レイルとユウラ、ライトの到着
その時――
「レイルとユウラの反応が出た。もう城門前だ」
ミリが端末を操作しながら、静かにそう告げた。
「無事、到着したんだな。よかった……」
俺が胸を撫で下ろすと、ミリはわずかに頷いて続けた。
「さすがライトだな。探索魔法にも反応されずにここまで来るとは……。やはり彼は、隠密行動に関してはギルドでも上位に入る」
「ほんと、頼れるね」
サクラが微笑みながら言う。
「僕たち、ライトが来たら……ギルドの刻印、だよね?」
リオンが突然、目をぱちくりさせながらルシアと俺たちを見回してきた。
「ああ。ちゃんと覚悟はできてるか?」
俺が聞くと、リオンは胸を張ってにやりと笑った。
「ふふ……もちろん。場所もちゃんと決めてあるよ。アルトくんとお揃い――お尻さ!」
「お、おし……!?」
サクラがむせかけるのを俺は反射的に背中をさすりながら、リオンのその発言に眉をひそめた。
「ちょ、リオン……それ、お前が勝手に決めただけだろ?」
「えー?でも僕、もうルシアに言っちゃったもんね!僕はお尻にするって!」
「言っただけでしょ!」
ルシアが顔を真っ赤にしながら、むすっとしつつ反論する。
「べ、別に……今からでも場所、変えてもいいんだからね?」
「えぇぇぇぇ!? ルシアまでそんなこと言うのぉぉぉ!? 僕、今日の刻印に人生のロマンを込めてたのに……!」
「刻印するのはリオンだけなんでしょ? 私は……カップル登録で、印は入れないってことでいいんだよね?」
ルシアはリオンの目を見ながら、少しだけ柔らかく笑う。
「あ、ああ……そっか、そうだった。うん、それも美しい!片方に刻まれた運命の印って……まさに絆の証だよね!」
リオンは勝手に感極まりながら、胸に手を当てて目を潤ませていた。
「ちなみにアルトくんは右?左?」
ふと、リオンが顔を上げて尋ねてきた。
「え?……えーと……右だったような……」
俺がちょっと視線を泳がせながら答えると、リオンは満足そうに頷いた。
「なるほどなるほど……じゃあ僕は左にするよ。これでお尻でハートが完成するかもね!」
「……いや、だから何の話してんだよ」
サクラが小さく肩をすくめて笑う。
「ハート型刻印の申請は、正式な仕様には存在しない」
ミリの無機質な補足に、みんながつい吹き出した。
「そろそろだな……」
ミリが目を静かに閉じ、ゆっくりと息を吐いた。その瞬間、部屋の扉をノックする音が響いた。
「俺だ、入るぞ!」
聞き慣れた低い声。息を少し切らしているのが分かる。すぐに扉が開き、レイルが先頭に立って現れた。そのすぐ後ろには、少し緊張した面持ちのユウラ、そして……彼女の腕の中に収まる、小さなふわふわした生き物。
「みなさん、先ほどは感情的になってしまってすみませんでした……」
ユウラが深々と頭を下げた。
「いや、俺が全部悪いんだ。ユウラは何も悪くない」
レイルがすかさず言葉を重ねる。
「え?なんのこと?」
リオンがきょとんとした顔で首を傾げる。
「お前は知らなくていい」
「えぇぇー!?なにそれ!ひどっ!」
その瞬間、リオンは横にいたルシアの腕に抱きつくようにして叫んだ。
「うわぁぁん!ルシアァァァ!!」
「ま、まってリオン……!ちょっと落ち着いて!」
その一幕を見て、ふわふわの小動物がふっと口を開いた。
「お待たせしました」
「うわぁぁぁぁ!話した!」
リオンが再び大声を上げて飛びのいた。
「お久しぶりですね。アルトさん、サクラさん」
「お、お前……ライトか?」
「ええ。かわいいと思いません?この姿、結構評判いいんですよ」
確かに、白くて丸い小さな体に大きな耳、つぶらな瞳……まるで子犬とリスを掛け合わせたような、不思議な魅力を持った存在だった。
「街の中心にあるモニュメントから先は、歪みも空気も全てが落ち着いていて、無事にこちらにたどり着けました」
「……リオンが言ってたことと同じだな」
俺は思わず、リオンとルシアの方に視線を向ける。
「今もモニュメントが境目になってるってことか……」
「やっぱりサクラちゃんの影響……?」
ルシアが、そっとサクラに目を向けた。
「……私?」
サクラは驚いたように目を丸くした。
「女王の感情が、この世界の秩序に影響を与える……そういうことです。あなたが心を開いたことによって、あの場所が安定領域になったと考えられます」
ライトの落ち着いた声に、サクラは少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
「……なんか、怖いね。でも、嬉しい……ような、複雑……」
「その複雑さが、人間らしさってやつだよ」
アルトがそっと言葉を添えると、サクラは少しだけ微笑んだ。
「あ、あの……はじめまして、ルアことルシアと言います。よろしくお願いします」
ルシアは少し緊張した様子で立ち上がると、部屋の中心にいるレイルとユウラの前に歩み寄り、ぺこりと丁寧に頭を下げた。
その動作はとても控えめで、けれど礼儀正しくて、ルシアらしい柔らかさに満ちていた。
「……あ、はじめまして。俺はレイル」
レイルが少し驚いたような顔をしながらも、きちんと姿勢を正して応じる。
「私はユウラです。こちらこそ、よろしくお願いします」
ユウラもそっと微笑んで頭を下げ返した。
「はじめましてルシアさん。お会いできて嬉しいです。私はライトです」
ぴょこんと前足を上げて軽く頭を下げるライト。その小さな仕草に、ルシアは思わずふわっと笑みをこぼす。
「わぁ……かわいい……」
そっとルシアが手を伸ばし、ライトのふわふわした頭を優しく撫でた。
「ふふっ、くすぐったいですね」
ライトが目を細めて心地よさそうに言った、その瞬間――
「ルシアァァ!!僕のことも撫でてぇぇぇ!!」
突如、割り込むようにリオンが飛び込んできた。
勢い余ってユウラとルシアの間にずずっと滑り込むと、両手を広げて猛アピール。
「な、なに突然……!」
少し驚きながらも、ルシアは苦笑いを浮かべた。
「もう!リオンったら……」
くすくすと笑いながら、ルシアはリオンの頭をぽんぽんと撫でる。
「これからギルドの刻印入れるんでしょ?がんばろうね?」
まるで小さな子に声をかけるような柔らかな声。
リオンはそれだけで、顔を真っ赤にしながらも、にやにやが止まらない様子だった。
「うん!今の僕ならなんでもできるよ!ルシアのために全てを捧げるよ!」
右手を胸に当てて誓いのポーズを取るリオン。その姿はどこか滑稽だったけど、その瞳は真っ直ぐだった。
見ていた全員が、自然とあたたかい笑みに包まれていた。




