初めての人狼デスゲーム
人狼ゲームでデスゲーム、プレイスタイルもあるのでしょうが
なかなか難しいものだと思います。
そんな第1話です。
【吾妻有行】
目を覚ますと、俺は見知らぬ光景だったことに驚き、急いでベッドから起きあがった。俺と母と妹の3人が1ルームの部屋で暮らしており、普段は畳の上に布団を敷いて寝ている。ベッドから起き上がるということ自体異常自体だった。
昨晩は確かに、母、妹と布団を並べて寝ていたはずだ。
あたりを見渡すと、洋風で調度品が多い。過去に修学旅行で泊まったホテルより豪華な部屋であるように感じた。
部屋には眠っていたベッドの他に、机、クローゼット、冷蔵庫など。
机の上には封筒が置いてある以外に、特に変わったものは見当たらない。
格好は昨夜に眠った時のままで寝巻きであるが、普段寝るときにポケットに入れている家の鍵が無くなっていた。時計は午前6時に差し掛かろうかというところ、目覚ましがなかったため普段よりほんの少し遅い起床時間だった。
ふぅ、と一息ついて、精神を落ち着かせる。
まず現状は夢ではない。少なくとも自身は夢と感じていない。ならば拉致されたということか。妹はどうした、自分と同じように何処かに連れ去られた、別室にいるのか、全く違う場所にいるのか。
考えれば考えるほど落ち着かない、これでは逆効果だ。
まずは現状の確認である。薄ぼんやりとした灯りは室内灯によるもの、部屋に窓の類は……無い。冷蔵庫の中には飲み物や食べ物が幾らか入っている。クローゼットを開けると、普段着ているものより質の良さそうな洋服に下着が揃っている。
扉が2つあり、片方は鍵がかかっていた。もう片方はユニットバス。割と広めで、タオル、バスタオル、洗面具や歯ブラシなどが置いてある。
自分の家よりもよっぽど充実した部屋を一通り見て回った後、残るは机の上にこれ見よがしに置いてある封筒と対峙する。
ええい、ままよ!と意を決して封筒を開けてみれば、中には3枚の紙と1枚のカード。
カードには「占い師」と書かれていた。
紙を見てみると1枚は人狼ゲームの設定で、1枚は人狼ゲームのルール、最後の1枚は参加者の資料のようだ。
参加者は50音順に並べてあるようで、一番初めの人間は吾妻だった。
吾妻有紗、妹の名前。隣には小さいながら顔写真もあり、間違いなく妹だった。その後の吾妻有行は……自分である。
つまりは、人狼ゲームとやらに兄妹揃って参加させられることになった。
「ふざけるな!!」
俺は思わず吠えた。人狼ゲームとやらはよく知らないが、ルールを読むとどうやら人が死ぬゲームらしい。俺だけならまだ良い、なぜ妹がそのような凄惨なゲームに巻き込まれねばならない。怒りに、握っていたルールの紙がクシャと音を立てて潰された。
参加者に、妹の他知っている人間は居なかった。
参加人数11名、人狼が2人、狂人が1人、占い師が1人、霊能力者が1人、狩人が1人、村人が5人。
この人数表の通りで行けば1億1000万もの賞金が手に入ることになる。ただし、人を殺して。
人狼ゲームの設定によれば、人狼は村人に成りすまし皆殺しを企んでいるらしいが、ルールを見る限りプレイヤーに配られた役職で決まることになっている。
参加者を見る限り、そんな人殺しを行いそうな人間はいないように見えるが、それがただの役職なのか、本物のシリアルキラーが混じっているのか。
いずれにせよ、人に人を殺させる碌でもないゲームなのは間違いない。
ルール、参加者を何度も見ているうちに突如「ピンポーン」という音が鳴る。
何事かと顔を上げると、時計の針は8時30分を指していた。
『おはようございます。皆様起きられておりますでしょうか。本日より人狼ゲームが開始されます。9時に部屋のロックが解除されますので各自自室を出ていただき、食堂へとお向かいください。なお、9時半までにお越しにならない場合には朝食抜きとなりますのでご了承ください。各部屋に備え付けの服並びに飲食物はご自由にご使用ください。繰り返します。おはようございます。皆様起きられておりますでしょうか。本日より人狼ゲームが開始されます。9時に部屋のロックが解除されますので各自自室を出ていただき、食堂へとお向かいください。なお、9時半までにお越しにならない場合には朝食抜きとなりますのでご了承ください。各部屋に備え付けの服並びに飲食物はご自由にご使用ください。』
放送が終わり、音が下がっていくピンポンパンポンの音に苛立ちを覚える。相も変わらず気持ちはふざけるな、だ。
いつまでも寝巻きのままでもいられない。頭を冷やすために顔を洗い、着替えるついでにシャワーを浴びる。ここだけなら普段の生活よりよっぽどマシなのだが、楽しむ余裕もない。
普段よりフワッとした着心地の服に袖を通し、時間を待つ。
9時、ガチャリと音を立てて鍵が開く。封筒を持って部屋を出るべく取っ手に手をかけふと思う。
「食堂ってどこだ」
部屋を開けると、時同じくして扉を開けたのであろう、幾人かと顔を合わせることになる。
隣の部屋から封筒を手にした妹が顔を出しているのに気づいて近寄る。
「有紗、おはよう。その、大丈夫か?」
「う、うん。お兄ちゃん、なんなの、これ」
戸惑いの声に思わず抱きしめてしまう。有紗の方も同じように普通ではいられなかったのだろう、肩に顔を擦り付けるように埋めて、軽く抱き返してくる。
「おい、お前ら。早く食堂へ行くぞ」
前から男の声。妹には見えないように、妹を庇うように前に立つ。
別に向こうも取って食おうという気持ちではなかったのだろう、目を向けたときにはすでに向こうへ歩き始めており、同じく現状に不満があって声を荒げてしまった、そう思い込む。後ろを向くと行き止まりになっており、食堂がどこにあるかは分からないが、そちらへ向かっていくしかないようだ。
「有紗、行こう」
精一杯の微笑みを浮かべて、有紗に右手を伸ばす。小さな手がちょこんと乗って、少しだけ勇気が湧いた。
「こっちだ、こっち!」
角から大声を上げて、手を振る青年の姿。金髪で痩せ型の男、人狼ゲームの参加者、そしてもしかしたら敵。
すみません、今行きます、と言いながら、妹と繋ぐ手を少しだけ上げる。歩く速度を合わせています、と言外に告げると向こうも理解したのか、角の奥へと消えていった。
「そういえば、有紗。お前封筒の中のカード見たか?」
「う、うん、私村人だった」
そう言いながら、有紗が封筒の中に手を入れる。俺は慌ててその手を止める。
「馬鹿!カードを見せるのはルール違反だ!」
思わず怒鳴ってしまい、有紗の肩がびくり震える。
「す、すまん、怒鳴って悪かった。あのな、ルールだとカードを見せて自分の役職を伝えるのは駄目らしいんだ」
慌てて、フォローする。
有紗はルールをしっかりと把握できていなかったようで、危ないことを伝えると状況を理解してもらえたようで、有紗が封筒を閉じる。
さっきよりも強く握られた手は、有紗の不安の現れだろう。果たして俺の手は妹を勇気づけられるだけの強さがあるのだろうか。2人して無言になって、食堂まで歩く。
食堂に入ると、中には10人いた。席が2つ空いており、おそらくそれが俺と妹の席なのだろう。……10人?参加者は11人のはず、疑問に思いながら、席に座る。
「改めまして、皆様おはよう御座います、私、瓶升太と申します。ゲームが終わるまでの間、皆様のお世話をさせていただきます」
唯一立っていたスーツの男が恭しくお辞儀をした。名前は、どう考えても偽名だろう、ふざけている。そう思ったのは俺だけでないのだろう、あたりを見渡せば幾人か面白くなさそうな顔をしているのが見てとれた。
「私からゲームについて説明させていただきますが、まずは朝食を召し上がってください。本日は初日ということもあって、種類、量ともに至らない点あるかと思いますが、本日の昼食以降は皆様のご意見を参考に準備させて頂きます」
いや、先に説明が欲しい。正直なところこんな気持ちで食事が喉を通る気がしない。
「あー、えー升太さん?朝飯の前に説明してもらいたいんだけど?」
「そ、そうね。私もそう思うわ。急に拐われて、拐われたのよね?よく分からないけれど人狼ゲームをしないといけないんでしょう」
参加者にも同じように思う人たちがいたようだ、金髪と眠たそうな顔をした女性が升太に声をかける。
「なるほど。それでは食事中ではありますが、質問などありましたら今の時間から受付いたしましょう」
この台詞を皮切りに、皆々から色々な質問が飛び出した。
「処刑とか襲撃とか死ぬとかって、マジなの?」
はい。
「賞金は1人1人がもらえるの?」
いいえ、勝敗が決定した時点で残ったプレイヤーで頭分け。
「処刑ってどうするの?」
首吊り、見たい場合は備え付けのテレビで視聴可能。
「村人か人狼かどうやって判断する?」
話し合い等で怪しい人物を探る。
「話し合いを拒否されたら?例えば部屋に引きこもるとか、何も喋らないとか」
引きこもる、喋らない自体を判断材料にすることができる。
「喋らないから、処刑?」
そういう事態も考えられる、ということ。
「もう一回聞くけど、本当に殺すの?」
はい、殺します。
「じゃ、じゃあ襲撃された人はどうなるの?」
肉食動物に噛まれたような状態にする。
「それは人狼の人だけが見れる?」
襲撃は人狼プレイヤーのみ視聴可能。
「見たいって訳じゃなくて、本当に死んだかを人狼以外の人が確認できるかって意味で」
死亡したプレイヤーは処刑と同じように視聴可能。
「例えば死亡したプレイヤーの部屋に入って役職カードを探すのは有り?」
無し。死亡したプレイヤーの部屋は鍵がかかる。また、他人の部屋に入ること、カードによって役職を知ることは両方ともルール違反
「家に帰して!」
ゲームが終了して生きていたら帰れる。
「どういう理由で11人が選ばれた?」
黙秘。
様々な質問、疑問が飛び交う中、背中を揺すられる。
升太が立っていたのが妹の席の反対側がだったのでそちらばかりに気を取られていたが、振り返ると、不安そうな目がこちらを見ていた。
(どうする?)
人狼のルールを知らないなりに考えてみたが、占い師というのはとても危険な立場ではないだろうか。人狼を知ることが出来るし、村人陣営だ。
もし俺が「占い師」を名乗り出ればおそらく襲撃される。
もしくは他の人狼が占い師を名乗り出すか。
いや、後者は死ぬ可能性が高い以上、名乗り出すまい。
そういう意味では俺が占い師として出ること事態おかしいのか。
じゃあ、どうする。人狼が誰かを知っていて、怪しいと糾弾するのか。それこそ怪しすぎる。
人狼を処刑したかわかる霊能力者も同じだ。どう考えても危険すぎる。
1人なら狩人に守ってもらえるか?
その場合、誰が狩人か分からないのだから、人狼は怪しそうな人を襲撃する。もし怪しい人物がいなくなれば誰を襲撃する?
全く読めない。
(なら、命を賭けるのはここか)
俺は妹に声をかけて、升太の反対側に立つ。後ろに妹を立たせて。
「みなさん!」
大声に、質問をしていた皆々10名の視線がこちらへと向く。
「俺、吾妻有行って言います」
だからどうした、という視線。
「占い師です」
が、驚愕に変わった。
10人の視線の先には俺。
そして、その手には「占い師」と書かれたカード。
「どうせ処刑で人を殺す、なら10人ここで死にましょう」
カードによる情報共有は禁止だ。見せた俺と見た9人がルール違反。これで妹が村人であれ、例えそうでなかったとしても、1名残りで勝利する。
「こんなのは反則だ!!!」
バンと大きな音が鳴る。40くらいだろうか、眼鏡の男が拳を机へ振り下ろし激怒する。何事かと思う人、顔を青くする人、怒りを露わにする人。
賭けている俺自身の心臓の音が、嫌に大きい。
突如、部屋の中に天井から白い気体が噴出した。
思わず手で口を覆ったが、白い気体は部屋中に充満し、いつしか伏せていても前が見えないほどになっていた。視界がぼやけている。
(賭けは、どうなった?)
放り投げたコインが表になっていますように。
そう願いながら、俺の意識は薄れていった。
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