女王さまとバスルーム大事件!?3
「っ……」
反射的に顔を向けると――
サクラが、バスルームから出てきた。
顔の下半分をタオルで隠すようにしながら、控えめに。
……っ!
ピンクのリボンが胸元についた、ふわふわのパジャマ。
腰まである薄い金髪は、しっとりと背中に貼りついている。
や、やべぇ……!!
ふわっと、同じシャンプーの甘い香りが漂ってきた。
同じ匂い……っ!
サクラはタオルでそっと顔を拭きながら、チラッと目だけでこちらを見ている。
……なんで顔隠してんだ?
俺は、ドクドク鳴る心臓を無理やり抑えながら、そっと聞いた。
「……なぁ、サクラ。なんで顔、隠してんだ?」
サクラはタオル越しに、少しだけモジモジと動いた。
それから、ぽつり。
「……恥ずかしい」
「な、何が恥ずかしいんだよ?」
俺は慌てて尋ねる。
サクラはタオルに顔をうずめたまま、小さな声で答えた。
「……素の姿だからだ」
「素の……?」
すっぴん、ってことか……
「でも、レイとリオの前でも……見せてたんだろ?」
サクラは小さく、でもはっきり首を横に振った。
「レイとリオの前では……こんな気持ちになったことがない」
――っ!
ドクン、と心臓が跳ねた。
こんな気持ち……って……!
呼吸が一瞬止まる。
そんな俺の反応を知らないまま、サクラはベッドの横にそっとちょこんと座った。
そして、おそるおそる――
「……私の、素の顔は、どうだ?」
ぽつりと尋ねながら、タオルを少しずつずらしていく。
ふわっとタオルが滑り落ちた。
そこにいたのは――
普段の女王さまのような堂々とした気配は、跡形もなかった。
むしろ、ぎゅっと縮こまるような仕草。
目元はまだ少し潤んでいて、素顔を見せることに不安げに揺れている。
どこか、幼さすら感じる。
ただのおとなしそうな、年相応の女の子だった。
か、か、かわいいぃぃぃぃぃぃ!!!
ドクンッ!!!
視界がグラグラする。
「っ、あ、あああ……!!」
必死で言葉を探して、でも、何も出てこない。
サクラは無表情のまま、じっと俺を見つめてきて――
でもその指先が、膝の上で小さく震えているのを、俺は見逃さなかった。
……サクラだって、緊張してんだ……
胸がぎゅうっとなる。
かわいすぎて、マジで無理だ……!!!
顔が爆発しそうなほど熱くなった俺は、全力でベッドに突っ伏した。
「だ、大丈夫、完璧……!!完璧すぎて無理ぃぃぃ!!!」
叫びながら、顔をシーツにうずめた。
背中でサクラがまた、きょとんとした気配を漂わせていた。
……この距離、この空気……マジでどうにかなりそうだ……
顔をシーツに押し付けたまま、俺は必死で呼吸を整えていた。
……無理だ、マジで無理だ……!
そんな俺の耳に――
ふわりと、小さな声が届いた。
「……完璧すぎて無理とは、どういう意味だ?」
「っ……!」
顔を上げられずにいると――
サクラは、そっと言葉を続けた。
「無理、なのか?」
その声は、かすかに震えていた。
チラリと横目で覗くと、サクラは膝の上でぎゅっと手を握りしめ、ほんの少しだけ俯いている。
……ああああああ!!!
違う!違う違う違う違う!!!
慌てて、でも上手く言葉が出ない。
「そ、そういう意味じゃねぇぇぇぇええええ!!」
俺は顔を真っ赤にしながら、思いっきり叫んだ。
サクラがビクッと肩を跳ねさせる。
や、やべぇ、怖がらせたか!?
さらに慌てて、必死に声を絞り出す。
「す、すごく!すごくかわいいってことだよ!!」
言い終えた瞬間、俺はもう耐えきれず――
「うわぁぁぁぁぁあああ!!」
叫びながら、がばっと布団に潜り込んだ。
無理だ!直視できねぇぇぇぇ!!!
布団の中で必死に顔を隠す俺。
外からは、サクラの反応がない。
……え、やべぇ、引かれたか……?
びくびくしながら気配を探る。
でも、聞こえてきたのは――
静かな足音だけだった。
そっと、そっと立ち上がって――
サクラは無言のまま、自分のベッドへ向かっていった。
……え、な、なんか、怒ってる!?
それとも、困らせた!?
やばい、どうしよう……!!
布団の中でドキドキしながら、俺はそっと様子を伺った。
サクラは、背筋をぴんと伸ばしたまま、自分のベッドに腰掛けて、静かに布団を整えている。
妙におとなしいその背中に、胸がぎゅうっと締めつけられる。
……絶対、絶対傷つけたくない……!
だけど、今はどう声をかけたらいいか、わからなかった。
バクバクと高鳴る心臓を押さえながら、俺はただ、布団の中で小さく小さく、丸くなっていた。
布団の中で縮こまりながら、俺は何度も自分に言い聞かせた。
い、行け……!男だろ俺……!
ぎゅっと拳を握りしめ、勇気を振り絞って、布団から顔を出した。
サクラは、自分のベッドに腰掛けたまま、今も布団を整えてる。
……な、なんか静かすぎないか……?
ドクドクと高鳴る心臓を押さえながら、俺はそろりそろりと近づいた。
ベッドのすぐ横に立ち、俺は小さな声で――
「サ、サクラ……怒ってる?」
と、震える声で聞いた。
サクラは、ぱたりと布団を整える手を止めた。
ゆっくり顔を上げ、俺を見上げる。
無表情……だけど、どこか不思議そうな目。
「……なぜそう思う?」
落ち着いたトーンで、問い返してくる。
「だって……!」
俺は思わず声を上げた。
「だって、無言のまま……いなくなっただろ!?」
言いながら、自分でも子供みたいだってわかってた。
でも、ドキドキして不安で、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
サクラはじっと俺を見上げる。
そのまなざしに、また胸がぎゅっと締め付けられる。
……やっぱ怒ってる……?
嫌われた……?
そんな思考で頭がいっぱいになりかけた、その時。
サクラは、小さく首を横に振った。
「怒ってない」
ぽつりと、短く。
「……!」
サクラはそのまま、さらに小さな声で続けた。
「アルトに……かわいいって言われたから」
「……!!?」
「どうしたらいいか、わからなかった」
ぼそっと、顔を少し伏せるサクラ。
その薄い金髪が、肩からふわりとこぼれ落ちる。
うわあああああ!!!
やばい、そんなの、そんなの……!!!
心臓が跳ねまくる。
かわいい……かわいすぎるだろおおおおお!!
思わずその場に崩れ落ちそうになりながら、
俺は、必死に顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「お、怒ってないなら、よかったぁぁあ!!」
サクラは、少しだけきょとんとした顔で、俺を見つめた。
ああ、だめだ……この距離、近すぎる……!!
目をそらしたら負けな気がして、俺は必死にサクラの視線を受け止めた。
サクラは、ほんのわずかに微笑んだ気がした。
……やべぇ、今の……
心臓、確実に撃ち抜かれた……
俺はその場にへたり込みそうになる足を必死でこらえながら、サクラの隣にそっと腰を下ろした。




