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無感情の女王さまは攻略不可能!?

「ついてこい。女王のもとに行く」


ルカは冷たい声でそう言うと、振り返らずに一人で歩き出した。


「アルくん、早くついてくるんだ!」


リオが焦ったように声を上げ、俺の肩を軽く押す。


「なんでお前ら、そんなにビクビクしてんだよ」


俺は眉をひそめて問いかけるが、レイもリオも無言のまま、ただ前を見据えていた。


わけもわからず歩を進めると、視界の先に異様な存在感を放つ扉が現れた。


身長の倍以上ある巨大な両開きの扉。


黒曜石のような艶のある表面には、複雑で不思議な文様が刻まれている。


ルカがその扉に手をかざすと、文様が淡く発光し、無音のままゆっくりと開き始める。


「女王様、イチノセ・アルトをお連れしました。ご拝顔のほど、よろしくお願い申し上げます」


ルカは膝をつき、深々と頭を下げた。


それに続くように、リオとレイも無言で頭を下げる。


……え、ちょっと待て。空気重すぎないかこれ?


まるで、神様にでも会うような雰囲気なんだけど。


「えっと、俺も頭、下げたほうが……」と小声で聞こうとした瞬間、扉の奥のカーテンがふわりと揺れ、誰かの気配が現れた。


――は?


静かに姿を現したのは、まるで人形のような美しさをもった少女だった。


足首まである漆黒のドレスを静かにまとい、長く伸びた薄い金髪を背に流している。


ドレスには何の装飾もないのに、どこか圧倒される威圧感があった。


その茶色の瞳は冷たく、まるでこちらの存在など取るに足らないと言わんばかりに見下ろしている。


透き通るほど白い肌には生気がなく、まばたきひとつしないその姿に、俺は言葉を失った。


「……来たか」


女王の声は、低く、よく通る。


どこか人形のように無機質で、抑揚がない。


だが、機械のような不自然さはない。


ただ、心が感じられないだけだった。


「……えっと、俺が……アルトです。」


「確認した。名乗る必要はない。無駄だからな」


その一言に、背筋がぞくりとした。


どこまでも冷静で、冷たい。


「アルト、お前に期待はしていない。だが、予言に従う」


「予言……?」


「女王の心を動かす異界の者 ――それがアルトだ。私の心は動かない。だが、それを望む者たちがお前をここに送った」


「……ちょっと待ってくれよ、そんなの俺には……」


「言い訳も否定も無意味。選択の余地はない。お前はここに来た。それがすべて」


女王は一歩も動かず、ただ言葉だけを淡々と投げる。


「お前がここに滞在することは許す。条件は一つ。私のそばを離れないこと」


「そばって……まさか、ずっと?」


「そう。感情が動くかどうか、観察する。お前がその鍵ならば、それが証明される」


俺は言葉を失った。


心を持たないその目に映る自分が、まるで透明人間のようにすら感じる。


「はぁああ?なんだよそれぇえ!」


俺は反射的に叫んだ。


目の前に立ってるのは感情ゼロの氷の女王。


「女王を落とせって言われて来てみたら、絶対無理なやつじゃんコレ!」


「なぁ!お前ら、俺にどんな無理ゲー押し付けてんだよ!ヒロイン攻略ってレベルじゃねぇぞ!」


俺はバッと振り返って、レイとリオをジト目で交互に睨みつけた。


「まぁまぁ、落ち着いてよ、アルくん」


リオはニコニコしながら、俺の肩をポンポン叩く。


「落ち着けるか!!無理だろコレ!!」


「でもさ、絶対無理そうな美人ほど、落としたとき達成感あるって思わない?アルくん」


「そんな趣味ねぇえええ!」


「落とすしかないだろ、アル」


レイは腕を組んでクールに言った。


「気軽に言うなぁあああ!!」


「騒ぐな。聞こえる」


ルカが静かに指摘してきた。


「だってよぉ……!俺、普通の大学生なんだぞ!?そもそも女王の心を動かすとか、なにをどうしろってんだよ!!」


「まずは近くにいることだよ、アル」


「っ!?」


その声に思わずビクッと振り向くと、そこには無表情で立っているミリの姿があった。


「お前……いつからいた!?」


「最初から」


「こっっわ!!全然気づかなかった!」


ミリは一切表情を変えず、静かに瞬きだけをした。


絶対スパイとか向いてるタイプだろコイツ……!


「近くにいるだけで、なにかが変わるかもしれない。感情という現象は、予測できないから」


「それ実験体の扱いだろ!!」


俺は叫びながら、その場でジタバタ暴れた。

すると――


「アルくん、女王に聞こえるから気をつけて」


リオがそう言いながら、俺の腕をガシッと掴み――


「ちょ、やめろおおおおお!!」


ズルズルと、女王のいる玉座の前へと引きずっていった。


「なぁぁあああああ!!リオぉぉぉ!!離せってぇえ!!」


「ダメだよアルくん。ここで逃げたら男が廃るって!」


「廃ってもいいから逃げさせろぉぉぉ!!」


ジタバタ暴れる俺に、リオは満面の笑みで親指を立てた。


「ファイト!アルくん!」


レイはため息をつきながらも、「頑張れ、アル」とポツリと呟き、ルカは無言で頷いていた。


……最悪だ。全員グルだ。


目の前には、感情ゼロの女王。


俺は必死に心を落ち着かせながら、カッサカサに乾いた喉で声を絞り出した。


「……よ、よろしくお願いします……」


女王は、何の感情も見せず、ただ静かに俺を見下ろしていた。


やっべぇ……マジで心臓持たねぇ……!


そんな俺の混乱を余所に、ルカが静かに前に出てきた。


「……私はこのあたりで失礼する」


「え、あ、うん……」


ぴたりと動きを止めたルカは、女王に一礼すると、そのまま静かに背を向けた。


ドアの前で一度だけ立ち止まり、冷たい視線を俺に投げかける。


「アル、余計なことはするな」


それだけを言い残して、ルカは足音も立てずに部屋を出て行った。


余計なことってなんだよ……!ヒント少なすぎだろ!


少しだけ場が落ち着いたのを見計らって、俺はレイとリオに向き直った。


「なぁ、お前らさ――」


「ん?」


「なんで、お前らは女王を落とせなかったんだ?」


リオは口笛を吹きながら肩をすくめた。


「それができてたら、アルくんを呼ぶ必要なんてなかったよ?」


「……無理だ」


レイは珍しく言葉を濁した。


「無理……って、どんなとこが?」


「何をしても、心が動かない。どんなに近づいても、感情の揺れがない」


「俺たち、結構頑張ったんだけどなー?」


リオが笑いながら言った。


「どんなに優しくしても、尽くしても、距離は縮まらなかった。……それが、あの人だ」


レイが静かに言ったその言葉には、どこか諦めにも似た響きがあった。


「だから、最後の希望が君ってわけだ、アルくん」


リオがにやにやしながら俺の背中を叩く。


「冗談じゃねぇ……」


思わず頭を抱えた。


目の前では、女王がじっと、何も言わずに俺たちを見下ろしている。


心の読めないその茶色の瞳に、また胸がドキリと跳ねた。


……無理だって言われた相手に、俺、これからどうやって……


不安しかないけど――逃げる道は、もうない。

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