無感情の女王さまは攻略不可能!?3
「なぁ、サラ。確認したいことがあるんだけど」
サラは無表情のまま、じっと俺を見た。
「“私のそばを離れないこと”って、さっき言ってたよな?」
「言った」
「……それってさ、毎日ここに顔を出すってことでいいのか?」
俺がそう尋ねると、サラはほんのわずかに首をかしげた。
「全ての時間をだ。決まっているだろ」
「は?」
サラは、まるで当然だろうという顔で、淡々と続けた。
「常に、私のそばにいろ」
「……ちょ、まって常に!?」
思わず声が裏返る。
「寝る時も、メシの時も、着替えの時も!?」
「そうだ。常に、だ」
サラは変わらぬ無表情で、きっぱりと言い切った。
「お、おいおい、いくらなんでも距離感バグってねぇか!?」
後ろでリオが口元を押さえて笑いを堪え、レイは小さく頭を抱えた。
「アル……アルくん……完全に詰んでる……」
「規則には従え、アル」
レイの声が妙に真面目で、余計に焦る。
「ちょ、ちょっと待て、サラ。……例えばさ、俺が一人になりたい時とか、あるかもしれないじゃん?」
「なぜだ?」
サラが小さく瞬きをした。
「理由が理解できない。お前の行動を観察する。それが目的だ」
「そうだ。観察、開始」
「うわぁっ!!お、お前いつから!?」
空気のように、ミリがすぐそばに立っていた。
なんでこいつ、毎回気配ゼロで出てくんだよっ!!
「俺は実験体じゃねぇんだぞ……」
俺が震えた声で言うと、ミリはこくりと頷いた。
「認識している。だが、観察対象に変わりはない」
サラも何事もなかったかのように続けた。
「行動データの蓄積は必要だ」
こいつら絶対まともに俺を扱う気ねぇだろ!!
俺は頭を抱えたまま、必死で食い下がった。
「さ、さすがに俺にもプライバシーってもんが……!」
「その言葉の意味は理解している。しかし、無意味だ」
バッサリだった。
「うわぁ……終わっちゃったアルくん……」
リオが小声で呟き、レイが肩をすくめる。
でも――
サラはそんな俺たちを見ながら、ほんの少しだけ、口元を動かした気がした。
「……無理なら、今ここで拒否してもいい」
「え?」
「お前の意志に任せる。強制はしない」
サラの声は変わらず冷たいままだったけど――
その奥には、ほんのわずかな期待のようなものがあった。
もしかして……これ、試されてんのか?
心臓がドキドキとうるさく鳴る。
俺はゆっくりと息を吐いて、サラを真正面から見た。
「……拒否なんか、するわけねぇだろ」
「…………」
サラは無言で俺を見つめたあと、静かに一言だけつぶやいた。
「お前はやはり変な個体だな……」
それは、少しだけ、今までより――あたたかかった。
……ん?待てよ?
俺はふと気になることが頭をよぎった。
俺はサラの前からそそくさと離れると、こそこそとレイとリオのところに向かった。
顔を寄せて、小声で尋ねる。
「なぁなぁ、お前らも落とし役の時は女王に常に監視されてたってことか?」
レイは腕を組んだまま、面倒くさそうに答えた。
「そりゃ規則だからな」
「はぁぁぁ……マジかよ……」
目の前がちょっと暗くなる。
リオはふわっと自分の前髪を整えながら、にやりと笑った。
「懐かしいな〜、女王と過ごすあの時間」
「思ってねぇだろぉぉお!!」
即ツッコミを入れる俺。
リオはウインクまで決めて涼しい顔。
「バレた?まぁ、アルくんにはいい経験になるって!」
「経験ってレベルじゃねぇんだよ……!」
俺は頭を抱えながら、さらに気になっていたことをぶつけた。
「……着替えとか、風呂の時はどうすんだよ!?」
さすがに、そこは気になる。男として当然だろ!
リオがニヤニヤしながら答えようとしたその時――
「監視は続行する」
突然、すぐ背後から無機質な声が降ってきた。
「うわぁっ!!」
またしても、気配ゼロでミリがすぐそばに立っていた。
「なんでお前、毎回幽霊みたいに現れるんだよぉぉ!!」
俺がビビりまくるのをよそに、ミリは一切表情を変えずに言葉を続ける。
「プライバシーは一時的に制限される。だが、一定の領域には侵入しない」
「せ、制限……?」
「着替えと風呂は、距離を置いて監視する」
「お、おお……そ、そっか……!」
よかった……!マジで助かった……!
「でも、物理的に離れてるだけで、女王の美しい瞳は君を逃さないよ」
リオが得意げに追い打ちをかけてきた。
「やめろぉぉぉお!!!想像するだろぉぉぉお!!」
必死に頭を抱える俺を、ふとよぎったさらなる恐怖。
「……な、なあ、トイレの時は……?」
「監視は継続する」
ミリが即答した。
「や、やめろぉぉぉお!!!」
「最低限の距離は保つ」
レイが静かに補足した。
「そういう問題じゃねぇぇぇええ!!」
俺はもはや頭を抱えながらその場に崩れ落ちた。
ミリは無表情のまま、さらに淡々と告げる。
「異世界適応率、現時点でさらに低下傾向」
「いちいち分析すんなぁあああああ!!!」
リオはそんな俺を見下ろしながら、自分の髪をふわっと整えた。
「アルくん、焦りすぎ。もっと余裕持とう?僕みたいにね」
「誰が持てるかぁぁあああ!!」
サラはそんな俺たちのやり取りを、遠くからじっと見つめていた。
無表情のその茶色の瞳は――
ほんの、ほんの少しだけ、興味を持ったように揺れていた。
俺はぐしゃぐしゃに頭をかきむしりながら、叫んだ。
「……女王が俺のことを、常に監視してるっつーのは、わかったよ!」
サラは無表情でじっと俺を見ている。
レイは腕を組んで静かに見守り、ミリは……気配ゼロでいつの間にか近くに立っていた。
ミリのやつ、怖すぎる……
そんな中、リオはどこか余裕のある笑みを浮かべて、髪をふわっとかき上げていた。
「じゃあ――その逆は、どうなるんだよ……」
「逆って?」
答えるリオの前を通り過ぎ、俺はおそるおそる、サラの目の前まで歩いてきた。
「だから……!サラの着替えとか、風呂とか、ト……トイレとか……!」
口にした瞬間、自分で青ざめた。
「見れるわけねぇだろぉぉおおお!!」
自爆する俺を見て、リオがキラキラと自分を指さしながら口を開く。
「ちなみに僕だったら、全然オッケーだけどね?むしろご褒美!」
「黙れぇぇぇえええ!!」
思わず全力でツッコんだ。
「だってこの完璧な僕を見て、心が動かないなんて、あり得ないでしょ?女王様もさぞ目の保養だったはずだよ」
「実際、微塵も動かなかったじゃねぇかぁぁあ!!!」
俺が顔を抱えて絶叫する横で、レイは冷静に呟いた。
「不可侵領域だ。女王が許可しない限り、接近も禁止」
「そりゃそうだろ……!!よかったぁ……!」
俺は心底ホッとした。
だが――
「存在確認は必要だ」
ミリがさらりと追い打ちをかけてきた。
「な、なんだよ、存在確認って……」
「姿が見えない場合、異常と判断して、即時接近する」
「待て待て待て待て!!!」
「女王に異変が起きれば、即対応が必要。命令体系に基づく」
「だからってトイレとか風呂とかはダメだろぉぉぉおおお!!」
必死に叫ぶ俺を横目に、リオが涼しい顔で言った。
「まぁ、アルくんみたいな平凡な個体なら気にするかもだけど、僕レベルになるとね?逆に「むしろ見て」って感じ?」
「お前マジで黙ってろぉぉおお!!」
リオはナルシスト全開で、自分の横顔を指でなぞりながらうっとりしていた。
こいつ……本気で自分に酔ってやがる……!
「アル、受け入れるしかない」
レイが静かに言う。
「いやだぁぁあああ!!!」
俺は地面に突っ伏してジタバタ暴れた。
その時、サラがじっとこちらを見ていた。
表情は変わらない――でも、茶色の瞳の奥が、ほんの少しだけ、また揺れた気がした。
やっぱ……サラ、ちょっと楽しんでないか?
ドクン、と心臓が跳ねる。
あああ!!やっぱこの世界、心臓に悪ぃぃぃ!!




