表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/68

女王さまと初外出!?3

ガチャッ!


「アルト、待たせた」


ひょこっと部屋のドアから顔を出したサクラは、一緒に決めたグレーのパーカーと黒いパンツ姿で現れた。


シンプルなのに――いや、シンプルだからこそ。


ボーイッシュな格好が、逆にかわいさを引き立ててて、俺は思わず視線をそらした。


「……な、なんかすごい似合ってる……っ」


「ほんと?」


サクラが首をかしげて、少しだけ裾をつまんでくるっと回った。


やばい、破壊力……!!


「そ、そんで一応な、日焼け対策ってことで」


慌てて取り出した黒いキャップ帽を、サクラの頭にふわっと被せてやる。


「ありがとう」


「い、いや!別に……」


帽子のツバの隙間から覗く瞳が、いつもより近くて、心臓が跳ねた。


「……あ、あと髪」


「髪?」


「汗とかかくだろ?長いと邪魔になるし……その、結んだほうがいいかも」


「なるほど。こないだリリから、外は暑いって聞いた」


そう言って、サクラはその長い髪を左右に分けはじめた。


……だけど、その手つきが、なんかこう――妙にぎこちない。


も、もう……っ!


「その、くしとゴム……貸して?」


「え?」


「多分、俺のほうがうまいから」


サクラが手渡してくれたくしとヘアゴムを受け取ると、俺は彼女の後ろに立った。


ゆっくりと、サクラの柔らかな金色の髪に指を通していく。


……ふわっふわだな、これ……


心臓がバクバクうるさすぎて、くしの音が聞こえないくらいだった。


「……器用なんだな、アルトは」


「ま、まあな。妹いるからさ。小さいころ、よくヘアセット頼まれてたんだよ」


「妹がいるんだな」


「で、でも!」


「?」


「サクラの髪に触るのは……その、なんか、全然別っていうか……」


「……?」


やばい、もう何言ってんだ俺……!


結び終えたツインテールをそっと手放して、一歩引く。


「……できた」


サクラが後ろを振り返って、そっと毛先を触った。


「軽い……すごく綺麗にまとまってる」


「だ、だろ?」


あぁあああ……手、震えてるのバレてないよな!?


「……アルト」


「な、なに」


「嬉しい。今まで、誰にも髪を触らせたこと、なかったから」


「っ……!」


その目で言うの、ずるい……!


帽子の下、ぱらりと落ちた金髪をそっと整えてやると、 サクラはふわりと微笑んだ。


「じゃ、出かけようか」


「……お、おう!」


ドキドキが収まらないまま、俺は部屋のドアを開けた。


……今日、大丈夫かな、俺


「てかさ、そもそもこの建物の中よく知らねぇわ、俺」


歩きながらぼやくと、隣を歩くサクラがすっと目線を向けてくる。


「帰ったら案内する。ここは城のようなものだな」


「……し、城!?やっぱ女王さまがいる場所は、城って決まってんのかよ!」


思わず声が上ずる。いや、だって――


どこを見ても豪華。天井は高いし、壁は無駄にピカピカしてるし、装飾品のひとつひとつが高そうで、そもそも床!なんで絨毯じゃなくてガラス張りみたいにツルツルなんだよ!


サクラに導かれるように長い通路を歩き、エレベーターみたいな透明の筒に乗る。


「これ、まさかエレベーター……?」


「正確には移送装置。1階に降りる」


「名前、強っ……!」


スッと降下していくと、目の前に広がったのは――


「な、なんだここ……」


そこはまるで、超高級ホテルのエントランスのような大広間だった。


透き通るような大理石の床、吹き抜けの天井、シャンデリア、アーチ状の柱、光の演出まで完璧。


「おいおい……これ、本気で城ってレベル超えてるぞ……!」


まるで観光客のように見上げる俺を見て、サクラはそっと口元に手を添えて――


「ふふっ」


小さく、でも確かに笑った。


……えっ。


その仕草、その声色、その柔らかい空気!


「な、な、なんだ今の!?その笑い方!!かわいすぎだろ!!」


思わず頭を抱えてしゃがみ込む俺。


「そんなに驚くことか?」


「驚くに決まってんだろ!それ!今の、動画に撮って永久保存したいくらいだし!」


サクラはきょとんとした顔をして、俺を見下ろした。


「……動画?」


「だから、カメラとかねぇの!?俺とサクラの思い出、ちゃんと残したいっていうか……!」


そう言った瞬間――


「だったら……」


ポケットの中に、何かが突っ込まれた。


「わっ!?おい、何入れた!」


取り出すと、それは……


「……これ、通信端末?」


あの時、俺が受け取りを拒否したやつ。レイやリオが持ってた、カード型のやつだ。


「だからこれはいらねぇって、言っただろ俺……!」


「私が……渡したいから」


サクラは、俺の目を見て、まっすぐに言った。


「え……」


言葉を詰まらせる俺に、サクラは淡々と続けた。


「これには映像も記録できる。写真も撮れる。もちろん、レイやリオ、ミリとの連絡にも使える」


「でも……俺には、サクラがいれば……」


「私はいつも横にいる。離れない。でも、アルトの記録を残したいっていう気持ちもわかる」


……っ!!


また、やられた。


本気で言ってくるサクラに、勝てるわけない。


「……わかった。ありがとう、サクラ」


小さく呟くと、サクラはふっと微笑んだ。


その笑顔は、まるでさっきのきょとん顔とはまた違って……


あたたかくて、どこか安心するような、優しい光を放っていた。


……やっぱこの子、俺の心臓に悪すぎる。


俺はそっと端末をポケットにしまった。


記録しよう。この世界で、サクラと過ごす全部を。


絶対、俺だけの宝物にしてやる!!


ガチャッ――


扉が開いた先にあったのは、広がる街の風景。


「……すげぇ……」


思わず漏れたその声は、風にさらわれるように消えていった。


石畳の道を歩く人々は穏やかな雰囲気に包まれ、小さな噴水のまわりには、花籠を抱えた老婦人が腰かけている。その横の子どもたちは静かにじゃれ合っていた。


……あの日見た、あの整いすぎた景色と同じはずなのに……なぜだろう。


今のこの街は――


生きてるように、感じる。


「外は……こんなに気持ちがいいんだな」


サクラが立ち止まり、空を見上げる。


風がふわりと彼女の薄金の髪を揺らし、柔らかな陽光が、その頬を優しく照らしていた。


まるで……


「絵画の中の一場面みたいだな、今のサクラ」


「……?」


「いや、こっちの話」


顔が熱くなるのをごまかすように、俺はそっぽを向いた。


「でも……不思議だよな。前に窓から見たとき、もっと無機質っていうか……なんか冷たく感じたんだ」


サクラは少し首をかしげる。


「無機質?」


「ああ。風も、木の葉も、人の動きも……全部同じテンプレみたいで」


「……」


「でも今日は違う。ちゃんとみんなが生きてる感じがする」


その時だった。俺の脳裏に、ふとレイの言葉がよぎる。


『彼女は、この世界の核だ。倒せば、この世界そのものが崩壊する。だけど、心を動かし、感情を与えることができれば、世界は変わる。命を繋いだまま、新しい形へと』


……まさか。


俺は隣のサクラを見る。


ふとした瞬間に笑って、風にまぶしそうに目を細めて、俺の袖をそっと掴む仕草。


サクラが……感情を持ちはじめたから……?


それがこの街に、優しさとして反映されてる?


「ねぇ、アルト」


サクラが、少し小さな声で俺を見上げた。


「今、こうして外に出て、空を見て風に当たって……ちょっとだけ、自由になれた気がする」


「……そっか」


「今まで、感じたことなかった……こんな風に、気持ちいいって」


「それ、たぶん……サクラが変わったからだよ」


「……私が?」


俺は少しだけ照れくさくなって、サクラの帽子のつばを引っ張った。


「最初に出会ったとき、お前、超機械みたいなやつだったからな」


「否定できない」


「でも今はちゃんと笑って、ちょっと怒って、照れて……」


「それは……アルトが、私の側にいるから」


ドクン、と心臓が跳ねた。


「感情っていうのは……きっと、誰かのそばにいることで、芽生えるんだと思う」


「……」


「だから、アルトが……ずっと隣にいてくれるなら、私、もっと……」


言いかけたサクラの言葉が風にかき消される。


「……もっと、何だよ?」


「……」


サクラは顔をそらして、ポツリと呟いた。


「もっと、この世界が好きになれる気がする」


……ずるいって。


そんなこと言われたら――


「……あのさ、サクラ」


「?」


ドクンドクン暴れまくる心臓を押さえながら、俺は、ゆっくり手を伸ばした。


「これ、初めてだし……嫌だったら、言って……」


そう言って、サクラの指先に、俺の指先がそっと触れた。


サクラは、ビクッと少しだけ肩を揺らしたけど……


そのまま、俺の手をほんの少しだけ、きゅっと握り返してきた。


「……あ」


その感触だけで、心臓が爆発しそうになった。


やばいやばいやばい……


「て、手……繋いでもいいか?」


「……繋いでほしい」


サクラの声は、小さくて、震えてて、でも……まっすぐだった。


その瞬間、俺はもう、ぶっ壊れた。


「も、もうかわいすぎだってば!!なんなんだお前ぇぇぇ!!!」


「騒がないでくれ……みんな見てる」


「だ、だって!お前の手、あったかいし、柔らかいし、しかもいい匂いするし!」


「……私の手が、匂うのか?」


「違う!いい意味で!!」


あああああああ!!俺、何言ってんだーーー!!!


思わずうずくまりたくなる俺を見て、サクラがくすっと笑った。


「……アルト、バカ」


その笑顔が、やさしくて、あったかくて……


もう、このままずっと手を離したくないって、心から思った。


なぁサクラ……俺、今すげぇ幸せだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ