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ついに始まった女王さまとの2人きり生活!

「そろそろ俺たちは行くよ。街を巡回してくる」


レイがクールにそう言った。最初から立っていた彼は、視線だけをこちらに向けた。


「リオ、ミリ、行くぞ」


「はーい!」


リオは相変わらず前髪を整えながら、軽い調子で返事をする。


ミリは無言でコクリと頷いた。


「ま、まじ!?もう行くのかよ!」


俺は慌てて三人を引き止めた。


「だって決まりだしね」


リオは笑いながら、手を軽く広げてみせた。


レイは俺の方に静かに視線を向け、少しだけ口元を緩める。


「女王がいる。問題ない」


いやいや、問題しかねぇよ……!


「でも……」


俺が未練たっぷりに言いかけたとき、レイが少しだけ声を落とした。


「何かあったら、すぐ戻る。安心しろ」


その一言に、ちょっとだけ胸があったかくなる。


「……っつってもなぁ……」


俺はブツブツ言いながら彼らを見送りかけたが、ふと思い出した。


「あ!待ってくれ!!」


三人の足がピタリと止まる。


「ここでの……通貨ってどうなってんだ?俺、こっちに来たばっかで金とか持ってないんだけど……」


「それは女王さまに聞くんだよ〜、アルくん」


リオがニヤニヤしながら、指をひらひら振った。


「マ、マジかよ……!」


「頑張ってね」


リオは冗談めかして笑いながら、スキップするみたいに軽やかに歩き出した。


レイは無言で俺に小さく頷き、ミリは最後に小さな声で――


「……アル、応援する」


と言い残して、二人に続いた。


ミリが励ましてくれることなんてありえるのか……地味に嬉しい……


そんな感動を覚えながら振り返ると――


そこには、サラが無表情で、静かに俺を見つめていた。


「…………」


どうすんだよ……!いきなりサラと二人きりって……!


心臓がバクバク跳ねるのを必死に誤魔化しながら、俺はサラに声をかけた。


「なぁ、サラ……ここでの生活のこと、聞いていいか?」


サラは無表情のまま、じっと俺を見ている。


「許可する」


あっさりとした声。


「お、おう……」


俺はゴクリと唾を飲み込み、さらに踏み込んだ。


「通貨とか、買い物とか、どうすればいいんだ?」


「それは私が渡す。観察代だ」


「観察代……?」


なんだよそのホラーみたいな響き……!


サラは気にも留めず、平然と言葉を続けた。


「買い物は、もちろん同行だ」


「は?」


俺は思わず間抜けな声を出した。


「同行って……」


「当然だろう。お前の行動、選択、態度、すべて観察対象だ」


「マジかよ……」


額に手を当てる俺を、サラはじっと冷たい目で見下ろしている。


「そ、そっか……いや、まあ、分かったけどさ……」


俺は無理やり納得しようとした。


「でもさ、俺一人で買い物できるようになったら、さすがに一人で……」


「不可」


即答だった。


「速ぇぇぇぇえええ!!!」


「常に監視が必要だ」


「うわぁ……俺のプライバシーどこいったぁぁぁあ!!」


俺が絶望してる横で、サラは平然と続ける。


「明日、買い物に行く」


「い、行くって……二人でか?」


「当然だ」


当然って……俺、この国の女王と二人っきりで買い物するのか……


心臓がさらにドクンドクン跳ねる。


「……観察対象に、外部との接触も含まれる。問題行動があれば、即座に修正する」


サラは感情のない声で、さらっと恐ろしいことを言った。


「修正って何すんだよぉぉお!!」


「場合によっては拘束」


「軽っ!!!言い方軽すぎるぅぅ!!」


俺が必死に叫んでも、サラの表情は一ミリも動かない。


マジで俺、この世界で生き延びられるのか……?


俺が絶叫していると、サラは一歩近づき、ポケットから何かを取り出した。


掌に乗っていたのは、銀色に輝く、見たことのないコインだった。


「これが、オルヴェリテの通貨だ」


「うおっ……」


そのコインは不思議な輝きを放っていて、見た目は結構かっこいい。


サラは無表情でそれを差し出してきた。


「観察代だ。受け取れ」


俺はしばらく迷った。手を伸ばしかけて、でも――


「……いや、いいや」


サラの指先がピタリと止まった。


「……拒否する理由」


「俺、できればさ、自分で稼ぎたいんだよ」


サラの茶色の瞳が、ほんのわずかに揺れた気がした。


「ただ渡されるだけのヤツになりたくない」


「…………」


サラは黙って俺を見つめている。


「だからさ、明日買い物行くついでに――」


俺はぐっと拳を握った。


「何か、街で稼げる方法探したい。付き合ってくれよ」


「付き合う理由」


サラは感情なく問い返してきた。


「だって、俺一人じゃ分かんねぇだろ!文字とか、場所とか!」


サラは一瞬だけ考える素振りを見せ、それからあっさりと答えた。


「許可する」


「マジかよ、あっさりすぎる……」


でも正直、めちゃくちゃホッとした。


「その代わり、観察は続行。行動の記録も」


「……だろうな」


俺は苦笑いしながら、サラの無表情を見上げた。


「ちゃんと働いて、ちゃんと暮らして――それでも観察対象って……なかなかにハードだな」


「個体には、適応力が求められる」


「それ、気軽に言うけどマジで重ぇからな……!」


サラは何も言わず、じっと俺を見つめ続ける。


……でも、こんな無表情だけど、俺がやろうとしてること、ちょっとだけ認めてくれたんじゃねぇか?


そんな気がして、俺は少しだけ背筋を伸ばした。


異世界生活、やるしかねぇだろ。


その時だった


――ぐうぅぅぅ……


静かな部屋に、俺の腹の音がやたらデカく響いた。


うわぁぁぁぁあああ!!


顔から火が出そうな俺に、サラがぴたりと視線を向ける。


「今のは、なんの音だ」


「……はぁ?」


一瞬、何言ってんだこいつ、って顔に俺はなった。


「腹だよ!腹減ってんだよおぉぉぉお!!」


俺は頭を抱えて叫んだ。


「……腹が、減る……」


サラは小さく首をかしげながら、冷静に分析している。


なんでそんな未知の現象みたいに見てんだよ!!


「人間ってのは、メシ食わねぇと動けなくなんだよ!この世界じゃ個体だっけ?個体も同じだろ!」


「私は、定期的に栄養供給される。空腹は、無駄な感覚だ」


「はぁぁ?ロボットかよぉぉお!!」


叫びながら、ふと思った。


……てか、今何時なんだ?


ここに来てから時間の感覚が全然ない。


窓の外も、ぼんやりとしか覚えてないし――。


「なぁ、サラ」


「何だ」


「この世界ってさ、時間ってあるのか?」


サラは一瞬だけ考え、無感情な声で答えた。


「ある。オルヴェリテ標準時間というものが存在する」


「さっき明日って言ってたもんな……」


「この世界は、32時間で1日が構成されている」


「嘘だろ?……長くね!?」


「通常個体に合わせた設定だ。お前も順応できるだろう」


「いや、普通に考えて無理くね……」


「今は、標準時間で19時22分だ」


サラは、ポケットから取り出したカードみたいな端末を見せながら、平然とそう言った。


「じゃあ、こっちの世界でも夜ってことか」


「区分上は、休息時間に入る」


「休息って、つまり……夜ご飯とか食べて寝る時間だろ?」


「必要に応じて摂取と睡眠を行う」


いちいち言い方硬ぇぇぇ!!


俺は腹を押さえながら、必死で訴えた。


「とりあえず、飯!飯食いてぇ!倒れる前に!」


サラはしばらく俺を無表情で見たあと、静かに言った。


「わかった。食事はこのフロアにある。案内する」


「マジで!?助かったぁぁぁああ!!」


ガッツポーズしかけた俺に、サラは冷たい視線を向けた。


「観察は続行する」


「わかってるよぉぉぉお!!」


つーか、飯食うのも監視対象なのかよ……!


ドキドキが止まらないまま、俺はサラに続いて歩き出した。


異世界初メシ――


それすらも、きっと試練なのかもしれない。

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