04. フェアリ・ドラゴン(1)
まだ乾ききっていない爪よりも小さな淡い緑色の鱗が、カチカチと音を立てて動く。
まだ幼くて目を開けることができない生き物が、必死にもがきながら、残された束縛から抜け出そうともがき苦しんでいた。
それを注意深く見ていた伯爵は、淡々と卵を見下ろした。
「ドラゴンか」
明快な結論だった。
「バカバカしい! もう生まれるはずがない…」
詐欺師の驚愕が続いた。
ひどく驚いた様子に満ちた詐欺師は、信じられないような目を輝かせながら卵を見ていた。
「それで、この卵の持ち主は誰なんだ?」
再び彼の視線は自然と目の前にいる3人に向けられた。
「わ、私です!」
しばらくぼんやりしていると、メリが手を振りかざし、卵の持ち主であることを主張した。
「うーん、かなり弱ってるわね。魔力を補充するポーションが必要ね」
「ええと…ポーション?」
伯爵の言葉に、ふと、先ほど出会った少年がくれた神秘的な紫色の薬を思い出した。
「ポーションかどうかはわかりませんが、薬みたいなものはありますよ!」
席を立ったメリは、荷物を取り出そうと荷台に手を伸ばした。
その間に、詐欺師が伯爵から卵を奪おうと動いた。
詐欺師は襟の内側に手を向け、腕から短い短剣を取り出した。
-カーン!
卵を持った伯爵の隙を突いてチャンスを狙うが。
「無意味な反抗だ」
短剣の刃先が届く前に、伯爵の行動が一歩早くなった。
伯爵が手を軽く弾いた瞬間、周囲にシールドが広がり、詐欺師は跳ね飛ばされた。
-ストン!
伯爵は躊躇う詐欺師の手を強い圧力でひねり、短剣を離させた。
しかし、落ちるのが怖かったのか、詐欺師は乱暴に反抗し、短剣が飛んでいった。
「キャー!」
詐欺師が逃した短剣は、ビビアンの顔に軽く当たった。
「ビビアン!」
一瞬の出来事に驚いたメリがビビアンに近づこうとすると、伯爵がそれを阻止した。
「ポーションを取り出せ」
「あ…!」
そうだ!
彼の無表情に驚いたのも束の間、メリは伯爵の言葉通りに荷物を下ろし、紫色の液体が入ったポーションを取り出した。
伯爵の興味深い視線がポーションとメリの顔に一瞬触れる。
ポーションを見た詐欺師の驚きの声が聞こえてきた。
「あれはまさか…エリク…!」
詐欺師の言葉が続く前に、伯爵が彼の後頭部を叩きつけ、気絶させてしまった。
(何だ…?)
変な薬でも飲んだのか?
メリは手に取った薬を疑い、不安な表情を隠せなかった。
「傷口に少し塗ってやればいいんだ。残りはドラゴンに使ってください」
伯爵の言葉に、疑問が少し解けた。
それでも疑念を完全に払拭できないまま、彼の言葉通りにビビアンの前に近づき、顔に薬を塗って尋ねた。
「大丈夫か、ビビアン?」
「…ああ、うん。ちょっと驚いたけど、ひっかかっただけだよ」
薬はあっという間にビビアンの傷に染み込み、傷を治癒させた。
「あっという間に治ったよ!」
「本当に?」
ビビアンが自分の顔に手を伸ばし、傷口を探るが跡形もない。
「え、本当?」
「本当に良かったわ。」
メリはビビアンの傷が大きくなくてよかったと思った。
そのまま客室のドアに向かっていると、ビビアンがメリの襟を軽くつかんだ。
何事かと思って振り返ると。
-どりどり
ビビアンは行ってはいけないというような目で意思表示をしていた。
どうやら彼女を心配している様子だった。
メリはビビアンに向かって笑みを浮かべ、緊張をほぐした。
「心配しないで、大丈夫よ」
そう言って薬の効能を確認したメリは、残りの薬を手に取り、客室の扉の前にいた伯爵にそっと近づいた。
詐欺師はすでに気絶した状態で手錠をかけられ、完全に制圧された状態だった。
「…えっ」
彼の腕の中で、小さなドラゴンがハンカチの隙間から息をし、目を開こうと必死になっていた。
(ポーションはどうやって塗ればいいの?)
「傷に塗るように塗ればいいんだ」
しばらく躊躇う様子に気づいたのか、伯爵は方法を教えてくれた。
何だか会話が苦手で怖い相手だったためか、答えずにうなずくだけで、黙って小さなドラゴンに残りのポーションを塗ってあげた。
すると、驚くべきことが起こった。
瞬く間に吸収されたポーションで、小さなドラゴンが徐々に動き始め、目を開いたのだ。
「えっ!」
メリの感嘆と同時に目を開けた小竜の視線は、二人に向けられていた。
メリと伯爵に向かって。
「ぴぃぃ?」
小竜の瞳は透明なピンク色を帯びていた。
いつの間にか気合が入ったのか、皮膜のついた翼もふわりと動き、自分が龍であることをアピールしていた。
森をそのまま写したような澄んだ瞳が、二人を行ったり来たりしながらじっと見つめていた。
「…」
「わあ、綺麗すぎる」
無反応の伯爵とは違い、メリが感心して見ていると、しばらくしてメリはすぐに驚愕した。
「みゃあああ?」
ドラゴンの言葉にとても驚いた様子であるメリとは違い、この様子を見ていた伯爵が最後に言いました。
「刻印したか」
◇◆◇
第2皇子の飛空艇の中。
「任務を終えて帰ってきました」
赤毛の少年が第2皇子の執務室に入った。
「ご苦労さん。」
執務室の意志を一周し、少年を見つめる男。
ハルウェン・ローフェン・テルセニア。
正真正銘、帝国の第第2皇子である。
皇家の象徴である黄金を溶かした金髪と、第2皇妃に似た青い瞳が印象的な皇子は、急いで本題に入った。
「物は?」
「確保しました」
「ローゼン公爵の方の動きはどうだ?」
「第1皇子殿下と接触しているようです」
少年の言葉が終わらないうちに、第2皇子は椅子の取っ手をポンポンと叩いた。
「…チッ、わかった。男爵から始末しろ」
「はい」
淡々と答える赤ずきんをじっと見つめた第2皇子は、彼の心中を探るために別の話を持ち出した。
「…ドラゴンスコーラに入学すると聞いたぞ」
「はい」
「アバママの命令か?」
「…」
しばらく答えのない沈黙が続いた。
「もう一度聞くが、陛下のご意向か?
「…退きます」
続く皇子の言葉に、少年は答えなかった。
代わりに背を向け、執務室の外に出た。
その時、皇子の視線が変わった。部下を見る眼差しではなく、威嚇するような敵を見ているように見えた。
「ライゼン」
第2皇子は彼の後頭部に向かって、威圧的な口調で警告するように言った。
「忘れるな、あくまでお前は影であることを」
「…」
◇◆◇
「わあ…」
豪華な客室の中を見渡すと、驚きの連続だった。
黄金で刻まれた繊細な文様と香りのよい高級木材で作られたテーブル。
文字通りラグジュアリーの極致を見せる内部の様子に、二人とも口をつぐんでしまった。
「本当にここにいてもいいのかしら…?」
最初に口を開いたのはビビアンだった。
「そうね…とりあえずは素直に従ったけど…」
どうしても貴族の命令を断ることができなかった二人は、伯爵の案内で、ここの貴族が泊まる客車に移動した。
(まだ事態が完全に解決したわけではないので、それまでおとなしくここで待機するように)
命令ならぬ命令を言いながら、伯爵と呼ばれる美男子は再び客室から出て行った。
残されたのはメリとビビアン、そして生まれたばかりの小さなドラゴンだった。
そして、その小さなドラゴンはメリの腕の中に寄り添って眠っていた。その様子を静かに見ていたビビアンが言った。
「でも、本当にドラゴンの卵だったのね」
ビビアンの言葉に、メリは少し困った表情を浮かべた。
「そうなんだ、まさか本物のドラゴンだったなんて……」
そう言ってメリの顔色が徐々に暗くなり始めた。
本物のドラゴンの卵だとしたら、想像以上に多くの問題が発生したのだ。
「…刑務所に行くのかな?」
しばらく間を置いたメリがビビアンに問いかけた。
「…まさか、あまり心配しないでメリ、うまく解決するわよ」
「…ありがとう、ビビアン」
ビビアンの言葉に、メリは安心してため息をついた。
-ガチャッ
その時、客室のドアをノックする音が聞こえた。
「…?」
再びノックの音が聞こえ、ビビアンが答えようとした瞬間。
-ガチャッ
ドアが開き、初めて見る口ひげを生やした男が、小さなドラゴンを抱いたメリちゃんを指差して血を吐くように言った。
「あの娘です!」
口ひげを生やした白髪の男性が大声で叫ぶように客室の中を去るように叫んだ。
「見てください。あの少女が持っているドラゴンを!野生種のフェアリ・ドラゴンです」
男の叫び声が響き渡ると、背後から太った体格の男が現れ、大声で叫んだ。
「お前こそ、卵を盗み出した泥棒野郎だな!」
突然襲いかかった二人は、いきなりメリちゃんを犯人に追い詰めた。
パニックに陥ったメリが何も言えずにいる間に、隣にいたビビアンが立ち上がって反論した。
「何言ってるのよ! 突然現れて、生身の人間を泥棒に仕立て上げるなんて!」
男爵も負けじと反論した。
「野生種のフェアリ・ドラゴンは、研究用に捕獲された卵を学術院に輸送中に紛失したのだ! しかし、卵は消え去り、あんな生まれたばかりのドラゴンがいるということは、紛失した卵があの少女の中にあったということだ!」
男爵の言葉に、メリは小さく反論した。
「いいえ! このドラゴンは、私が購入した卵から生まれたドラゴンです!」
「フン、それを証明する方法はあるのかね、泥棒さん? そもそも野生種のフェアリ・ドラゴンはなかなか出会えないのにね」
男爵の言葉が終わらないうちに、隣にいた男まで男爵の言葉を遮った。
「男爵様のおっしゃる通りです。野生のフェアリ・ドラゴンは絶滅危惧種。一般的なペット用と違って、なかなか手に入るものではありません。 だから素直に自白したほうがいいでしょう。 事態を大きくしたくないのならね」
半ば脅迫じみた脅迫に、メリは思わず泣きじゃくりました。悔しさに感情が湧き上がってきた瞬間。
小さなドラゴンが目覚めた。
-ビィィ
大騒ぎに目を覚まし、細い息を吐く小さなドラゴンはメリの腕の中でもぞもぞと動き回り、その、小さな舌でメリの手を舐め始めた。
-ベロベロ
その柔らかい仕草に、メリは不安に揺れていた心を正した。
今この瞬間だけは一つも怖くなかった。
横で心配そうな顔で見守るビビアンに向かって、心配するなよと微笑んだ。
そして、メリは背筋を伸ばし、堂々と一歩前に出て言った。
「いいえ、私は卵を盗んだことはありません。 駅の露店で小さなドラゴンの仕事を一つ買ったことはありますが、確認したいなら、トロトンベリー駅員さんに聞いてみてください。 列車に乗る前に卵を買っているのを見たはずです」
事実だけを伝えるメリの姿は揺るぎない。
-パチパチ
突然、客室のドアの方から大きな拍手の音が聞こえてきた。
客室内の全員の視線がドアの外に向かい、いつの間にか背の高い美男子が開いた客室のドアの前に立っていた。
この部屋の主人であるザアンの貴族。
アリスタ伯爵だった。
「そうだが、他に何か言いたいことはあるのか、男爵?」




