、深呼吸をした。


「緊張してきました……」


「毎年出店されてる千尋さんでも緊張するんですか?」


「例年は出来上がった和菓子を販売するだけだったんですけど、今年は初めてお客さんの前で作る実演販売がありますから……上手く作れるでしょうか」


 千尋の不安そうな表情を見て、僕は励ました。


「大丈夫ですよ。僕も精一杯サポートしますから」


「ありがとうございます」


 千尋が少し安心したように微笑んだ。


 遠くから太鼓の音が聞こえてきた。秋祭りの始まりを告げる合図だ。


「来ましたね」


「はい……いよいよですね」


 千尋が僕を見つめた。


「健太さん、一緒に頑張りましょう」


「はい、頑張りましょう」




 午前10時ちょうど。


「いらっしゃいませ!」


 千尋の明るい声が響いた。僕も隣で「いらっしゃいませ!」と声を合わせる。


 最初のお客様は近所のご婦人、田中さんだった。


「千尋ちゃん、今年も楽しみにしてたのよ」


「田中さん、ありがとうございます。今年は新しい紅葉の和菓子も作りました」


 千尋が実演で和菓子を作り始めると、田中さんが興味深そうに見つめた。


「まあ、上手ね。本当に職人さんみたい」


 千尋の手から生まれる美しい紅葉の和菓子に、僕も見とれてしまった。


「こちらの方は?」


 田中さんが僕を見た。


「お友達の健太さんです。今日は臨時でお手伝いいただいてるんです」


「まあ、もしかして彼氏さん?」


 突然の言葉に、僕と千尋の顔が真っ赤になった。


「あ、いえ、その……友達で……」


 千尋が慌てて否定しようとしたが、声が小さくなってしまう。


「お似合いよ。千尋ちゃんが嬉しそうに見えるもの」


 聞こえなかったのか彼氏前提で話がすすむ。田中さんがにっこりと笑って和菓子を購入して去っていった。


 その後、僕たちはしばらく顔を見合わせることができなかった。




 午前11時頃から、お客様の流れが一段落した。実演販売の見学者や和菓子を購入されるお客様が途切れることなく続いていたが、ようやく落ち着いた。


「わあ、すごい!」


 5歳くらいの小さな女の子が千尋の和菓子作りに目を輝かせた。お母さんに手を引かれながらも、身を乗り出して見つめている。


「お姉ちゃん、上手だね。魔法みたい」


「ありがとう」


 千尋が手を止めて、その子の目線まで屈んだ。


「これはね、紅葉の葉っぱなの。秋になると、木の葉っぱがこんな色になるでしょう?」


「うん、知ってる!公園にいっぱいあった」


「そうそう。その葉っぱを和菓子で作ってるの。食べると甘くて美味しいのよ」


 千尋が特別に小さな紅葉の和菓子を作って見せると、女の子が歓声を上げた。


「これ、もらえるの?」


「はい、どうぞ。でも、お母さんと一緒に食べてね」


 女の子が大切そうに和菓子を受け取ると、お母さんも微笑んだ。


「ありがとうございます。素敵な方ですね」


「来年の秋祭りにも来てくださいね」


 親子が去った後、僕は千尋の優しさに改めて感動していた。子供への接し方を見ていると、千尋の人柄の良さがよく分かる。


 ◆


 午後12時。お昼休憩の時間。近くのベンチで、千尋が用意してくれたお弁当を二人で食べた。


「午前中、お疲れ様でした」


「健太さんのおかげで、とてもスムーズでした」


 千尋が疲れた表情を見せながらも、充実感に満ちていた。


「千尋さんの接客、素晴らしかったです。みなさん、千尋さんの和菓子作りに見とれてました」


「健太さんも、すごく頼りになりました。一人だったら、こんなにうまくいかなかったと思います」


 二人で午前中を振り返りながら、お弁当を食べる。このささやかな時間が、とても特別に感じられた。


「午後も頑張りましょう」


「はい。千尋さんとなら、どんなことでも乗り越えられそうです」


 千尋が嬉しそうに微笑んだ。


「私も、健太さんがいてくれると心強いです」


 昼休憩を終えて、午後に向けた準備を整えた。午前中の経験を活かして、これからの忙しい時間に備えることができた。


「午後は家族連れのお客様が増えるんです」


 千尋が教えてくれた。


「子供たちも和菓子作りを見たがるので、午前中以上に忙しくなりそうです」


「頑張りましょう。千尋さんとなら、どんな忙しさも乗り越えられます」


 千尋が微笑んで頷いた。午後の部がまもなく始まる。

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