女王さまと初外出!?4
「よし!早速、職探しだ!」
張り切ってそう呟きながら、俺はキョロキョロと辺りを見渡す。
こういう時こそ、何かやる気みたいなもんが大事だよな!
ふと目の前に立っていた、いかつい雰囲気の男性に声をかけた。
「あの、仕事探してるんですけど……どこか求人募集みたいなのって、ありますか?」
「おう、仕事か。だったらこの先にある掲示板にいろいろ貼り出されてるぜ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
軽く頭を下げて、サクラと一緒にその方向へ歩き出した――その時だった。
「あ……」
サクラが足を止めた。
「ん?どうした?」
俺が振り返ると、サクラは静かに、ある店のショーウィンドウを見つめていた。
その先には、キラリと光る小さなアクセサリーが並んでる店。
……アクセか。
サクラが見ていたのは、シンプルな銀の指輪。
あぁぁぁぁあ!!お揃いのアクセとか……やばい、繋がってる感ハンパない!!
思わず心の中で叫んだ。
「サクラ、気になる物でもあったのか?」
「……いや、なんでもない」
そっけなく言ったサクラだけど――その目線が、ずっと指輪から離れなかったのを、俺は見逃さなかった。
よし……絶対稼いで、あれ……プレゼントしてやる。
胸の中でひそかに拳を握った。
そして到着した掲示板の前には、色とりどりの紙が貼られていた。
「……モンスター退治、薬草集め、魚釣り……って、結構バリエーションあるな」
俺は少し悩んでから、ひとつの紙を選び取った。
「……魚釣りにしとくか。今日のところは」
依頼主の名前と場所を確認し、俺たちは掲示板の先にある建物へと向かう。
「失礼しまーす!魚釣りの仕事、まだありますか?」
「おう!助かるよ兄ちゃん!これが釣ってきてほしい魚のリストだ」
渡されたリストには、見慣れない名前の魚がずらり。
「魚の種類で報酬が違うから、がっつり頼むぜ!」
「了解です!」
元気よく返事をして、俺たちは海沿いへと向かった。
潮風が気持ちよく吹きつける。海は青く透き通って、波の音がやさしく耳をくすぐった。
俺は竿を肩にかつぎながら、サクラの方を振り返った。
「サクラ……ごめんな。退屈だろ?俺が勝手に仕事引き受けてさ」
でもサクラは、静かに首を振った。
「私は、好きで一緒にいるだけだ」
「……っ!」
その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
「そういうの……ほんと、ずるいって……」
「ずるい?」
「うん、かわいすぎて、釣りどころじゃなくなる」
「……魚、逃げるな」
「逃げる前に、俺の心臓が爆発するわ!!」
サクラは小さく、でも確かに微笑んだ。
この笑顔、絶対守りたい……
俺は改めて竿を握り直して、静かに海へ向けて投げた。
絶対釣って、絶対稼いで、指輪……買うからな。
隣には、無表情だけど、どこか優しいサクラの横顔があった。
……頑張れ、俺。
そう心の中で気合を入れながら、俺は静かに釣り糸を見つめ続けた。
でも……
釣り糸を垂らしながら、俺はさっきのサクラの視線を思い出していた。
サクラが見てた指輪……結構、いいやつっぽかったんだよな……
ガラス越しだったけど、さすがにあれは高そうだった。
でも、俺が稼いでプレゼントするって決めたんだ!
ぐっと気合を入れて、もう一度リストを見た。
……一番報酬が高い魚は……って、うわっ!!
「で、でけぇぇぇぇぇぇ!! 平均サイズ1.5メートルって、モンスターかよ!!」
しかも名前の横に、でっかく「力に自信のある者のみ推奨」って書いてある。
でも、そんなこと言ってらんねぇ!!
サクラを長く待たせるのも嫌だし……とっとと釣って、とっとと稼ぐ!!
俺は慣れない手つきながらも、何度も竿を振り続けた。
ぷかり、浮きが波に揺れては沈んで、また揺れて。
木箱の中には、カラフルな魚たちがポンポン放り込まれていく。
よし、数は稼げてる……でも、大物一匹、釣らねぇと!
そう思った瞬間――
「ぐいぃぃぃっ!!」
竿が今までにない勢いでしなった!!
「っ……!」
手が、腕が、ぶちぶち音を立てそうなくらい張ってる!!
「な、なんだよこれ……今までのと全然違う……!!」
その時だった。
「アルト!!」
後ろから、あたたかい手が俺の腰に回される。
「っ!?」
「力、分ける」
サクラが、俺の背中にぴったりとくっついて、引っ張るのを手伝ってくれていた。
ちょっ、おいっ……無理無理無理!!
「余計に力、入んねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「え?」
「サクラ! 近い近い!! いや、嬉しいけど!! でも近いぃぃ!!」
顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる!!
でも――
「くそぉぉぉぉぉぉ!!」
全力で踏ん張って――思いっきり、竿を引いた!!
ズバァッ!
バシャァアアア!!
水しぶきを巻き上げて、巨大な黄色の魚が飛び上がった!!
「うおおおおぉぉぉっ!!?」
ビチビチ跳ねるその魚は、明らかに今までのとはスケールが違う。
「サクラ! リスト! リスト!!」
俺が息を切らしながら叫ぶと、サクラが素早く紙を広げた。
「……イエローパオンフィッシュ!」
「それそれそれ!! レアって書いてあるやつ!! これすごいやつだ!!」
「すごい!! アルト、ほんとにすごい!」
「うぉおぉおぉぉぉ!!!」
興奮で飛び上がる俺を見て――
サクラはパチパチパチパチと手を叩いた。
「え?」
ぴょんっ。
ぴょんっ。
「え、ちょ、なにその動き!! え、喜び方が小動物すぎんだろ!? かわいすぎて死ぬ!!」
サクラは両手でパチパチしながら、ぴょんぴょん跳ね、目を細めて笑った。
「アルト、すごい。尊敬した」
し、死ぬ……
顔が熱い、目の前が眩しい、何もかもがふわふわしてる。
こんなサクラ、初めて見た……
こんな表情、こんな仕草、 絶対、俺にしか見せてない。
「……っ、やばい、マジで好きすぎる」
「……え?」
「な、な、なんでもない!!」
俺は顔を真っ赤にして、木箱にイエローパオンフィッシュをぶち込んだ。
報酬より何より、今日一番の宝は――
俺の隣で、無邪気に笑うサクラのその笑顔だった。
「これ、今日の分お願いします」
そう言って魚の入った木箱を差し出すと、依頼主の男性が目を見開いた。
「おお!兄ちゃんすげぇな!イエローパオンフィッシュじゃねぇか!」
驚きのあと、ニッと笑って言う。
「今日は特別にボーナス付きだ!また頼むぜ!」
ずっしりと重い報酬袋を手渡される。
「おおっ、けっこう重っ……!」
「55000デールだ。そこの綺麗なガールフレンドと、うまいもんでも食ってきな!」
ガ、ガールフレンド……?
思わずサクラの方を見た。
そのサクラはというと――
「……」
顔を赤くしながら、俯いて両手を前でぎゅっと握ってモジモジしていた。
しかも、ちらりとこっちを見て目が合った瞬間、慌ててそっぽを向く。
……っっっ!
やばい……かわいすぎる……
心臓が叫び出す。
な、なんでそんな乙女ムーブできるんだよ、お前ぇぇぇ……
俺は顔の熱さをごまかすように叫んだ。
「サ、サクラ!55000デールってどれくらいすごいんだ?」
「……パンが一個だいたい100デールだから……いっぱい……買える……」
語尾が小さくなるの反則だろぉぉぉ!
「よかったな、アルト」
サクラがそっと微笑む。
それだけで、世界の色が変わった気がした。
……でも
目の前に、ふと目に入ったのは小さな露店のアクセサリーショップ。
そこに並んでいるのは高級品じゃないけど、どれも手作り感があって温かみがあった。
……あの指輪はまだ手が届かないけど
それでも、今日この世界で初めて稼いだ金で……何か、サクラに渡したい。
サプライズ、できたらいいな。
そう考えていると――
「そこの綺麗なお姉さん!お肌にいい美容ドリンクよ!一日一本、続けて飲めばあなたもつやつや!」
近くの露店から声をかけられたサクラが、ぴたりと足を止める。
「これ……飲んでもいいのか?」
「もちろん!今だけ試飲無料!」
きた……チャンス!!!
サクラが美容ドリンクの説明に夢中になってる隙に、俺はアクセサリー店へダッシュした。
「いらっしゃいませ!」
若い女性が笑顔で出迎えてくれた。
俺は、ほとんど迷わなかった。
目に入った瞬間――これだって思った。
シルバーのシンプルなネックレス。チャームは、アルトの“A”とサクラの“S”が重なったような、さりげないデザイン。
言われなきゃ気づかない。でも……サクラなら絶対似合うし、繋がってる感が……やべぇ。
「これ……プレゼント用で、お願いします」
「かしこまりました」
丁寧に包まれた小さな箱をポケットにしまって、俺はダッシュで元の場所へ戻る。
間に合え……!
「アルト、ごめん、待たせた……」
サクラがぺこりと頭を下げる。
「い、いやいやいや!なんで謝んだよ!?ああいうの、見てみたいときは見ていいんだよ!むしろもっと興味持って!」
サクラは少し戸惑ったあと、ふにゃっと笑った。
「……そうか。ありがとう。アルト、優しい」
――もう無理だぁぁぁ!
優しいとか言われたら、俺、照れて呼吸止まるだろ!!
「さ、さ、さっ!今日は色々見て回ろうな!俺、案内役がんばるから!」
その言葉に、サクラは嬉しそうに小さく頷いた。
ほんの少しだけ、俺の上着の裾を掴みながら――
「……うん。一緒に、回りたい」
あああああ!!!
そんな掴み方する!?かわいいにも限度があるだろ!!
俺はポケットの中の小さな箱をそっと握った。
いつ渡そうか……
サクラの横顔を見ながら、心臓の音が静かに高鳴っていく。
ちゃんとタイミングを見て、魚釣りに付き合ってくれたお礼と、あと、俺の想いも込めて。
ドキドキしながら、俺はサクラと並んで歩き出した。




