無感情の女王さまは攻略不可能!?2
「……はぁああああ!!」
俺は頭を抱えながらその場に崩れ落ちた。
「これならツンデレの落とし方とか、事前に調べとくべきだったかぁああああ!!」
リオがクスクス笑っているのが視界の端に映る。
「……って、あっ」
ふと気づく。
「デレがねぇじゃねぇかぁあ!!無理じゃねぇかぁあああああああ!!」
俺は地面に突っ伏して、じたばたと暴れた。
どう考えても、ツンもないし、デレる気配ゼロじゃねーか……!
周りでリオとレイが無言で肩をすくめている。
ミリに至っては無表情のままじっと見つめていた。怖ぇ。
……ああもう、こうなったら情報戦だ!
俺はこそこそと立ち上がり、リオとレイを隅っこへ引っ張っていった。
「おい、なぁ。ちょっと、参考までに聞いていいか?」
「ん?」
「レイとリオって、女王に何したんだよ?」
「ふふ、興味ある?」
リオが目を輝かせた。
「めっちゃある!てか有力情報だろコレ!」
「……まあ、教えてもいいけど」
レイが静かに口を開いた。
「俺は……言葉で近づこうとした。毎日声をかけて、少しずつ距離を縮めようとした」
「結果は?」
「……一言も返事はなかった」
「こわっ!!」
思わず声が裏返る。
「まあまあ、レイのはちょっと固かったからね~」
リオがレイの肩を組んでニヤニヤする。
「じゃあリオは?」
「僕はね、徹底的に魅せる作戦だった!」
「魅せる?」
「鏡の前で一緒にポージング大会とか、花束プレゼントとか、あとは――」
「お、おい、まさか……」
「うん、歌も踊りも披露したよ。もちろん僕が一番輝くやつ!」
「絶対ドン引きされてんだろ!!」
「うん、されてた」
リオがあっさり認めて首を横に振った。
「女王様、終始無表情。むしろ若干距離取られた気がした」
「はぁぁ……お前ら、全然参考になんねぇえええ!!」
絶望的な気分になりながら、チラリと女王を見る。
相変わらず冷たい目で、こちらを一瞥するでもなく、ただ静かに立っていた。
……でも、俺がやらなきゃ、誰もできないんだろ……?
「……よし」
俺は両手をパンと叩いて、自分を奮い立たせた。
「行ってくるわ……!」
「おお〜!アルくん、健闘を祈る!」
リオがウインクしながら、親指を立てた。
「死ぬなよ、アル」
レイの言葉が妙にリアルで心臓に悪い。
俺は死なねぇ!!絶対落としてやる!!
心の中でそう叫びながら、俺は女王へ向かって、再び歩き出した。
女王の前に立つと、ぐっと拳を握りしめて、まっすぐに言った。
「なぁ、女王さまだっけ? とりあえず名前あるんだろ?名前教えてくれよ」
その瞬間――
後ろにいたレイとリオの空気がピタリと凍ったのがわかった。
「…………」
レイは眉をぴくりと動かし、リオは顔を引きつらせていた。
えっ、なんだよ……俺、なんか地雷踏んだ?
そんな俺の動揺をよそに、女王は一歩も動かず、冷たく問い返してきた。
「なぜだ。なんのために知る必要がある?」
その声はまったく感情を持たず、ただ冷たく空気を震わせる。
うっわ、想像以上に冷た……いや、ここで引いたら男じゃねぇ!!
俺はもう一度拳を握り直して、顔を上げた。
「いいから言えよ!」
言った、自分でもびっくりするくらいストレートに言った。
レイとリオが、明らかに焦ってるのが視界の端に映る。
「アル……アルくん……なんか違う気が……」
リオがおろおろと手を振って小声で訴えてくる。
「気にすんな!細かいことは後回しだ!」
俺はリオを無視して、もう一歩女王に近づいた。
「俺はな、女王だろうがなんだろうが関係ねぇんだよ」
「…………」
「見た目も、年齢も近そうだし。……名前くらい、教えろよ」
女王は一瞬だけ瞳を細めた――が、その表情にもやはり感情はなかった。
やべぇ……怒ったか?怒ったか!?
ドキドキしながら待っていると、女王は静かに口を開いた。
「……サラ」
「え?」
「この世界での呼称は、サラ」
……え、意外と普通に答えてくれた!?
「サラ、か……」
口に出して呼んでみる。
なんとなく、彼女の名前が空気に馴染んだ気がした。
「……アルト」
ふいに女王――いや、サラが俺を呼んだ。
「な、なんだよ?」
「無礼な態度、目障りだ」
冷たく、突き刺すような声だった。
「……っ」
空気が一瞬で凍りつく。
「敬語も使わず、名を問うたかと思えば呼び捨て。品位がない」
うわっ、めっちゃ冷た……!
リオが顔を引きつらせ、レイが静かに目を伏せる。
普通ならここで謝る場面――だけど。
……いや、待てよ?
俺は胸の奥でくすぶるものを無視できなかった。
「……なあ」
俺はゆっくりサラを見上げた。
「女王の何がそんなに偉いんだ?」
サラの目が、すっと細められる。
リオが「アルくん……!!」と小声で叫び、レイが「やめろ」とでも言いたげに眉をひそめた。
けど、俺は引かなかった。
「肩書きとか、見た目とか、そんなもんで偉いって決められたくねぇんだよ」
サラはわずかに首をかしげた。
「価値を理解しないなら、無理に近づく必要はない」
「違ぇよ。だから知りたいんだろ。サラ自身のことを」
俺の声が、大広間に静かに響いた。
サラは無表情のまま俺を見下ろしていたが、その瞳の奥に、かすかに、わずかに、小さな波紋が広がった気がした。
「……変な個体」
そう言ったサラの声が、今までより少しだけ、ほんの少しだけ――温度を持っていた。
やべぇ……心臓バクバクしてきた……
俺はガッツポーズを決めたい気持ちを必死で抑えながら、サラの前に踏みとどまった。
そんな時――
俺は一つの疑問が頭に浮かんだ。
「この世界での呼称は、サラ」
サラが言ったその言葉が、ずっと胸に引っかかっていた。
この世界での、って……
ミリみたいに、この世界で生まれた個体じゃないってことか?
だとしたら――サラにも、もしかしたら感情が……?
けど、今ここでそれを問い詰めるのは違う気がして、俺は胸の奥にその疑問をそっとしまった。
サラは、無表情でじっと俺を見ている。
その視線を真正面から受け止めながら、俺ははっきりと言った。
「俺は――この話し方を変える気はない」
サラの眉が、ほんのわずかに動いた。
レイとリオが、後ろで息を飲むのがわかる。
「サラの名前も、呼び捨てにする。これも、変えない」
「…………」
サラは一切表情を変えずに、静かに言葉を落とした。
「……お前は、一体何がしたいんだ?」
冷たい声だった。
「え?」
俺が聞き返すと、サラは間髪入れずに続けた。
「理解不能だ。意味のない接触に、時間を費やす理由がない」
ぐさり、と胸に刺さるような言葉。
「……理由なんて、ねぇよ」
けど、俺は引かなかった。
「強いて言うなら――サラにちゃんと向き合いたいだけだ」
サラの茶色の瞳が、微かに揺れた。
「無駄な行為だ」
「無駄かどうか、決めんのは俺だろ」
俺は一歩前に踏み出す。
「サラが何を言おうとも、やめない。俺は俺のやり方で行く」
「……頑固だな」
サラの声に、わずかに違う色が混じった気がした。
冷たいままだけど、どこか、完全な拒絶じゃない。
「うるせぇ。頑固なのはそっちもだろ」
リオが、後ろで感動したように小さく呟いた。
「……アルくん……すごい……」
「無茶苦茶なのに、押し通してるな……」
レイも静かに呟いた。
サラは一歩だけ、俺の方に近づいた。
その距離に、心臓がドクンと跳ねる。
「呼び方など、どうでもいい。問題は――」
「ん?」
「お前が、ここでどれだけ意味を持てるか。それだけだ」
無感情な声だったけど、ほんの少しだけ、さっきよりも受け入れているように聞こえた。
「受けてやるよ!上等だ」
俺はにやっと笑った。
「サラに俺のこと、ちゃんと見てもらえるように頑張るから」
サラは何も答えなかったけれど、その瞳の奥に、確かに微かな揺らぎが見えた気がした。
やっぱり――サラは、ただの人形じゃない。
そんな確信が、胸の奥でゆっくりと広がった。




