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ブラッド・ストーン  作者: 雛菊
任務開始
4/6

エピソード3



唐突に、ローサは目を覚ました。真っ暗で何も見えない。入浴後にブランシェが淹れてくれた紅茶を飲み、そのまま眠くなって布団にもぐりこんだところまで覚えている。暖かいベッドで眠っていたはずだったのに、全身が痛い。横向きに寝転んでいる状態から起き上がろうとしたが、身体が動かなかった。



「目が覚めましたか、お嬢様」



足元から、ブランシェの声がした。



「ブランシェ?貴女もいるの?ここは?」

「わたくしもさっぱりで…。お嬢様に淹れた紅茶を同室にいたネロさんにお渡ししたところ、断られてしまって、捨てるのももったいないため飲んだところまで記憶にございます。もしかしたらあの紅茶の茶葉か湯に睡眠薬が混入していたのかもしれません」

「睡眠薬…」

「もしかしたらネロさん、お嬢様を殺しに来た刺客だったのかもしれません。お嬢様の入浴中にメイドの手伝いと称して台所に入り、茶葉やお湯に睡眠薬を混入する…。日頃メイドと親しく話していたのは、このためだったのかも」



そうとも知らず、優しい仮面に騙されてしまった。ブランシェは涙声で反省している。胡散臭い笑顔は悪者だったからか、とローサは1人で納得した。



「ネロの処遇はここから出て、お父様に相談しましょう。まずはここから抜け出さなきゃ」



暗闇に目が慣れてきた。動かせる範囲で首を回し、ドアを探す。途中で大げさな身振り手振りで話すブランシェが目に入った。彼女は縛られていない。つまり、自由に動ける。縄を解いてもらって2人で脱出を――



待って。


同じ連れ去られた身で、何故ブランシェだけ縛られていない?紅茶を飲んだのがたまたまで、やむを得ず連れて来た?それならば目が覚めてから私の縄を解いてもよかったのでは?気が動転していた?それとも。


ブランシェは共犯者。



必死に考えて、警戒心を強めているローサ。その表情を見てすべてを悟られたと感じたブランシェは、服の下に隠し持っていた果物ナイフを出し、ローサの首元に突き付けた。



「温室育ちのお嬢様だから油断していたけど、思っていたより勘が鋭い子ね」



目つきも声色もガラッと変わった。



「睡眠薬を入れたのは私。ルーチンだから疑いもせず飲む、ネロの言うとおりだったわ」

「ネロとはグル?」

「雇い主は別。彼、メイドとよく話していたのは情報収集の為だったのよ。目的が同じだと気付いてこっちから誘ってあげたの。報酬の山分けをちらつかせたら見事に乗ってくれたわ。眠ったあなたを車に運んで、ここまで運転してくれたのはネロ。彼は今頃、私の仲間に殺されているかもね。最初から貴女のことを生かして返すつもりはなかったし、知ったって一文の得にならなくてよ。ボディガードとして役立たずだって、あの世で叱り飛ばしなさい」



ナイフが首筋を離れ、勢いよく振り下ろされそうになった。殺されると思ってローサは目を閉じた。


銃声と、ブランシェの悲鳴が聞こえ、ナイフが床に落ちる音がした。恐る恐る目を開けると、扉が開いており、銃を持ったネロが立っていた。扉があいたことにより、月の光が部屋に入る。



ボロボロで今にも抜けそうな木の床。どおりで体が痛いわけだ。



ネロは黙ってローサに近寄り、縄を解いた。自由になったローサは上半身を起こし、ブランシェを見た。彼女は血だらけになった自分の右手を抑え、呻いている。



「何故!?私の仲間達は!?」

「全員眉間に一発ずつ入れた」



屋敷での胡散臭いネロとは違い、不敵な笑みで感情のこもっていない乱暴な言葉遣い。これが素のネロなのだろう。



「ハニトラに引っかかったふりをして作戦に乗ったんだ。見事騙されてくれて嬉しいよ。この依頼から手を引くなら殺さない。どうする?」

「ふざけるな!」



ブランシェはナイフを拾い、ネロの赤い左目にそれを突き刺した。そこから無機質な音が響き、ブランシェもローサも驚いた。



長い前髪からヒビが入った目がちらちらと見える。義眼、と理解するまでに少々時間がかかった。破片などが当たって痛いだろうに、ネロは意に介さずブランシェに向かって発砲した。弾は再びブランシェの右手に当たり、ナイフを床に落とした。



その隙に、ネロは、ローサに外に出るよう指示した。すぐそばの坂を下りて右に曲がれば小さな町があるから、警察に駆け込むように、と。ローサは頷き、部屋を飛び出した。1歩外に出ると、眉間を撃たれた屍が転がっている。全員、ネロが手にかけたのかと思うとぞっとし、足がすくんだ。



先ほどのブランシェの右腕も正確に打ち抜いていた。月明かりがあるとしても暗い中、しかも隻眼で狙った的に銃を撃てるとは、余程凄腕に違いない。



再び銃声が響いた。ネロがまた撃ったのか、ブランシェの悲鳴が外まで聞こえてきた。



ここで逃げなきゃ、ネロに申し訳ない。



自分がとらわれていた場所を使われていなさそうな木製の廃墟小屋だったことを確認し、一目散に走った。裸足で、石や砂利などで足が痛むのは気にしている場合じゃない。



坂を下り右に曲がると、ネロの言う通り町があった。夜中のため、人通りが少ない。たまたますれ違った仕事帰りの風俗嬢らしき若い女性がローサに声をかけ、交番まで案内してくれた。



上質ながらよれよれの寝間着姿で裸足の少女が夜中に交番に訪れたのだ。警官達はローサの姿をみてぎょっとした。ローサはたどたどしく一部始終を説明した。



「あなたが無事で何よりです。今からパトカーで家まで送ります」

「ボディガードが迎えに来るはずです。それまではここで待たせてください」



用事が終わったら迎えに来るよう命じたのは自分だ。この騒動が終わったら迎えに来てくれると信じたかった。


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