女王さまと初外出!?5
「アルト、仕事をしたから疲れただろ」
隣で歩くサクラが、ぽつりと声をかけてくる。
「……ああ、ちょっとだけな。慣れないことしたし」
「どこかで休んで、食事でもしよう」
その一言に――
……あっ!
背筋がゾワッとする記憶が蘇る。
城の中で出された……あの目玉虹色ゼリー……
「あの……さ、街中のレストランも、あんなの出てきたりしないよな……?」
思わずぶつぶつ呟く俺に、サクラが小さく吹き出す。
「……なに?」
「俺はもう、サクラの手料理しか食べられない体なんだよ……」
「ふふっ……」
サクラが少しだけ、嬉しそうにはにかんだ。
……その顔ずるい……かわいすぎる。
「この店はどうだ?」
そう言ってサクラが指差した先には、木製の外装があたたかい雰囲気の、こぢんまりとしたお店。
お……なんか普通の……ってか、あれ?
看板に目をやると、なにやら見覚えのある食べ物の絵が――
たこ焼き、お好み焼き、焼きそばに激似なんだけど!
でも、文字はすべてこの世界特有のぐにゃっとした文字で書かれていて、読めない。
「……なぁ、サクラ。この看板の文字、なんて書いてあるんだ?」
「たこ風焼き、お好み焼き、焼きそば、だ」
「え、マジで!?」
ぐいっと顔を近づける。
「……ほんとに?これが?」
「嘘は言わない」
たこ風焼き、お好み焼き、焼きそば……日本って感じじゃん!
「まさか……そんな偶然あるか……!?」
「偶然ではないかもな。この店に影響を与えた者がいるかもしれない」
サクラは静かにそう言った。
それってつまり――
日本から来た誰かがいたか、いるか……?
「……サクラ。ひょっとして俺のこと考えて店選んでくれてる?」
小さくコクリと頷くサクラ。
「私は、アルトといる時間がいちばん……」
言いかけたサクラが少し俯く。
「……落ち着く」
「アルトが嬉しいと、私も……嬉しい」
……っ!!
心臓が爆発しかけた。
「サクラがここでいいなら、入りたい」
「……うん」
その声に誘われるように、俺はおそるおそる木のドアに手をかける。
「いらっしゃいませー!」
中から聞こえてきたのは、元気な男性の声。
そして――
ふわぁぁぁっと、漂ってくるソースの香り。
胸の奥がじんわり熱くなる。
この匂い……すでに懐かしすぎる……!
「お好きな席へどうぞー!」
今度は笑顔の若い女性が、水の入ったグラスをトレーに乗せて持ってきた。
俺とサクラは、木製のテーブルに並んで腰を下ろす。
「……これ、完全に日本だろ……」
俺がそう呟くと、サクラはじっと俺を見て、ふっと笑った。
「アルトが、少しでも落ち着けるなら……それでいい」
ああ……今までで一番やさしい外食がはじまりそうだ。
テーブルの上、メニューに視線を落とすと――
「うわ、ほんとに全部知ってるやつ……」
たこ風焼き、お好み焼き、焼きそば。
夢に見たラインナップがずらりと並んでいた。
そのとき――
「アルト?」
「ん?」
サクラが、少しだけ身を乗り出すようにして、俺にそっと囁いた。
「……今日は、好きなものを食べて」
「……っ!」
心臓が跳ねた。
このセリフだけで、ご飯10杯いける……!!
「い、いいのか?」
「当然だ。アルトは、今日いっぱい頑張ったから」
その言葉が、優しくて、あったかくて――
「……じゃあ、お好み焼きにする。サクラも、一緒に食べよ」
「……うん」
ああ……この世界で初めて、ちゃんとした外食を食べられるかも……
しみじみそう思いながら、俺は注文ボタンを押した。
ドキドキは、まだ止まらないけど――
サクラが隣にいてくれるから心配ない。
周りを見渡すと、ぽつぽつと客の姿がある。
俺たちみたいな年の近いカップル(……って言っていいのか!?)もいれば、年配の夫婦っぽい人たちも。
静かに、でもなんだか楽しそうに笑い声が響いている。
……こっちの世界の人の口に合うんだな。
なんて考えてたその時――
「注文はお決まりでしょうか?」
黒髪で清潔感のある若い女性の店員さんが、エプロン姿で俺たちのテーブルにやってきた。
手には伝票とペン。
「あ、えっと……お好み焼きを2人前。あと……」
ちらっとメニューの片隅に目をやると――おにぎりっぽい写真があった。
……サクラ、気づいてるのか……?
少しだけ目をやると、サクラは視線を下げて、黙ってメニューを見ていた。
いや、今日は……やめとこう。今はまだその話に触れるべきじゃない。
「じゃあ、とりあえず、以上で」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんは優しく微笑んで、ぺこりとお辞儀をしてから厨房の方へと戻っていった。
「サクラも、こういう店で食事をするのは初めてか?」
「うん……。少し緊張するけど……アルトと一緒のものを食べられるから、嬉しい」
「ぶはっ……!!!」
俺は口に含んでた水を思いっきり吹き出しそうになった。
「さ、サクラ!? おまっ……そんなストレートなこと、急に言うなって!!」
「え?嬉しいって言っただけなのに……」
きょとんとした顔で、首をかしげるサクラ。
くっそぉぉぉぉぉ!発動してんじゃん!きょとん顔!!
「お待たせしましたー!お好み焼き、2人前ですね!」
タイミングよく店員さんが戻ってきた。器に入った生地を丁寧に持って、鉄板の前に立つ。
「では、焼いていきますね」
「ま、待ってください!あの、ここから自分たちでやってもいいですか!?」
店員さんは驚いたように目を丸くして、すぐに笑った。
「はい!では、生地はこちらで混ぜておきますね。あとはソースとマヨネーズなどを後ほどお持ちします。鉄板、熱くなってますので気をつけてくださいね!」
「ありがとうございますっ!」
うわっ、ソースとマヨネーズって……!
「サクラ、俺の真似してみて。ちょっと難しいけど、やってみたら楽しいから!」
「この、ドロドロしたものが……焼けるのか?」
サクラは真剣な顔で生地を見つめてる。ちょっと眉を寄せて、不安げなその顔がまた……かわいすぎる。
「ほら、こうやって流して、こう返すんだよ」
俺は手本を見せながら、鉄板に生地を丸く広げる。
「……こう?」
サクラが恐る恐る生地を鉄板に落とす。ちょっといびつだけど、ちゃんとできてる。
「おお!上手いじゃん!」
「本当?」
「本当本当!あとでマヨネーズでハート描いてみるか?」
「ハート……?」
サクラはちょっとだけ顔を赤らめて、小さく笑った。
「アルトって、意外と……かわいいこと言うんだな」
「なっ……!」
一瞬、何かが頭の中で爆発した。
「な、なんだよそれ!サクラの方が……かわいいに決まってんだろ!!」
思わず本音が出てしまって、俺は慌てて顔をそらした。
その時――
「……ふふっ」
サクラの、小さな笑い声が耳元に響いた。
やべぇ……この笑顔のためなら、俺、毎日でもお好み焼き焼くわ……
鉄板の音と、ソースの香ばしい匂い。 そして隣には、無表情で、でも確実に心を動かしてくれる女王さま。
俺はその温もりと香りの中で、サクラの方をそっと見た。
……ほんと、好きだ。




