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再び旅立ちの朝

 さて、お城に出戻ってから2日後の朝に、ナロー姫とシールズは再び城から出立しました。

今回は、マーリンに虫除けの呪文をかけてもらったおかげで、前回、途中から引き返した村外れの森も、無事に通過する事が出来ました。

森の中で、シールズと共にくつわを並べ、仔馬に乗るナロー姫。

その二人で森を抜ける道すがら、馬上のナロー姫は、隣で軍馬に跨るシールズの方を、何やらモジモジしながらチラチラと見ていましたが、やがて意を決したのか、昨夜から気になっている事を彼に聞きました。


「ねぇ、シールズ。ちょっと、聞きたいんだけどー」


シールズはフルアーマーで覆われている身体を、馬上でガチャガチャといわせながら、その首をナロー姫の方へ向けて返事をします。


「何ですか?我が君」


ナロー姫は顔を赤らめて、シールズに尋ねます。


「あなた、昨夜、わたくしの下着を盗んだでしょう?お風呂場で」


シールズの身体が馬上で大きくよろけ、彼の着るフルアーマーの甲冑が、同じく馬上でガチャリ!!と激しい摩擦音を立てます。


「なっ!なーっ!!何をー」 


フェイスガードで覆われている為、彼の顔の表情は全く分かりませんが、どうやらシールズは、ひどく動揺しているみたいでした。

声の調子も、明らかに上擦っています。

先程もナロー姫の言葉を聞いて、もう少しで馬の上から落ちる所でした。

そんなシールズを、ナロー姫は隣で仔馬に乗りながら、真剣な眼差しで見つめて言いました。


「ちゃんと、正直に言いなさい。お母さん、怒らないから」


その言葉に、シールズが激昂して怒鳴ります。

あらぬ疑いをかけられたせいか、彼はいつになく冷静さを失っていました。


「何を言ってるんだ!?大体、何で俺の事を疑ってるんだよっ!!」


ナロー姫は、キョトンとした表情で答えます。


「女のカンというかー。それに師匠に下着が無くなった事を話したら、占いによれば、シールズが一番怪しいって言ってましたわ」


シールズは、怒り心頭の様子で声を発します。


「あの、クソ魔女っ!今度会ったら、ただじゃ済まないからな!!とにかく、姫っ!わたしはやってません!!誰が、姫のおしっこ臭い下着なんかー」


「っー!!!」


シールズの言葉を聞くと、馬上のナロー姫は真っ赤になりました。

そして、持っていた魔法の杖を振り回して、隣で同じく馬に乗る、シールズのフェイスガードで覆われた兜をガンガンと叩きます。


「ちょっ!!やめて下さい!!兜の上からでも、結構痛いんですからっ!!」


馬上で、悲鳴を上げるシールズ。

彼らの姿は遠目で見ると、なんだか人を乗せた親子の馬が、森の中でじゃれあっている様に見えました。

こうして、二人の旅は再び賑々しく始まったのでした。



さて、馬上の二人は、それから10日以上をかけて旅をして、国境沿いの大きな港町ベカンに着きました。

長旅に慣れないナロー姫は、さすがにぐったりと疲れていました。

お城のフカフカのベッドに慣れた身体には、固い地面に張られたテントの中で寝るのは大変こたえましたし、(ちなみにシールズはナロー姫が寝ている間、テントの外でずっと見張り番をしていました)それに長時間、馬に揺られているのも、お尻が痛くなって、なんだか疲れました。

それでも、港のある町へと少しずつ近づき、風に乗って海の匂いがしてくると、ナロー姫は元気を取り戻します。

やがて、二人が馬を並べて進む、なだらかな道の向こう側に、目的地であるベカンの町の全景が、ゆっくりとその姿を現すと、ナロー姫の興奮は頂点に達しました。

ベカンの町は、ナロー姫の王国の南西部に位置する、大きな港町でした。

大小さまざまな建物が立ち並び、その向こうには、穏やかに光る青い海が見えます。

ナロー姫は子供の頃、父王と一緒に巡察中に見た時以来、今までずっと見る事のなかった青い海を見て、思わず叫びました。


「うみーっ!!」


ナロー姫は奇声を上げて仔馬を走らせ、杖をブンブンと振りながら、町へと向かう一本道をパカパカと駆け下りて行きます。


「ま、待って下さい!姫ーっ!」


シールズが軍馬を駆って、あわてて彼女を追いかけます。

二人の馬影は町へと続く下り坂の道の向こうに、あっという間に消えて行きました。



二人がたどり着いたベカンの港町は、先程も言ったように、多くの冒険者たちがその起点とする場所でした。

宿屋に様々な商店、教会に闘技場などの各施設が所狭しと建っているのはもちろんですが、更には町を縦横に走る通り道には多くの露天商が店を並べており、活気に満ちた声が辺り一帯をピュンピュンと飛び交っています。


「安いよ、安いよーっ!!」


「ちょっと、奥さん、買ってってーっ!!」


「ヨッ!いい男っ!!こっち、こっち!!」


ナロー王女はお供のシールズと一緒に、大勢の人々で賑わっている町の通りを物珍しげに見回しながら、嬉しそうに歩きます。

町に入った二人は馬から降りると、それぞれが乗っていた馬の手綱を引きながら、混雑した街路を人混みをかき分けつつ進んで行きました。

ナロー姫は、こんなに大勢の人々でひしめく、賑やかな町に来たのは生まれて初めてでした。

お上りさん丸出しのナロー姫を心配したのか、隣で馬を引いて歩くシールズが言いました。


「姫、あんまりキョロキョロしてると、田舎から出て来たと思われて、色々と吹っかけられますよ。気をつけて下さい」


しかし、上機嫌なナロー姫は、呑気な声で答えます。


「いいじゃありませんの。それもまた、旅の醍醐味ですわ。わたし、色々と経験したいですわ。あっ!あそこにタピオカのお店がありますわ!一度、飲んでみたいですっ!!」


シールズは軍馬の手綱を引きながら、溜息をつきます。

彼の表情は、フェイスガードて覆われている為、わかりませんが、やがて少し呆れた様な声で言いました。


「とにかくいったん、今日からお世話になる宿屋に行きましょう。町を散策するのは、そこに荷物を置いてからでも良いでしょう」


「宿屋、あっ!」


不意にナロー姫は、遠くに見える大きな建物を指さします。


「シールズ、シールズ!!わたくし、あのお城みたいな大きな建物に泊まりたいですわ!ホテルって、正面に看板がかかってますわ!うちのお城より、新しくて綺麗ですっ!」


シールズは、その建物を見て思わず仰け反ると、上擦った声で言いました。


「あ、あれはラブ◯・・・。ゴホッ!ゴホッ!!今日から泊まる宿は、もう決めてありますっ!黙ってついてきて下さい!!」


「えーっ」


ナロー姫は不満げな様子でしたが、仔馬を引きながら、渋々、シールズに従います。

二人は馬の手綱を引いて歩きながら、賑やかな街中を抜けると、やがて今度は、人通りの少ない裏通りへとやって来ました。

シールズは馬の手綱を引きながら、もう一方の手で、裏通りに立ち並ぶ、建物群の中の一軒を指差します。


「あれが、わたしたちの泊まる宿屋ですよ」


その建物は大きめの民家といった佇まいで、一見して宿屋とはわからなかったのですが、よく見ると正面に「へっぽこ亭」と書かれた、小さな看板がかかっていました。


「まずは、馬を厩舎に預けましょう。こちらです」


シールズは宿屋の横に立っている大きな建物ー。

馬の厩舎へと、ナロー姫を導きます。

ドキドキしながら仔馬を引いて、シールズの後に続くナロー王女。

彼女の耳に、厩舎に入れられた馬たちの、ヒンヒンと鳴く声が聞こえて来ました。


[続く]













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