女王さまは思いのほか積極的!?
俺たちはしばらく、そのまま抱き合っていた。
夜風が、サクラの髪をそっと揺らす。 その柔らかい匂いに、心臓がまた跳ねる。
や、やばい……サクラ、近い……
ほんのちょっと動けば、額が触れ合うくらいの距離。
「……サクラ、顔……真っ赤だぞ」
勇気を振り絞ってそう言うと、サクラはビクッと肩を震わせた。
「アルトだって……!」
恥ずかしそうに小さな声で返してきた。
思わず、お互いに目をそらす。
……だめだ。
顔を見たら絶対に耐えられない。
「は、はやく……収納庫、行こうぜ……」
俺は顔を隠すみたいにして言った。
「う、うん……」
サクラもこくんと頷く。
俺たちは、手を繋いだまま収納庫へ向かった。
心臓はまだバクバクしてるし、隣を歩くサクラも、ちらちらっと俺を見ては、すぐに顔を逸らしてる。
その仕草が、もういちいち、かわいすぎて……
……やべぇ、今のサクラ、破壊力がレベチすぎる……
ふと、思い出す。
雑貨屋で、うさ耳ルームウェアを見つけたときのサクラのことを。
あのときも、サクラは楽しそうに笑って、自然に話していた。
だけど、今ならわかる。
あのときのサクラは、素のままを全部出すのを、ちょっとだけ躊躇ってたんだ。
急に変わったら、俺が戸惑うかもしれないって……
俺のことを気遣って、少しだけ控えめにしてた。
本当はもっと、言葉だって、気持ちだって、自然に出せたのに。
「私はアルトにしか見せない」
そう言ってくれたあの瞬間も、 ほんの少しだけ……遠慮してた。
けど今は、違う。
今、隣にいるサクラは遠慮なんかしてない。
全部、まっすぐ俺に向けて、想いを伝えてくれてる。
震える手も、真っ赤な顔も、ぎゅっと握った指先も。
全部、隠してない。
胸が、どうしようもないくらい熱くなる。
俺は、繋いでるサクラの手を、強く握り直した。
サクラも、小さく、指を絡め返してくれる。
「お、到着した」
「私……開けてくるね」
収納庫に着くと、サクラがぎこちなく鍵を操作して、パカッと開ける。
中には、スーパーで買ったお好み焼きの材料と、ほぼ俺の趣味で購入した――
うさ耳付きのモコモコルームウェア、ふわふわのルームソックスに、ヘアターバン、それと……エプロンまで。
紙袋からそれぞれがチラチラ見えていた。
……あああ……見える……やばい……
思わず目を背けた俺に、サクラがくすっと小さく笑った。
「アルト……そこばっかり見るの、恥ずかしいから……」
「み、見てねぇしっっ!!!」
あたふたする俺を、サクラはいたずらっぽく見上げた。
「ふふ、ほんとは、すっごく気になってるって顔に書いてある」
「なっ……!」
ま、まずい。
さっきまで抱き合ってたせいか、サクラが、やけに……甘い。
顔がもう、熱すぎて、溶けそうだ。
「さ、さっさと荷物持って帰ろう!」
慌ててお好み焼きの食材を抱え込もうとした、そのとき――
「……アルト」
サクラがそっと俺の腕を掴んだ。
「え、な、なに……?」
「……私も、持つ」
「い、いや、いいって!サクラは手ぶらで――」
「やだ」
きっぱりと言われた。
きっぱり言われたけど、その顔は耳まで真っ赤で、ぷるぷる震えてる。
「……一緒に持ちたい」
ぽつりと呟くサクラ。
……尊い。……無理、俺、無理……
心臓がまた破裂しかけたけど、俺は必死で耐えた。
「……じゃ、じゃあ……サクラには、軽いやつを……!」
俺は必死で選んだ。
サクラには、ルームウェアとルームソックスとターバン、そしてエプロンの袋を渡すことに。
「食料品は、俺が持つから」
「……うん。ありがと、アルト」
そう言って、サクラは荷物をぎゅっと抱えた。
ルームウェアの袋を大事そうに抱きしめてるその姿が、かわいすぎて……ほんと、やばい。
やべぇ……うさ耳ルームウェア……サクラが持ってる……すでに似合ってる……
「じゃ、じゃあ……行こっか……」
俺は震える声で言った。
「うん」
サクラも小さく頷き、荷物を抱えたまま――
そっと、俺の手を探して、繋いできた。
「……!」
サクラの指先がそっと絡む。
あったかくて、柔らかくて、繋いだ手からサクラの体温が、心臓までじんわり伝わってくる。
俺たちは、手を繋いだまま、ゆっくりと歩き出した。
夜道を、ふたりきりで。
サクラがふと、俺のほうを見上げた。
「ねぇ……アルト」
「ん、な、なんだよ?」
「私ね……今、すごく幸せ」
小さな声で、恥ずかしそうに言うサクラ。
俺はその言葉だけで、心臓が千回くらい跳ねた。
「……俺もすげぇ幸せだよ」
サクラは俺のその言葉にふわっと微笑んで、さらにぎゅっと、俺の手を握りしめた。
「手……離さないでね」
「離すわけないじゃん……絶対」
すぐに答えた俺に、サクラは――
今度はそっと俺の肩に、頭をコトンと乗せてきた。
「っ……!!」
やばい……やばい……やばい……
尊死。尊死待ったなし。
「……なぁ、サクラ」
「ん?」
「……俺のほうが、絶対……幸せだ」
ぽつりと呟くと、サクラはくすっと小さく笑った。
「じゃあ……おあいこだね」
広がる甘い夜。ふたり手を繋いで、寄り添って、荷物を抱えたまま――
ゆっくり、ゆっくり……夜の城へ、帰っていった。
「……着いたな」
俺がぽつりと言うと、サクラは抱えた袋をぎゅっと握り直して、小さく頷いた。
「……うん」
でも、ふたりとも動けなかった。
繋いだ手を、どちらも離そうとしない。
むしろ、サクラはこっそり指を絡め直して、ぎゅっと握ってくる。
……やべぇ、かわいすぎる……
「……どうする?」
「……このまま……行こ?」
サクラが顔を真っ赤にして囁いた。
俺も、頷くしかなかった。
「……うん、行くか」
荷物を抱えたまま、手を繋いだまま、ふたりで静かに城の中へ戻る。
城内の廊下を歩きながら、誰かに見つかりやしないかって、ちょっとだけ緊張して。
でも、サクラの手の温もりが、そんな心配を全部溶かしていく。
……やばい、今だけで、もう限界……
隣のサクラも、顔を真っ赤にして俯いてる。
そして、俺たちは、自分たちの部屋の前までたどり着いた。
「……着いちゃったね」
サクラがぽつりと呟く。
「……ああ」
でも、まだ手は繋いだまま。
離れる気配もない。お互い、顔を見れなくて、黙ったまま立ち尽くす。
……ここから……部屋に入ったら……ふたりっきり、だよな……
考えただけで、心臓が破裂しそうだった。
サクラも同じだったのか、真っ赤な顔で、荷物を抱えたまま、もじもじと足を動かしている。
「……さ、サクラ」
「……な、なに?」
「……と、とりあえず、入ろっか……?」
「……う、うん……」
でも、手はまだ繋いだまま。
ドアの前で、ふたりで顔を真っ赤にして、また立ち止まった。
「……手、離す?」
「……や、やだ」
即答だった。
サクラが、さらにぎゅっと指を絡めてきた。
「アルトと……もっと繋がってたい……」
か細い声で、そんな反則級なことを言う。
待て……尊死確定だろ!!こんなん!!
「……じゃあ、もう、ずっと離さない」
俺もそっと返す。
サクラは、ふわっと笑って、小さく頷いた。
そっと、俺たちは扉を開けた。
荷物を抱えたまま、手を繋いだまま、ふたりで部屋の中へ。
閉まったドアに、軽く背中を預けながら――
「……あの……」
同時に口を開く。
「「っ……!」」
目が合って、慌ててまた視線を逸らす。
ドキドキ、バクバク。
心臓の音が、耳をつんざくくらい大きく響いていた。
荷物はそっと床に置いたけど……まだ繋いだ手は離さなかった。
「……な、なぁ」
「……うん?」
「サクラ、その……」
ドキドキしすぎて、言葉が続かない。
でも、サクラも、顔を真っ赤にしながら小さく言った。
「……私、今、すごくドキドキしてる」
「……俺も、やべぇくらい……」
小さな声で、ふたりで笑い合った。




