表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/68

ほんのりかわいい系の基礎!?

「……おい、ちょっと待てよ?」


俺は慌てて声を上げた。


「この世界じゃさ、前の名前を捨てるって、最初にレイから聞いたけど……」


サラは無表情でこっちを見ている。


「サラは俺を本名で呼んでいいのか?」


サラは一拍置いて、静かに答えた。


「私は女王だ。私がいいなら、それでいい」


「――適当すぎだろぉぉぉぉお!!!」


俺は思わず叫んだ。


でもサラは気にする素振りもなく、さらに淡々と続ける。


「ただし、二人きりの時だけだ」


そう言って、サラは―― ちょこんと小指を立て、指切りげんまんのポーズをした。


え、かわっ……


ドクンと心臓が跳ねる。


「……っ、な、なんだよ」


「再度、約束を確認する」


俺はゴクリと息を飲んだ。


「……あ、ああ、わかったよ……」


そっと自分の小指をサラの小指に絡める。


俺またドキドキしてる……やばい……


「……なぁ、サラ」


俺は思い切って聞いてみた。


「サ、サラの本名を聞いたらダメか?」


サラは少しだけ首をかしげた。


「理由は?」


「……サラだけ本名で呼ぶとか……ずるいじゃん」


「ずるい?」


無表情のまま、サラは小さく呟く。


「……本名、カスガイ・サクラ」


小さく、だけど確かに、そう答えた。


「カスガイ・サクラ……?」


俺は、呟くように繰り返した。


……なんか、めちゃくちゃ日本っぽい名前じゃねぇか。


偶然なのか……?それとも俺のかすかな願望なのか……?


胸の奥がざわつく。


でも、気になった俺は、止まらなかった。


小指を絡めたまま、俺は思わず口を開いた。


「なぁ……サクラ」


「?」


無表情のまま、サクラが首をかしげる。


「……向こうの世界、つまり……元の世界では、何歳だったんだ?」


サクラは少しだけ目を伏せて、珍しく考え込むような仕草を見せた。


「……言う必要があるのか?」


「知りたいんだよ」


俺は小さく笑った。


「本当のサクラのこと、ちゃんと知りたいから」


サクラは小さく息を吐くと、静かに答えた。


「……19」


「――19?」


思わず聞き返す。


「アルトは?」


サクラが逆に問いかけてきた。


「俺? 俺は……はたち、20」


たった一個違い……


しかも俺のほうが年上じゃん……


なんだか、妙に心臓がバクバクしてきた。


「……ほぼ同い年、だな」


サクラは淡々と呟いた。


「う、うん……そ、そうだな……!」


あれ……これって……


もしかして……いや、いや、深く考えるな俺!!


無理やり自分を落ち着かせようとするけど、顔がどんどん熱くなるのがわかる。


サクラはそんな俺を、きょとんと見つめたままだった。


そして――


「……指切りげんまん」


小さな声で、サクラがそっと言った。


「――嘘ついたら」


俺は慌てて続ける。


「……えっ、えっと……俺の視界から消える!」


やべぇ、サクラが前に言ってたのと同じこと言っちまった!!


するとサクラは、ぱちりと瞬きをして、静かに答えた。


「絶対、しない」


うわあああああああ!!


小指同士が、きゅっと絡んだまま。


サクラの無表情の奥に、かすかな――ほんのかすかな温度が宿ったような気がした。


……なんだよこれ、かわいすぎる……


俺はまた心臓を押さえて、静かに悶絶していた。


やっべぇ、なんか楽しくなってきた……


俺は止まらないテンションに任せて、サクラにふざけた提案をしてしまった。


「なぁ、サクラさ」


「?」


サクラが無表情で俺を見る。


「もうちょっと……女の子っぽい話し方に、語尾だけでも変えたり……しない?」


サクラはまた小さく首をかしげた。


「女の子……?話し方……?」


「そ。なんつーか……こう、語尾に“だよ”とか“なの”とか、かわいいやつ」


サクラはしばらく真剣に考えたあと、ぽつりと聞き返してきた。


「どんな風にだ?」


うわ、マジで聞いてきた……!!


俺は一瞬で焦った。


「いやっ、いやいや!やっぱなんでもねぇ!気にすんな!」


慌てて両手を振りまくる。


「そのままでいい!今のサクラで十分だから!」


教えたら絶対死ぬ、俺が!!


サクラはそんな俺をじっと見たあと、あっさりと言った。


「学習はできる」


「えっ」


「教えてくれ」


う、嘘だろ……!?


あのサクラが……!?


心臓がまたドクンと跳ねる。


「ま、マジで?」


「必要ならば」


「ひ、必要かどうかは……」


サクラの無表情にぐいぐい押される俺。


うわぁぁあああ、どうすりゃいいんだこれ!!!


必死に頭を抱えながら考える。


ど、どうしたら伝わるんだ?


女の子っぽくとか、かわいくとか……言葉で説明するの無理ゲーだろ!!


俺はしばらくぐるぐると悩んでから、ポツリと言った。


「……たとえば、“〜だよ”って優しく語尾に付けるとか……?」


サクラはコクンと頷く。


「理解した」


「え、理解したのかよ!!?」


いや、絶対理解してねぇ顔だろこれ!!


その時――


サクラは真顔のまま、静かに口を開いた。


「……アルトだよ」


「ぶふっ!!」


か、かわいいぃぃぃいいいいいい!!!!


俺のHP、ゼロぉぉぉぉお!!


サクラはきょとんとしたまま、俺を見つめ続けていた。


「……あ、ユラがいた」


ふと、サクラがぽつりと呟いた。


「ユラ?」


聞き返す俺をよそに、サクラはポケットからあのカード型の通信端末を取り出し、淡々と操作を始める。


俺が首をかしげていると 数分後――


コンコン、と控えめなノック音がして、 部屋の扉が静かに開いた。


「女王さま、お呼びでしょうか?」


静かに開いたドアの向こうには、ベージュ色の前髪をきれいに分け、肩下まで流れるさらりとした髪を揺らす女の子が立っていた。

同じ制服――灰色のセーラー服に身を包み、きりっとした目でサクラを見つめている。


「入れ」


サクラ――いや、女王のサクラが冷たい声で促す。


ユラは一礼して、すっと中に入ってきた。


サクラはすぐに切り替わった。 無表情ながらも、自然と背筋が伸び、まるで女王そのものの雰囲気をまとっている。


……やべぇ、さっきまでのきょとんサクラどこ行った!?


俺は驚きながらその様子を見つめた。


ユラは、ぴたりとサクラの前に立ち、再び恭しく頭を下げた。


「ご命令を」


「ユラ、私を女の子っぽくしてくれ」


えぇぇぇええええ!?


あまりに唐突なサクラの言葉に、俺は盛大にズッコケそうになった。


ユラは一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに静かに頷いた。


「承知しました、女王さま」


そして、サクラはちらりとだけ俺を見た。


その一瞬だけ、確かにきょとんとしたサクラが戻った気がした。


……やべぇ、ドキドキ止まんねぇ……


俺はこっそり胸に手を当てた。


「女王さま、どのような女の子になりたいか、お考えはありますか?」


ユラはまるで接客のプロみたいに、にこやかに尋ねる。


な、なに聞いてんだぁぁぁ!?


俺はその言葉に思わずビクッと肩を揺らした。


つか、女王さまに“なりたい女の子像”とかあんのかよ!?


サクラは、ユラの問いかけに一度だけ静かに瞬きをした。


そして――


「アル」


「えっ、俺!?」


いきなり振られて、俺は裏返った声を出す。


サクラは冷静そのものの顔で、すっと言った。


「アルの意見を聞く」


ひぇぇぇぇぇええ!!


心臓が爆発しそうになる。


俺以外のみんなは女王さまモードのサクラしか知らねぇんだよな……


必死に冷静を装いながら、言葉を探す。


「え、えっと……その……あんまりバリバリな女の子っていうより……」


「表情とか……ちょっと柔らかくしてもいいかも……? 言葉も、優しくして……」


気づけば、どんどん欲が出てきてた。


「仕草とかも、こう……自然に笑ったり、照れたり……?」


気づけばどんどん口が勝手に動いてる!!


うおおおお!!俺なに言ってんだ!!


頭の中では勝手に想像が暴走していた。


サクラが、ふわっと微笑んで、ちょっと恥ずかしそうに髪をいじったり――

言葉に小さな語尾がついたり――

それで無表情がふいに崩れたら……?


ぶっはぁぁぁああああ!!!


鼻血が出そうだった。


そんな俺の様子を、ユラは小さく笑いながら聞き流していた。


サクラはじっと俺を見つめて、


「了解した」


と、静かに言った。


ユラも優しく微笑む。


「承知しました、女王さま。それでは“ほんのりかわいい系”の基礎から始めましょう」


ほんのりかわいい系ってなんだよぉぉぉお!!!


心の中でツッコミながら、止まらないドキドキを必死に抑えた。


サクラはふいに、ちらりと俺を見た。


……え?


ほんの一瞬だけ、無表情の奥に―― 微かに、柔らかい光が宿った気がした。


……絶対気のせいじゃねぇ!!


俺はまたしても胸を押さえて、うずくまりそうになるのをこらえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ