プロローグ
西の方にある小さな国、ロサタリア。
ここは首都にあるオフィス街。
知らない人などいないといっても過言ではない大手商社・パンプロナ商の社長室。真夜中で社員がほぼ退勤している中、社長室の明かりがついていた。社長と秘書がふたりいる。社長は豪華な椅子に座り、秘書は向かい合って立っている。
この会社、表向きは普通の商社だが、裏では非合法のドラッグを売買している。この事は、社長と秘書、そして一部の幹部しか知らない。
「やりましたね、社長」
書類をぱらぱらとめくりながら、秘書が言った。背が高くひょろりとしており、目がぎょろぎょろしている男だ。
「今回も輸出成功。報酬もたんまりと」
「そうだな」
社長は吸っていた葉巻を吸い殻に押し付けた。でっぷりとしていて貫禄のある中年男性だ。その太い指には、大きな宝石のついた指輪が大量にはめられている。
「もう少し輸出の範囲を広げようと思っている。このご時世だ。少し金を積めば協力してくれる運び屋なんかすぐ見つかる」
葉巻のせいで空気がよどんでいる。換気をするために、社長は席を立ち、ご機嫌で話し続けながら自ら窓を開けた。
窓を10㎝ほど空けた瞬間、社長がその場に倒れた。秘書が持っていた書類を放り出して駆け寄ると、社長の頭が銃で打ち抜かれていた。慌てた秘書は、犯人を捜そうと窓を全開にして身を乗り出した。
刹那。
秘書も眉間を撃ち抜かれて、散らばった書類の上に倒れた。その窓からは、犯人の姿は見えなかった。