エピソード5
なんとか車を手配し、昼頃に屋敷に戻った。朝、起きてこないローサを不思議に思ったダナが起こしに行ったら、部屋がもぬけの殻だったため屋敷は大騒ぎになったようだ。大量の警察が来ていた。
疲れ切っていたローサは警察の事情聴取後入浴後すぐにベッドに入り、夕方まで眠ってしまった。ネロはコールマンに事件の報告と謝罪をした。コールマンは今後の処遇を考えたい、心が決まったら仲介人に返事をすると告げられた。
ネロはラッキーから紹介されて借りている古いアパートに帰宅し、その日は泥のように眠った。次の日には義眼の代わりに眼帯をつけて、しばらく留守にしていたため埃だらけになった家の掃除をした。
数日後、ラッキーが訪れた。コールマンが返事をしたそうだ。適当に座ってもらい、ネロは簡易テーブルを出して向かいに座った。
「これからもよろしくだってよ」
一応来客だからと気を使ってネロが用意したクッキーをほおばりながら、あっけからんトラッキーが言った。ネロは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「なんでだよ?また変なこと吹き込んだんじゃないだろうな」
「俺も解雇になると思っていたしコールマンも解雇する気満々だったようだが、お嬢様が断固拒否して、部屋に籠城した挙句父親を完全無視したんだと。娘に無視されたのがショックで渋々折れたそうだ」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。返す言葉を考えている最中に、ラッキーはネロに新しい義眼を渡した。壊れた義眼より上等な素材で、濃い赤色の瞳だった。
「お嬢様がお小遣いで買うって言い出したそうでな。サイズがわからないって悩んでいたらしく、俺が代理で買ってきた。一応労災ってことで、がっぽり請求させてもらったよ。調整は自分でよろしく」
「いつも思うけど、どうやって人の目のサイズ調べてるんだよ」
この際だから黒い瞳の義眼にしようと思って先日診察を受けに行き、注文したばかりだった。ラッキーのことだからそのカルテ情報をあらゆる手を尽くして調べ上げ、義眼を作ったのだろう。壊された義眼も、知人がラッキーに依頼して作ってきたものだった。どのようなルートで作られたのか、怖くて知りたくない。
「オッドアイが好きじゃなかったのか?こだわりかと思っていたよ」
「前の義眼がサイズアウトして作り直そうとしていたら、似合いそうだからってあいつが勝手にお前に話を持っていったんだよ。勿体ないから使っていただけだ」
これを機に髪の毛を切ってさっぱりしたかったのに、と小声で漏らす。瞳を隠すために伸ばしていたが、うっとうしくて仕方なかった。
「似合っていたから問題ないだろう。これからも顔を合わせるのに違う義眼使っていたら、お嬢様は落ち込むだろうなあ」
やっぱりこいつ、撃ち殺そうか。しかし、そんなことをしたら今後の仕事に影響が出る。
これからのことを考えて、ネロは頭を抱えたのだった。