初めて挑む女王さまの手作りごはん!
サラについてしばらく歩くと、目の前に現れたのは、パッと見、まるでホテルの中のレストランみたいな洒落た入り口だった。
……おおお?思ったよりちゃんとしてんじゃん?
ちょっとだけ期待が膨らむ。
サラは特に説明もなく、すたすたと中へ入っていく。
「お、おい待てよ……!」
慌てて後を追うと、中は意外にも落ち着いた雰囲気だった。
ふかふかのクッション席が並んでいて、柔らかい光が天井から降り注いでいる。
……これ、マジで普通にいい場所じゃねぇか!?
案内係らしき無表情な店員に軽く頭を下げられ、俺とサラは端っこのクッション席に座った。
やった……ちゃんと座れる……床じゃない……!
俺は心の中で感動していた。
テーブルの上には、メニューらしきものが置かれている。
……が、そこに書かれている文字は――
「な、なんだこれ……!」
見たこともない記号みたいな文字がびっしり。
読めねぇぇぇえええ!!
俺は混乱しながら、サラを見た。
「なぁ、サラ……」
「何だ」
「何が食べられるんだよ、これ……」
「希望を言え」
「は?」
「何が食べたいかを伝えろ。こちらが選択する」
「いや、だから何があるのかって聞いてんだよ!!」
サラは一瞬だけ考え、それから無表情で言った。
「標準食、栄養食、特殊食」
「分かるかぁぁぁああああああ!!!」
思わずテーブルに突っ伏した。
「選択するか、私が決定するか、どちらかだ」
「選ぶ!!選びますぅぅぅ!!」
サラに任せたら絶対ヤバいもんが出てくる気がする……
意を決して、俺はメニューの中から一番写真がまともそうなやつを指さした。
「これ、これで頼む!」
サラは無表情のまま、端末を操作して注文を済ませた。
……ふぅ、これでなんとかなるだろ……
そう思った矢先――
数分後、運ばれてきた皿を見た俺は、固まった。
「な、なんだこれぇぇぇええええ!!!」
皿の上に乗っていたのは、
虹色に光るゼリーの塊。
その中に、どう見ても目玉みたいなものがぷかぷか浮かんでいた。
「うっわああああああああああ!!!」
俺は絶叫した。
サラはそんな俺を、やっぱり無表情で見つめている。
「栄養価は高い」
「そういう問題じゃねぇぇぇえええ!!!」
「安心しろ。毒性はない」
「いや見た目が毒なんだよおおおおおお!!!」
レストラン中に響きそうな声で叫ぶ俺を、サラは一切気にする素振りもなかった。
「摂取しないなら、無理やり与える」
「怖ぇぇぇぇええええ!!強制給餌かよ!!」
「異世界適応、初期段階としては妥当だ」
「妥当なわけあるかぁぁぁあ!!」
俺は震える手で、目の前の虹色ゼリーを見つめた。
「もういい……」
俺はぐっと目をつぶって、椅子から立ち上がった。
「サラ、俺は空腹を我慢する!ここを出る!」
サラは無表情で、すっと視線を上げた。
「摂取を放棄するのか?」
「無理だろこれぇぇぇ!!見た目の時点でアウトだろぉぉ!!」
俺は目の前の虹色ゼリーから目をそらし、ふらふらと後ずさった。
せっかく出てきた飯を食べないのは申し訳ない……でも俺には、そんな気力がもう残されていなかった。
「……サラが作ってくれよ」
思わず、甘えるみたいに呟いた。
サラはぴたりと動きを止めた。
「私が?作る?」
「う、うん……」
俺は情けない顔で、サラを見上げる。
「何をだ」
サラは、いつも通り冷静だった。
「……俺の、飯」
ぎゅうっと拳を握りしめて言った。
サラはじっと俺を見つめ――
「理解不能だ」
きっぱり言い切った。
「な、なんでだよ!」
「私は調理個体ではない。作成義務もない」
「そんな冷たく言うなよぉぉぉ!」
俺は今にも泣きそうだった。
「だいたいさ、サラだって、個体だろ!?人間みたいなもんだろ!?作れるだろ、簡単な飯くらい!」
「データ上、作成手順は知識として保有しているが、実行経験はない」
「知識あるなら、やってみようぜぇぇぇぇ!!」
俺は両手を合わせて拝んだ。
「頼む!俺、ほんとにもう、腹減って死ぬ……!」
サラは一瞬だけ黙り、それからポツリと呟いた。
「観察対象の要望……優先」
「そ、そうそう!要望優先で!」
「だが、結果は保証しない」
「わ、わかった!文句言わねぇから!」
た……たぶん。
サラは無表情のまま立ち上がり、テーブルの端末を操作した。
「別エリアに移動する。調理施設を使用する」
「マジで!?やったぁぁぁあ!!」
心底喜んでる俺を、サラはまったく感情のない顔で見つめていた。
いや、無表情だけど……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、目が優しい気がした。
こうして俺は、異世界初めての女王さま特製の手料理に挑むことになった。
サラに促されて、俺たちはレストランを出た。
ふらふらと足元が覚束ない俺とは対照的に、サラはすたすたと無駄なく歩いていく。
は、速ぇぇ……!
「サラ~、少しは俺に合わせて歩いてくれよぉぉ……」
情けなく呼びかけると、サラはぴたりと立ち止まった。
「どういう意味だ」
くるりと無表情で振り向く。
「どうもこうもねぇよ……。俺、腹減って力出ないんだよ」
サラは一瞬だけ俺を見て、それから淡々と言った。
「早く、食事を摂取すればいい」
「それができねぇから困ってんだよぉぉぉ!!」
俺はへろへろになりながら、サラの後を追った。
「……早く飯をくれぇぇぇぇ!」
サラはまったく焦る様子もなく、すたすたと先を進んでいく。
「ここに来るのは、私も初めてだ」
「えぇぇええええええ!!」
「問題ない。施設の設計は標準仕様だ」
「そういう問題じゃねぇぇぇええ!!」
ようやくたどり着いた調理室は、無機質な白い壁と金属の調理台が並ぶ、未来っぽい空間だった。
な、なんか冷たそうな部屋だな……
立ったままフラフラしているうちに、俺はとうとう限界を迎えた。
「チャーハン食いたい!ラーメン食いたい!うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」
調理室の隅っこで、子どものように泣き叫ぶ俺。
サラはそんな俺を一瞥すると、無言で調理台へ向かった。
無反応かよぉぉぉぉ……!!
ガチャッと戸棚を開け、サラは何やら道具を取り出し始める。
その動きの途中で、ふと手を止めたサラは――
自分の腰まである薄い金髪を、手早く後ろでひとつに束ねた。
……うわ、なんか……かわいいかも。
無表情のまま髪をまとめたサラは、さらに備え付けの白いエプロンのようなものを無言で取り出し、ぎこちなく身につけた。
あ、ちょっとぎこちない……でもそれがまた……
ドクン、と胸が跳ねた。
「調理を開始する」
「た、頼むぅぅぅぅぅ……!!」
俺は床にへたり込みながら、必死で祈るようにサラを見上げた。
サラは淡々と、手順通りに道具を並べる。
おぉ……本当にやる気だ……
ただ、手つきは…… ぎこちない。 めっちゃぎこちない。
おい……大丈夫かこれ……!?
「サラ、大丈夫か?」
「知識は保持している。問題ない」
「いや、手震えてるぅぅぅぅ!!」
「誤差範囲だ」
「誤差ってレベルじゃねぇぇぇええ!!」
それでもサラは一切動じず、機械のように準備を進める。
た、頼むから食えるもん作ってくれよ……




