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婚約破棄をされました。けど貴方は追いかけてきてくれました

作者: もち美
掲載日:2024/05/16

見た目によらず愛が重い話。

涼しい風に吹かれ、波打つ潮と匂いに賑わう人々。

ここに来てもう5年の年月は経ったが昔の環境と比べれば何もかもが違うと言っても過言では無いほどだ。いっそ今の暮らしは「とても質素である」などと自分が言ってしまえば素性を知っていればと、注約が入ってしまうが全くと言っていい程嘘ではない。


「さて、今日もがんばりますか!」


そう言い放ち昨日のうちに汲まれた桶に張る水で顔を洗った。キメ細やかで繊細さを誇っていた白い素肌はもう何処にも居らず、爪も綺麗に整えられ細く長い指もガサガサして使い込まれた証であるタコも今は不思議と馴染んで見えた。

”お嬢様”であった頃の名残など全く見えない程に。



冒険者ギルドの職員だとわかるよう藍色に、地方支部の識別のためにオレンジの線が入った上下の制服。ほとんどの業務を1人で請け負ってるので下はズボンになっており可愛さだとかそんな見た目よりも機能性を重視した装いだ。

着替えが終わると朝食を作るために申し訳程度にフリルの付いた白のエプロンを後ろで結び食事を取り、そして朝からのルーティンをこなし1日の始まる。


ギルドへ着くと軽く挨拶を交わし明け方までの担当をしていた者から引き継ぎをする。そして夜の内に寄せられた依頼をボードへ纏めて張り出し、入口付近で咲いている花壇の花々に水やりをして依頼の受注で呼ばれてカウンターへ戻る。

太陽が真上に昇る頃になると簡単な依頼や近くで作業をしていた人達かお腹を空かせて食事を摂りに来る。そこを過ぎたら途端に閑散とした雰囲気になり”席を外す”と書かれた立て札を置き、ギルドの裏側にある森へと足を進め町の近くまで降りてきた獣を追い返し、襲ってきた魔物を仕留める。

最初の頃はロクに山の登り方なんて知らなかったからドロドロのボロボロで帰ってきたりして笑われてたり、酷い時には遭難したとかで大騒ぎになりかけたこともあった。

今やそれも懐かしさも覚えるほどの昔の話になってしまったが。



海と宝石の国、ゼヴィール。私はその国の公爵家に産まれ、今ような山々を超えた先にある小さな港町とは無縁な世界で生きてきた。


綺麗に整えられ花の香り漂う庭園で良き友人と紅茶を嗜む程度の幸福。無駄に自尊心が高いせいか心の底からのと呼べる人なんてゼロに等しかったが、幸いにもこちらが主催で開いたパーティーで病弱だがそれを感じさせない程に朗らかな侯爵家の少女と仲良くなった。他にも居たはしたが結局は利益目的のゴマすりに過ぎす私の性格も相まっていつの間にか別の令嬢の元へ流れてしまったらしい。

そうして暫く、婚約者が決まりその人が次期国の頂点となるお方だったりとかで王妃教育の合間に呼ばれたお茶会で色々難癖付けられる事も度々あった。高等学園に上がってからも相手の視界に入ってしまえば色々嫌味を交えながら一方的に話す。相変わらず。



大型の魔獣の群れが町の麓近くまで降りてきてると木こりをているおじさんから報告があり、時間帯的にも丁度手が空いていた私へ討伐のお願いが来たのだ。問題も怪我も無く完了してしまい、毛皮や骨は防具や絨毯などのへの用途へと綺麗に解体されて魔石はこちらが引取りと解体屋のおじさんとのやり取りを終えてギルドへと戻ってきた。


「わたしが居ない間の仕事は……無いか」


外出中の間は誰も居なくなってしまうため

受付の台にあるメモ紙に用事があればそれを書き置きするようにしてある。セキュリティの観念からそれでいいのかと疑問が浮かぶ話ではあるがそもそも人が少ない町だ。気にする必要も無いのかもしれない。それからは夜番のものが来るまでに書類を整理して部屋の中を掃除したら家に戻るだけ。

変わり映えもない平穏な一日が終わった。



日が登り始める、まだ夜の静けさを残す空。あくびをしながら朝食の準備をしていると玄関をノックする音が響いた。


「はーい、少し待ってくださいね」


付けていたエプロンを取りながらこの時間に家への来訪者の事を考えた。朝の早いと言えばパン屋のカーリーさんか漁港の方に勤めているエブリンさんだろうと、当たりを付けどちらが来ても大丈夫なように予め作っておいたお裾分けのお返しにと子供が喜びそうなクッキーやカップケーキ等のお菓子が色々と入るバスケットを手に取る。

ドアを開けると指先にジン…と沁みるような風と朝の日差し気配がゆっくりと染み込む。しかし、自分の知っているそれとは少しばかり背丈があるようで自分を包み込むほどの影が振り込んできた。


「……あっ、あなた…は……」


ただ呆然と見上げるしかできず、あの頃の面影を僅かばかりに残した姿がいる。

あの忙しくも楽しかったが、いとも簡単に崩れゆく儚い関係と痛みが胸の奥がじわりじわりと焼ける感覚とともに記憶の中の過去へと堕ちていった。



王国内最高峰の学院であり国外からも高い評判を得て、無事に卒業する事ができたなら将来は絶対だとも言われており、毎年優秀な生徒が学び舎の門を叩いている。

かく言う私、グロリア・アリシエールは公爵令嬢という家名と地位、そして第1王子の婚約者という肩書きを賜ってるからにはと誰からも手本と成るように律し優雅に毅然とした振る舞いを心がけていた。


この場にいる人間の門出も祝うパーティー。今、学院に通う生徒として認められるからなのかここから先は非礼と切り捨てられてしまうような崩れた所作でこの瞬間を楽しんでいる。

私も仲の良かった友人とお喋りをしていたが途端に優雅な音楽が鳴り止み、静寂が響く空間の先、目の前に立つのはパートナーであり互いに支え、慈しみあってきたと思っていた、婚約者であるテオベルク・シルヴァンその人であった。


「すまないな、アリシエール。君との婚約を破棄させてもらう。理由ならわかるだろう」


挨拶をとドレスを持ち上げ頭を下げた私に

、貴方は熱を持たないまるで氷のように冷えきった瞳で見つめそう言い放つ。声は抑揚が無くまるで心がなくなってしまったかのように感じられた。そして隣にいる庇護欲が湧く容姿の少女がこちらを涙目で震えながらこちら見ている。

王子と少女を囲む様に周りを見知った顔ぶれの男達がこちらを糾弾するような声で威嚇している


__まるであの子を護るように。


何かい言い訳をと口を開こうとするが今、目の前に居る姿には何を言っても無駄なのだろうとすぐに諦めの姿勢をとった。周りにいる卒業生は困惑した様子でざわついた。突然始まった目の前の光景を把握出来ていないのだろう。

ただ冷静に勤めている自身も内心ではどうにかしてこの騒動の鎮火を、ただそれだけの事を考え必死に脳みそを回転させていた。

が、どうしてここにシルヴァン様が居るのかと、まだ姿を見るには早すぎる。そう頭の中で言葉がグルグルと駆け回り思考もままならない状態でいる。


目を閉じ誰にも悟られぬように深く、深く深呼吸をし口を開いた。


「…承知致しました。ですがこの事は私とシルヴァン様双方個人で済ませられる話ではありません。ですので__」


「あぁ。お前から言質が取れれば構わん」


吐き捨てるような言葉と睨みつける瞳は要は済んだと言わんばかりに隣の小さな少女の後ろに手を回し奥へと下がった行く時に見た姿は、打って変わって穏やかな、愛おしい者を見るその眼だった。グッ…と思わず手を強く握りしめてしまう。今、ここで感情を外へ出してせてしまえればどれほど楽だっただろうか。醜聞も辞さず、みっともなく縋り付いて「何かの冗談だと」泣きわめくことが出来れば……_。

私はゼフィール王国の公爵家の令嬢であり、次期国王の婚約者だ。プライドが許さないし、突然生えてきた男爵家の娘に負けたと言っているようなものだ。尚更できるはずも無い。下卑た声と嘲笑に平気なふりをしていつもの笑みを向けた。


「お先に失礼させてもらうわ」


廊下を抜けドレスルームに戻ると泣きそうな顔をしていた私に心配そうに侍女は駆け寄ってくれた。そうして馬車に乗り込み会場を後にした。


そうして婚約破棄されてしまった旨の報告をし、あれよあれよという間に家を追い出されここへと流れ着いてしまったのだ。追い出されたと言っても両親とは仲が悪いという訳ではなく、むしろその逆だ。たった”1人の娘”を魍魎跋扈する王宮に輿入れるだなんてなど論外と良いとこだ。思慮深く領民にも分け隔てなく接し好かれている子を…と兵を出すか出さないか悩みに悩んでいたが、結果的には婚約させられ没落寸前だった家から養子を貰い、当主としての教育を始めた矢先の出来事である。


もうそれは怒り狂っていたらしいがその話を知ったのは今も今の事であり、目の前に居る”元”婚約者によって事の顛末を知るのだった。



「まさかシルヴァン様、貴方も外に出てるだなんて思いもしなかったわ」


「まあね…あの時は僕も油断していた。ミシェラがあれだけ注意するように言っていたのにね。もう直ぐ君と一緒になれると浮かれてしまった」


ミシェラ…彼女は予知夢のような力を持っており、家は国お抱えの医療部隊を指揮する侯爵家の娘でアリシエールの親友だった存在。


「病弱だったのは知ってたのに。あと少しで卒業パーティーだって、一緒にお話しようって……なのに、ミーチェ…」


高等部に上がる前「お告げ」と自信満々に「転入生には気をつけろ」と2人に言い放った姿を今でも鮮明に思い出せる。


元は侍女として仕えていた女に手を出し、女が死んで孤児になったところを子爵家の当主が引き取ってどうにか入学させたという話を聞いた。しかし境遇をもろともせず天真爛漫な性格で、直ぐに仲の良い人もできた。それに加えてどうにも人を惹きつける魅力のようなものがあるらしくその性格に忌避感の様なものも持っていた者もいるらしかったが、何処かで見かけた時も周囲に人が沢山居たような記憶がある。

しかし、高貴な階級であるほどその子を厭うきらいがあった。それが女性であるほどに顕著だった。それに比例するように男性は熱をあげるようにその子に入れ込んでる様子で、しまいには将来シルヴァンの側近となる人物ですらその子を囲む…言うなればハーレム一員に成り下がっていたのだ。近頃は苦言を呈され程になり、しかしもどうする事できぬ事態。言えば言うほど熱の勢いは上がっていき、男女間の溝とどんどん深いものになってしまう。次に国の安寧を築く者としてこの事態を早急にどうにかしなければならなかった…というより父親(国王)に「このような些細な出来事を」と、収束させるように勅命を受けてしまったのだ。


作戦としては至ってシンプルなもので、「自分もハーレムの一員に混ざってしまえば良い」と、アリシエール(婚約者)の承諾を得て周りの目を覚ますよう奔走していたのだ。作戦も順調に少しづつその子の周りから離れて元の婚約者とのより…を戻したりダメだったりと様々な痴情のもつれがあったりもしたが、それを取り払ったも良く進んでいた。しかしどうにも側近周りの牙城を崩すことが出来ない。それに何故か分からないがアリシエールがその子…テミウ子爵令嬢を虐めているなどと事実無根な噂まで流れ始めたのだ。事態の解決の為とはいえ婚約者でも無い、ましてや好意の欠けらも無い異性を傍に置いておかなければならない現状に殺意さえ覚えていた。許しがあれば、法が無ければ許可もなく勝手に擦り寄ってきているその頭を身体を真っ二つに切り落としていたというのに。

そしてようやく”あの場”まで進んだ。



ゼヴィール国の成り立ち、テオベルク王家の約束がある。随分も昔、悪しき獣で溢れていた時代。国を救わんとする1人の青年に女神が手を貸したのだ。


”眠る” 力を ”目覚めさせる” 誓いの ”口付け”


今の時代ではその儀式の形となるものだけが残っているのだ。


少し不思議なものすら感じる女神(婚約者)から贈る青年(王子)への口付け。


それを知るのは王家の人間とその婚約者だけであり、それを口外する事も重罪とされているのにテミウ(あの女)は知っていたのだ。



あの後すぐにシルヴァンを家へと招き入れ、まだ朝と呼ぶにも早い時間帯だったためロクに出せるものも無かった。


「ごめんなさい、シルヴァン。貴方に出しても良さそうなお菓子が無くて……」


「君から貰える物なら僕はなんでも喜んで食べるんだけどな」


「……っ……もう!!そんな冗談を!」


「ははっ、本当だよ…アリシエールから貰えるんだから…ね」


たとえそれが毒だったとしても…なんて言葉は飲み込んだ。



そこからしばらく話こみ、アリシエールに話すはずだった契の口付けの事や卒業パーティーでの事の顛末を話した。


「………では、やはりあの時…」


「今までは”それ”は誓いを交わした当事者しかいなかった。だからこそ穴とも呼べる”罰”の存在を知らなかったのだろう」


いつも優しい眼差しを向けてくれて、甘くて愛おしいと想いも感情を隠さない声。

もう見ることも聴くこともできないと思っていた全てがまたこちらへ向けられている事実に気がついた。…あの日見た冷たい瞳も声もやっぱり嘘だったのだ!。


「ごめんね、アリシエール…いや、アリシェ。あの日沢山傷つけてしまった…こんな情けない僕を許してくれ」


そう告げられてポロポロと涙がこぼれる。止まらない、溢れてくる。…久しぶりに会えた気持ちと大好きだったその人が変わらない優しさに触れて涙腺がバカになってしまったみたいだ。


「そんな…シルヴァン様がそのように謝る必要なんて無いのです。あの日、私が遅れてしまったから」


誓いの間に入ることが出来るのはたった1人だけ。その場所を知る者も、触れる事も。


「真実の愛を詠うには心の底から想いあっていなければ、結ばれないんだって。そう父上が言っていた。…だから」


言い終わる前に彼の唇にキスをした。


自分の意識が無かったとはいえ、私を傷つけた手前どうにもしり込みをしてしまうのだろう。全然気にしないのに。


いつもの余裕のある、スマートでキリッとしている彼が私の事になるとこんなにも本性(仮面)が暴かれてしまうだなんて思いもしなかったし…嬉しかった。

溢れ出した想いが言葉になった


「あの時の口付けをどうか私に、奪わせてください」


と。


その後、何度もノックしても返答が無かったからとドアをぶち破って部屋に入ってきたカーリーさんに今の光景をまじまじと見られてしまった。

恥ずかしさもあったけど、それよりも「前に話していた相手」なんだと伝えてしまえばとても嬉しそうに祝福してくれた。

いろいろとすっ飛ばして結果的よりを戻した形にはなったがどうやらシルヴァンは私を探すためだけに継承権を放棄して冒険者として旅をしていたんだったと。

「王子としてダメダメなのかもしれないが君以外の人と結ばれるだなんておかしくなってしまう」と、言われてしまえば私は顔を赤らめる事しか出来ない。


王都の方は、お父様に寄越した手紙の返事で情勢を知ることが出来た。

1つ目は弟が無事に爵位を継ぐ事になる

没落寸前の家ではあったが、それでも子供達が職に困らないようにと読み書きやマナー、習い事などを目一杯にさせていたおかげなのかほとんど公爵側から手を出す必要が無かったとか。あちらの家にも投資をするとかで人材やお金を注いでいるとか。

2つ目は突然テミウ嬢の取り巻きをやっていた者らが突然正気を取り戻したとかで、その間に起こった不始末の決着がどうとかこうとか…ひとまず元凶の彼女は獣憑きとかで極寒の地、最北の修道所に移る事になった。「わたしはヒロインなのに!」と、しきりに騒いでいたらしい。


他にも色々と心配事や、本当にこちらへ戻ってこないのか。なんて話が繰り返されるようにつらつらと書かれていたが、私は帰る予定はない。

最初は不慣れで大変だったけど町の人達は私の事を不審がらずに、それよりも沢山手伝ってくれて大好きになってしまった。

それに、シルヴァン様とようやく周りを気にせずに触れ合えるのだから帰るとしたら子供…をみせる時かもしれない。

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