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7時22分の電車で始まる恋  作者: ほしみん


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第12話 科学の本

 翌日、僕は約束通り図書館で本を探した。


 放課後、いつもより早く帰宅して、近所の市立図書館に向かった。


「今日は何の本?また物騒なやつ?」


 馴染みの司書の田口先生が、苦笑いしながら声をかけてきた。僕が爆薬関係の本ばかり借りていたことを覚えている。


「いえ、今日は天文学系で……」


「おや、珍しい。恋人でもできた?」


 田口先生の冗談に、僕の顔が真っ赤になった。


「そ、そんなじゃないです!ただ、友達に勧められそうな本を……」


「はいはい、分かった分かった」


 田口先生は笑いながら、天文学のコーナーを指差した。


 今度は爆薬ではなく、もっと穏やかな科学の本を。『星座の話』『不思議な物理現象』『身近な化学』……千尋が引かないような、でも面白いと思ってもらえそうな本を慎重に選んだ。


 次の朝、電車に乗ると千尋はいつもの場所にいた。今日は髪を下ろしていて、いつもと少し印象が違って見えた。


「おはようございます」


「おはようございます。今日は何を読んでるんです?」


 僕は恐る恐る聞いてみた。昨日のことがあるので、まだ少し緊張している。


「今日は『雪国』です。爆発しない、安全なお話です」


 千尋がクスッと笑った。もう、あの気まずさは完全になくなっていた。むしろ、昨日のやり取りがあったおかげで、前より話しやすくなった気さえする。


「あの、昨日お話しした科学の本なんですけど……」


 僕は鞄から一冊の文庫本を取り出した。『星空の不思議』という本だった。表紙には美しい星空の写真が載っている。


「これ、面白そうですね」


 千尋が本当に興味深そうに表紙を見た。僕は内心ホッとした。選んだ甲斐があった。


「星座の由来とか、宇宙の話とか。火薬は登場しないので安心してください」


 僕が真面目に言うので、千尋は思わず笑い出した。


「そんなに心配だったんですね」


「はい」


 僕が正直に答えると、千尋の笑顔がより明るくなった。


「……火薬は登場しないので爆発はしませんけど、超新星爆発はします」


 僕がなぜか得意そうに付け加えた。言った瞬間、しまったと思った。でも、もう遅い。


「……………」


 千尋の笑顔が固まった。電車内に微妙な沈黙が流れた。周りの乗客たちは相変わらず静かに通勤しているが、僕には時が止まったように感じられた。


 僕は気づいた。今、とんでもないことを言った。せっかく安全な本を選んだのに、自分から爆発の話を持ち出してしまった。


「あ……あの……」


「それも爆発じゃないですか」


 千尋が困ったような顔で言った。でも、その表情には少し呆れながらも、どこか愛嬌のある表情が混じっている。


「いや、でも恒星の核融合反応は爆薬とは全然違う現象で……化学反応じゃなくて核反応だから、原理的には……」


「健太さん」


 千尋が小さく手を上げて、僕の説明を止めた。


「はい」


「それ、フォローになってません」


 千尋がため息をついた。でも、完全に呆れているわけではなく、どこか可笑しそうでもあった。むしろ、僕の必死さが微笑ましく見えているようだった。


「すみません……男子校にいると、こういうのが面白いと思っちゃうんです」


 僕は本当に申し訳なさそうに言った。


「男子校って、そういうところなんですか?みんな爆発の話で盛り上がるんですか?」


 千尋が興味深そうに聞いた。


「いえ、多分僕だけです。友達の山田なんか『コエーよ』って言いますから」


 僕が正直に答えると、千尋がクスクス笑い始めた。その笑い声が、電車内の静寂の中で、僕にはとても心地よく聞こえた。


「健太さんって、面白い人ですね」


「面白いって……変という意味ですよね」


 僕が少し不安そうに聞くと、千尋は首を振った。


「変だけど、悪い変じゃないです。なんというか……誠実で、一途で」


 千尋が微笑んだ。僕は少しホッとした。同時に、「一途」という言葉にドキッとした。


「ありがとうございます。今度読んでみますね」


 千尋が本を受け取りながら言った。


「無理しなくても……きっと僕の説明の方が面白いです」


「いえ、本当に読んでみたいんです。健太さんがなぜ科学に興味を持つのか、少し分かるかもしれません」


 千尋の言葉に、僕は嬉しくなった。自分の興味を理解しようとしてくれている。こんな風に言ってもらえるなんて。


「桜ヶ丘駅、桜ヶ丘駅です」


 アナウンスが流れた。


「それでは、また明日」


「はい。本、楽しみにしてますね」


 千尋が本を大切そうに抱えて降りていった。僕は、今日は失敗したかと思ったが、意外と悪くない結果だったかもしれないと思った。


 学校に着くと、山田が僕の表情を見て首をかしげた。


「健太、何かあったのか?なんか複雑な顔してるぞ」


「複雑?」


「嬉しそうでもあり、困ったような顔でもあり……」


 山田の観察力に、僕は苦笑いした。確かに、今朝の出来事は複雑だった。でも、千尋が本を読んでくれると言ってくれたのは、とても嬉しかった。

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