女王さまとバスルーム大事件!?2
サクラの必死な説明を聞いて、俺はなんとか落ち着きを取り戻していた。
……モニターで存在確認してたのか。
ちゃんと、考えてたんだな……
「……じゃあさ!」
思わず振り返りながら叫んだ。
「なんで一緒に入ることになったんだよぉーー!?しかも服まで脱ぐ勢いで!!」
怒鳴りながら振り返る。
その瞬間――
ガチャ。
脱衣所のドアが開く音がした。
うわぁぁぁぁぁぁ!!来るなぁぁぁぁ!!
俺は慌てて顔を背け、目をぎゅっとつむった。
けど――
ちらっと足元を見ると、サクラのドレスのすそがふわりと視界に入った。
……え?
そろっと振り返ると、ドレスを着たままのサクラが静かに立っていた。
「……サ、サクラ……服、着てんのか?」
サクラは無表情でこくんと頷いた。
「服は脱いでない。前日着ていた洗い物の音だ」
「はああああああああ!?」
俺、全力で叫んだ。
「音だけで俺に勘違いさせてんじゃねぇぇぇぇええええ!!!」
心臓バクバクしながら、さらに指差す。
「じゃあこの透明の仕切りは何なんだよぉぉぉ!!!」
サクラは無表情で、静かに仕切りに手を伸ばした。
すると――ふわりと白く曇る。
「普段は透明ではない」
「……は?」
「試すために透明に設定した」
「お前えええええぇぇぇええええ!!!」
俺は頭を抱えた。
わ、わざとかよ……!!
完全に試されたぁぁ!!!
「じゃあっ!」
震える声でさらに言う。
「さっき一緒に風呂入ろうって言ったのも……」
サクラは小さく、でもはっきり頷いた。
「……アルト、私も、ごめん」
「え?」
俺が驚いていると、サクラは小さな声で続けた。
「アルトのこと……試そうとした」
「っっっ!!!」
頭が真っ白になる。
「試したって……お前……!!」
俺はしどろもどろになりながら必死に問い詰めた。
「サクラ、お前に……そんなこと、できるのかよ……?」
サクラは少しだけ黙ったあと、静かに答えた。
「アルトが、私に……どう向き合うか、知りたかった」
「……!」
胸がギュッと締め付けられる。
「それって……俺のこと、試したんじゃなくて――」
言葉を探しながら、俺はようやく絞り出す。
「……俺を信じたくて、確認したんだろ」
サクラは一瞬だけ、瞳を揺らした。
そして――
「信じてる。だから、確かめたかった」
「……っ」
ぐらぐら揺れる俺。
ずるい……こんなの、ずるすぎるだろ……
……可愛すぎるだろ。
「……ほんと、しょうがねぇな」
ぼそっと呟くと、サクラはじっと、じっと俺を見つめてきた。
その無表情の奥に、確かに俺を試してしまった後悔と、でもちゃんと向き合おうとする意志が見えた気がした。
「俺は……サクラが、サクラのままでいてくれるだけでいいんだ」
ふっと、サクラが瞬きした。
俺はもう一度、震える拳を握りしめて言った。
「……俺、サクラのこと、ちゃんと見てたから」
サクラは小さく、小さく呼吸を吐いた。
「私も……」
ぼそりと、でも確かに返してくる。
うわあああああああ!!!
心臓が爆発しそうだった。
バスルームの静けさの中、俺は少しだけ息を整えた。
「……なぁ、サクラ」
小さく声をかける。
サクラは小さく首をかしげて、俺を見る。
「さっき言ってた……ルールのことだけどさ」
「ルール……?」
ぽつりと繰り返すサクラ。
ああ、やべぇ……
こんなに真面目な顔して見られると、ドキドキする……!
俺はそれをごまかすように、ぎこちなく笑った。
「俺とサクラだけのルール、これから一緒に作ってこう?」
「……一緒に?」
サクラは小さく瞬きをして、少しだけ考える素振りを見せた。
そして、静かに頷く。
「うん」
うぅ……かわいい……
胸がぎゅうっと締め付けられる。
すぐにサクラは表情を戻し、さらりと言った。
「提案がある」
「へ?」
思わず間抜けな声を出した俺に、サクラは続ける。
「これからは、部屋の中でも、外でも――自由行動にしよう」
「……!」
部屋でも外でも自由行動……
俺は少し驚きながら、心の中で反芻した。
……最初は確かに、常に一緒なのは重いって思ったけど……
今は――
サクラと一緒にいるのが、全然嫌じゃない
むしろ、離れるのがちょっと、寂しいくらい。
俺は、ゆっくり息を吸った。
「……わかった」
素直に頷く。
サクラは静かに瞬きをして、俺の顔をじっと見た。
「納得したのか?」
「まあな」
俺は照れ隠しに頭をかいた。
「でもな、サクラ」
「?」
「自由行動って言ったけど、俺はできるだけお前と一緒にいたいって思ってる」
「……」
サクラは一瞬きょとんとした。
……マジで可愛いな、こいつ。
俺は小さく笑って、続けた。
「なぁ、サクラ。思いやりって言葉、知ってるか?」
「……思いやり?」
サクラは小首をかしげる。
「そう。相手のことを考えて、行動したり、気持ちを汲んだりすることだよ」
俺はサクラの瞳を見ながら、ゆっくり言った。
「サクラが自由行動を提案してくれたのって、俺のこと考えてくれたからだろ?」
サクラはまた、きょとんとした顔をしながら――小さく、こくんと頷いた。
「それが、思いやりってやつだ」
「……思いやり」
サクラは小さく繰り返し、まるで大事な宝物でも見つけたみたいに、ふわりと微笑んだ。
……あ……今、笑った……
ドクン、と心臓が跳ねた。
俺は必死に顔がにやけるのをこらえながら、もう一度言った。
「サクラ、ありがとな」
サクラは少しだけ、首を傾げたあと――
「……ありがと、だよ」
ぎこちないけど、確かに、俺に向かってそう言った。
……もう、だめだ。
俺はその場にへたりこみそうになりながら、全力で心の中で叫んだ。
なんでこんなに……かわいいんだよぉぉぉ!!!
その時――
サクラはすっとパジャマのようなものを手渡してきた。
「アルト、先に入れ」
「……え?」
思わず目を瞬かせる。
俺が、先?
サクラは無表情のまま、淡々と説明を続けた。
「髪を洗うボトルは黄色。体を洗うボトルは白」
「お、おう……」
「湯温は自動で調整される。入ったら、まず頭から洗え」
なんか、やたら丁寧なんだけど……
「わ、わかった、ありがとうな」
礼を言うと、サクラはふいっと顔をそらした。
やべぇ……ツンのサクラもかわいい。
俺は渡されたパジャマを手に、バスルームへ向かった。
浴室に入ると、確かに言われた通り、黄色いボトルと白いボトルがきちんと並んでいる。
……マジで細かいな、サクラ
じわっと胸が温かくなった。
ちゃんと俺が困らないように考えてくれてんだな……
そう思うと、自然に顔がほころんだ。
――しっかり髪と体を洗って、さっぱりした俺は、ふぅっと息をつきながら部屋へ戻った。
はー……やっぱ風呂って最高……
そして、部屋の隅に置かれた俺用の小さなベッドに腰を下ろして、しばらくぼーっと涼んでいた、その時だった。
ガチャ、と静かに脱衣所のドアが開いた。




