5分後、ぴったりの登場
「そろそろ5分か……」
俺はソファに座って、ちらっとドアのほうを見やった。
サクラは俺の隣で、まだほんのり顔を赤くしながら、俺のシャツの裾をちょこんとつまんでる。
おぃぃぃ……なんでこんなに、かわいいんだよぉぉぉ!
思わずギュッと抱きしめたくなるのを必死にこらえて、俺は小さく息を吐いた。
「ミリ、ちゃんと時間守るのか……」
「ふふ、ミリだもん。きっちりだよ」
サクラはそう言って、俺に微笑みかける。
その笑顔にまた心臓が跳ねた。
たまらず、俺はソファから少し身を乗り出して、サクラの顔にぐっと近づいた。
「……なぁ、サクラ」
「ん……?」
「もうちょっとだけ、甘えてもいい?」
「……うん」
こくん、と小さく頷いたサクラ。
その反応がかわいすぎて、俺はそっとサクラの耳元に口を寄せた。
「……好きだよ、サクラ」
囁くように言うと、サクラはぴくっと肩を震わせ――
「……アルト……」
小さな声で俺の名前を呼び、ぎゅっと俺のシャツを掴んだ。
……尊すぎる……!
ふわっと甘い空気が広がる中――
「終わったか?」
少し遠くから、無感情な声が飛び込んできた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
俺は、ソファから転げ落ちそうになる勢いで叫んだ。
サクラも、びくぅっと飛び跳ねる。
「お、お前、いつからそこにいたんだよ!!!」
ドアを開けて立っていたのは、やっぱり無表情のミリだった。
「ちょうど5分きっかりだ」
「ぴったりすぎんだろぉぉぉ!!」
俺は頭を抱えた。
まさか、あの甘々タイム、微妙に聞かれてた……??
「……あ、あの、ミリ……?」
サクラも顔を真っ赤にしながら小さな声で問いかける。
「気にするな。私は何も思わない」
「こっちが気にするんだよぉぉぉ!!!」
俺は全力でツッコんだ。
サクラは、それでも小さく笑って、俺の袖を指先でつまんだまま。
……かわいすぎるんだよ、まったく……
「さて、話すか」
ミリは当然のように部屋に入り込み、ぽすん、と俺とサクラの間に座った。
「な、なぁ……!なんでそこ座るんだよ!!」
「真ん中が一番効率がいい」
「効率言うなぁぁぁぁぁ!!!」
俺が叫ぶのも無視して、サクラはぷっと吹き出して、俺の腕をそっとつついた。
「ふふ……アルト、ミリには敵わないね」
「サクラまでぇぇぇ!!!」
「でも……」
サクラはふわっと微笑みながら、そっと俺に寄り添った。
「……わたしは、アルトの味方だよ?」
その言葉に、また心臓が爆発するかと思った。
も、もう……サクラかわいすぎるだろ……!!!
「……ありがと、サクラ」
俺は小声で答えながら、そっとサクラの手を握った。
ドキドキ、ドキドキ。
サクラの手も、ちゃんと、ぎゅっと握り返してくれる。
ミリは、俺たちの繋いでいた手を、じっと見つめていた。
そして――
すっ……
無表情のまま、俺たちの手を離すと、俺の手を片方の手で、サクラの手をもう片方の手で、そっと握った。
「……え?」
「非効率だ」
「はぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
「私を通して、手を繋げばいい」
あまりにも自然にそんなトンデモ発言をされて、俺は思わず絶叫しかけた。
けどサクラは、ミリに手を握られたまま、にこっと微笑んで、俺に言った。
「……ミリなら許せるね、アルト」
「な、なっ……!!」
胸がドクン、と跳ねる。
やばい、サクラのその笑顔、破壊力えぐい。
「いや、たしかに……ミリなら、いいけど……っ」
思わず真っ赤になりながら、俺は小声で言った。
だがミリは、そんな俺たちの気持ちなんて一切気にせず――
「効率は、重視すべきだ」
「……うぅっ」
完全にやられた……!!
ミリを通して繋がってる俺とサクラの手。
……変な構図だけど、不思議とサクラのぬくもりは、ちゃんと届いていた。
サクラも小さく笑いながら、ミリを挟んで俺の方を見てくる。
俺も負けじと、サクラをまっすぐ見返した。
ミリは、俺たちの手をそれぞれ握ったまま、無表情に言った。
「では、本題に入る」
「……っ」
空気が一気に張り詰める。
ミリは、壁に背を預けたまま、無表情で淡々と話を続ける。
「先ほど、本体から連絡があった」
「……本体って、リュカからか?」
俺が確認すると、ミリは静かに頷いた。
「礼を伝える、とのことだった」
「……礼?」
サクラがきょとんと小首を傾げる。
その仕草すら、今は心臓に悪い。
かわいすぎる……今この空間、甘すぎて死ぬ……!!
「……サクラが変わったこと。すべてがアルトの影響らしい」
「っ……!!」
その瞬間、サクラがびくんと肩を揺らして、恥ずかしそうに――
ぎゅっ……
俺の袖を、きゅぅっと、片手を伸ばして掴んだ。
や、やめろぉぉぉぉぉ!!!かわいいぃぃぃぃ!!!
理性が吹っ飛びかける。
顔が一気に熱を持って、耳までじんじんしてくる。
つまり、それって……俺とサクラが両想いになったからで……
あんなことやこんなこと……ぎゅってしたり、キスしたりして……サクラがドキドキしたことによってそれが全部、いい方向に影響してて――
つまりイチャイチャするほど、世界が平和になるってことじゃねえかぁぁぁ!!!
バンバンバンッッ!!!
ぶわぁぁっと頭に血が上って、俺は思わず、ソファの後ろの壁を、意味もなく叩いた。
「ア、アルト!?ど、どうしたの!?」
サクラがびっくりして、心配そうに覗き込んでくる。
あぁぁぁぁぁ!!!そんな無防備な顔で覗き込むなぁぁぁぁ!!!
サクラの顔が近すぎる。 甘いシャンプーの匂いがふわっとして。 俺の心臓は、もう爆発寸前だった。
「か、顔、すっごい赤いよ!?大丈夫!?」
「だ、だいじょばない!!!」
咄嗟に叫んだ俺。
何言ってんだ俺ぇぇぇ!!!
一方、ミリはと言えば――
無表情のまま、壁にもたれかかりながら、じとーっと俺たちを交互に見ていた。
その冷静さが逆にダメージでかい。
やべぇ……完全に俺、甘々脳内でバグってる……
「アルト……?」
サクラがさらに心配そうに、俺の袖を握りしめたまま、そっと顔を近づけてくる。
あああああああ!!!近い!!近すぎる!!!
「な、なんでもない!!!マジで!!な、ななな、なんでもないからっ!!!」
俺は片手をバタバタ振って、 必死に誤魔化すしかなかった。
そんな俺を、無表情で見つめるミリと、顔を真っ赤にしながら不安そうに見上げるサクラ。
この甘酸っぱすぎる状況……耐えられるわけねぇだろぉぉぉ!!!
心臓ドクンドクン爆走モード。
顔面真っ赤フルスロットル。
……俺、今、生きてるだけで奇跡かもしれない。
俺のそんな気持ちを、知ってか知らずか――
まるで何事もなかったかのように、ミリが再び静かに口を開いた。
「……私と、レイとリオは、今後もサクラの指示で動く」
「……え?」
思わず、俺もサクラもミリを見つめた。
「サクラ、それは理解しているか?」
ミリの無表情な声が、部屋に静かに響く。
サクラは、少しだけ戸惑った顔をしたけど、真剣に頷いた。
「……うん、わかってる」
その表情は、ちょっとだけいつもの女王さまの雰囲気を纏っているようにも見えた。
ミリはサクラの答えを聞くと、コクンと小さく頷き、続けた。
「今、オルヴェリテの街は、穏やかで、笑顔に溢れている」
「……うん」
「だから、私たちの仕事も大幅に減っている」
「そっか……」
サクラの声は、少しだけほっとしたように、温かかった。
ミリはそのまま、俺たちに視線を向ける。
「――そこで提案だ」
ミリが、いつもの無表情のまま、淡々と切り出した。
「提案?」
俺は反射的に身を乗り出す。
ミリはためらいもなく続けた。
「レイとリオを、ギルドに正式に迎え入れる」
「……!」
思わず息を呑んだ。
レイとリオ……ふざけ倒してるようで、実は芯の通った、俺たちにとっても特別な存在。
でも、同時に一抹の不安が頭をかすめる。
「……でも、あいつら、ルカと関わりあったよな?」
俺は警戒心を隠さずに言った。
サクラも、不安そうにミリにピタっとくっつく。
ミリは微動だにせず、静かに答えた。
「問題ない。レイとリオは女王を落とすために送り込まれた。ルカに忠誠を誓ってはいない」
「……本当か?」
俺は思わず身を乗り出す。
するとミリは、まばたきひとつせずに続けた。
「彼らも、オルヴェリテの今を守りたいと願っている」
サクラが、小さな声で問いかける。
「……操られるのを、嫌がってるってこと?」
ミリは、サクラに真っ直ぐ視線を向けた。
「そうだ。あの2人も、自分の意思で生きようとしている」
俺は、少しだけ肩の力を抜いた。
……そっか。あいつらも、あいつらなりに、変わろうとしてるんだな。
ミリは続ける。
「サクラ。迎えるかどうかは、お前が決めろ」
「私が……」
サクラはぽつりと呟き、そっと俺を見る。
揺れる瞳。けど、そこには確かな光があった。
俺は、まっすぐにサクラに向き合った。
「……サクラ。お前が決めたことなら、俺は全部、ついていく」
「……アルト」
サクラは、胸の前でそっと拳を握った。
俺も、それを包み込むように手を伸ばす。
ぴと――
手と手が、触れ合った。
ミリが、それを見ながらぽつりと呟いた。
「今、互いに力を込めたな」
「な、なっ……!」
サクラが耳まで真っ赤になり、俺も慌てて視線を逸らす。
ドクンドクンドクン――
空気が甘すぎて、また呼吸が乱れそうになる。
「そんなに……離れたくないのか?」
ミリが、無表情のままズバリ突く。
「ち、ちげぇし!!」
「そ、そんなことないもん……!」
俺とサクラ、同時に弾けるみたいに否定。
ミリは一切ツッコまず、淡々と続ける。
「……で、どうする?」
サクラは一度、ふうっと小さく息を吐いた。
「……私は、信じたい」
「……!」
まっすぐな声だった。
「レイも、リオも……みんな、信じたい」
その小さな決意に、俺は、胸がぎゅっと締め付けられた。




