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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第28話 秋祭りの準備

 朝の電車で、いつものようにSNSやブログ運営などの雑談していると、千尋が思い出したように言った。


「そういえば、来週に地元の秋祭りがあるんです」


「秋祭りですか」


「はい。水野屋も毎年出店してて、和菓子の実演販売をするんです」


 千尋が少し誇らしげに言った。


「おお、いいですね!千尋さんもするんですか?」


「はい、今年はおばあちゃんから許可もらいました」


「野崎さんの工房での努力の成果ですね。流石です」


 僕の言葉に、千尋が照れたように笑った。


「そうだ、せっかくですし、SNSでも広報したらどうですか?」


 僕が提案すると、千尋の目が輝いた。


「それ、いいアイデアです!事前に告知したら、たくさんの人に来てもらえるでしょうか」


「フォロワーは海外の方が多いので、直接来てもらうのは難しいかもですが、秋祭りって日本文化の象徴ですし、海外の方にも興味を持ってもらえそうですね。それに、実演販売の動画とか撮れば、普段とは違う魅力的なコンテンツになりそうです。


 僕も秋祭りに向けたSNS広報準備と、出店の準備をしましょうよ。僕も手伝いますよ」


「本当ですか?」


 千尋が嬉しそうに聞いた。


「もちろんです。楽しそうですし」


 千尋が安心したような表情を見せた。


「でも、秋祭りの準備って大変ですよね。テントの設営とか、道具の運搬もありますよね?」


「はい。それに、和菓子も300個くらい作るので……」


「任せてください。体力には自信がありますから」


 僕が胸を張ると、千尋がくすっと笑った。


「頼りになりますね」


 その週の平日、千尋とSNS投稿について相談した。


「秋祭りの告知、どんな内容にしましょうか?」


「そうですね……『水野屋、秋祭りに出店します!』だけだと味気ないですし」


「実演販売の様子とか、紅葉の和菓子の写真を使って、『職人の技を間近で!』みたいな感じはどうでしょう」


「いいですね!あと、『お子様も楽しめる和菓子作り体験』も入れたいです」


 InstagramとTwitter用の文章を一緒に考えて、投稿スケジュールも決めた。千尋のSNS運用がどんどん本格的になっていく。


 ◆


 水野屋を訪れると、店内はお祭りの準備で活気に満ちた雰囲気だった。


「健太君、来てくれたのね」


 祖母が安心したような顔で迎えてくれた。


「秋祭りの準備、よろしくお願いします」


 店の奥では、千尋が大量の材料を準備していた。


「健太さん!来てくださったんですね」


 千尋がエプロン姿で出てきた。いつもより生き生きとして見える。


「まず何から始めましょうか?」


「そうですね……まず、明日の仕込みの準備から」


 千尋が説明してくれた。


「秋祭りでは、紅葉をモチーフにした和菓子を中心に販売するんです」


「どのくらい作るんですか?」


「例年だと、300個くらい売れるんです」


「300個!?」


 僕は驚いた。


「はい。朝から夕方まで、ひっきりなしにお客様が来られるので」


「それは確かに大変ですね」


 僕と千尋は、材料の計量から始めた。白餡、こし餡、上新粉、白玉粉……普段見慣れない材料が並んでいる。


「健太さん、これを量ってもらえますか?」


 千尋が秤を渡してきた。手が触れた瞬間、お互いに少しドキッとした。


「あ、すみません」


「いえ……」


 二人とも顔を赤くしながら作業を続けた。


「健太さんって、料理とかするんですか?」


 千尋が聞いてきた。


「簡単なものなら。でもお菓子作りは全然で、和菓子はましてできません」


「じゃあ、今日は私が先生ですね!いつもと逆で楽しいです」


 千尋が嬉しそうに胸を張る。いつも教わる側だった千尋が、今日は教える側になって、とても嬉しそうだ。


「先生、よろしくお願いします」


 僕はペコリと頭を下げる。


「紅葉の形を作るのは難しいんですけど、まず餡を丸めるところからですね」


 千尋が手を洗って、エプロンを締め直してから手本を見せてくれる。


「まず、こんなふうに手のひらで餡を転がして……」


 千尋の手つきは職人のように滑らかだった。手の中で餡がきれいな丸になっていく。


「すごい……本当にプロですね」


「野崎さんに色々教わったんです。手の使い方から、餡の硬さの見極め方まで。小さい頃からやってましたが、独学とプロは全然違いました」


 千尋が照れたように笑った。




 午後になって、テントや道具の確認を始めた。


「これ、全部運ぶんですか?」


 倉庫には、大きなテント、折り畳みの机、パイプ椅子、ガスコンロ、蒸し器、大量の食器などが所狭しと積み重ねられていた。


「300個も作るのに必要な道具ですね」


「はい。明日の朝早くに会場に運んで、設営するんです」


「結構な量ですね」


 僕が荷物を持ち上げると、千尋が心配そうに見ていた。


「重くないですか?無理しないでください」


「大丈夫ですよ。これくらい」


 実際、思ったより重かったが、千尋の前では平気な顔をした。


「健太さん、本当に助かります」


 千尋が感謝の眼差しを向けてきた。


 夕方、一日の準備作業を終えて、みんなでお茶を飲んだ。


「健太君のおかげで、今年は随分と準備が早く終わったわ」


 祖母が嬉しそうに言った。


「明日は朝6時集合なんです。大丈夫ですか?」


 千尋が心配そうに聞いてきた。


「全然平気です。楽しみですよ」


「秋祭りは、水野屋にとって大切なイベントなんです」


 千尋が説明してくれた。


「一年で一番たくさんの人に、うちの和菓子を知ってもらえる機会なんです。去年は一日で500人くらいの方が来てくださって」


「500人!すごい人数ですね。どんな人が来るんですか?」


「家族連れが多いですね。午前中はお年寄りの方、午後は子供連れのご家族。子供たちも和菓子作りの実演を楽しみにしてくれて、『わあ、すごい!』って目を輝かせてくれるんです」


 千尋が嬉しそうに去年の思い出を話してくれた。


 千尋の目が輝いている。


「健太さんにも、ぜひ販売を手伝ってもらいたいです。午前10時から午後4時まで、ずっと立ちっぱなしで大変ですけど」


「僕でよければ。接客とかしたことないですが、大丈夫でしょうか」


「大丈夫です。『いらっしゃいませ』と『ありがとうございました』が言えれば十分ですから。健太さんの人柄なら、きっとお客様にも好かれると思います」


 千尋の言葉が嬉しかった。


 帰り道、千尋と二人で歩いていると、夕焼けが街を染めていた。


「健太さん、今日は本当にありがとうございました」


「いえ、楽しかったです」


「和菓子作り、どうでした?」


「難しいけど、面白いですね。千尋さんの手さばきがホントプロ級でした。流石でした」


 千尋が照れたように笑った。


「明日、たくさんのお客様に喜んでもらえるといいな。紅葉の和菓子、どんな反応があるか楽しみです」


「きっと大丈夫ですよ。千尋さんの和菓子は美味しいですし、作っている姿を見せるのもきっと喜ばれますよ」


「健太さんがいてくれるから、心強いです」


 千尋が立ち止まって、僕を見つめた。


「本当は、健太さんと一緒に何かをするのが、すごく楽しくて」


 千尋の言葉に、僕の鼓動が早くなった。


「僕も同じです」


 二人の間に、甘い沈黙が流れた。


 駅に着いて、改札前で立ち止まった。


「明日、朝早いですけど大丈夫ですか?」


 千尋が心配そうに聞いた。


「まかせてください。うちの目覚まし時計三台が火を吹きますよ!」


「火を吹いちゃ危ないですよ」


 千尋がくすっと笑う。僕もつられて笑ってしまう。こんな他愛のない会話が、とても楽しい。


「私も……健太さんと一緒だから、楽しみです」


 千尋が恥ずかしそうに俯いた。


「じゃあ、明日6時に」


「はい、遅れないようにします」


 別れ際、千尋が僕の袖を軽く引いた。


「健太さん」


「はい?」


「明日、一緒に頑張りましょうね」


 千尋の笑顔が、夕暮れの中で輝いていた。


「はい、頑張りましょう」


 家に帰ってから、明日の準備をした。動きやすい服、タオル、飲み物……


 秋祭りで千尋と一緒に働けることが、とても楽しみだった。たくさんの人に水野屋の和菓子を知ってもらえる。そして何より、千尋との距離がまた少し縮まる気がした。


 明日はきっと、忘れられない一日になるだろう。

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