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ミリと会うまでの何気ない日常

サクラが少し落ち着いてきたのを見て、俺たちはカフェで夜ご飯を食べていくことにした。


店内はほのかな照明に包まれていて、テーブルごとにキャンドルみたいな小さなランプが灯ってる。


「……カフェのご飯って、やっぱ洒落てんのかな?」


俺が小声でつぶやくと、サクラがくすっと笑った。


「私も食べたことないけど、どれも美味しそう。……ね、見て?」


サクラは、メニューをめくりながら小さく微笑む。その柔らかい表情を見て、さっきまでの不安げな顔が少し和らいだように感じて、俺は胸をなでおろした。


「……あ!なんかこれ、オムライスっぽい!」


「オムライス?」


覗き込んだ先には、ふわふわの卵がご飯っぽい何かの上に乗ってる写真。


「名前なんて書いてあるんだ?」


「ルッタドエグ。分かりやすくいえばふわとろの卵が乗ったご飯!みたいな感じ」


「おおおおお!期待できる名前!!もう、俺それに決めた!」


「さずが!早いね」


サクラはまだメニューを見ていて、ゆっくりと指を滑らせる。


「えー……じゃあ、私はこれにする」


「あー!それ俺も迷ったやつ!」


サクラが選んだのは、グラタンかドリアみたいな、チーズがとろけてる系の料理。


「これの名前は?」


「アーリィポテラ。ポテトとクリームソースを合わせて焼いたものって感じかな」


「うわっ!ぜってぇそれ、うまいやつだ!!」


「ふふっ……じゃあさ、半分こしよ?」


「やったぁぁぁ!!!!!」


思わず小声でガッツポーズしながら、俺は即座に注文ボタンを押した。


「ねぇ、食べ終わったら、スーパー行きたい」


「あ!そうだった!スーパー」


「お好み焼きの材料だけ欲しいなって。なんか、そういう普通のことしたことないから……」


その言葉に、俺は少しびっくりしたあと、頷いた。


「もちろん、行くに決まってんじゃん!気分転換にもなるし!」


「うん。粉と、野菜と……ソースとマヨネーズ!チーズものせてみたい」


「それ絶対うまいやつぅぅ!」


「あと、アルトが買ってくれたネックレスにも合うエプロンとか……」


「えっ、それは俺の想像の遥か上いってる……!」


「ふふふっ、楽しみにしてて?」


サクラと仲良く話してると――


「お待たせしました」


店員の女性がふんわり笑いながら、アツアツの料理をテーブルに置いた。


「ルッタドエグになります。こちらはアーリィポテラです。ごゆっくりどうぞ」


「うわっ、めっちゃいい匂いする……!」


思わず声が漏れる。鼻先をくすぐる卵の香り、湯気の中にとろけるチーズの香ばしさ……胃が急に主張しはじめる。


「うん!食べるの楽しみだね!」


サクラも目を輝かせて頷いてる。こういう普通な瞬間、マジで癒される。


俺は我慢できず、スプーンを手に取り――


「いただきますっ!!」


ふわっとした卵の層をすくって、ひと口……


「う、うんめぇぇぇ!!」


思わず身を仰け反らせるほど、優しい味。


「オムライスとはまた違うけど……卵がマジでふわとろ……!」


すると、サクラがスプーンを持ちながら、じっと俺の皿を見つめる。


「……えへへ、一口ちょうだい?」


控えめな声で、上目遣い。


な、なにその角度……ずるくね……


「好きなところ、とって食べな?」


俺は皿をテーブルの真ん中にそっと押し出す。


サクラは遠慮がちにスプーンを差し入れて、ふわっと卵の山をすくい、パクッ。


「……なにこれ……食べたことない……!美味しいっ!」


幸せそうに目を細めるその顔が、こっちの胸までふわっと溶かしてくる。


「サクラのも食べてみていい?」


俺は指先で、自分のスプーンをちょっと持ち上げた。


「俺、もう口つけちゃったけど……このスプーンでいい?」


少しだけ、ドキドキしながら尋ねる。


サクラは、顔をほんのり赤く染めながら、こくんと頷いた。


「アルトなら……なにも気にしない。好きなだけ、とって?」


その声が妙に照れてて、かわいすぎて、俺の心臓がまた荒ぶる。


「……じゃ、いただきます……!」


白いチーズがとろけるその料理をひと口。


「うおおおお!これもうめぇぇぇ!!クリーム感の中にチーズの風味が爆発してるぅぅぅ!!」


「……うん、これもすっごく美味しい……」


二人でスプーンを交差させながら味を分け合って、自然と顔を見合わせて笑っていた。


そんな時――


「スーパーで買うもの……増えちゃう……どうしよう……」


サクラがぽつりとつぶやく。どれを選ぶか、真剣に悩んでる顔がまた、たまらなくかわいい。


「……なぁ、それ、通信端末でレシピ検索とかできないのか?」


俺が言うと、サクラの目がぱぁっと輝く。


「あ!その手があった!」


嬉しそうに端末を取り出すサクラ。


「これなら、材料も分量も全部わかるし……!アルトって、たまに天才じゃない?」


「たまにが余計だわ!!」


「ふふっ、でも助かった。ありがと」


「……どーいたしまして」


ふたりで笑いながら、次に作る料理の想像を膨らませていく。


そして――


「ごちそうさまでしたーっ!!」


俺が両手を軽く挙げながら言うと、サクラもふわっと笑って頷いた。


「ほんとに美味しかったね……!」


「なんか異世界のカフェって聞いたら、もっとこう……虹色の目玉ゼリー的な、ヤバめの料理出てくるかと思ってたけどさ」


「ふふっ、案外普通だったね。むしろ、日本のより美味しいかも……なんて」


「お前、さっき3回も幸せって呟いてたぞ?」


「言ってないー!」


「言ってたー!」


くすくす笑いながら、俺たちは店の外に出た。


「じゃ、さっき端末にメモした材料、買いにいこうぜ!」


「うん!」


俺たちはその足で、街の中心にある一番大きなスーパーに向かった。


建物は見上げるほど高くて、入口の自動扉がまるで魔導の力で開いたみたいに滑らかに動く。


「うわっ、でけぇ……!しかも品揃ええぐっ!何だよこの種類の多さ!」


「ね……見たことない食材ばっか。私もスーパー初めてだから……ちょっとドキドキしてきた」


中に入ると、色とりどりの野菜やら、透明な管に入った謎の液体やら、とにかく目を引くものばっかりだ。


「お、これ!キャベツっぽくね?グリントンの葉って書いてある」


「うん、端末の画像と同じ!それで合ってるよ!」


俺たちはとりあえずお好み焼きの材料を買うことにした。


端末で調べたレシピではおにょのみ焼きって不思議な名前で登録されてたけど……


とりあえず材料をカゴに放り込んでいく。


「えっと……粉の代わりになりそうなのは……ヒェルミ粉末?これかな……」


「うーん、たぶん……?見た目は似てるけど……」


「まあ、あとは俺の料理センスを信じてくれ!」


「え?アルトって料理できるの?」


「お好み焼きぐらいは、なんとなく。味の保証は……ないけどな」


「ふふ……ううん、全然いいよ」


サクラがカゴを抱えながら、ちょっと照れたように笑った。


「え?」


「……アルトとのこういう、なんでもないやりとり。材料を選んだり、味を想像したり……その一つ一つがね、すっごく幸せなの」


「っ……!!」


ぐはっっっ!!!


今の一言……効きすぎる……!!


俺、思わず商品棚に激突しそうになる勢いで、顔を赤くする。


「ば、ばか……そんなこと急に言うなよ……」


「ふふ、だって……アルトの顔が赤くなるの、好き」


「や、やめろぉぉぉ……!」


「え、じゃあ続けるね?」


「勘弁してくださぁぁぁい……!」


ふたりで笑いながら歩くスーパーの通路は、ほんの少し、日常ってやつを思い出させてくれた。

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