有栖川の女難
俺は単位を10単位落とした...。
俺がテストの出来に絶望していると、突然スマホから通知音が鳴り響いた。誰だよ……と思いながら見てみると、送り主は有栖川だった。
「なんだよ……」
『今度のテストで勝負をしましょう』
「……え?お前誰だ?」
思わずそう言ってしまった。だってそうだろ?あの完璧美少女が俺に勝負を仕掛けてきたんだぞ?誰だって驚くわ!……まぁいいや。とりあえず返信するか。
『なんで?』
送信っと。さて、どんな返事が来るかな〜。
『負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くってのはどうですか?』…………えぇー。いやいや、普通に嫌なんだが? それにこいつ頭良いし、俺勝てる気がしないんだけど?でも負ける気もしないけどね!!(ドドドドド)
『別に構わないよ』
よし、これでOK。というか、こういうのって普通女子側が提案するもんじゃないのか?
『じゃあ次の試験で点数高かった方の言うことを聞くっていうことでお願いします!』
……まあいいか。それにしても有栖川の奴、珍しくテンション高いな。いつもはあんなに根暗でブスなのに。
そしてついにやってきた試験当日。俺たちはそれぞれ自分の席につき、問題用紙を開く。
ふっふっふ……見てろよ有栖川。この日のために勉強したんだ。絶対に勝ってやる! しかし、この時はまだ知らなかった。有栖川が学年一位の天才だということを……。
キーンコーンカーンコーン♪ チャイムと同時に一斉にペンを走らせる音が教室中に響き渡る。そしてそのまま約1時間後、ようやくすべての問題が解き終わった。よし、あとはこれを採点してもらって合否が決まるだけだ! それからさらに30分後、採点が終わったようで先生たちが教卓の前に集まり始めた。
「それでは皆さん、採点をするので後ろから答案用紙を渡してください」
先生の言葉に従い、みんな次々と解答用紙を手渡していく。ちなみに俺が一番最後だ。
全員分の採点が終わると同時に結果発表が行われた。
「今回一番得点が高かった人は……天道さんです!」
おお!流石は有栖川!やっぱりあいつは凄いな。俺なんかとは大違いだ。まぁ、分かってたけどね!
「続いて二位は……クリドラくんですね」
……はい?嘘だろ!?なんでだよ!!
「ちょっと待ってください!なんで俺が2位なんですか!?納得できません!」
「いや、確かにそうなんですけど……。今回はたまたま運が悪くて……」
「それでも納得いきませんよ!」
「うるさい、黙れ!」
こうして俺は無理矢理有栖川の勝利ということになってしまった。はぁ……まじ最悪だわ。せっかく頑張ろうと思った矢先にこれとかありえないだろ……。それで、有栖川の言うこと聞かなきゃいけないって何をだよ?めっちゃ怖いんだが?
「ねぇ、クリドラ君……」
「うおっ!?」
いきなり背後から声をかけられたので驚いてしまった。振り返るとそこには有栖川が立っていた。
「ゆ、有栖川?ど、どうかしたのか?」
「うん。実は私、有栖川くんと...その、知り合いになりたいなって思ってるんだけど……ダメかな?」
え?何言ってんのこいつ?頭大丈夫なのか?
「いや、急にそんなこと言われても困るんだが……」
「お願い……何でも言うこと聞くから!」
えぇー。そこまでして知り合いになりたいのか?
まぁ、なんでも言うこと聞いてくれるらしいしな。仕方ない、付き合ってやるか。
「分かったよ。よろしく頼むわ」
「本当!?ありがとう!!」
は?可愛すぎだろ。こいつの笑顔初めて見たかも。こんな顔できるなら普段からしろよ。というか、改めて見ると本当に可愛いな。
「これからよろしくね!クリドラくん!」
「ああ、こちらこそよろしく」
こうして俺・有栖川と有栖川は知り合いになった。
まあ友達ができたことは素直に嬉しいんだけどさ、まさかテスト勝負のせいでこうなるなんて予想外すぎる。
まあそれはともかくとして、有栖川にお願いしたいことがあるんだよな〜。ちょうどいい機会だし頼んでみるか。
「ところで有栖川。お願いがあるんだけど。実は俺、好きな相手がいるんだよね」
「そっか、頑張ってね!」
「おう、ありがとな!」
よし!これでOK。
「じゃあ早速だけどさ、明日から一緒に登校しようぜ!」
「……はい?」
有栖川の顔には困惑の表情を浮かべていた。
「……どういうこと?」
「お前を利用しようって事だ」
そう、俺は有栖川を自分の彼女だと思い込ませることで他の男子たちへの牽制に使わせてもらうことにしたのだ。
「つまり……私を彼氏役にするってこと?」
「そういうことだ。まあ、嫌だって言うなら別にいいけどな」
「……」
有栖川はしばらく考え込むような仕草を見せた後、小さくため息をつく。
「まあ、勝負に負けたのは事実だから仕方ないか……」
どうやら了承してくれたようだ。
それにしても意外だったな。まさかOKしてくれるとは思わなかったぞ。
でもこれで少しは安心だな。単位問題も解決が決まった!
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8/10
「おい、起きろ!遅刻すんぞ!」
「あと5分だけ寝かせてくれ……」
「ダメに決まってんだろ!ほら、早く準備しろよ」
「わかったよ……起きるから耳元で騒ぐな……」
「よし、それじゃあ学校行くか」
「そうだな」
今日からまたいつも通りの日常が始まると思うと憂鬱になる。できればずっと引きこもりたいのだが、親父から学校に行けと言われている以上、行かないわけにもいかない。
という訳で、渋々ながら重い犬を引きずり、家を出た。
「そういえば貴方、ちゃんと宿題やったのか?」
「もちろんだ。俺を誰だと思ってる」
「ただのクズニートだろ?」
「いや、そこはせめて無職と言ってくれ」
「同じ意味だわ!」
などと有栖川と馬鹿げた会話をしながら歩いているうちに、学校へと着いた。教室に入ると、すでに有栖川が席に座っているのが見える。
「おはよう有栖川」
「おはよー」
挨拶を交わした後、席に着くと同時にチャイムが鳴り響いた。そしてそのまま朝のHRが始まった。
担任の話を聞き流しながら、俺は窓の外を見つめた。いつもと変わらない日常。こんなつまらない日には、大きな爆弾でも落ちてくれないかな?
などと考えていると、不意に肩を叩かれた。振り返るとそこには有栖川の姿があった。
「ねぇ、今日の放課後空いてたりする?」
「特に用事はねえけど……なんでだ?」
「実はさ、ちょっと買い物に付き合ってほしいんだよね」
そんな日常の会話をしようとした瞬間、世界の雰囲気が変わった。
「……は?なんだこれ?体が……」
全身が動かない。金縛りのような感覚だ。だが、恐怖は感じない。何故なら、この場にいるのは俺と有栖川だけだったからだ。
「悪いな有栖川。俺は今動けないみたいだ。助けを呼んできてくれ。俺は怖い」
「え?ああ、うん。分かった」
有栖川は戸惑いながらも返事をし、その場を離れた。すると次の瞬間、
「やっと二人きりになれましたね」
「!?」
突然、背後から聞き覚えのない声が聞こえてきた。恐る恐る振り向く。
そこには一人の少女が立っていた。
見た目は有栖川とそっくりなのだが、雰囲気がまるで違う。一言で表すとすれば、『闇』だろうか。
「お前は何者だ?何が目的だ?」
「私は有栖川の双子の妹、有栖川です。よろしくお願いしますね、先輩♡」
「双子だと!?そんな話は聞いたことがないぞ!」
「そりゃそうですよ。だって隠していましたから」
「……どういうことだ?」
「有栖川は私の影武者なんです。つまり、私こそが本物の有栖川有栖川なんですよ」
「……なるほどな。それで、俺に一体何をするつもりだ?」
「そんなの決まってますよ。私の代わりに有栖川を演じてもらうだけです」
「断る」
「拒否権はないと言ったはずですよ?」
「ふざけんな!誰がてめぇみたいなクソ野郎に従うか!こい、俺のスタンド…スタープラチナ!!!」
俺の背後に現れた青い巨人は、拳を振りかざし、有栖川(?)に殴りかかった! しかし、その攻撃は虚しくもかわされてしまう。
「無駄だ。今の俺は誰にも負ける気がしねぇ!」
「へ〜、すごいですね。しかし私達は今ここで争う場合ではありません。なぜなら私達は兄妹なのですから」
「……どういうことだ?」
「簡単な話ですよ。私達が入れ替わったら誰も気づかないと思いませんか?」
「……どういうことだ?」
「ふふっ、そういうことです。それではまた会いましょう」
「待て!どういうことだ?」
有栖川有栖川は姿を消した。
それと同時に身体の自由が戻ってきた。どうやら時間制限があるらしい。
「有栖川!大丈夫だったか!」
俺は急いで有栖川に駆け寄った。しかし、そこに有栖川の姿はなかった。
「おい、嘘だろ?有栖川は逃げちまったし…有栖川!起きろ!有栖川!…どういうことだ?」
その時だった。教室の扉が勢いよく開いたのだ。そこには息を切らした有栖川の姿があった。
「よかった!無事だったんだな!心配させんじゃねえよ!全く……」
「……いや、助けを呼びに行ってたんだけど」
「……ん?どういうことだ?」
有栖川の声は明らかに怒りを含ませた、鬼神のような気配を放っている。
「どういうこと?何があったの?」
「俺だってどういうこと?かわからねぇよ」
「はぁ……まあいいわ。とにかく先生には説明しておくから、貴方は帰っていいわよ」
「お、おう。わかった」
こうして俺の長い一日が終わった。
結局あの女が何をしたかったのかはよくわからなかったが、またなんか言ってくるようなことがあった時は全力でぶん殴ってやる。
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8/11 今日から夏休みということもあって、俺はいつもより少し早めに起きた。そしてそのままリビングへと向かうと、そこには朝食を作っている有栖川がいた。
「おはよう有栖川」
「おはよう。今日は早いのね」
「今日は休みだからな。お前ってさ、誰だっけ?」
「は?何言ってるの?有栖川天道だけど」
「いや、それはわかってるんだよ。そうじゃなくてさ、お前の名前なんだっけ?」
「……は?何馬鹿なこと言ってるのよ。有栖川クリドラよ」
「おぉ、そうだよな」
「本当にどうかしてるんじゃないの?」
「いや、なんでもねぇよ」
昨日の記憶が曖昧なせいで、名前を忘れてしまったのだが、有栖川が言うのであれば間違いないだろう。
「ところで、今日の予定は空いてるかしら?」
「特に用事はねぇ」
「なら買い物に付き合ってくれないかしら?」
「別に構わんが……」
「決まりね。それなら10時に駅前で待ち合わせしましょ」
「あ、ああ。了解」
それから数時間後、俺は約束通り駅前へとやってきた。しばらく待っていると、見覚えのある美少女が現れた。