表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/68

初めて挑む女王さまの手作りごはん!2

しばらくすると――


ふわっと、いい香りが漂ってきた。


……え?


腹ペコで伏せていた顔を、そっと上げる。


そこには、真剣な顔で一生懸命料理しているサラの姿があった。


……こうやって見てると、普通の女の子みたいなのにな……


無表情で、でもどこか不器用な手つきで必死に調理している。


その姿を、ぼーっとした意識の中で俺はただ見つめていた。


やっぱかわいい……かも。


再びドクンと胸が高鳴る。


そんな俺の視線にも気づかず、サラは作業を続け、やがて俺の前に立った。


「お前が求めているものが何かは分からない。だが――」


そう言って、俺の前に皿を差し出した。


そこには、チャーハン……っぽいものが、こんもりと盛られていた。


「うおおおっ……!」


俺は思わず身を乗り出した。


「向こうに座る場所がある」


サラが指差したのは、調理室の端にある簡単なテーブルと椅子。


「お、おう!」


立ち上がってふらふらしながら席に向かうと、サラは無表情のまま後ろからついてきた。


……あれ、なんか、デートみたいじゃね?


一瞬そんなバカみたいなことを思った自分に恥ずかしくなる。


座って、改めて皿を見下ろす。


湯気が立っていて、見た目はそこそこちゃんとしてる。


「い、いただきます!」


震える手でスプーンを持ち、パクッと口に運んだ。


――その瞬間


「うまっ!!」


思わず叫んでいた。


「な、なんだこれ!?めちゃめちゃうまいんだけど!!」


パラパラのご飯っぽいものに適度な塩気、ほんのり香る異世界のスパイス――


なのに、ちゃんとチャーハンしてる!


サラは無表情でそんな俺を見つめていた。


「……満足したか?」


「大満足だぁぁぁああ!!」


両手をバンバンテーブルに打ちつけながら叫んだ。


「なぁサラ!お前も一緒に食べようぜ!」


俺はスプーンを持ったまま誘った。


サラは少しだけ首を傾げた。


「私は必要ない」


「いいから!せっかく作ったんだし、食べようぜ!」


俺が笑いかけると、サラはほんのわずかに、

ほんの、ほんの少しだけ――眉を下げた。


「……わかった」


そうして、隣に座った。


俺たちは並んで、作りたてのチャーハンっぽいものを食べた。


「なぁ、サラ」


「何だ」


「この料理……うまくね?」


俺がそう言うと、サラは一瞬、驚いたようにぱちくりと目を見開いた。


え、珍しい……


一瞬だけ固まったサラは、すぐに表情を戻して、コクりと小さく頷いた。


やべぇ……今の、マジでかわいい。


……なんだこの気持ち、めっちゃ幸せじゃん。


ドクドクと心臓がうるさい。


しばらく無言で食べていると――ふと気付いた。


「……あ」


調理室を見渡すと、コンロも、調理台も、道具も、ぐっちゃぐちゃだった。


「うっわ……すげぇなこれ……」


サラは平然と食べながら言った。


「調理過程で発生した混乱。通常現象だ」


「いや通常じゃねぇよぉぉぉ!!」


俺は頭を抱えながら、立ち上がった。


そしてサラの方を向き、深呼吸する。


「ごちそうさまでした」


サラは無言で俺を見た。


「サラ、ほんとにありがとう」


「ありがとう?なんだそれは」


首を小さくかしげるサラに、俺は苦笑いしながら説明した。


「誰かが何かしてくれた時に、感謝してるって伝える言葉だよ。ありがとうって言うと、嬉しい気持ちが伝わるんだ」


サラはしばらく考えたあと、ぽつりと呟いた。


「……難しい」


「ま、まあ今はそれだけ分かってくれたらいいよ!」


俺は笑って、拳をぎゅっと握った。


「よし、サラが一生懸命作ってくれたから、片付けは俺がする!」


「……?」


サラはまたきょとんとしながら俺を見たが、すぐに頷いた。


「わかった」


気合を入れて、ぐちゃぐちゃのキッチンに向かう。


よっしゃあぁぁあ!!片付けてやるぜ!!


しかし、目の前に広がるのは油にまみれたコンロ、食材が散乱した調理台、泡だらけのシンク。


くそっ……どっから手ぇつけりゃいいんだよ……!


必死にスポンジを持って、皿を洗い始める。


「よいしょ、っと……」


――その時


「お前の動きは、無駄が多い」


ぴたりと背後から冷たい声が飛んできた。


「うっ……」


ビクッとして振り返ると、サラが無表情で立っていた。


サラは無言でスポンジを取り、隣に並んで皿を洗い始めた。


嘘だろ!?手伝ってくれるのかよ……!


嬉しくなりながらも、黙って作業を続ける。


ちらっと隣を見ると、サラは洗剤を出しすぎて泡だらけになったり、皿を滑らせてカンカン鳴らしたり――


……不器用すぎだろ!!


俺は堪えきれず、思わず吹き出しかけた。


……あれ?


俺はサラの頬に、小さな泡がぺたっとついているのに気付いた。


なんだこれ……かわいすぎる。


思わず、笑いがこぼれる。


「ふっ……あははっ……サラ、顔、泡ついてるって」


サラは無表情のまま、指で自分の頬をちょんと触った。


「……?」


泡に全然気づいてない様子。


「動くな、取ってやる」


俺はそっと手を伸ばし、サラの頬に指を添えて、泡をぬぐった。


サラの白い肌と、無表情なのにどこか不安そうに揺れる瞳がすぐ目の前にあって、心臓がドクンドクンとうるさくなる。


「……取れたぞ」


手を離すと、サラはじっと俺を見つめた。


「今の行動の意味は?」


「いや、だから、泡取っただけだって!」


俺は顔を真っ赤にしながら叫んだ。


サラは無表情で、でもなぜかほんの少しだけ、目元が柔らかくなった気がした。


……やばい、これ、マジでドキドキする……


泡だらけのキッチンの中、俺たちはほんの少し、また距離を縮めた気がした。


その後、なんとか、キッチンの片付けが終わった。


俺は手を拭きながら、大きく伸びをする。


「ふぅ~……二人で片付けたから早めに終わったな!」


サラは無表情のまま、ぽつりと言った。


「さて、戻るか」


「……おい!」


思わず叫んだ。


「もっとこう、達成感とか労いの言葉とかねぇのかよ!」


サラは首をかしげただけで、特に反応しない。


む、無反応すぎる……!


そんな俺の視線の前で、サラはエプロンの紐をほどき、無造作にエプロンを外した。


次に、ふわっと、頭の後ろでまとめていた髪をほどく。


っ……!


解き放たれた金色の髪が、肩にふわりと流れ落ちる。


やべぇ……


ただエプロンを外して髪をほどいただけなのに、妙に色っぽくて、無性にドキドキした。


俺は小さくため息をついた。


……ダメだ、慣れるとかそんなのじゃねぇ。普通に意識してきてる……


そんなことを思いながら、ふと時計を見れば、外はもうすっかり暗くなっていた。


マジか、もうこんな時間……


「なぁ、サラ。時間、結構遅いな」


「この世界の休息時間には誤差の範囲だ」


「部屋に今から戻るのか?」


俺が問いかけると、サラは無表情のまま答えた。


「そうだ」


そのまま歩き出そうとする背中に、俺は、ふと気になって声をかけた。


「なぁ、サラ……明日からの俺の食事なんだけど……」


ぴたりと足を止めたサラは、振り返ることもせずに、ぽつりと呟いた。


「作ればいいか?」


「は?」


一瞬、俺の中で時間が止まった。


……今、なんて言った?


思わず目をぱちぱち瞬かせる。


そんな俺を気にも留めず、サラは無表情のまま淡々と続けた。


「お前がいた世界の食事はよく分からない。ただ、似せることはデータ上可能だ」


「データ上って……お前、どこまで万能なんだよ……ぷっ、万能でもねぇか」


小さくツッコミを入れる俺。


サラはそれにも反応せず、さらに続ける。


「また、明日の買い物で教えてくれ」


「え、あ、ああ……」


完全にペースを持っていかれたまま、俺はうなずいた。


サラは何事もなかったかのように、再び部屋へ向かって歩き出す。


その背中を見送りながら、ふとさっきの調理室でのことを思い出す。


ぐちゃぐちゃになったキッチン、泡まみれになりながら二人で必死に片付けた光景、サラの頬にちょこんと泡がくっついてたのを思い出す――


「ぶっ……」


思わず吹き出しそうになった。


あいつ、めっちゃ無表情で泡だらけだったよな……


顔を隠すようにして小さく笑いながら、俺はサラの後をそっと追いかけた。


胸の中は、さっきよりもずっと温かい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ