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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第27話 千尋のブログデビュー

【2025-09-27】時系列に関する矛盾の解消のための微修正

 秋が深まってきた。先週約束したブログについて、僕はいろいろと調べていた。


 ある日の午後、水野屋を訪れると、千尋が期待に満ちた顔で迎えてくれた。


「千尋さん、ブログのこと調べてきましたよ」


「うわぁ!楽しみにしてたんです!」


「そういえば見ましたよ、Instagramのフォロワーも増えたみたいですね」


「はい!12人になりました!先週の8人から4人も増えたんです」


 千尋が嬉しそうに報告してくれた。


「4人も増えたんですね。着実に成長してます」


 まだやっと二桁になった状態だけど、ちょっとしたことでも嬉しく思ってくれる。ちょっとしたことで一喜一憂する千尋を見て僕は微笑ましく思う。本当に頑張りがいがある。


「でもInstagramは写真中心だし、Twitterは文字数制限があって……色々書いてるウチに、もっと和菓子の物語をみんなに伝えたくなってきてしまいました。

 長い文章書くならブログかなって」


「ブログは、いいアイディアですよ。長文も書けるし、写真も自由に配置できます。読者の方とじっくり向き合えますよ」


「でも、難しそう……」


「いくつか選択肢がありますから、一緒に選びましょう」


 僕はノートパソコンを開いて説明を始めた。


「一つはオンプレミスと言って自分でパソコンを買って構築する方法ですね。そしてもう一つはクラウドサービスといって、遠くにあるパソコンを借りる方法です」


「クラウドは聞いたことがありますがオンプレ?は、初めて聞きました」


「自分でパソコンを買って構築する場合は、自由度は高いですが、技術的な知識が必要で、管理も大変です。初期コストも掛かりますし」


 千尋が不安そうな顔をした。


「それは私には難しそう……」


「だから、最初はクラウドサービスがおすすめです。管理はサービス側がやってくれるので、千尋さんは記事を書くことに集中できます」


「なるほど」


「クラウドサービスにも色々あるんですが、おすすめはWordPressですね」


「WordPress?」


「ブログサービスの一つです。世界中のウェブサイトの約40%がこのシステムを使っているんです。無料プランから始められて、必要に応じて機能を追加できます」


「他にはどんな選択肢が?」


「はてなブログやnote、Amebaブログなどもありますが──将来的にネットショップと連携したり、デザインをカスタマイズしたりすることを考えると、WordPressが一番拡張性があります」


 千尋が真剣に考えている。


「それに、WordPressなら、将来的に本格的なウェブサイトに育てることもできます」


「すごい……でも使いこなせるでしょうか」


「大丈夫です。一緒に勉強していきましょう」




 僕たちは水野屋の奥の座敷で、ノートパソコンを挟んで並んで座った。最近こうして千尋の近くに座ることが多いが、何度やっても彼女の仄かな香りにドキリとさせられてしまう。


 顔に出さないよう平静を整えつつ、僕は続けた。


「まずはアカウントを作りましょう」


 ウェブサイトの案内を見つつ、千尋とおばあちゃんと相談しながら必要事項を登録していく。


 一通り終えると、管理画面に入った。


「これがWordPressの管理画面です。最初は複雑に見えるかもしれませんが、使うのは一部の機能だけです」


 僕がマウスを動かそうとすると、千尋も同時に手を伸ばして、手が軽く触れ合った。


「あ、すみません」


 千尋が慌てて手を引っ込めた。


「いえ、こちらこそ」


 僕は顔が熱くなるのを感じた。千尋は照れたように微笑みながら、真剣な表情で画面を見つめた。


「Googleサイトよりも機能が多いですね」


「そうですね。でもブログに特化している分、記事を書くのは楽ですよ。無料プランで始めましょう」


 僕が基本的な操作を説明すると、千尋は熱心にメモを取った。


「記事のタイトルを入れて、本文を書いて……写真もドラッグ&ドロップで」


 僕が説明しながら、千尋の後ろから画面を指差した。自然と千尋に近づく形になって、彼女の温もりを感じる。


「ここをクリックして……」


「わかりました。やってみます」


 千尋がマウスを操作する手が少し震えていた。僕も緊張していた。こんなに近くで千尋を感じるのは初めてだった。


 千尋が最初の記事を書き始めた。タイトルは『季節の和菓子物語〜栗きんとんに込められた秋の想い〜』。


「素敵なタイトルですね」


「ありがとうございます。祖母から聞いた話を書いてみようと思って」


 千尋の文章は、和菓子の歴史と季節の移ろいを美しく綴っていた。まるで小説を読んでいるような、情景が浮かぶ文章だった。


「千尋さん、本当に文才がありますね」


「そんな……でも、楽しいです。自分の想いを形にできるって」


 記事を公開した。


「次は、Googleサイトからリンクを張りましょう」


「Googleサイトから?」


「はい。先月作ったGoogleサイトは水野屋の公式ウェブサイトとして機能してますから、そこに『店主ブログはこちら』というリンクを追加するんです」


 僕がGoogleサイトを開いて、メニューに「ブログ」の項目を追加した。


「こうすることで、Googleサイトを見に来た人がブログも読んでくれるようになります」


「なるほど!Googleサイトが入口になって、ブログに誘導できるんですね」


「そうです。SNSからも同じようにリンクを張りましょう」


 InstagramとTwitterのプロフィールにもブログのURLを追加した。


「さあ、お茶にしましょうか」


 おばあちゃんがお茶を持ってきてくれた。


 それから30分ほど経って、千尋がスマホでブログを確認した。


「あ!もう3人読んでくれてます!」


 千尋が興奮して振り返った。その勢いで、僕たちの顔がとても近くなった。一瞬、時が止まったような気がした。


「あ……」


 千尋の瞳に僕の顔が映っている。お互いに息を呑んで、でもすぐに視線をそらした。


「す、すごいですね」


 僕は動揺を隠しながら言った。


 さらに時間が経って、千尋がスマホでブログを確認した。


「あ!コメントが付いてます!」


 見ると、『素敵な文章ですね。和菓子への愛情が伝わってきます。今度お店に伺いたいです』というコメントが付いていた。


「嬉しい……知らない方がこんなに温かいコメントを」


 千尋が感動している。


 その後、祖母や父親も見に来て、みんなでブログを見守った。


「ブログって、書いたらすぐに世界中の人が読めるのね」


「そうなんです。それがインターネットの魅力です」


「一つ一つ丁寧に返信しましょう」


「はい!」


 千尋が心を込めて返信を書いている姿を見ていると、とても幸せそうだった。




 夕方になって、作業が一段落したところで、千尋が提案した。


「健太さん、少し外の空気を吸いませんか?」


「いいですね」


 僕たちは店を出て、近くの公園まで歩いた。秋の涼しい風が心地よい。公園のベンチに座ると、千尋が深呼吸をした。


「今日はたくさんのことを学べました」


 千尋が感慨深そうに言った。


「ブログって、SNSとはまた違った魅力がありますね」


「そうですね。もっと深いコミュニケーションが取れます」


「健太さんがいてくれるから、頑張れるんです」


 その言葉に、僕の顔が熱くなった。


「僕も、千尋さんと一緒だから楽しいです」


 思わず本音が出てしまった。千尋の目が大きく開いて、それから優しく微笑んだ。


「私も……楽しいです」


 小さな声だったけれど、その言葉が僕の胸に響いた。


 駅への帰り道、千尋が言った。


「最近、お店の雰囲気が明るくなったんです」


「そうですか?」


「はい。注文が増えて、祖母も父も生き生きしてます。それに……」


 千尋が立ち止まった。


「私も、毎日が楽しくて。ブログを書いたり、SNSで反応をもらったり。そして何より……」


 千尋が僕を見つめた。


「健太さんと一緒に何かを作り上げていく時間が、本当に楽しいんです」


 僕の胸が高鳴った。夕暮れの光が千尋を包んでいて、とても綺麗だった。


「僕も同じです。千尋さんと一緒だから、頑張れます」


 言葉にしてから、告白みたいだと気づいて慌てた。でも千尋は嬉しそうに微笑んでいた。


「健太さん……」


 千尋が何か言いかけて、でも恥ずかしそうに俯いた。僕たちの間に、甘い沈黙が流れた。


 二人で顔を見合わせて、照れくさそうに笑った。でも、その笑顔の奥に、お互いへの特別な想いが見え隠れしていた。


 改札前で別れる時、千尋が言った。


「来週も、ブログのこといろいろ教えてください」


「はい。一緒に勉強しましょう」


「楽しみにしてます」


 千尋の笑顔を見送りながら、僕は思った。一ヶ月前はGoogleサイトから始まった小さな一歩が、今では大きな変化を生み出している。


 家に帰ってTwitterを見ると、千尋のブログ記事が何人かにシェアされていた。


「#和菓子 #日本の伝統」のタグと共に、「こういう丁寧な記事、好き」「水野屋さん、行ってみたくなった」というコメント付きのシェアもあった。


 フォロワー数はまだ少ないけれど、確実に水野屋の魅力が伝わり始めている。そして何より、千尋との関係も、少しずつ特別なものになっている。


 僕は満足感と共に、明日も千尋と一緒に頑張ろうと思いながら眠りについた。

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