異世界に来た途端まさかの展開なんだが!?
「……俺、イケメンじゃね?」
鏡の前でふと呟いた瞬間、口元が勝手にニヤけた。
なんつーか、銀髪グレーアイの自分って、アニメに出てくる主人公感あるし、顔のラインも、肌の質感も、明らかに盛れてる。
「……こうか?」
思わずポーズを取ってみる。
片眉だけ上げてみたり、指を顎に添えてキメ顔してみたり。
――その時だった。
自分の中に、誰かが重なったような感覚がして、背筋に冷たいものが走った。
ゾクッ……!
「…なんだ、今の……」
鏡に映る自分の顔が、一瞬だけリオに見えた気がした。
「うわっ、やめろ!俺、あんなナルシストじゃねぇし!……たぶん!」
思わず一歩、鏡から下がる。
「っつーか、どこだよここ……」
そもそも、何が起きたんだ。あいつらの言ってた目覚めってやつのせいか?
思考を巡らせながら、ふと窓の外に目を向けた瞬間――
「……は?」
部屋から見下ろす景色は、まるで絵画のように整っていた。
どこまでも続く瓦屋根の家々。石畳の道をゆっくりと歩く人々。
小さな噴水のある広場に、数人が静かに腰を下ろしている。
風が窓からふわりと入り込み、草と花の混ざったような、どこか懐かしい香りを運んでくる。
日差しはやわらかく、肌を優しく撫でる。
空は青く澄み、ゆっくりと雲が流れている。
だけど――おかしい。
目に映る風景すべてが、あまりにも整いすぎている。
動く人たちは静かで、足音もほとんど聞こえない。
まるで誰かが作った理想の街を上から覗いているような、そんな気味の悪い整合性がそこにはあった。
俺の目が慣れてくるにつれ、違和感はじわじわと濃くなっていく。
風が吹いているのに、木の葉の揺れ方がどこも同じように見えるし、噴水の水の跳ね方まで、何パターンかを繰り返しているように見える。
「……なんだよこれ」
呟いた声が、自分の耳にまで遠く感じた。
音がどこかに吸い込まれているような不思議な感覚。
穏やかで美しい。だけど、あまりにも作られた感がある。
これは現実じゃない。夢でもない。
そのどちらでもないどこかに、俺はいる。
その時、コンコンッとドアがノックされた。
ドクンと心臓が跳ねる。
これは夢じゃない。感覚で分かる。
さっきの不思議な感覚、鏡に映った俺じゃない俺
――全部リアルすぎる。
「……誰だよ」
警戒しつつ、ドアノブをゆっくり回す。
キィィ……と音を立てて開くドアの向こうに立っていたのは――
「よ、目覚めたみたいだな」
紫の髪、鋭い目。レイだ。
「……お前か」
「ふふ、安心したよ。顔色もいいし、なによりだ」
レイの目が、俺を頭の先からつま先までなめるように見てきた。
「思ったより、似合ってるな。その姿」
「……は?」
「銀髪、グレーの瞳、均整の取れた骨格。服のサイズもぴったりだ。…驚いたよ、ここまで変わるとは思ってなかった」
「え、えぇ……なんだよその観察力……お前、ガチで見すぎだろ」
顔が熱くなる。なんだこの感じ。
でも、正直、鏡の中の自分を見て思ったんだよな……
俺、イケメンになってね?って。
「お前、もしかして、ナルシストの仲間入りか?」
「いや、それは……それはリオだけでいい……」
「はは、安心しろ。あいつは別格だ」
レイが静かに笑う。
その表情が一瞬やわらいだ気がして、俺は少しだけ警戒を解いた。
「で、本題だけど。こっちの世界での名前、どうする?」
「名前?」
「そう。この世界じゃ、前の名前を捨てて、新しい名前を使うのが通例なんだ」
「……なるほどな」
俺は一瞬悩んだ。
「アルトのままじゃダメってことか……」
「まあ、そうなるな。俺はレイ。ミリはミリ。リオも二文字。それにお前だけ三文字だとちょっと浮くしな」
「お前らに合わせろってか?」
「別に強制じゃないけど、仲間っぽくていいだろ?」
俺はちょっと考えてから言った。
「じゃあ……アルでいいよ。アルトから取って」
「決まりだな。今日からお前はアル。ようこそ、この世界へ――アル」
「……相変わらずクールだな、お前」
「すぐ慣れるさ。でなきゃ、生き残れない」
レイの声のトーンが、急に少しだけ低くなった。
ドキンと心臓が跳ねた。
「これから話すことは、冗談でもごまかしでもない。覚悟して聞いてくれ」
俺は無意識に喉を鳴らし、椅子に腰を下ろした。
「……聞かせろよ、その覚悟ってやつを」
レイの目がまっすぐに俺を射抜く。
「……な、なんだよ。その顔。なんか顔についてるか?」
俺は、レイの視線に居心地の悪さを覚えて顔をそらす。
けど、レイの視線は外れなかった。
「……やっぱり、似合ってるな」
「は?」
「その姿。銀髪に、グレーの瞳。思った以上に……いや、予想を超えてきた」
「お、お前、ほんと褒めるの好きだよな……」
「事実を言ってるだけだ。俺は嘘をつかない」
ドキン、と胸が跳ねる。
――なんだよ、こいつ。ずるいじゃねぇか、そういうの。
「まぁいい。そろそろ話を始めようか」
レイは俺の目の前にあるクローゼットにもたれかかりながら、静かに話し始めた。
「この世界の名前は“オルヴェリテ”。この世界にはひとりの女王が存在している」
「は?女王がいんの?それがどうしたんだ?」
「お前には、その女王を落としてもらう」
「はぁ?……なあ、それって、それって……まさか、恋愛的な意味で!?」
「そうだ」
即答だった。
「ちょ、おい待て待て!俺、ただの学生だったんだぞ?告白して玉砕した経験しかねぇんだけど!?なんで俺が女王を口説かなきゃならないんだよ!」
「だから、お前なんだよ」
「……は?」
レイは、少しだけ目を細めて、俺の方へ一歩近づいた。
「この世界の女王は、長い間、誰の心にも動かされていない。完璧な言葉も、美しい贈り物も、すべて計算されたものとして彼女の前では無意味になる」
「……じゃあ、俺なら、計算してないから?」
「お前の無防備な心と、不器用な言葉こそが、彼女の心を揺らす鍵だ。――そう、思ってる」
「俺の、無防備な……」
心臓がまた、ドクンと跳ねた。
何かに期待してる自分が、ちょっとだけ怖かった。
「でも、もし俺が失敗したら?」
「……この世界は、また眠りにつく」
「眠るって……つまり?」
「誰も目覚めない。誰も、進めない。停滞したまま、ただ終わりを待つだけの場所になる」
俺は言葉を失った。
レイは、少し俯いて、でも静かに、俺をまっすぐに見て言った。
「俺たちは、お前にかける。これは、運命とか、予言とか、そういう話じゃない。――信じたいと思ったんだ。アルを」
「……レイ」
「もちろん、強制はしない。だけど……この世界を救える可能性は、お前だけだ。アル」
息が詰まりそうなほど、部屋の空気が静かだった。
ふざけた設定だって思ってたはずなのに、今は、少しだけ違う。
「……はは、マジでバカみたいな話だな。だけど……」
俺は、レイの目を見返した。
「その女王ってやつに、会ってみたくなった」
レイの目がわずかに見開かれ、ほんの少しだけ口元が緩んだように見えた。
「いい返事だ、アル。――さあ、始めよう」




