甘々からの突然の訪問者
サクラの小さな「大好き」の囁きに、俺の心臓はもう限界を超えていた。
……もう、どうなってもいい。
そう覚悟を決めた俺は、サクラをそっと抱き寄せたまま、優しく、サクラの頭に手を伸ばした。
「……サクラ」
「ん……?」
俺は、そっとサクラにルームウェアのフードをそっと、かぶせた。
くすくす笑いながらサクラがちょっと身を縮める。
かぶったフードの上に、ぴょこんと、うさ耳が立ち上がる。
「…………!!」
し、死ぬ……!!
あまりの破壊力に、呼吸すら忘れた。
ふわっふわのうさ耳、ピンクのモコモコルームウェア、湯上がりでほのかに赤いほっぺ、
恥ずかしそうに俺を見上げるサクラ。
「……サクラ……ほんとの、うさぎみたいだ……」
呆然と、心の底から漏れる。
サクラはびくっと震えたあと、顔を真っ赤にして、またうつむいた。
その仕草が、まるで子うさぎみたいにかわいくて、俺はそっとうさ耳を撫でた。
ふわっふわの感触が手を伝う。
「……っ」
サクラが小さく声を漏らし、身を寄せてきた。
やばい……これ、ほんとやばい……
「……サクラ、かわいすぎるって……」
俺は無意識に、サクラの頭をしばらく撫でていた。
サクラは目を細めながら、もっと甘えるみたいに、俺に体を預けてくる。
その無防備さに、心臓がまた跳ね上がる。
……今なら言える。ここで言わなきゃ、絶対後悔する。
俺は、優しくサクラを抱きしめなおして、そっと囁いた。
「……サクラ」
「……アルト?」
サクラが、不思議そうに顔を上げる。
その瞳に、俺は真っ直ぐに想いをぶつけた。
「……俺、サクラが大好きだ」
「っ……!」
サクラの目が大きく見開かれる。
「……ずっと、傍にいたい。守りたい。……サクラの全部が、好きだ」
正面から、ぶつかるくらいに。
怖かったけど、後悔したくなかった。
サクラは、一瞬きょとんとしたあと、顔を真っ赤に染めて、微笑んだ。
「……私も、アルトが大好き」
ぽつりと、小さな声で。
それは、今までで一番心に響いたサクラの言葉だった。
……ああ、もう……俺、ほんとに……
たまらなくなって……そっと顔を近づける。
サクラも、目を閉じて、俺を受け入れるみたいに顔を上げて――
……キス、できる……そんな距離だった。
あと、数センチ……1センチ……
――その時だった。
バンッッッ!!!
ドアが弾け飛びそうな勢いで開き、そこに立っていたのは――
無表情の、ミリだった。
「失礼」
それだけ言って、すーっと部屋へ入ってくる。
「「っっっっっ!!!!」」
俺とサクラは、ソファの前でがっつり抱き合って、顔までめっちゃ近づけた状態で、完全にキス寸前。
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
一瞬で、体がビクッ!!って跳ねた。
サクラも、びくんと体を固くして――
顔を真っ赤にしながら、慌てて俺から離れた。
けど、なぜか俺もサクラも手はまだ、名残惜しそうに、繋がったまま。
離れたくねぇぇぇぇぇ!!!
サクラも、顔を真っ赤にしながら、ぷるぷる震える手で、俺の袖をぎゅっと掴んだままだった。
「……今、なにしてた?」
ミリの低い、感情のない声が降ってくる。
「なっ、なっ、ななななっ……なにもしてねぇぇぇ!!!」
俺、即答。
「そ、そう!!な、なにもしてないの!!!」
サクラも、耳まで真っ赤にして必死に合わせる。
でも、ミリはじと~~~~っと俺たちを交互に見る。
まるで、無言で《うそつき》《バレバレ》《弁解無意味》ってプレッシャーをかけてくる感じ。
やめてくれぇぇぇぇ!!!無言圧力!!
沈黙が、痛いほど重たい。
ドクンドクンドクン……心臓の音が、耳に響きすぎる。
あまりにきつい空気に耐えきれず、俺はあわてて言い訳を重ねた。
「な、なぁ!?サクラ!!ほ、ほら!!た、た、たまたま!!つまずいて!!そ、それでっ……!」
「う、うん!!私が、バランス崩しちゃって……!!」
ふたりして必死に言い訳を重ねる。
けどミリは、何事もなかったかのように無表情で、俺たちの目の前にあるソファに、ぬるっと座った。
「続けてもいいけど」
「「っっっっっ!!?!?!?」」
俺とサクラ、まさに同時に飛び上がる勢いでミリを見た。
む、無理だろぉぉぉぉ!!!
サクラなんて、顔を真っ赤にして、俺の後ろに隠れるみたいにして震えてる。
「つ、続けないっっっ!!!」
俺は即座に叫んだ。
無理無理無理無理無理!!!
ミリはソファに座ったまま、無表情のまま、俺たちをじとーっと見続けてる。
うぅぅぅ……これ以上は無理……耐えられない……!
「……ミリ、それでどうした?」
俺は、バクバクしてる心臓を抑えるように、震える声で尋ねる。
ミリは少しだけ首を傾げると、無感情な口調で答えた。
「A、続きをしたいなら、私は今すぐ出て行く。B、とりあえず、私の話を聞く。選んで」
「……はあぁぁぁぁっ!?!?」
俺は声が裏返った。
何だよ、その無茶苦茶な二択……!!
サクラも、俺の後ろでぎゅっと服を掴みながら、様子を見てる。
「……あ」
ミリが小さく声を漏らした。
「ただし、Aの場合――それは今日中に終わるのか?」
「なっ……」
その言葉に、俺たち2人は一気に顔を真っ赤にした。
「ち、ちがっ……そ、そんなつもりじゃ……!!」
俺は全力で否定しようとしたけど、
ミリは、じとーっと俺たちを交互に見て、さらに追い打ちをかける。
「Aを選ぶということは、覚悟がある、ということ」
「そ、そんなんじゃないからっ!」
俺は必死に否定した。
サクラも、真っ赤な顔で俺の袖をぎゅっと握りながら、必死にミリに向かって叫ぶ。
「ち、違うのっ……!ミリ……そんな、そんなんじゃないからぁ……!」
でも、ミリは無表情で、淡々とこう言った。
「アルト、サクラ。効率重視だ」
「なんの話だよぉぉぉぉぉ!!!」
何をどう効率化する気だよ!この無表情ハンター!!!
ミリはぴくりとも動じずに、じっと俺たちを見ている。
「じゃあ、ミリ……5分だけ、外で待っててもらってもいいか?」
俺は、心臓バクバクのまま、かすれる声で頼んだ。
ミリは小さく頷いた。
「効率がいい。わかった」
すたすた――と、信じられない軽やかさでドアの方へ歩いていき、
バタン!!
小さな音を立てて、扉が閉まった。
部屋に、俺とサクラ、ふたりきり。
「……アルト?」
サクラが、心配そうに俺を見上げる。
その潤んだ瞳に、俺の心臓はまた跳ねた。
「何か用があるのは確かだ……ミリは冗談で来たわけじゃねぇ。けど……」
俺は、サクラの両肩にそっと手を置いて、まっすぐ見つめる。
「サクラ……今日は、ここまでにしとこ?な?」
「え……?アルト……?」
サクラが不安そうに……でもどこか信じたそうに俺を見つめ返してくる。
そんな顔見たらもう、我慢なんてできるわけねぇだろ。
俺は、サクラの返事を待たずに、ぐいっとサクラの手を引き寄せた。
「キャッ……」
唇がそっと触れ合う。
やわらかくて、温かくて、ふわふわで――
その全てがサクラだった。
ちょっと強引だったかもしれない。
でも……それでも、この大好きだって気持ちだけは、絶対に伝えたかった。
届け……届け……!!
心の中で叫びながら、俺はサクラの前髪をそっとかき上げた。
そして、もう一度、今度はもっと優しく額に、キスを落とした。
「……っ……」
サクラの体が、ビクンと小さく震える。
でも、逃げなかった。
俺の胸に、小さな手をそっと添えながら――
サクラも、ぎゅっと目を閉じた。
「……アルト」
「……ん」
「わたしも……大好き……」
小さな、消え入りそうな声。
でも、その一言が、俺の心をぐしゃぐしゃにした。
たまらず、俺はもう一度、サクラをぎゅっと抱きしめた。
「……サクラ、俺……」
声が震える。
「……サクラに触れるたびに、どんどん好きになるんだ」
「……うん……」
「目が合うたび、声を聞くたび、笑ってくれるたび……」
俺の腕の中で、サクラが小さく頷く。
「……もっと好きになって、どうしたらいいかわかんねぇくらい、いっぱいになるんだ」
「……わたしも……一緒……」
サクラの小さな指が、そっと俺のシャツを握った。
「……アルトに触れられるたびに……ドキドキして……あったかくて……もっと、もっと……好きって思っちゃう……」
耳元で囁くサクラに、俺はもう限界だった。
「サクラ……」
「……ん……?」
「……もう一回、キス、していい?」
「……うん……」
サクラは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、まっすぐ俺を見て頷いた。
――ドクン、ドクン、ドクン。
ふたりの鼓動が重なって、ひとつになるみたいに。
今度は、そっと。
お互いを確かめ合うみたいに。
ゆっくりと――
俺たちは、甘く、甘く、唇を重ねた。
ふわふわのうさ耳が、そっと揺れた。
夜の静寂の中――
ふたりの世界だけが、優しく、優しく、溶けていった。




