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女王さまの過去!?

サクラは俺のすぐ横で、ふわりと髪を揺らしながら言った。


「今のベッドじゃ小さいだろ」


俺は思わず視線を動かす。


部屋の隅にぽつんとある、俺用のスペース――


小さなベッドと、最低限の収納ができる備え付けのボックス。


……まぁ、言われてみれば、確かにちょっと窮屈かもな。


でも俺は、慌てて手を振った。


「い、いや!俺はどこでもいいから!気にすんなって!」


俺の遠慮に、サクラはじっとしたまま静かに首を振った。


「明日、買い物から帰ったら……」


「……?」


「アルトの空間を作ろう」


サクラはさらっと、当たり前みたいに言った。


「っ……」


う、うわ……やばい……


心がじんわり温かくなる。


そんな俺の動揺にも気づかないまま、サクラはさらに続けた。


「今日は疲れただろう。私のベッドを使え」


「は?」


一瞬、耳を疑った。


サ、サクラの……ベッド……!?


「ま、待てよ!じゃあ、サクラはどこで寝るんだよ!」


俺が慌てて聞くと――


サクラは無表情のまま、きっぱり言い切った。


「アルトのベッドだ」


「…………」


……え?


いや、待って?


それ、逆じゃね!?


頭の中にでかでかと「?」が浮かぶ。


「ちょ、ちょっと待てサクラ!!」


「なんだ?」


「いや、なんだじゃなくて!!お前、普通に交代する気満々じゃねぇか!!」


必死に突っ込む俺。


サクラはきょとんとした顔で、静かに首をかしげた。


「問題ない」


「問題しかねぇぇぇええええ!!!」


俺は頭を抱えた。


な、なんなんだよこの優しさ爆弾はぁぁぁああ!!


急にこんな……心臓に悪すぎるだろ……!!


サクラはじっと俺を見つめたまま、ほんの少しだけ――


本当にわずかに、口元をやわらかく緩めた。


「……アルトに、ちゃんと休んでほしいだけだ」


うわぁぁぁぁああああ!!!


もうダメ、理性がもたねぇ!!!


胸をぎゅううっと押さえながら、俺は必死に叫んだ。


「わ、わかった!!!じゃあ……ありがたく、使わせてもらう!!」


顔を真っ赤にしながら、サクラに向かってぺこりと頭を下げる。


サクラはこくんと、満足そうに頷いた。


……やばい、こいつ……本当に天使かもしれない


そして――


俺は心の中で、思わず叫んだ。


誰だよ、サクラに感情がないとか言ったやつ!!!


思いっきりあるだろぉぉぉぉおおお!!!


胸がぎゅうぎゅうに締め付けられる。


ドキドキが収まらないまま、俺はそろりとサクラのベッドに向かって歩き出した。


サクラのベッドは、さすが女王さまといった豪華さだった。


キングサイズなんてもんじゃない。


天井からはふわふわのレースのカーテンが降りていて、中に一歩足を踏み入れるだけで、甘い女の子の香りがふわりと漂う。


……やべぇ、逆に眠れねぇ……


ドキドキしながら、俺はベッドにそっと潜り込んだ。


ふかふかの布団。甘い香り。


心臓が落ち着くどころか、どんどん騒ぎ出す。


これ……今日寝れるか……?


そんなことを考えながらも、目を閉じた。


――だが、なかなか眠れなかった。


そして、時間が経った頃。


「……やだ……行かないで……」


か細い、震える声が聞こえた。


「……っ!」


俺は目を開ける。


サクラのほうから、小さな寝言が続いていた。


「……おにぎり……また、一緒に……」


……おにぎり?


まさか……日本にいた時の、思い出……?


胸がぎゅっと締め付けられる。


サクラ……まさか、本当に――


そんな時だった。


「ドスン!!」


突然、鈍い音が響いた。


「うわっ!」


びっくりして飛び起きる。


慌てて音のした方を覗き込むと――


サクラが俺の狭いベッドから、床に落ちていた。


しかも、その目には涙。


「……サクラ……!」


慌てて駆け寄る。


震える手で、そっとサクラの身体に触れる。


あたたかくて、かすかに震えていた。


泣きながら……苦しそうに……


そっとサクラを抱き上げる。


軽くて、柔らかくて、少しだけひんやりしている。


俺が……守らなきゃ……


レースのカーテンをくぐり、サクラをそっとベッドに戻す。


その瞬間だった。


「……ア…ルト?」


かすれた声で、サクラが俺を呼んだ。


「……サクラ?」


驚いて名前を呼ぶ。


サクラはぼんやりと俺を見たまま、ふにゃっと眉を寄せた。


「……怖い夢を見た」


「……怖い夢?」


俺はそっとサクラの頭を撫でた。


こんな小さな声で、こんな顔で……


どんな夢を見たんだろう。


サクラはまた目を閉じ、静かに寝息を立てはじめた。


俺はそっと、サクラの頬にかかる髪を払いながら、じっとその寝顔を見つめた。


おにぎり……日本で、誰かと一緒に食べたのか?


……家族か、友達か、誰か大切な人か……


サクラの柔らかい髪に指が触れる。


この子は……いったいどんな場所にいて、どんな毎日を過ごしていたんだろう。


そして、どうして――この世界に来たんだろう。


心の奥から、ふわっと切ない気持ちが広がっていく。


……知りたい。


もっと、ちゃんとサクラのこと、知りたい。


そっと毛布を直して、サクラの手を一瞬だけ握る。


……必ず聞こう。


サクラの過去も、思い出も――全部。


「おやすみ、サクラ」


小さく囁くと、俺は自分の小さなベッドに戻った。


俺はそっと目を閉じた。


――そして次の日


「アルト、朝だ」


低く、でもはっきりとした声が耳元で響く。


「……あと5分……」


俺は寝ぼけながらぼそっと呟いた。


その瞬間――


「はぁ……」


呆れたようなため息とともに、体をゆさゆさと誰かに揺さぶられる。


う、うるさいな……誰だよ……


重たいまぶたをゆっくり持ち上げると――


「……っっ!?」


視界いっぱいに、サクラの顔が飛び込んできた。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


飛び起きる俺。


そこには、着替えもメイクも完璧に済ませたサクラが、無表情で立っていた。


「……アルト、おはよう」


「お、おはよう……!」


必死で心臓を落ち着かせながら、返事をする。


ド、ドアップサクラの破壊力……!!


サクラは気にする様子もなく、淡々と続けた。


「早く起きろ。冷める」


「……冷める?」


きょとんとしていると、サクラがすっと指差す。


そこには、ふわぁっといい匂いが漂うテーブル。


ご飯らしきもの、焼き魚、味噌汁風スープ、野菜の和え物――


どう見ても朝定食。


しかも、二人分。


「ま、まさか……」


俺はふらふらと近づく。


「サクラ……これ、もしかして……」


「作った」


あっさりと言うサクラ。


「マジかよぉぉぉぉ!!ありがとう!!」


感動で叫ぶ俺。


ふるえる手で箸を持ち、恐る恐る一口。


「……っ!!」


う、うまい……!!!


「めちゃくちゃうまいじゃねぇか!!!」


思わず叫ぶ。


サクラは無表情のまま、椅子にちょこんと座った。


俺は勢いよく食べ進めながら、ふとサクラを見る。


すると、サクラがぽつりと呟いた。


「昨日の夜……ごめん」


「え?」


手を止めた俺に、サクラは小さく続ける。


「……ベッドを戻させたこと。すまないと思っている」


サクラは少しだけ眉を下げ、どこか申し訳なさそうに目を伏せた。


……ああもう、そんな顔すんなって……!


俺は慌てて首を振った。


「い、いいって!全然気にしてねぇから!」


「……ほんとに?」


「ほんとほんと!」


大きく頷く俺に、サクラはふわっと小さく息を吐いた。


……ホッとしているサクラ。


そんなサクラを見ながら、俺はふと昨日の夜のことを思い出した。


……サクラは前の世界にいた頃、どんな感じだったんだろ。


あんな寝言、聞いちまったら――気にならないわけがない。


俺はそっと、箸を置いた。


そして、ごく自然な声で言う。


「なぁ、サクラ」


「なんだ」


「……言えたらでいいんだけどさ」


「?」


「サクラは、なんでこの世界に来たんだ?」


サクラは一瞬、動きを止めた。


静かに、俺を見つめる。


テーブルには、二人分の温かい朝ごはん。


ほんのりとした湯気が、ゆらゆらと揺れている。


無理に聞く気はない。


でも、できるなら――サクラのこと、ちゃんと知りたい。


俺はサクラから目をそらさず、ただ静かに、返事を待った。

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