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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第18話 星空への誘い

 野崎さんとの出会いから一週間が経った。


 千尋は約束通り、翌週の土曜日から野崎さんの工房に通い始めたようだ。最初のレッスンの後、千尋からLINEが来て、とても充実していたと報告してくれた。その後も工房に通うたびに学んだことや思ったことを教えてくれた。

 充実しているようでなによりだ。母に野崎さんのことを紹介してもらって本当に良かった。


 そんな中、八月の第一週、千尋が軽井沢の親戚の家に行くことになった。


『家族で軽井沢に行くことになりました。

 和菓子修行がお休みになってしまいますが、

 旅行中は一旦忘れて星空の勉強をしてきます!

 健太さんの本も忘れずに持っていきます』


『健太さんの本』だって。


 僕はベッドの上で足をバタバタさせた。


 千尋の軽井沢旅行三日目の夜、軽井沢からLINEが届いた。


 僕は夏期講習の宿題をしていたが、スマホが鳴ると飛び上がって確認した。


『健太さん、軽井沢に来ています

 空気がきれいで、星がとてもきれい

 健太さんが教えてくれた星座の本を持ってきました

 実際の空を見ながら読むと、もっと面白いです』


 僕はすぐに返事を書いた。


『話を聞いてたらなんだか僕も星を見に行きたくなりました

 軽井沢の夜空、羨ましいです

 そういえば、星座観測アプリとか使ってますか?

 スマホをかざすと星座が分かる便利なアプリがあるんです』


 星座観測アプリのリンクもあわせて送る。


『夏の大三角、見つけました!

 本に書いてあった通り、ベガとアルタイルとデネブ。

 アプリも使ってみました!スマホをかざすとすぐ分かるんですね

 こと座の話も読みました。

 織姫と彦星の物語、科学的事実と神話が組み合わさると素敵ですね』


 僕のメッセージのあと、返事がちょっと来なかったが、早速星座アプリを入れてみたようだ。早い。

 僕の紹介した本も真剣に読んでくれたようだ。しかも、感想が的確だ。理科系の本を敬遠する人が多い中で、千尋はちゃんと理解して、さらに感動まで覚えてくれている。


『すごいですね!ちゃんと見つけられたんですね

 織姫と彦星の話、僕も好きです。

 科学と物語が両方楽しめて』


『健太さんの気持ちが少し分かった気がします。

 知識があると、見える世界が変わるんですね

 今度──軽井沢から帰ったあとのどこかのタイミングで、天体観測行きませんか?』


 僕の心臓が飛び跳ねた。千尋から、一緒に星を見に行こうと誘われた。これは……デートの誘いなのだろうか?


『ぜひ!』


 僕は即座に返事した。その後、「返事が早すぎたかな」と心配になったが、千尋からはすぐに返事が来た。


『楽しみです♥

 家に帰ったら、健太さんにお土産話、いっぱいしますね』


 またハートマーク。僕はベッドの上で足をバタバタさせた。


 ♥


 友達でも、こんなふうにハートマークを使うものなのだろうか?千尋は何気なく使っているのか、それとも何か意味があるのか?


 僕は部屋のベッドに寝転んで、天井を見つめた。


「一緒に星を見に行く」


 それって、デートということになるのだろうか?二人きりで、夜に、星を見る。どう考えても、普通の友達の付き合いとは違う気がする。


 でも、千尋はどう思っているのだろう?千尋にとっては、本当に星座に興味を持って、科学的な好奇心から誘ってくれたのかもしれない。


 僕は千尋からのLINEを何度も読み返した。文面は明るくて、楽しそうで、親しみやすい。でも、その向こうにある千尋の気持ちが読めない。


(男子校にいると、こういうことが全然分からない……)


 僕はため息をついた。でも同時に、千尋と星を見に行く約束のことを思うと、胸がドキドキした。


 それがデートなのかどうかなんて、どうでもいいのかもしれない。千尋と一緒にいられることが、ただ嬉しかった。


 翌日、僕は母に報告した。


「千尋さんから、一緒に星を見に行こうって誘われたんだ」


「あら、それは素敵ね。どこに?」


「まだ決めてないけど……」


 母が意味深に笑った。


「二人きりで?」


「多分……」


「それって、デートじゃない」


 母の指摘に、僕の顔が真っ赤になった。


「違うよ!星座の勉強の延長で……」


「勉強で夜に二人きりで星を見に行くの?」


 母の言い方に、僕は言い返せなかった。確かに、どう考えてもデートだ。


「でも、千尋さんがどう思ってるかは分からないし……」


「女の子から夜のお誘いなんて、相当な意味があるのよ」


 母の言葉に、僕の胸がドキドキした。もしかして、千尋も自分のことを……?


「でも、僕なんかのことを……」


「何よ、また自信のないことを」


 母がため息をついた。


「健太、あなたは優しくて、賢くて、思いやりがあるいい子よ。それを千尋さんも分かってくれているから、誘ってくれたんじゃない?」


「そうかな……」


「そうよ。自信を持って」


 母の言葉に勇気付けられた。


 ◆


 千尋が軽井沢から帰ってきた日の夕方、LINEが来た。


『健太さん、無事に帰ってきました!

 お土産に軽井沢のジャムを買ってきたので、今度渡しますね

 それと、星を見に行く件ですが、来週の土曜日はどうでしょうか?』


 僕はすぐに返事をした。


『お帰りなさい!

 ジャム、たのしみです

 来週の土曜日、大丈夫です!

 どこに行きましょうか?』


『山の手前の公園があるんですけど、そこなら周りの光が少なくて星がよく見えるんです

 ちょっと遅くなっちゃいますけれど6時半に駅で待ち合わせでいかがでしょう?』


 夜の天体観測。確かにこれはデートかもしれない。僕の心臓が早く打つ。


『分かりました!その公園、僕も調べておきますね。

 望遠鏡とか持っていった方がいいかな?』


『望遠鏡!すごいですね。

 でも、肉眼でも十分綺麗だと思いますよ

 楽しみです』


 僕はベッドに寝転がって、天井を見つめた。


 来週の土曜日、千尋と二人で星を見に行く。


 それがデートなのか、ただの友達付き合いなのか、まだ分からないけれど、それでもいい。


 千尋と一緒に時間を過ごせることが、今はただ嬉しかった。

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